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FPSオタクな私、異世界転生して魔法学園生活スタートしたけど魔法使えません!? −限界具現化(ゲンカイ・マテリアライズ)チートで乗り切ります!  作者: ちぇ!
秘密と絆の学院生活

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六年生と海辺の遠足



 校外学習の日がやってきた。


 ……いや、校外学習って言ってるけど、これほぼ遠足では?


 だって行き先、海だよ。海。

 異世界に来てから初めて見る、本物の海である。


 そりゃテンションも上がる。

 上がるんだけど――


「浮かれない」

「走らない」

「司祭の言うことをちゃんと聞く」

「変なものを出さない」


 朝から母さんの注意がいつもより二割増しだった。


 しかも最後の

「変なものを出さない」

だけ、遠足の注意事項としてだいぶおかしくない?


 最近の失敗を思えば、言いたくなる気持ちはわからなくもない。

 でも、できれば認めたくはない。


「はいはい、わかってるって。任せてお母さん」


「返事が軽いのよ」


「軽くないですー。今日は優等生モードで、ばっちし乗り切りますー」


「その言い方でもう頭痛が……」


 母さんがこめかみを押さえながら、ちょっとよろけた。


 え、そこまで?

 私、まだ何もしてないんだけど?


 ……いや、ここまでの実績が悪いのか。

 うん、そこは否定しづらい。


 なんか最近、母さんの小言が日増しに増えている気がする。

 あれかな。父さんがあまり家にいないぶん、注意ゲージが全部こっちに流れてきてるのかな。


 隣ではマークが、パンをもぐもぐしながらこっちを見ていた。

 なんだその、「姉ちゃん、どうせ校外学習でまた何かやらかすな」みたいな目は。


「なによ」


「別に。姉ちゃんが優等生モードって言う時、だいたいフラグだなって思っただけ」


「五歳児がメタ発言するな」


 でもまあ、否定はできない。

 私にもその自覚は、なくはない。


 そんなわけで、ちょっとだけ心配性な母さんと、妙に達観した弟の見送りを背に、私は聖堂院へ向かった。



 集合場所の中庭は、朝からだいぶカオスだった。


 一年生がわちゃわちゃしている。

 そりゃそうだ。校外学習といっても、実質かなり遠足寄りなのだから。


 走り回る子。

 おやつをもう食べようとして止められてる子。

 水筒を振ってびしょ濡れにして怒られてる子。

 もうすでに疲れた顔をしているディディエ司祭。


 GW前の空港ロビーかな?


