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四つの基本的な力の魔法使い ー 物理学者から魔法使いへ、状態変化を経て  作者: Adriano_P


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テスト

アッシュフォードの北に広がる野原は、静まり返っていた。


高く伸びた草が風に揺れるだけで、木立も家もない。ただ平らな空間が、どこまでも続いている。テストには——完璧な場所だった。


マグナス・アイアンソウルが先頭を歩いていた。手には魔法使いの杖、肩には翻る青いローブ。その後ろを、一歩ごとに鎧を鳴らす戦士が続く。そして最後尾に、ヘリオがいた。


五分ほど歩いたところで、マグナスが足を止めた。ゆっくりと振り返り、周囲を見渡す。平らな野原。全方向に開けた視界。見咎める者もいなければ、邪魔する者もいない。完璧だ。


ヘリオに向き直ると、礼儀正しく——そして冷ややかに——微笑んだ。


「では、ヴァロリン君。見せてもらおう」


ヘリオは何も言わなかった。


「まともなファイアボールを一つ。手始めにな」マグナスは続けた。「複雑なものでなくていい。ただの……ささやかな実演だ」


ヘリオは地面に視線を落とした。「面倒は起こしたくありません」


「面倒?」マグナスは短く笑った。「面倒なものか。ただの専門的な好奇心だよ」


杖を持ち上げる。「見ていろ。手本を見せてやろう」


目を閉じる。マナが流れ出した——巨大で、制御され、圧倒的な奔流。


「ファイアボール」


二人の間の空中に、炎が生まれた。赤、橙、中心は白く灼ける、完璧な球体。直径は三メートル。熱が波となってヘリオを叩き、思わず一歩、後ずさった。


球体は微動だにせず宙に浮いている。制御され、安定し——紛れもないランクSの力だった。


マグナスは誇らしげにそれを眺めた。「分かるかね? 簡単なことだ。何をすべきか知っている者にとってはな」


手を振ると、球体は音もなく消えた。プフッ、と。


「さあ、君の番だ」一拍。「これほど大きくなくていい。小さくとも構わん。せめて、何かはできると証明してみせろ」


ヘリオは動かなかった。「……やめておいた方がいい」


マグナスが首を傾けた。「やめておいた方がいい? 興味深い言い回しだ」間。「だが、これは頼みではない。命令だ」


声が、一段と冷たくなる。「ファイアボール。今すぐ」


ヘリオはマグナスを見た。それから戦士を。剣の柄に手をかけ、いつでも抜ける構え。


「できません」


「できない」マグナスが繰り返す。「それとも、したくない、かね?」


「両方です」


沈黙。やがてマグナスはため息をついた。


「わかった」


手を上げる。再びマナが流れる——今度は、違うものが。


「エアプッシュ」


ヒュオオオ!


圧縮された空気が、見えない拳のようにヘリオの胸を打った。体が二メートル後ろへ飛び、硬い地面に重く落ちる。衝撃が背を走り、息が詰まった。


マグナスがゆっくりと歩み寄る。杖の先で地面を叩きながら、倒れたヘリオの上で立ち止まった。


「認めろ」穏やかな、冷たい声だった。「詐欺師だと認めるんだ。仕掛けを用意したと。共犯者がいたと。爆薬を埋めたと」


地に伏すヘリオを見下ろす。「認めて、王のもとへ戻れ。愚かな少年が、注目を浴びたくて芝居を打ったのだと言えばいい」間。「さもなくば——次の一撃は、地面に押し倒すだけでは済まんぞ」


戦士が一歩、距離を詰めた。剣の柄に手。意図は明白だった。


ヘリオは空を見上げていた。


認める。詐欺師だと言う。そうすれば——そうすれば、何だ? 確実な追放。王への報告。家族の——未来は、ない。家を売ってまで、両親は何のために。


『——だめだ』


彼は立ち上がった。ゆっくりと。脚が震えていた。それでも、立ち上がった。マグナスの目を、まっすぐに見据える。


「いいでしょう」間。「お望みのままに」


マグナスが微笑んだ。「ようやくだ。さあ、見せ——」


ヘリオが、口を開いた。


「局所的体積排除による部分圧勾配を介した酸素の分子分離を——座標A点とB点を結ぶ、線形の廊下に——」


戦士が反応した。「大魔法使いを無視するか!」


踏み込み、強く蹴り込む。ヘリオの肋骨めがけて。


ヘリオには見えていた。だが、止められない。式が、まだ完成していない。障壁が、まだ立っていない。蹴りが迫る——


ガキィン!


