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魔法属性って奥が深い!?女神さま、私にもワンチャンください

初めての授業は、聖書の授業だった。


(眠すぎる……!)


いや、寝てない。

寝てないけど、意識は何回か遠くへ行きかけた。

たぶん三回くらい、魂だけ先に昼休みへ行ってた。


教壇の上では、年配の司祭さまが、穏やかな声で神話と教義について語っている。

内容は大事なんだろう。

大事なんだろうけど――


朝。

静かな声。

あたたかい日差し。

緊張したあと。

そして長い話。


(寝る条件そろいすぎでは?)


しかし周りを見れば、みんな妙に真面目だ。

背筋を伸ばして聞いてる子。

静かにメモを取ってる子。

目を閉じてるけどギリ祈ってる顔で誤魔化してる子。


私はというと、なんとか正面を見ながら、

(がんばれ私……まぶたを閉じるな……負けるなジョーン……)

と内心で自分を励まし続けていた。


前の席のミーナなんて、わりと元気に聞いてるし。

えらい。

すごい。

その集中力ちょっと分けてほしい。


一方で、斜め前のアルガスは、話が長くなるたびに露骨に顔が不機嫌になっていた。

わかる。

でもその顔は先生もびびるやつだぞ。


リリスは、当然のように微動だにしない。

あの子たぶん、授業中に一回も姿勢崩さないタイプだ。

なんなの。NPCなの? それとも育ちの完成形なの?


で、ようやく聖書の授業が終わった。


(よく寝なかったな私……)

(ほんと誰か褒めて……)


自分で自分を褒めたい気分のまま、次の授業に入る。


次は、魔法属性の座学だった。


(きた!)

(さっきよりは興味ある!)

(使えないけど! 使えないけどもおおお!!)


興味はある。

あるんだよ。

使えないだけで。


ディディエ先生が黒板の前に立って、白いチョークを持った。


「皆さんご存じの通り、魔法には基本属性が四種類あります」


黒板に、さらさらと文字が並ぶ。


紅蓮

蒼氷

翠嵐

剛岩


うわ、字面がもう強い。

名前がかっこいい。

中二心にやさしい。


「火は紅蓮。氷は蒼氷。風は翠嵐。土は剛岩。それぞれ得意・不得意があり、相性や運用法も変わります。順番に覚えていきましょう」


(うわー、属性相性システムだ)

(こういうの好きなんだよなあ……)


たとえ自分が使えなくても、設定を知るのは楽しい。

オタクってそういう生き物である。


先生はそれぞれの属性について、簡単に説明していった。


紅蓮は、火力と突破力。

蒼氷は、制御と拘束。

翠嵐は、速度と補助。

剛岩は、防御と持久。


(うんうん、バランスいい)

(火はアタッカー、氷はコントロール、風はサポーター、土はタンクって感じだな)

(ゲーム脳に優しい分類、助かる)


私は内心で勝手にロール分類しながら、わりと真面目に聞いていた。


すると先生が、くるっと振り返った。


「さて、この世界にはあと三つ、特別な属性も存在します。わかる人いますか?」


その瞬間、前の方からびしっと手が上がった。


当然のようにリリスである。


「雷鳴、聖光、暗影ですわ!」


声がよく通る。

自信もある。

そして言い終わったあと、ちょっと得意げな顔までセット。


先生は満足そうにうなずいた。


「その通りです。これらは一般的には使う機会はありませんが――雷鳴は勇者の血筋、聖光は女神の祝福を受けた者、暗影は魔族が使う特殊な属性です」


(いいなあ……!)


もうそこから先は、私の妄想タイムだった。


勇者の血筋。

女神の祝福。

魔族の特殊属性。


どう考えても主人公チート枠じゃん。


(私も転生するならそっちがよかった!)

(いや転生はしたんだけど! した結果これなんだけど!)


脳内で勝手に映像が流れ始める。


雷鳴属性を持つ私。

指先からバチバチッと雷が走る。

強敵を一撃。

周囲のモブたちがざわめく。


「さすがです、クロノ様!」

「なんという雷の才能……!」

「これぞ選ばれし者……!」


さらに聖光まで覚醒。

傷ついた仲間に手をかざすと、光がふわっと広がって一発全快。

ついでに悪しきものも浄化。

背景には神々しいBGM。


(うわーいいなー)

(強いし目立つし、なによりちゃんと魔法っぽい)


私の今の現実、ライターと水風船なんだが?


しかも暗影まで入ると、今度は闇落ちルートである。

目元に影を落として、意味深に笑う私。

「この力……使うしかないのね」とか言いながら、黒い霧で敵を翻弄。

いやそれはそれでちょっと楽しそうだな?


