オチ狙いは計画的に
――聖堂院リュミエール・自己紹介タイム
自己紹介、絶対成功させてやる。
そう思っていたのだが。
こういう時に限って、妙に気になるやつらが次々と出てきて、こっちの集中はどんどん削られていく。
クラスガチャ、だいぶ濃いぞこれ。
まず立ち上がったのは、小柄でおとなしそうな女の子だった。
肩くらいでそろえられた髪。
制服はちゃんとしてるのに、本人だけが落ち着いてない。
立ってるだけで「すみません今ここにいて大丈夫ですか」みたいな空気が出ている。
……しゃべりださない。
あ、これ完全に緊張で詰まってるやつだ。
ディディエ司祭がやさしく促した。
「シャーロットさん、どうぞ」
「え、えっと……シャーロット・ドロワっていいます……司祭の家で……本が好きです……」
声ちっさ。
でもまあ、気持ちはわかる。
初日だし。緊張するし。うんうん。
……って思ったんだけど。
(あれ? なんかこの子、妙にソワソワしてるな……)
よく見ると、視線がちょいちょい斜め前へ飛んでいる。
あっ。
(この子、誰か気にしてるな)
次の瞬間、案の定、横からぴしゃっと声が飛んだ。
「声がちっせぇんだよ、シャーロット! 聞こえねぇだろ!」
びくっ。
シャーロットちゃんは肩を跳ねさせた。
「は、はいっ……!」
(うわ、こっちか)
優しい幼なじみ注意じゃない。
完全に圧のある顔見知りだ。
なんかもう、昔からずっとこうやって急かされてきた感じがする。
そしてその声の主が、次に立ち上がった。
ガタン、と椅子を鳴らして。
お行儀のいい自己紹介が続いてた空気が、そこでちょっと変わった。
髪は短め。
目つき鋭め。
立ってるだけで「オレは気に入らねぇことがあると普通に顔に出るぞ」って書いてある。
「アルガス・エミューだ」
短い。
ぶっきらぼう。
でも妙に通る声だった。
「好きなことは、勝つこと。あと強くなること」
(うわ、わかりやすっ)
リリスが“貴族の強キャラ”なら、こっちは“ケンカっ早い実力主義”って感じだ。
方向性は違うのに、どっちも面倒くさそうなのすごいな。
アルガスは腕を組んで、教室をぐるっと見回した。
そして最後に、こっちを見た。
嫌な予感。
「昨日、水晶割ったやつ、お前だろ」
(名指し!?)
教室の空気が、ほんの少しだけざわつく。
アルガスはニヤッと笑った。
「面白ぇじゃねえか」
まって、その感想で来るの?
「オレも紅蓮だ。お前、逃げんなよ」
(うわあああ増えたああああ!!)
ライバルが増えた。
しかもタイプが違うやつ。
リリスは“お嬢様ボス”。
こっちは“正面から殴ってくる不良寄りの天才”。
(クラスの治安どうなってんの……?)
そして次に立ち上がったのが、言わずと知れたこのクラスのボスになろう人物。
リリス・フォン・ゼルファスである。
立ち上がっただけで空気が変わるの、ほんとずるくない?
同じ小等部一年なんだよね?
なんで私より五年くらい社会経験ありそうな顔してるの。
「帝国貴族、ゼルファス家のリリスですわ! 好きなことは勝つことですの! 目標はもちろん首席! わたくしに立ち塞がるものは全員まとめて倒しますから、覚悟なさいませ!」
最後に、ばちん、とこっちを見る。
視線が強い。
強すぎる。
もうガン飛ばしの域なんだが?
さらに鼻でフンッときた。
(いや、マジでなんで私こんなに目の敵にされてるの??)
昨日は昨日で、
「友達いけるかも……?」
って一瞬思ったんだけどな?
あれ何だったの。
幻?
私だけが見た優しい幻だったの?
(新学期デバフ発動してる??)
(入学初日にボスにロックオンされるイベント、いらないんだけど!?)
そして斜め前ではアルガスが、ふん、と鼻を鳴らしていた。
お前も対抗心燃やすな。
火属性らしくすぐ熱くなるな。
クラスの何人かは「おお……」みたいな顔をしている。
たぶんリリス、もうこの時点で強キャラとして認識されてる。
そりゃそうか。
名家。才能あり。態度でかい。わかりやすい。
そして極めつけが、こいつ。
立ち上がった瞬間にわかった。
なんか目つきが大人びてる。
子ども特有のふわっとした感じがない。
もう計算してそうな顔をしている。
「エルヴィン・フォスティエです。好きなことはお金を数えること……将来はお父さんの後を継いで、大商会の主になる予定です」
(いや小一で金勘定!?)
なんでそんなに将来設計が完成してるの。
すごい。
すごいけど、ちょっと怖い。
好きなことが“お金を数えること”って、クセが強すぎる。
将来有望すぎるだろ。
(詐欺師か!!)
(いや、頭良さそうだけど普通に怖ぇよコイツ!)
