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限界具現 〜魔法ゼロ令嬢が現代アイテムを呼び出したら、祭具の聖女にも災具の魔女にもされました〜  作者: ちぇ!
ごまかしから始まる学院生活

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魔力検定で水晶粉砕! お嬢様ライバル爆誕した件


⸻ 試験場・順番待ちの列


 試験場と聞いて、私はてっきり外の訓練場みたいな場所を想像していた。


 的に向かって魔法を撃つ。


 そう聞いていたから、広い庭か石造りの演習場でやるのだと思っていたのだ。けれど、案内されたのは、少し広めの教室のような部屋だった。壁際には司祭たちが並び、新入生たちは順番に列を作っている。


 近い。思っていたより、見られる距離が近い。これ、誤魔化せるのかな。そんなことを考えながら、私は前で話している女の子たちを、こっそりちらっと見た。


 その中で、ひときわ目立つ子がいた。背筋ぴーん。姿勢よし。縦ロールはつやつや。立っているだけで、「わたくしは育ちがよろしくてよ」という空気が出ている。


 完全に“ザ・令嬢”だった。しかも、並んでいる子と話している口調がまたすごい。


「〜ですわ」

「〜ますわ」

「よろしくってよ」


 いや、ほんとに言うんだ。現実にいるんだ、こういう喋り方の子。セリフが全部“ですわ”“ますわ”で構成されている。濃い。キャラが濃い。初対面で受け止めるには、少し圧が強い。内心ちょっと引いていた、その時だった。


 ふいに、その子が振り返った。目が合う。しかも、ただ目が合っただけじゃない。なんかこう……ギラリとしていた。前世で見た不良の目とも違う。威圧しているわけじゃないのに、視線が強い。


 これは……強者の目だ。


 こわい。その子は私を上から下まで、すっと確かめるように見た。


「あなた、クロノ・ソーカさんですわよね?」


 え、名前バレてる。

 この世界、鑑定スキルとかあるの?

 私がきょどっていると、返事をするより早く、彼女はスカートの端を軽くつまみ、優雅に一礼した。


「初めまして。わたくし、リリス・フォン・ゼルファスと申します。ソーカ家のお名前は前から耳にしておりましたけれど、実際にお話しするのは初めてですわよね?」


 うわ、思ったよりちゃんとしてる。というか、声がきれい。発音もきれい。なんかもう、全部に品がある。


「えっと、こ、こんにちは……。そ、そうですね」


 てか、うちって、家名だけで認識されるタイプの家だったの? いや、それより目力が強い。気品もすごい。直視しづらい。


 リリスはすっと手を差し出した。


「緊張なさらずに。わたくしたち、同じクラスですのよね? これからよろしくお願いしますわ」


「は、はい! あ、よろしく……」


 私はちょっとおどおどしながら、その手を握った。

 きれいな手だった。でも、思ったより少し硬い。令嬢の手って、もっとふわふわしているものだと思っていたけれど、リリスの手には妙な力強さがあった。


 それでも握り方は優しい。


 これが令嬢の握手か……。いや、たぶん私が知らないだけで、令嬢にもいろいろあるのだろう。口調はキツそうなのに、対応はちゃんとしている。むしろ、かなり感じがいい。


 思わず、つい口が滑った。


「……なんか、お嬢様言葉でキツい感じなのかなって思ってたけど、話してみると意外と気さくかも?」


 しまった。心の声が、ほんのり口から漏れた。やばい。終わった。初対面で失礼をかました。


 と思ったら、リリスはほんの少し口元をゆるめ、楽しそうに笑った。


「まあ。お嬢様言葉なのは、帝国貴族はこうあるべきだと、お母様から厳しく教えられてきたからですの」


「へ、へえ……」


「甘やかされることなんてありませんのよ。勉強も礼儀作法も厳しくて、弱音など吐こうものなら、すぐ叱られますの」


 うわ、それめっちゃ厳しい家だ。うちより断然ハードモードっぽい。やっぱりきちんと育てられている子なんだと思った。最初は「圧すご」となったけど、話してみると普通に好感が持てる。むしろ、ちゃんと努力しているタイプかもしれない。


 するとリリスは、少しだけ視線を横に流しながら言った。


「……ソーカ家の方、それも“灯火の聖女”サラサ様のご息女と聞けば、気にならない方がおかしいですわ」


「え、私ですか?」


 思わず変な声が出た。いや待って。今、母さんのこと、さらっととんでもない呼び方しなかった?