「クロノちゃーん!」


 元気いっぱいの声とともに、ミーナちゃんがぶんぶん手を振ってきた。


「おはよー! 今日楽しみだね!」


「おはよう。うん、まあ、ちょっとだけね」


「ちょっとなんだ?」


「いや、かなり楽しみだけど、全面に出すのが恥ずかしいだけ」


「出てるよ? 顔に」


 まじか。

 ミーナにだけは見抜かれるんだよな。

 表情管理スキルがまだ育ってない。


 その横で、シャーロットちゃんは鞄を胸の前にぎゅっと抱えていた。


「う、海って……波が大きかったりしませんか……?」


「大丈夫大丈夫! 危ないところには行かないって!」


 ミーナちゃんが明るく言う。


 ミーナちゃんは基本、危ないところに吸い寄せられるタイプなので、その励まし、若干の不安はある。


 そのせいで、私の口からも自然と出てしまった。


「たぶんね」


「たぶん!?」


 ごめん、今のは余計だった。


 アルガスは壁にもたれて腕を組み、見るからにだるそうな顔をしている。


「かったりぃ……」


 本当はちょっと楽しみなくせに、だるそうにしてる自分がかっこいいと思ってるの、ほんと面倒くさいなこいつ。


「本当はノリノリな癖に。じゃあなんで来たのよ」


「休んだら評価下がるからだよ」


 意外と合理的だな、おい。


 リリスは帽子の位置を直しながら、いかにも不満そうに呟いた。


「砂浜なんて、靴の中に砂が入るだけではありませんの……」


「気になるとこそこ?」


「重要ですわ」


 うん、この人は通常運転だ。


 エルヴィンはというと、すでに張り出された本日の予定表を真剣に見ていた。


「海辺……漂着物……港の交易品が流れ着いている可能性もありますね」


「やめて。遠足を仕入れの場みたいに見るのやめて」


 すると、そのざわついた空気を、よく通る低い声がすぱっと切った。


「おい、騒ぐな。今日は遊びじゃねぇぞ」


 一瞬で、何人かがぴしっと止まる。


 声のした方を見ると、そこにはジェイド師範が立っていた。

 いかにも「朝から元気すぎるガキはまとめてしばくぞ」と言い出しそうな顔である。


 その隣には、ディディエ司祭。

 いつもの穏やかな笑み……ではあるんだけど、今日はだいぶ疲れが顔に出ていた。


 朝から一年生のテンションを捌いてるんだから、そりゃそうか。

 お疲れさまです。ほんとに。


「最近は街の外も少し物騒ですので、本日の校外学習は私たちのクラスのみで行います」


 なるほど。

 学年まとめて大遠足じゃないのか。


 まあ、このご時世で子ども百人以上ぞろぞろ海まで連れていくのは、引率側の胃が普通に死ぬだろうしな。


「そして、本日は六年生のお二人にも手伝っていただきます」


 ディディエ司祭がそう言って少し横にずれる。


 その後ろに立っていた二人を見て、私は思わず目を見開いた。


 一人は、見覚えがある。


 すっと背筋を伸ばした美人。

 長い髪も、姿勢も、表情まで全部が整っている。

 入学式で壇上に立っていた、あの完璧超人先輩だ。


「本日、皆さんの補助を担当いたします、エリシア・エクス・ヴェルデンです。どうぞよろしくお願いいたします」


 声まで綺麗か。


 相変わらず完成度が高すぎる。

 この人だけ作画コスト違わない?


 そして、もう一人。


 肩までの髪を揺らしながら、やたら堂々と立っている女子。

 腕を組み、こっちを見渡して、にやっと笑った。


「カタリナ・ヴェルミオンよ! 面白そうだから来たわ! よろしく!」


 いや、来た理由が軽いな!?


 でもその軽さに反して、立ってるだけで妙に強そうだ。

 足元がどっしりしてるというか、今すぐ岩でも持ち上げそうな雰囲気がある。


 ディディエ司祭が、ちょっとだけ困ったように咳払いした。


「……本当はエリシアさんだけにお願いしたのですが、カタリナさんも補助役として来てくださっています」


「補助役っていうか、あたしは現場向きなのよね。説明とかは細かいエリシアに任せるわ」


「現場向き……? 細かいのではなく、あなたが雑すぎるだけではありませんか?」


「はいはい、そういう小言が細かいのよ」


 え、なにこのコンビ。

 めっちゃバランスいいな。


 エリシア先輩は冷静できっちり、カタリナ先輩は勢いで生きてるタイプ。

 なんだろう、この、優秀な生徒会長と野生のトラブルメーカーが同時にいる感じ。


 ディディエ司祭が、列の乱れをざっと見てから口を開いた。


「今日は、六年生のお二人が補助役として同行してくださいます。皆さんは自分の班だけでなく、クラス全体で行動している意識を持ちなさい。勝手な行動は慎むこと」


 おお、今日のディディエ司祭、ちゃんと引率の先生だ。


「どうぞよろしくお願いいたします」


 エリシア先輩が丁寧に頭を下げる。


「よろしく! ま、危ないことしなきゃなんとかなるわよ!」


 カタリナ先輩は雑だった。

 でも、なんか安心感はある。


 すると、カタリナ先輩がじっと私を見てから言った。


「えーと、あんたがソーカ家の子かしら?」


「え、なんで知ってるんですか」


「そりゃ、洞窟を爆破した件でも有名だからよ」


 えっ、やだ怖い。

 あの件、六年生にも広まってるの?


 私が一瞬ひきつると、エリシア先輩がさらりと補足した。


「ご安心ください。私がいる以上、妙なことはさせませんので」


 あ、やばい。

 敬語なのに圧がすごい。

 要注意人物としてしっかりマークされてるのが、よくわかる。


 ディディエ司祭が、これ以上この話を広げると面倒だと言わんばかりに、ぽんと手を打った。


「では、乗り込みますよ。海辺までは馬車で向かいます」


 馬車!

