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限界具現 〜魔法ゼロ令嬢が現代アイテムを呼び出したら、祭具の聖女にも災具の魔女にもされました〜  作者: ちぇ!
ごまかしから始まる学院生活

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魔法属性って奥が深い!?女神さま、私にもワンチャンください


 自己紹介で完全に燃え尽きたあと、初めての授業が始まった。


 聖典の授業である。


 要するに、この世界の神話と、教会の教えを学ぶ時間らしい。前の世界でいうなら、古典と道徳と歴史をまとめて煮込んだような授業だ。


 担当は、年配の司祭さま。その穏やかな声で語られる内容を、私なりにざっくりまとめるとこうなる。


 はじめ、世界にはまだ形がなかったという。空も、大地も、海も、命もない。ただ、どこまでも静かな混沌だけが広がっていた。


 そこへ、暁の神クロノアが最初の灯をともした。


 灯は光となり、光は世界に輪郭を与えた。光を浴びたものは、やがて草木となり、獣となり、鳥となり、魚となり、人となったらしい。


 けれど、光が生まれた時、同時に影も生まれた。


 影の奥で目覚めたもの。それが、宵の神ノクティア。


 クロノアが始まりを司る神なら、ノクティアは終わりと静寂を司る神なのだという。暁と宵。光と影。始まりと終わり。二柱は本来、世界を巡らせるための対だった。


 ……らしい。


 正直、初回授業で出す情報量じゃないと思う。


 ところが、人々が光を尊び、影を恐れるようになるにつれて、宵の神ノクティアは次第に忌まれる存在として語られるようになった。


 影の中にもまた命に似たものが生まれたが、それらは肉体を持たず、形を持たず、他の生き物の心や体に宿ることでしか存在できないものだったという。


 そして太古の昔、光に導かれた人々の中から聖王が現れ、影を束ねる魔のものたちの中から魔王が現れた。


 うん。


 たぶん大事な内容だ。大事な内容なんだけど、静かな朝。穏やかな声。あたたかい日差し。登院初日の緊張が少し抜けたあとの、長い話。


 寝る条件、そろいすぎでは?


 いや、寝てはいない。寝てはいないんだけど、意識は何回か遠くへ行きかけた。たぶん三回くらい、魂だけ先に昼休みへ向かっていた。教壇の上では、司祭さまが神話と教義について語り続けている。声がやさしい。やさしすぎる。もはや睡眠魔法である。


 そんな中、司祭さまがふと、少しだけ声を低くした。


「神の理に属さぬ力、由来の分からぬ力を、軽々しく扱ってはなりません。その力は、本人に悪意がなくとも、やがて周囲を巻き込みます。もし見知らぬ力に触れたなら、隠さず、必ず司祭か家の者に相談するように」


 私は思わず、背筋を伸ばした。


 ……え。


 それ、私に刺さるやつ?


 限界具現ゲンカイ・マテリアライズ


 前世の道具を、この世界に出せる力。私の中では一応、前世の知識を元にした具現化能力ということで説明はついている。でも、この世界の人に「前世の知識で道具を出せます」と言って納得してもらえるかは、かなり怪しい。


 というか、教会目線だと完全に“由来の分からぬ力”では?


 急に眠気が吹き飛んだ。


 こういうところだけ、授業ってちゃんと刺してくる。


 周りを見れば、みんな妙に真面目だ。背筋を伸ばして聞いている子。静かにメモを取っている子。目を閉じているけれど、ぎりぎり祈っているように見える子。


 ……なるほど、その手があったか。


 私はそっと両手を組み、祈るように目を伏せた。これなら、周りからは敬虔な令嬢に見えるはず。


 完璧。そう思った瞬間、眠気が三倍になった。だめだこれ。祈りじゃない。入眠儀式だ。私はこっそり太ももをつねった。


 前の席のミーナなんて、わりと元気に聞いている。えらい。その集中力、ちょっと分けてほしい。


 一方で、斜め前のアルガスは、話が重くなるたびに露骨に不機嫌になっていた。わかる。でもそれ、司祭さまもびびるやつだぞ。


 リリスは、当然のように微動だにしない。あの子たぶん、授業中に一回も姿勢を崩さないタイプだ。なんなの。育ちの完成形なの?


