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FPSオタクな私、異世界転生して魔法学園生活スタートしたけど魔法使えません!? −限界具現化(ゲンカイ・マテリアライズ)チートで乗り切ります!  作者: ちぇ!
ごまかしから始まる学院生活

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20/24

洞窟の奥の悲鳴


 静かな学園生活って、どうやって送るんだろう。


 そんな現実逃避めいたことを考えながら、私は洞窟の入口の前に立っていた。


 目の前には、関係者以外立入禁止の看板。

 奥は暗い。

 湿ってる。

 しかも、空気がもう「授業の延長で入っていい場所」じゃない。


 本当なら、入口のあたりで追いついて、リリスたちを引きずってでも止めるつもりだったのだ。

 せいぜい「何やってるの!?」って怒鳴って終了。

 そういう平和的な回収を予定していたのである。


 ……でも、現実はそう甘くなかった。


 入口の内側には、もう誰もいない。

 試しに大声で呼んでみたけれど、返事もない。

 残っているのは、アルガスの火がかすめたみたいな煤の跡と、踏み荒らされた足元だけだった。


 つまり。


(うん、もう入ってるね)


(しかもわりと迷いなく進んだっぽいね)


(ダメじゃん)


 なのに隣では、ミーナがわくわくした顔をしていた。


「もう入るしかないね!」


「その言い方だと、ずっと冒険したかった人なんだよなあ……」


 エルヴィンは真顔だ。


「リリスさんたちを見失う前に急ぎましょう」


「うん、冷静な言い方なんだけど、今からやることは全然冷静じゃない」


 でも、ここでぐだぐだ言っていてもしょうがない。

 入口で止める、という一番平和な選択肢は、どうやらもう消えていた。


 入るなら、最低限の準備はいる。


 ――灯りだ。


 私は意を決してリュックを開けた。


 もちろん、見た目はただの通学用リュックだ。

 ただ、一年生が背負うにはちょっと大きい。


 でもこのサイズには理由がある。

 この中で《限界具現》を発動すれば、外から見れば「リュックから出しました」で押し切れるからだ。

 つまりこれは、私専用の隠し四次元ポケット。

 文明の利器とか秘密道具とか、そのへんをこの中から出すための命綱である。


 ちなみにこの発想、またしてもマークの案だった。

 もう認める。私の弟はたぶん天才だ。

 方向性はちょっと不安だけど。


 そして今日もまた、その命綱を雑に使う羽目になった。

 しかも今回の言い訳先は、家族であり母親だ。


 ――灯火の聖女、サラサ・ソーカ。


(ごめん母さん)


(母さんがすごい人なのはみんな知ってる)

(だから母さんの力のせいにすれば、勝手に“聖女のすごい魔道具”ってことになるはず)

(うん、たぶん押し切れる)

(押し切れてほしい)


 私は中をごそごそやったふりをして、三本の懐中電灯を取り出した。


「ここの小さい突起、押してみて。点いたり消えたりするから」


 使い方だけ、簡潔に教える。


 細長い円筒形。

 金属っぽい質感。

 いかにも現代文明の光である。


 ミーナが目を丸くした。


「なにそれ!?」


 エルヴィンの目も、ほんの少しだけ見開かれる。


「……灯具、ですか?」


「う、うん。まあ、そんな感じ」


 私は咳払いをした。


「母から借りた、ちょっと特殊な魔道具。前もって魔力を込めておくと、しばらく光るの」


 我ながらひどい説明だ。

 雑にもほどがある。

 そもそも私には“魔力が使えない”。


 でも、二人は普通に納得するどころか、ちょっと感動していた。


「わあ……!」

「なるほど。蓄積式の灯具、ということですか」


「う、うん。そう。たぶんそんな感じ」


 エルヴィンがじっと懐中電灯を見つめている。

 やばい。

 目が完全に“希少品を前にした商人の目”になっている。


「……魔力を流して使う型では、なさそうですね」


「え?」


「いえ。これは、相当珍しいものです」


 その言い方が、やけに重かった。


 私はこの世界の灯り事情なんて、そこまで詳しくない。

 街灯があるのも、家に灯りがあるのも知ってる。

 でももちろん、前世みたいな電気じゃない。

 どういう仕組みで光っているのか、正直ちゃんとは分かっていなかった。


 けれど、エルヴィンがこんな顔をするということは――たぶん、これでもかなりすごいものなんだろう。


(あ、やっぱりそうなんだ)


(便利だとは思ってたけど、こっちだとそんなレベルじゃないのか……)


