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魔力検定で水晶粉砕! お嬢様ライバル爆誕した件

――試験場、順番待ちの列。


私は前にいる女の子の背中を、こっそりちらっと見た。


背筋ぴーん。

姿勢よし。

縦ロールに髪つやつや。

立ってるだけで「わたくしは育ちがよろしくてよ」って空気が出てる。


完全に“ザ・令嬢”って感じだった。


しかも、前に並んでる子と話してる口調がすごい。


「〜ですわ」

「〜ますわ」

「よろしくってよ」


いや、ほんとに言うんだ。

現実にいるんだ、こういう喋り方の子。


(セリフが全部“ですわ”“ますわ”でキツすぎて、ちょっと引くんだけど……)


内心ちょっとドン引きしていた、その時だった。


ふいに、その子が振り返った。


目が合う。


しかも、ただ目が合っただけじゃない。

なんかこう……キラッてした。

視線が強い。強者の目だ。こわい。


「あなた、クロノ・ソーカさんですわよね? 初めまして。わたくし、リリス・フォン・ゼルファスと申します。ソーカ家のお名前は前から耳にしておりましたけれど、実際にお話しするのは初めてですわよね?」


うわ、ちゃんとしてる。

思ったよりちゃんとしてる。

というか、声がきれい。発音もきれい。

なんかもう、全部に品がある。


「えっと、こ、こんにちは……。そ、そうですね」


(え、うちって家名だけで認識されるタイプの家だったの?)

(てかすげえ気品ある……。でも目力強すぎて、ちょっと直視しづらい……!)


リリスはすっと手を差し出した。


「緊張なさらずに。わたくしたち、同じクラスですのよね? これからよろしくお願いしますわ」


「は、はい! あ、よろしく……」


私はちょっとおどおどしながら、その手を握った。


やわらかい。

でも握り方に妙な隙がない。

これが令嬢の握手……?


口調はキツそうなのに、対応はちゃんとしてる。

むしろかなり感じがいい。


思わず、つい。


「……なんか、お嬢様言葉でキツい感じなのかなって思ってたけど、話してみると意外と気さくかも?」


しまった。

心の声がちょっと口から漏れた。


やば。

終わった。

初対面で失礼かました。


と思ったら、リリスはほんの少し口元をゆるめて、にやりと笑った。


「まあ。お嬢様言葉なのは、帝国貴族はこうあるべきだと、お母様から厳しく教えられてきたからですの」


「へ、へえ……」


「甘やかされることなんてありませんわよ。勉強も礼儀作法も厳しくて、弱音など吐こうものなら、すぐ叱られますの」


(うわ、それめっちゃ昭和の厳しい家っぽい……。

 でも、意外とちゃんとしてる子だな……)


なんというか。

最初は「圧すご」ってなったけど、話してみると普通に好感が持てる。

むしろ、ちゃんと努力してるタイプかもしれない。


するとリリスは、少しだけ視線を横に流しながら言った。


「……ソーカ家の方、それも“灯火の聖女”サラサ様のご息女と聞けば、気にならない方がおかしいですわ」


「え、私ですか?」


思わず変な声が出た。


いや待って。

いま母さんのこと、さらっととんでもない呼び方しなかった?


「はい。なんと言えばよいのか……面白そうな方だと思っておりましたの」


なにそれ。

初対面の感想が“面白そう”って。

どういう評価?