しかも言い方がやけに落ち着いてる。
この年齢で「予定です」って言えるの、逆に信頼できるのかもしれない。
いやでもやっぱちょっと怖い。
将来絶対、笑顔で値切ってくるタイプだ。
その次に、前の席のミーナが元気よく立ち上がった。
「私、ミーナ・ブランシュ! 好きなことはかけっこ! 友達いっぱいほしいです! よろしくね!」
明るい。
短い。
わかりやすい。
強い。
(やっぱ陽キャだなミーナ……)
声が元気。
笑顔が自然。
誰も傷つけず、自分の良さだけをちゃんと出して終わる。
こういうのが“正解”なんだよな。たぶん。
(オタクの私にはまぶしすぎる……)
でも、こういう子がクラスに一人いると空気がやわらかくなるんだよね。
たぶん実際、助かってる人いっぱいいると思う。
……で。
問題はここからだ。
――いよいよ、私の番。
(やっぱトリ寄りか……)
嫌な予感しかしない。
前の人たちがちゃんとしていればしているほど、こっちのハードルが上がる。
やめて。比較しないで。
でも絶対される。
(ここは無難にいく?)
(いや、昨日でもう十分目立ったし……)
(でも逆に、大人しくしてても“あの水晶割った子”って思われるだけじゃない?)
(それなら少しくらい笑いを取りにいった方が……)
脳内会議が始まる。
A案:無難に終える。
B案:少し印象を残す。
C案:オチを入れて場を和ませる。
今の私の精神状態だと、本来はAが正解。
でもなぜか、こういう時に限って内なる悪ノリ担当が元気になる。
(やっぱトリだし……ここは何かオチが必要だよな)
(いやでも昨日目立ったし……どうせ静かにしててもまた変な目立ち方するに決まってるし)
(よし、だったらインパクトで押すしかない!)
ほんと、やめとけばよかった。
私は立ち上がって、咳払いした。
「えー、皆さまおはようございます!」
よし。
出だしはいい。
普通。
いける。
まだ戻れる。
「わたくし、クロノ=ソーカ=シュナイダー=ド=ルシフェル=アルマ=ミストラル=ヴィヴィアン=レオナール=アンドロメダ――」
教室が、一瞬フリーズした。
(あっ)
言った瞬間にわかった。
これ、やっちゃったやつだ。
いや、もちろん本名じゃない。
完全にノリで盛った。
貴族っぽい長い名前で押し切れば、ちょっと笑いが起きるかなって思った。
思ったんだけど。
起きたのは笑いじゃなくて、沈黙だった。
(やばい、スベった)
(しかも初手で)
(教室の空気が死んだ)
でももう止まれない。
止まったら余計寒い。
私は無理やり笑顔を作った。
「……えー、長いので“クロノ”でお願いします!
好きな食べ物は、お母さんの作ったハンバーグです!」
そこで終わればよかった。
ほんとに。
なのに私は、追い打ちみたいに笑顔を足した。
「よろしくね! てへっ」
パチ……
パチ……
……(無音)
うそでしょ。
そんなに?
そんなにダメだった?
ディディエ先生が、やや遠い目で言った。
「えー、個性的な方が増えて嬉しいですね……」
先生、そのフォローの仕方、一番優しいけど一番刺さるやつです。
ミーナだけ「ぷっ」と吹き出しそうになっていた。
肩が揺れてる。
いやわかるよ。
わかるけど今はやめて。
こっちは命懸けなんだ。
リリスは真顔でこちらを見たあと、すっぱり言い放った。
「先生を馬鹿にしているのかしら。本当にひどいお人ですわ」
バッサリ。
氷属性らしい切れ味である。
痛い。普通に痛い。
アルガスはというと、眉をひそめたあと、ふっと鼻で笑った。
「……ハッ。くだらねぇ」
うわ、そっちも刺さる。
雑に斬ってくるな。
一方で、シャーロットはなぜか目を輝かせていた。
「す、すごいです……! そんなに長いお名前、覚えられません……!」
いや、そこ感心するとこじゃないからね?
(ウケるどころか空気が真空に……!)
(この教室、宇宙空間かな……)
私は小さく縮こまりながら席に座った。
(もう二度とウケ狙いはしない……!)
いや、ほんとに。
少なくとも今日の私は、もうそういう無茶はしない。
たぶん。
たぶんね。
でもその直後、前の席のミーナがちらっと振り返って、こっそり親指を立てた。
え、なに。
慰めてくれてる?
それとも“攻めたね!”って意味?
どっちにしても複雑である。
そして、前の方ではリリスがまだこちらを見ていた。
呆れてるのかと思ったら、ほんの少しだけ口元が動いた気がした。
……笑った?
いや、気のせいか。
そういうことにしておこう。
さらにその横で、アルガスが腕を組んだまま、なぜかちょっと面白くなさそうな顔をしていた。
何その反応。
自分ももっと印象に残ることやりたかった感じ?
笑うなら笑う、怒るなら怒る、どっちかにしてほしい。
めんどくさい強キャラが二人もいるんだけど、この教室ほんとにやっていける?
こうして。
クロノの“伝説のスベり自己紹介”は、入学初日にして、早くもクラスの語り草になったのだった。
……これ、本当に友達作るパートで合ってる?