 ちょっとテンション上がるなそれ。


 中庭の外には、聖堂院の紋章が入った箱馬車が三台並んでいた。

 豪華絢爛というほどじゃないけど、子どもをまとめて運ぶには十分しっかりしている。


 異世界の遠足、移動手段が馬車。

 特別感がすごい。



 馬車の中も、最初はだいぶわちゃわちゃしていた。


 ミーナちゃんは窓の外を見ては「見て見て!」を繰り返し、

 シャーロットちゃんは揺れのたびに「ひゃっ」と小さく声を上げ、

 アルガスは早々に肘をついて外を睨み、

 リリスは座席の汚れを気にし、

 エルヴィンは窓から見える荷馬車や街道脇の倉庫に興味津々。


 私はというと、普通に楽しかった。


 馬車っていいな。

 揺れるけど、非日常感がある。

 ゲームだったら、このままイベントムービー始まりそう。


「クロノさん、酔ってはいませんか」


 向かいに座るエリシア先輩が声をかけてくれる。


「大丈夫です。ちょっとテンション上がってるだけで」


「そうは見えませんが……そういうタイプなのですね」


 この人、分析まできっちりしてるな……。


 一方、カタリナ先輩は窓の外を見ながら笑っていた。


「いいわねー、こういう移動。遠出って感じがするわ」


「先輩、完全に遊びに来た人みたいです」


「実際にそうだもの」


 潔いな!?


 やがて馬車が止まり、私たちは海辺の少し手前で降ろされた。

 ここから先は、歩きながら観察場所まで向かうらしい。


 街を抜けた空気とは違う。

 風の匂いが変わっていた。


 海と砂の匂いに混じって、少しだけしょっぱいような、湿ったような匂いがする。


「海の匂いだ!」


 ミーナちゃんが真っ先に気づいて叫ぶ。


 テンション高いな!?

 この先もさらに上がるんだろうなと思うと、こっちまで釣られてギアが入ってくる。


「眺めもいいね!」


 私も思わず身を乗り出して空を見上げた。


 青い。

 広い。

 なんか、こう……RPGで最初の街を出て、新しいマップに入った時みたいな開放感がある。


 本当、テンション上がるな、これ。


「クロノさん、あんまり乗り出さないでください」


 エリシア先輩の声で我に返る。


 確かに。

 危うく馬車から落ちるところだった。


「すみません」


「いえ。初めての海に気を取られるお気持ちは分かります」


 分かるんかい。

 思ったより優しいのかもな、この人。


 一方その隣で、カタリナ先輩はすでにアルガスと何やら話していた。


「へえ、あんた紅蓮適性なのね。まあ、そのつっけんどんな感じ……破剣式志望ってところでしょ」


「……なんでわかんだよ」


「ははっ、気が強いのも悪くないわ。あとで腕相撲でもする?」


「やらねえ! 六年に勝てるわけねえだろ!」


 この人、距離の詰め方が雑だな!