 私は慌てて一本ずつ渡した。


「いい? これは本当に珍しいやつだから、絶対に秘密ね」


「秘密の魔道具ってこと!?」


 ミーナの声がちょっと弾んだ。


「そうだけど、そういう言い方やめて。今すぐ広めそうだから」


「広めないよー!」


「ミーナさん」


 エルヴィンがやけに真剣な声で言った。


「魔力を流さず、ここを押すだけで灯りを点けたり消したりできる。これは軽々しく口外していい品ではありません」


 一拍置いて、さらに低い声で続ける。


「――世に出れば、灯りの常識そのものが変わります」


「わ、わかった!」


 よし。

 エルヴィンがこういう時だけ妙に頼もしい。


 ミーナが懐中電灯の突起を押した。


 かちっ。


 白い光がすぱっと伸びて、洞窟の入口を切り裂いた。


「おおお……!」


 ミーナが感動している。

 エルヴィンも無言で見入っていた。


 うん。わかる。

 私も初めて懐中電灯を使った子どもの頃は、ちょっとテンション上がったもん。


 でも、今はそれどころではない。


「行くよ。さっさと追いついて、奥に行く前に止めるからね」


「はーい!」

「了解しました」


 軽い返事と重い返事が重なった。


 こうして、私たちは洞窟の中へ足を踏み入れた。



 中は、思っていた以上にひんやりしていた。


 じめっとした空気が肌にまとわりつく。

 水滴がどこかで落ちる音がする。

 足元の石は微妙に滑るし、壁にはうっすら苔まで生えている。

 朽ちた剣や盾、そのそばに転がる白骨まで見えた。


(ひぃ)


(アンデッドは出てない、出てないけど雰囲気だけでもう無理)


(帰りたい)


「わあ……ほんとにダンジョンっぽい……!」


 ミーナは感動している。

 感動するな。警戒しろ。


 エルヴィンは足元を照らしながら、低い声で言った。


「先行した三人の痕跡がありますね」


 たしかに。


 地面には足跡。

 壁には煤の跡。

 少し先には、凍った水たまりまである。


「あー……アルガスの火とリリスの氷か」


「派手ですね」


「ほんとにね。追跡しやすすぎる」


 その時、前方の暗がりで何かが動いた。


 ぬっ、と。


「……え?」


 次の瞬間、低い唸り声。


「グギャッ!」


 小柄な緑色の影が、三つ。

 洞窟の脇道から飛び出してきた。


「うわっ!?」


 ゴブリンだ。


 いや、見たことはないけど、これはもうゴブリンだろう。

 汚い。

 小さい。

 棍棒持ってる。

 顔がいかにも雑魚敵。


(出たあああああ!!)


(いや異世界だからそりゃ出るけど!!)


(ほんとに出ると心の準備って間に合わないんだな!?)


「ミーナ、下がっ――」


 言い終わる前に、ミーナが動いていた。


「えいっ!」


 近くの白骨が握っていた、ゴブリンでも使わなそうな朽ちた剣を、ミーナはためらいなくひったくった。


 えっ、使うのそれ?


 いや、待って。

 拾うの早っ。


 止める間もなく、ミーナはそのまま振りかぶる。


 ばしっ!


 先頭のゴブリンの手首に、剣の腹がきれいに入った。

 棍棒が宙を舞う。


「うそっ、強っ!?」


「やった!」


 ミーナはそのまま一歩踏み込み、今度は足元を払った。

 ゴブリンがひっくり返る。


 そこへ、また剣を振り下ろす。


 ごすっ。


「ギャッ!」


 え、ちょっと待って。

 普通にうまくない?


 勢いだけじゃない。

 ちゃんと嫌なところ狙ってる。

 運動神経がどうこうの話じゃなくて、反応速度がおかしい。


「クロノさん、左!」


「えっ」


 エルヴィンの声で反射的にライトを向ける。

 眩しさにゴブリンがひるんだ瞬間、エルヴィンが手をかざした。


「石よ、跳ねろ――《石弾》」


 ぱしっ。


 足元の石礫が小さく跳ねて、ゴブリンの膝を打つ。

 ゴブリンが前のめりになった。


 えっ、地味だけどめちゃくちゃ嫌な攻撃では?


 そこへミーナ。


「おりゃーっ!」


 朽ちた剣が、脳天にクリーンヒットした。


 沈黙。


 洞窟に、水滴の音だけが戻る。


 私はしばらくその場で固まっていた。


「……え?」


 ミーナが朽ちた剣を肩に担いで、えへへと笑う。


「なんかいけた!」


「いけた、じゃないのよ……」


 エルヴィンは服の裾を払った。


「小型でしたね。洞窟入口付近に棲みついた個体でしょう」


「いやその分析の前に、あんたも普通にやばいからね?」


「ボクですか?」


「石飛ばしたでしょさっき!」


「剛岩魔法の初歩です」


「初歩でそれできるの!?」


 この世界の一年生、やばすぎない?