でも、悪い意味じゃなさそうだった。


「ですから」


リリスはもう一度、まっすぐこっちを見る。


「絶対に負けられませんわ。これからよろしくね、クロノさん」


ライバル宣言だった。


うわ、急に来た。


「こ、こちらこそよろしく……。なんかライバル宣言されちゃったけど、私、魔法全然できないから……」


半分ほんとで、半分ごまかし。

いや、ごまかし率の方が高いかもしれない。


するとリリスは、ふふんと少し得意げに笑った。


「そういうことでしたら、わたくしの蒼氷魔法、見せて差し上げますわ。楽しみにしていらして」


(うわ、自信すご。

 でも嫌味って感じじゃないな……)


私はちょっとだけ肩の力を抜いた。


(わりとイイ感じかも……。

 異世界きて初めての友達、できるかもしれん)


そんなふうに、ほんの少し芽生えた友情の予感を胸に、私は順番を待っていた。


……いや、まあ。

この時点では、そう思ってたんだよ。ほんとに。



さて、検定開始である。


話に聞いてた試験方式では、的に向かって魔法を使って、先生に

「はい、ちゃんと魔法が使えますね」

って確認してもらうだけのはずだった。


だったら――当てればいい。


だから昨日、マークとあれだけ作戦会議したのだ。


水魔法っぽく見せるなら、水風船。

……うん、水風船である。


よくよく考えたら“水魔法”っていうか、ただのびしょ濡れ攻撃では? という気はする。

でも、手のひらに隠せるし、投げれば当たる。

つまり実用性は高い。

魔法っぽさは低い。

でも当たればセーフ。たぶん。


そんな感じで最後には、

「よしよし、ここまで対策したならなんとかなるっしょ」

って、かなり楽観視していた。


――していたのだが。


今年から、何を思ったのか、教会がハイテク機器を導入していた。


試験場の中央に、どーんと置かれたでっかい水晶。

なんかもう見た目からしてヤバい。

高そう。

そして嫌な予感しかしない。


説明を聞いた瞬間、私は固まった。


水晶に手を当てるだけで、魔力量も、適性属性も、全部分かるらしい。


……は?


いやいやいやいや。

聞いてない。

そんなの聞いてない。


なんでやねん!!!

大阪人もびっくりなエセ関西弁が出てしまいそうになる。


いやだっておかしいでしょ。

急に試験内容アップデートされてるじゃん。

昨日までの対策、全部“旧環境”前提なんだけど?


「まじで意味わからん……詰んだ、終わった、人生詰んだ……」


小声でぶつぶつ言いながら、私は列の後ろでひっそり絶望していた。


逃げたい。

でも逃げたらもっと怪しい。

というか母さんが外で待ってる。逃げられない。


そんなふうに、心の中で勝手に墓を建てているうちに、ついに前のリリスの番が来た。


リリスは優雅な所作で水晶の前へ進み、すっと手をかざした。


ほんと、いちいち絵になるなこの子。


すると、担当の司教が目を見開いた。


「おお、これはすごい!」


周囲がざわつく。


「入学時点で、蒼氷魔法中級の反応! なんという才能だ……!」


「天才だ!」

「素晴らしい!」


おおーっ、と場がどよめいた。


リリスは胸を張って、口元に笑みを浮かべる。


「おーほっほっほ! 当然ですわ!」


うわ、ほんとに言った。

ほんとに“おーほっほ”って言った。

令嬢スキル高すぎるでしょ。


でも、似合ってるのがまた悔しい。


(やっば……。

 次、私の番じゃん……。

 どうしようどうしようどうしよう)


足先がちょっと冷たくなる。

でも、ここで何もしないわけにはいかない。


私は必死に考えた。


的当てなら水風船で押し切れた。

でも、水晶相手じゃそれは無理だ。


だったら――熱で誤魔化すしかない。


手をかざすフリだけして、

その陰で、こっそりライターを使えばいいんじゃないか?


水晶がほんのり熱を持てば、

「紅蓮魔法です!」

ってことに、ならない?


いや、だいぶ雑。

雑だけど、今はそれしかない。

むしろ今までの人生、だいたいこういう雑ハッタリで乗り切ってきた気もする。


(よし……やるしかない)


そして、ついに私の番。


私は平静を装って水晶に近づいた。


周囲の視線が痛い。

さっきのリリスのあとだから余計に痛い。

比較される未来しか見えない。


手をかざす。


その陰で、こっそりと。

秘蔵の現代兵器――ライターを使って、水晶の下のあたりを炙る。


いけ。

ほんのちょっとでいい。

ほんのちょっと“それっぽく”なってくれ。


その瞬間。


「ピキ……」


え?