 でもアルガスがちょっとだけ楽しそうなのが、また笑う。



 海辺に着いた時、私は普通に声が漏れた。


「うわ……」


 本当に、海だった。


 青くて広くて、きらきらしてて、波が寄せて返して、遠くまでずっと続いている。


 前世でも海は見たことがある。

 でもあっちはもっと黒っぽくて、濁って見える日も多かった。

 こっちの海はちゃんと青い。……いや、少し緑がかってるか。

 とにかく綺麗だ。綺麗すぎる。


 しかも異世界の海ってだけで、イベント感が二割増しなんだよな。


「海だーっ!」


 ミーナちゃんは我慢しなかった。

 知ってた。


 だっと駆け出しかけたところを、ディディエ司祭に即回収される。


「走らない」


「はーい!」


 返事だけはいい。


 シャーロットちゃんは波打ち際を見て、ちょっと後ずさった。


「お、おおきい……」


「大丈夫ですわよ、あれくらい。わたくし、泳ぎも達者ですの。トビウオのように泳げますわ」


 リリスはそう言いつつ、自分の靴の先に砂がかからない位置をめちゃくちゃ意識していた。

 説得力がない。


 エルヴィンはさっそく漂着物の多そうな場所を見ている。


「瓶……木片……貝殻……」


「お宝探しモードに入るのやめて」


「商人ですから。どこにでも目を光らせねば」


「それもう商人っていうか乞食の視点なんよ」


 ディディエ司祭が、みんなを見渡しながら今日の流れを説明し始めた。


「海辺の自然や、そこにいる動物、植物を観察すること。街並みや地形の違いを見ること。班ごとに行動し、六年生の指示にもきちんと従うこと。これが今日の学習内容です」


 なるほど。

 ちゃんと校外学習っぽい。


 そこでジェイド師範が、横からぴしゃりと釘を刺した。


「いいか。危険な岩場や沖には絶対に近づくな。何かあればすぐ知らせろ。勝手な判断で動くな」


 うん、すごくわかりやすい。

 そして逆らったら普通に怒られそう。


 でも、要するに、学習です、という建前の遠足である。


 ありがとう、建前。

 ありがとう、遠足。


「では、班ごとに行動を開始してください」


 その一言で、空気が一気に緩んだ。


 ミーナちゃんが真っ先に動く。


「ねえねえ、あっちの岩のところ行ってみようよ!」


 この子、外だとさらに元気だな。


 というか、元気っていうか、やたら動きに無駄がない。

 足場の悪いところもひょいひょい進むし、低い段差を越えるのも速い。

 さっきだって、前の子が躓きそうになったのを自然に支えていたし。


 陽キャというより、野外適性が高すぎる。


「クロノちゃん、ほら!」


「え、待って待って、砂が靴に入る」


「そこ気にする!?」


 あ、やばい。

 今ちょっとリリスと同じラインに立ってしまった。


 とか言いながら追いかけた先で、ミーナちゃんはきれいな貝殻をひとつ拾った。


「見て! これかわいい!」


「ほんとだ。なんかゲームの収集アイテム感ある」


「なにそれ?」


「こっちの話」


 シャーロットちゃんも、エリシア先輩が一緒だと少し安心するのか、エリシア先輩の後ろをついてきていた。


「足元、こちらの方が安全です。慌てなくて大丈夫ですよ」


 エリシア先輩が自然に声をかける。


 うわぁ。

 面倒見までいいのか。

 この人、ステータス高すぎない?


 カタリナ先輩はというと、少し高い岩の上にひょいっと飛び乗って、周囲を見渡していた。


「んー、景色いいわね! やっぱり海はいいわ! 暇潰しに最適ね!」


 いや、危ない岩場には近づくなって、さっき言われてませんでした?


 六年生はいいんか?


「先輩、落ちないでくださいよ」


「落ちないわよ。あんたは心配性ね、クロノ」


 いや、初対面でまだよく知らないけど、なんとなくあなたは心配させる側なんですよ。


 しばらくは、本当にただ楽しかった。


 海を見て。

 貝を拾って。

 風に髪をぐしゃぐしゃにされて。

 アルガスが「おい、こっち来い。でかい貝あったぞ」とぶっきらぼうに呼んで、

 リリスが「そんなに大きくありませんわ。わたくしの貝の方が整っております」と張り合って、

 エルヴィンが「この形は珍しいですね」と言い出して、

 シャーロットちゃんが小さく笑っていて。


 ああ、こういうの、いいなって思った。


 でも。


 最初にそれに気づいたのは、やっぱりミーナちゃんだった。


「……あれ?」


 ミーナちゃんが、ふっと空を見上げる。


「どうしたの?」


「鳥」


「鳥?」


「なんか、変じゃない?」


 言われて私も上を見た。


 海の上を、何羽かの鳥が旋回している。

 べつにそれ自体は普通だ。

 海辺だし、鳥くらいいるだろう。


 でも。


「……デカくない?」


 私が言うと、ミーナちゃんがこくっと頷いた。


「うん。あと、なんか静か」


 静か?


 その言葉で、私は周りを見た。


 波の音はある。

 風の音もある。

 でも、さっきまであちこちで聞こえていた普通の鳥の鳴き声が、いつの間にか消えていた。


 代わりに、上空を回る数羽だけが、妙に低い位置をぐるぐる回っている。


 なにか狙ってる?

 段々近づいてきてる気がする。


 なんだろう。


 ただの海鳥、ではないような。


 その時、少し離れた場所で海辺の結界杭を見ていたエリシア先輩が、ほんのわずかに眉を寄せた。


 カタリナ先輩も、岩の上で空を見上げたまま笑みを消している。


 その顔を見た瞬間、胸の奥が小さくざわついた。


 あ、これ。


 ちょっと嫌なやつかも。


 そして次の瞬間。


 上空を回っていた一羽が、ぎゃり、と濁った声を上げて、こちらへ低く降りてきた。


 近づいた姿を見て、私は思わず息を呑む。


 白い羽。

 でも、羽先だけが墨を流したみたいに黒い。

 目は妙に赤く、くちばしの端には黒い泡みたいなものがこびりついていた。


「……ねえ」


 私はミーナちゃんの袖を引いた。


「あの鳥、魔物なんじゃない?」


 ミーナちゃんは、さっきまでの明るい顔を少しだけ引き締めて、小さく頷いた。


「うん。そうかも……」


 潮風が、急に冷たくなった気がした。

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