 そんな感じで、なんとか聖典の授業は終わった。よく寝なかったな、私。ほんと誰か褒めて。……ていうか、これテストとかあるの? あったらやばいんだけど。


 自分を褒めたいような、今後の試験に怯えたいような、微妙な気分のまま次の授業に入る。


 次は、魔法属性の座学だった。


 きた。


 さっきよりは断然興味ある。使えないけど。


 ちなみに、予習はしてある。紅蓮だけ。


 なぜ紅蓮だけかって?


 イザベラが「クロノ様も、きっと紅蓮の才をお持ちでしょう」と言っていたからだ。


 他は知らん。


 ディディエ司祭が黒板の前に立ち、白いチョークを持った。


「皆さんご存じの通り、魔法には基本属性が四種類あります」


 黒板に、さらさらと文字が並ぶ。


 紅蓮。

 蒼氷。

 翠嵐。

 剛岩。


 うわ、字面がもう強い。名前がかっこいい。中二心にやさしい。


「火は紅蓮。水は蒼氷。風は翠嵐。土は剛岩。それぞれ得意・不得意があり、相性や運用法も変わります。順番に覚えていきましょう」


 属性相性システムだ。こういうの好きなんだよなあ。たとえ自分が使えなくても、設定を知るのは楽しい。オタクってそういう生き物である。


 ディディエ司祭は、それぞれの属性の得意分野と苦手分野について説明していった。


 紅蓮は、攻撃と突破に優れるが、細かな制御や長期戦は苦手。

 蒼氷は、制御と拘束に優れるが、瞬間的な火力や突破力はやや弱い。

 翠嵐は、速度と補助に優れるが、重い防御や一撃の決定力には欠ける。

 剛岩は、防御と持久に優れるが、機動力や素早い展開は苦手。


 私なりにざっくり訳すと、紅蓮はアタッカー。蒼氷は敵を止めるデバッファー。翠嵐は味方を助けるバッファー。剛岩はタンク。


 うんうん、バランスいい。ゲーム脳に優しい分類、助かる。


 ただし、属性の得意不得意はあくまで傾向らしい。同じ紅蓮でも、防御寄りの魔法を得意とする人はいる。逆に、翠嵐でも風の刃を飛ばして、普通にアタッカーみたいな戦い方をする人もいるそうだ。


 なるほど。


 テンプレ職業だけじゃなく、ビルド差もあるわけね。それはそれで、めちゃくちゃかっこいい。


 私が内心で勝手にテンションを上げていると、ディディエ司祭がくるっと振り返った。


「さて、この世界にはあと三つ、特別な属性も存在します。わかる人はいますか?」


 その瞬間、前の方からびしっと手が上がった。


 当然のようにリリスである。


「雷鳴、聖光、暗影ですわ!」


 声がよく通る。自信もある。そして言い終わったあと、ちょっと得意げな表情までセット。


 ディディエ司祭は満足そうにうなずいた。


「その通りです。これらは一般的には使う機会がありません。雷鳴は勇者のみに宿る力。聖光は女神の祝福を受けた者に与えられる力。そして暗影は、人の心を闇へ傾ける危険な力とされています」


 いいなあ……!


 勇者の血筋。女神の祝福。そして、心を闇へ傾ける危険な力。


 どう考えても、物語の重要キャラ枠である。私も転生するならそっちがよかった。いや、転生はしたんだけど。した結果これなんだけど。


 脳内で勝手に映像が流れ始める。


 雷鳴属性を持つ私。天からバチコーンと雷が落ち、強敵を一撃で沈める。周囲のモブたちがざわめく。


「なんという雷の力……!」

「これぞ選ばれし者……!」


 さらに聖光まで覚醒。傷ついた仲間に手をかざすと、光がふわっと広がって一発全快。ついでに悪しきものも浄化。背景には神々しい音楽。


 うわー、いいなー。強いし目立つし、なによりちゃんと魔法っぽい。……私の今の現実、ライターと水風船なんだが?