「はい。なんと言えばよいのか……面白そうな方だと思っておりましたの」


 なにそれ。初対面の感想が“面白そう”って。どういう評価? でも、悪い意味ではなさそうだった。


「ですから」


 リリスはもう一度、まっすぐこっちを見る。


「絶対に負けられませんわ。これからよろしくね、クロノさん」


 ライバル宣言だった。


 うわ、急に来た。


「こ、こちらこそよろしく……。なんかライバル宣言されちゃったけど、私、魔法全然できないから……」


 いや、魔法ができないのは本当なんだけど。でもたぶん、この子には通じない。するとリリスは、ふふんと少し得意げに笑った。


「そういうことでしたら、わたくしの蒼氷魔法、見せて差し上げますわ。楽しみにしていらして」


 自信がすごい。


 でも、嫌味という感じではなかった。むしろ、まっすぐだ。私を見下しているというより、全力で勝負する相手として見ている。そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。わりといい感じかもしれない。


 異世界に来て初めての友達、できるかも。


 そんなふうに、ほんの少し芽生えた友情の予感を胸に、私は順番を待っていた。


 いや、まあ。


 この時点では、そう思っていたのだ。


 本当に。



 さて、検定開始である。話に聞いていた試験方式では、的に向かって魔法を使い、担当の司祭に、


「はい、ちゃんと魔法が使えますね」


 と確認してもらうだけのはずだった。


 だったら、当てればいい。だから昨日、マークとあれだけ作戦会議したのだ。一番目立たずにやり過ごすなら、水魔法がよさそうだった。


 水魔法っぽく見せるなら、水風船。


 ……うん。


 水風船である。


 よくよく考えたら、“水魔法”というより、ただのびしょ濡れ攻撃ではないだろうか。でも、手のひらに隠せる。投げれば当たる。周囲への被害も、まあ少ない。実用性は高い。魔法っぽさは低い。


 でも当たればセーフ。


 たぶん。


 そんな感じで最後には、


「よしよし、ここまで対策したならなんとかなるっしょ」


 と、かなり楽観視していた。


 していたのだが……。


 今年から、何を思ったのか、教会が最新式の検定器具を導入していた。


 試験場の中央には、どーんと置かれたでっかい水晶。見た目からしてヤバい。高そう。そして嫌な予感しかしない。


 担当の司教が、列に並ぶ新入生たちへ向けて声を張った。


「これより魔力検定を行います。順番に前へ出て、この水晶に手を当てなさい。水晶は皆さんの魔力量と、適性属性を示します」


 私は固まった。


 ……は?


「この水晶は、魔力を吸収して反応する特別な測定器具です。無理に魔法を放つ必要はありません。水晶に触れるだけで結構です」


 いやいやいやいや。聞いてない。そんなの聞いてない。なんでやねん。大阪人もびっくりなエセ関西弁が出そうになる。いや、おかしいでしょ。急に試験内容がアップデートされている。昨日までの対策、全部“旧環境”前提なんだけど?


「まじで意味わからん……詰んだ、終わった、人生詰んだ……」


 小声でぶつぶつ言いながら、私は列の後ろでひっそり絶望していた。逃げたい。でも逃げたらもっと怪しい。というか、母さんが期待と心配を両手に抱えて外で待っている。逃げられない。


 そんなふうに心の中で勝手に墓を建てているうちに、ついに前のリリスの番が来た。リリスは優雅な所作で水晶の前へ進み、すっと手をかざした。ほんと、いちいち絵になるなこの子。


 次の瞬間、水晶の内側から蒼い光がふわりと灯った。それは一瞬で強くなり、透き通った氷のような輝きとなって、水晶全体を満たしていく。


 冷たい光。でも、どこか綺麗で、見ているだけで背筋が伸びるような光だった。


 すると、担当の司教が目を見開いた。


「おお、これはすごい!」


 周囲がざわつく。


「入学時点で、蒼氷魔法上級相当の反応……! なんという才能だ……!」


「上級相当!?」

「天才だ!」

「さすがゼルファス家のご令嬢だ!」


 おおーっ、と場がどよめいた。


 リリスは胸を張って、口元に笑みを浮かべる。


「おーほっほっほ! 当然ですわ!」


 うわ、ほんとに言った。ほんとに“おーほっほ”って言った。令嬢スキル高すぎるでしょ。しかも、普通に似合っている。本物のお嬢様って、すごい。


 ……いや、感心している場合じゃない。


 リリスは、めちゃくちゃ視線を集めている。そして次は、私の番だ。


 どうしよう。どうしよう。どうしよう。足先が少し冷たくなる。でも、ここで何もしないわけにはいかない。


 私は必死に考えた。


 的当てなら、水風船で押し切れた。でも、水晶相手じゃそれは無理だ。


 だったら、熱でごまかすしかない。

 

 手をかざすフリだけして、その陰でこっそりライターを使えばいいんじゃないか。水晶がほんのり熱を持てば、


「紅蓮魔法です!」


 ってことに、ならない?