(妄想だけなら誰にも負けないんだけど……)


現実は――


魔力ゼロ。

唯一の取り柄は、使いづらい《現界具現ゲンカイ・マテリアライズ》と、あやしいごまかし能力。

どうしてこうなった。


(はぁ〜、せめて女神さま、今からでも魔法ください)

(後付け覚醒とかない?)

(課金したいレベルでお願いなんだけど……!)


私は無意識に、机の下で手を組んでいた。


かなり真剣に祈っていたと思う。

我ながら必死すぎる。


すると前の席から、くすっと笑い声がした。


「クロノちゃん、魔法の授業なのにお祈りしてるの? ほんと面白いね!」


ミーナだった。


「えっ」


私は反射で手をほどいた。

しまった。

つい内心で女神召喚コールしてた。


「ち、違う違う! ちょっと考えごとしてただけ!」


「ふふ、そっか」


ミーナは笑ったまま前を向いた。

助かった。

深追いしないタイプだ。

こういうとこ本当に陽キャとして優秀。


(あぶな……)

(危うく“授業中に神頼みする変な子”として新たな設定が追加されるところだった……)


前の方では、リリスが一瞬だけこちらを見た。

その目がほんの少しだけ細くなった気がする。


え、なに。

見てた?

やめて。

今のはノーカンでお願いします。


その横ではアルガスが、先生の説明の“雷鳴は勇者の血筋”あたりで、あからさまに「ちっ」と舌打ちしていた。

うわ、わかりやすい。

そういう“特別枠”嫌いなんだろうな。


一方で、エルヴィンは淡々と何か書いていた。

え、なに書いてるの。

属性別の将来年収予想とかじゃないよね?


そしてシャーロットちゃんは、聖光の説明のあたりで、ちょっとだけうっとりしていた。

かわいい。

この子たぶん、神話とか奇跡とか、そういう話が好きなんだろうな。


同じ授業を受けてるのに、反応がみんな違ってちょっと面白い。


そんな感じで、座学はなんとか終わった。


正直、もっと眠いかと思ってたけど、魔法の話になるとだいぶ聞ける。

使えないくせに、こういう設定の説明だけはしっかり楽しめるの、なんか悔しいけど。


授業のあとは、今日は校舎案内だった。


魔道館。

訓練場。

礼拝堂。

図書室。

中庭。

グラウンド。

あと、立ち入り禁止の棟。


(立ち入り禁止って言われると気になるよね)

(フラグの香りしかしないんだけど)


ディディエ先生は「勝手に入らないように」と何度も念押ししていた。

うん、絶対あとで誰か入るやつだこれ。

物語の経験上、そういうのはだいたい誰かがやる。


魔道館は思っていたより広かった。

床には魔法陣みたいな模様が刻まれていて、壁には属性ごとの古い紋章が並んでいる。


(うわ、ここはテンション上がる)


ここで明日、実習をやるらしい。


明日。


魔法実習。


(うわー……いよいよ来たか)


座学はいい。

まだいい。

聞くだけならなんとかなる。


でも実習はダメだ。

隠しきれる自信がない。

ていうか、そもそも隠す前提なのがおかしいんだけど。


ミーナは案内の途中でもずっと楽しそうだった。

「あっち何かな?」「中庭きれー!」って、いちいち反応が明るい。

えらい。

学園生活を正しく楽しんでる。


リリスはというと、もう勝手知ったる場所みたいな顔をして歩いていた。

留学生なのに堂々としすぎでは?

いや、たぶん堂々としてるからリリスなんだろうな。


アルガスは訓練場の前で露骨に機嫌がよくなっていた。

わかりやす。

戦える場所を見ると元気になるタイプか。


エルヴィンは図書室と資料室の位置を真剣に確認していた。

この子ほんと、将来絶対ただ者じゃない。

何調べる気なんだろう。怖い。


シャーロットちゃんは、人の後ろをちょこちょこついて歩いていて、たまに見失いそうになる。

小動物かな?


そんなふうにして、初日の授業は終了した。


でも、私の心はまったく終わっていない。


(明日どうしよう……)


魔法実習。

この四文字が、帰り道ずっと頭の中をぐるぐるしていた。


火を出せと言われたら?

風を起こせと言われたら?

水を飛ばせと言われたら?

ていうか今度は水晶ないよね?

ないよね?

もう割るもの残ってないよね?


(今日も帰ったら、マークにチート隠蔽会議つきあってもらうしかない……!)


たぶんあいつ、最初はポテチ食べながら聞くんだろうな。

そして最後に変なアイデアだけ出してくる。

でも、そういう時に限って妙に当たるんだよなあ。


……うん。

やっぱり帰ったら相談しよう。


女神さまは今のところ何もくれないけど、

弟はたまに、わりと使える。


それが救いなのかどうかは、まだちょっとわからない。

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