 いや違う。

 この二人が優秀なんだろう。


 ミーナはただの陽キャじゃなかった。

 足が速いのは知ってたけど、あそこまで躊躇なく殴れるとは思わなかった。


 エルヴィンも、商人の息子だから座学型かと思ったら、しれっと実戦補助が上手い。

 この前の強盗の時は相手が人間で、レベルも空気も違いすぎたから動けなかっただけなのかもしれない。


(え、なにこれ)


(私、出番ないわ)


(むしろ懐中電灯係なんだけど)


 さっきまでの胃痛が、別方向に変わる。


 この二人、意外と強い。


 だったら。


 この二人より、更に戦えそうなリリスとアルガスなら――


(あれ?)


(もしかして向こう、普通に大丈夫なんじゃ……)


 そう思った、その時だった。


「きゃああああっ!!」


 洞窟の奥から、悲鳴が響いた。


 シャーロットちゃんの声だ。


 空気が、一瞬で凍った。


 ミーナの顔から笑みが消える。

 エルヴィンも即座にライトを奥へ向けた。


「急ぎましょう」


「う、うん!」


 私たちは一気に走り出した。


 さっきのゴブリン戦でちょっと安心しかけた空気なんて、一瞬で吹き飛んだ。


 奥へ進むにつれて、様子がおかしくなっていく。


 壁に焼け焦げた跡。

 床に薄く張った氷。

 ちぎれた糸のようなもの。

 シャーロットちゃんのものらしいメモ紙の切れ端。


 そして、妙に白い葉が絡んだ巣みたいなものが、岩肌にべったり貼りついていた。


「これ……霧糸葉?」


 私がつぶやくと、エルヴィンが険しい顔で答えた。


「いえ。たぶん、もっと進んだものです」


「もっと進んだ?」


「商会の古い記録で読んだことがあります。特定の蜘蛛が霧糸葉を巣で育て、上位種の霧絹葉へ変えることがある、と」


「なにそれ、こわ」


「もしそれなら……」


 エルヴィンの声が、少しだけ低くなる。


「この先にいるのは、魔獣、霧絹蜘蛛かもしれません」


 聞いたことないけど、名前だけでもう嫌だ。


 蜘蛛。

 絹。

 糸。

 怖い要素しかない。


「なにそれ、強いの?」


 ミーナが小声で聞く。


 エルヴィンが一拍置いて答えた。


「上級の冒険者が数人で組んで対処することが普通だ、と」


「は???」


 私の声が裏返った。


「いやいやいや、授業の範囲超えてるでしょそれ!?」


「その通りです」


「冷静に言うな!!」


 その時だった。


 広めの空洞に出る。


 そこで、ようやく見つけた。


 リリスたちだ。


 アルガスが前に出て、火を灯した棍棒を振り回している。

 でも髪は乱れ、腕には傷。

 リリスは氷で蜘蛛の足元を固めてるけど、制服の裾が裂けて、金髪にも何か白いものが絡んでいた。

 シャーロットちゃんは、さっきの悲鳴を最後に気を失ったのか、蜘蛛の糸に捕らえられている。


 そして――


 私のライトが、天井を照らした。


 その瞬間、ぞわっと全身が粟立った。


 見えた。


 さっきまで見えていなかったものが、全部見えた。


 天井一面に張り巡らされた、透明な糸。

 壁から壁へ、床すれすれまで何重にも重なった巣。

 その中心に、ぬらりと張りつく巨大な蜘蛛。


 馬車の車輪ほどもある胴。

 白く濁った目。

 細長い脚が、いやに静かにうごめいている。


 その周りには、小型の蜘蛛がうじゃうじゃと蠢いていた。


「……うそでしょ」


 思わず声が漏れた。


 私の光に反応したのか、巨大な蜘蛛がぬるりと頭をこちらへ向ける。


 リリスが、こっちに気づいた。


「ク、クロノ・ソーカ……っ!」


 必死にシャーロットちゃんを助けようとしていたアルガスも振り向く。


 その瞬間。


 天井の巨大な蜘蛛が、ゆっくりと一段、下りてきた。


(いやもうこれ)


(完全にボス戦前なんだけど)


 力を出し惜しみしてる場合じゃない。


 今日の《限界具現》の残り回数は――五。


 少ない。

 全然足りる気がしない。

 でも、やるしかなかった。

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