「ピキピキピキ……!!」


水晶に、ヒビが走った。


いや待って。

待って待って待って。


熱入りすぎじゃない?


次の瞬間、


パリン!!


でっかい音を立てて、水晶が砕け散った。


(んぎゃあああああああ!!)


終わった。

これは完全に終わった。

やらかしの規模が想定を超えてる。


司教が悲鳴みたいな声を上げる。


「な、何だこれは!?」


さらに驚いて砕けた水晶に触れた瞬間、


「熱っ!! 熱っ熱っ!!」


司教は慌てて手を引っ込め、ぶんぶん振った。

その場でフーフーしながら、震える声で水晶の残骸を見つめている。


(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!

 弁償とかある!?

 こういうの高そうなんだけど!?)


ところが。


司教は、なぜか感動したような顔で叫んだ。


「魔力を吸収するはずの水晶が、熱で割れている……!」


ざわっ、と周囲がどよめく。


「これは……! 凄まじい紅蓮魔法の逸材だ!」

「素晴らしい!!」


さっきのリリス以上に、場が盛り上がった。


「おおおおーっ!!」


やめて。

盛り上がらないで。

私は今、盛り上がられる側の人間じゃない。


(え? マジ?

 いやいやいや、めっちゃ目立ってるじゃん!

 やばいって! 静かに終わらせたいんだけど!?)


頭の中で警報が鳴りっぱなしの中、ひとりの影がすっと前に出た。


リリスだった。


さっきまで優雅に高笑いしていた彼女が、今度はまっすぐ私の方へ歩いてくる。

その顔には妙に満足げな笑み。


なに。

こわい。

なに言うの。


「やはり」


リリスは私の前で立ち止まった。


「やはり、わたくしの思ったとおり、面白い方ですわね」


「え……」


「それどころか」


リリスは一拍ためて、手に持った小さな扇のようなもので、びしっと私を指した。


「先ほど、魔法があまり得意ではないとおっしゃっていましたけれど……あれは、わたくしをからかっていたのですわね?」


「ち、違っ――」


「ひどいお人ですわ」


いや違う。

違うんだって。

からかってない。

むしろ必死だった。


でも、私の弁解は間に合わない。


リリスはくるりと周囲を見渡し、みんなに聞こえるような声で高らかに宣言した。


「クロノ・ソーカ!!」


うわ、名指し来た。


「わたくし、リリス・フォン・ゼルファス!

あなたをわたくしのライバルとして認めますわ!

絶対に負けません!!」


会場がまたざわつく。


いや待って。

展開が早い。

感情が追いつかない。


「えええ!? さっき友達になれそうだったじゃんよ!?」


思わず叫ぶと、リリスはふんっと顎を上げた。


「フンッ! 友達なんて冗談じゃありませんわ!」


そう言い捨てて、つやつやの髪を揺らしながら去っていった。


私はその背中を見送りながら、頭の中で絶叫した。


(そりゃないよおおおお!!)


なんでだ。

どうしてこうなった。


さっきまで

「異世界初めての友達できるかも」

って思ってたのに。


現実は、水晶を粉砕し、天才認定され、お嬢様ライバルが爆誕する――である。


情報量が多い。

多すぎる。


私は半べそになりながら、母さんの待つ方へと向かった。


絶対また何か言われる。

いや、言われるだけで済めばいいけど。


……聖堂院生活、初日からもう前途多難すぎない?


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― 新着の感想 ―
xから読ませていただきました。 異世界で与えられた力が、まさかの「現代のものを召喚する能力」と「一瞬だけ時間を止める停止スキル」という点に、強い独創性を感じました。剣や最強魔法ではなく、現代知識や身近…
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