 しかも暗影まで入ると、今度は闇落ちルートである。目元に影を落として、意味深に笑う私。


「この力……使うしかないのね」


 とか言いながら、黒い霧で敵を翻弄する。いや、それはそれでちょっと楽しそうだな? この世界だと完全に討伐対象っぽいけど、響きだけはとても強い。


 ……妄想だけなら誰にも負けないんだけど。


 現実は、魔法ゼロ。


 唯一の取り柄は、使いづらい限界具現ゲンカイ・マテリアライズだけ。どうしてこうなった。


 せめて女神さま、今からでも魔法ください。後付け覚醒とかない?


 課金したいレベルでお願いなんだけど……!


 私は無意識に、机の上で手を組んでいた。かなり真剣に祈っていたと思う。


 すると前の席から、くすっと笑い声がした。


「クロノちゃん、魔法の授業なのにお祈りしてるの? ほんと面白いね!」


 ミーナだった。


「えっ」


 私は反射で手をほどいた。しまった。つい内心で女神召喚コールしていた。


「ち、違う違う! ちょっと考えごとしてただけ!」


「ふふ、そっか」


 ミーナは笑ったまま前を向いた。助かった。深追いしないタイプだ。こういうところ、本当に陽キャとして優秀。危うく“授業中に神頼みする変な子”として、新たな設定が追加されるところだった。


 前の方では、リリスが一瞬だけこちらを見た。その目が、ほんの少しだけ細くなった気がする。


 え、なに。見てた? やめて。今のはノーカンでお願いします。


 その後の授業でも、みんなの反応はそれぞれだった。


 アルガスは、「雷鳴は勇者のみに宿る力」という説明のあたりで、あからさまに不機嫌になっていた。そういう“特別枠”が嫌いなのだろう。わかりやすい。


 エルヴィンは淡々と何かを書いていた。え、なに書いてるの。属性別の将来年収予想とかじゃないよね?


 シャーロットちゃんは、聖光の説明のあたりで、ちょっとだけうっとりしていた。この子たぶん、神話とか奇跡とか、そういう話が好きなんだろうな。


 同じ授業を受けているのに、反応がみんな違う。そういうところは、少し面白かった。


 授業のあとは、校舎案内だった。


 魔導館。

 訓練場。

 礼拝堂。

 図書室。

 中庭。

 グラウンド。

 それから、立ち入り禁止の棟。


 立ち入り禁止って言われると気になるよね。フラグの香りしかしないんだけど。ディディエ司祭は「勝手に入らないように」と何度も念押ししていた。


 うん。絶対あとで誰か入るやつだこれ。


 魔導館は、思っていたより広かった。壁や床には青い石が使われていて、いかにも魔法学校の実習室という雰囲気がある。


 うわ、これはテンション上がる。


 ただし、それは魔法が使える人間の話である。ここで明日、実習をやるらしい。


 明日。魔法実習。


 うわー……いよいよ来たか。


 座学はいい。まだいい。聞くだけならなんとかなる。でも実習はダメだ。隠しきれる自信がない。ていうか、そもそも隠す前提なのがおかしいんだけど。


 案内の途中、ミーナはずっと楽しそうだった。


「あっち何かな?」

「中庭きれー!」


 いちいち反応が明るい。えらい。学園生活を正しく楽しんでる。


 でも、私の心はもう、半分どころかほとんど明日に持っていかれていた。


 明日どうしよう。魔法実習。


 この四文字が、帰り道ずっと頭の中をぐるぐるしていた。どうやら明日の実習では、魔法の源になる魔力を感じ取り、それを動かす練習をするらしい。


 みんなは「なるほど、基礎ですね」みたいな雰囲気だった。


 いや待って。まず私の魔力、どこ? チュートリアル開始前に、必要アイテム未所持なんだけど。


 今日も帰ったら、マークにチート隠蔽会議につきあってもらうしかない。


 女神さまは、この世界に光と影を残したらしい。


 でも今のところ、私にくれたのは、使いづらい限界具現ゲンカイ・マテリアライズと、明日の魔法実習という名の公開処刑だけだった。

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