 いや、だいぶ雑。雑だけど、今はそれしかない。むしろ今までの人生、だいたいこういう雑ハッタリで乗り切ってきた気もする。


 よし。やるしかない。


 担当の司教が名簿に目を落とし、次の名前を読み上げた。


「次は……クロノ・ソーカさん」


 ついに私の番が来た。

 私は平静を装って、水晶へ近づいた。周囲の視線が痛い。さっきのリリスのあとだから、余計に痛い。比較される未来しか見えない。


 私は水晶に手をかざした。その陰で、こっそりと秘蔵の現代兵器――ライターを使って、水晶の下のあたりを炙る。


 いけ。ほんのちょっとでいい。ほんのちょっと“それっぽく”なってくれ。


 その瞬間。


「ピキ……」


 え?


「ピキピキピキ……!!」


 水晶に、ヒビが走った。


 いや待って。待って待って待って。


 熱、入りすぎじゃない?


 次の瞬間。


 パリン!!


 でっかい音を立てて、水晶が砕け散った。


 んぎゃあああああああ!!


 終わった。


 これは完全にやらかした。やらかしの規模が想定を超えている。


 司教が悲鳴みたいな声を上げる。


「な、何だこれは!?」


 さらに驚いて砕けた水晶に触れた瞬間、


「熱っ!! 熱っ熱っ!!」


 司教は慌てて手を引っ込め、ぶんぶん振った。その場でフーフーしながら、震える声で水晶の残骸を見つめている。


 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


 弁償とかあるの?


 こういうの高そうなんだけど!?


 ところが。


 司教は、なぜか感動したような顔で叫んだ。


「魔力を吸収するはずの水晶が、熱で割れている……!」


 ざわっ、と周囲がどよめく。


「これは……! 凄まじい紅蓮魔法の逸材だ!」


「さすがは“灯火の聖女”サラサ様のご息女……! 素晴らしい!!」


 さっきのリリス以上に、場が盛り上がった。


「おおおおーっ!!」


 やめて。盛り上がらないで。

 あと母さんの名前まで出さないで。てか、めちゃくちゃ目立ってるじゃん。やばいって。静かに終わらせたいんだけど!?


 頭の中で警報が鳴りっぱなしの中、ひとりの影がすっと前に出た。


 リリスだった。


 さっきまで優雅に高笑いしていた彼女が、今度はまっすぐ私の方へ歩いてくる。その顔には、妙に満足げな笑みが浮かんでいた。


 なに。こわい。


 嫌な予感しかしない。


「やはり」


 リリスは私の前で立ち止まった。


「やはり、わたくしの思ったとおり、面白い方ですわね」


「え……」


「それどころか」


 リリスは一拍ためて、手に持った小さな扇のようなもので、びしっと私を指した。


「先ほど、魔法があまり得意ではないとおっしゃっていましたけれど……あれは、わたくしをからかっていたのですわね?」


「ち、違っ――」


「ひどいお人ですわ」


 いや違う。違うんだって。からかってない。むしろ必死だった。でも、私の弁解は間に合わない。


 リリスはくるりと周囲を見渡し、みんなに聞こえるような声で高らかに宣言した。


「クロノ・ソーカ!!」


 うわ、名指し来た。


「わたくし、リリス・フォン・ゼルファス! あなたをわたくしのライバルとして認めますわ! 絶対に負けません!!」


 会場がまたざわつく。いや待って。展開が早い。感情が追いつかない。


「えええ!? さっき友達になれそうだったじゃんよ!?」


 思わず叫ぶと、リリスはふんっと顎を上げた。


「友達だなんて冗談じゃありませんわ!」


 そう言い切って、リリスはつやつやの髪を揺らしながら去っていった。


 え、そこまで拒否する? 私、水晶は割ったけど、友達申請までは割ってないんだけど。私はその背中を見送りながら、頭の中で絶叫した。


 そりゃないよおおおお!!


 なんでだ。どうしてこうなった。さっきまで、異世界初めての友達ができるかも、と思っていたのに。


 現実は、水晶を粉砕し、天才認定され、お嬢様ライバルが爆誕する、である。


 情報量が多い。多すぎる。私は半べそになりながら、母さんの待つ方へと向かった。絶対また何か言われる。いや、言われるだけで済めばいいけど。


 ……聖堂院生活、初日からもう前途多難すぎない?


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xから読ませていただきました。 異世界で与えられた力が、まさかの「現代のものを召喚する能力」と「一瞬だけ時間を止める停止スキル」という点に、強い独創性を感じました。剣や最強魔法ではなく、現代知識や身近…
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