金属が金属を打つ音。戦士が後ろへよろめいた。「何——」


ヘリオと戦士の間に、エリーゼがいた。抜き身の剣。防御の構え。刃の腹で、蹴りを受け止めていた。肩で激しく息をし、髪はほどけ、額には汗。馬を駆って、ここまで来たのだ。


「触らないで!」


戦士が彼女を見据えた。「貴様——」


エリーゼは完全にヘリオの前に立ちはだかり、剣を構え直した。「一歩でも動いたら、斬る」


マグナスが目を見張り——それから、面白がるように口元を歪めた。「ほう。剣士か。エリーゼ・ソーンウィック、だな?」戦士に向き直る。「援軍とは。興味深い」


冷たい笑み。「いいだろう。彼と共に死にたいというのなら——望みを叶えてやろう」


杖を掲げた。「ファイアボール!」


球体がヘリオめがけて炸裂した。巨大で、速く——ランクSの一撃。


だが、ヘリオは式を結び終えていた。


「——震源距離に反比例する密度を持つ、放射状勾配の反発電磁場!」


マナが安定する。見えない障壁が、彼を包む球面となって展開した。


ファイアボールが、当たる。


ドオオオオン……


だが、ヘリオには届かなかった。三十センチ手前で、硬い壁にぶつかったように止まり——そして、跳ね返った。まるでゴムまりのように。後方へ十メートル飛び、地に落ちて爆ぜる。


ドオオオオン!


焼け焦げた地面。小さなクレーター。


マグナスは、その穴を見つめていた。口が、半ば開いている。完全な、衝撃。


「何が——」


ヘリオは待たなかった。マグナスの注意が逸れている、今このとき。素早く、次の式を唱える。


「局所的体積排除による部分圧勾配を介した酸素の分子分離を、空間座標AとBを結ぶ、線形の廊下に」


マナが流れ出す。ヘリオとマグナスの間に、見えない一本の線——幅三メートル、長さ二十メートルのトンネル。そこには、酸素がない。制御された、真空。


マグナスが我に返った。ヘリオを見る。「ありえん!」


叫び、そして必死に杖を振るう。「ファイアランス!」


赤い槍が、速く、正確に放たれた——真空のトンネルへ吸い込まれ。


プフッ。


消えた。一瞬で。


マグナスは目を見開いたまま、立ち尽くした。「ファイアランス! ファイアランス!」


二本、続けざまに。怒りに任せて。どちらもトンネルへ入り——


プフッ。プフッ。


消えた。あとには、宙にたなびく煙だけ。


マグナスは、震えていた。何が……何が起きている? 火が、消えた。ただ、消えた。どうやって——?


ヘリオを見る。あの少年が……私の魔法を、無効化している? ありえない。だが——彼はクレーターを見た。跳ね返されたファイアボール。掻き消えた槍。仕掛けではない。これは——喉が、渇いた。これは……本物だ。


「まだ、仕掛けに見えますか。大魔法使い殿」ヘリオが、静かに言った。


マグナスは震えた——理解の及ばぬ何かを前にして。


「本物、だと……」


そのとき、戦士がエリーゼに向き直った。「娘の相手は俺がする!」


剣を抜き、突進する。エリーゼは構えていた。最初の一撃——受ける。二撃目——かわす。三撃目——返す。


キンッ、キンッ、キンッ!


戦士はランクA。熟練の、強い、歴戦の兵だった。エリーゼも優れた剣士だが——彼の方が、上だった。当然だ。戦場で幾度も死線をくぐった年季が、違う。


刃と刃が、めまぐるしく噛み合う。歌うように鳴る金属。


「悪くない」戦士が言った。「だが、足りん」


上段から、渾身の一撃。エリーゼは受け止めたが、その力に三歩、押し下げられた。脚が震える。


「ヘリオ!」別の一撃を受けながら、叫ぶ。「一体、何を——」


キンッ!


「——してるの!?」


だが、見ている余裕はなかった。生き延びるだけで、精一杯だった。


マグナスが叫んだ。「ありえん! ありえん!」声が裏返り、恐慌が膨れ上がる。手が震えていた。火が、効かない。ならば——別の要素だ。


「天の雷!」


杖を掲げる。空がわずかに翳り、電気を帯びたマナが渦巻いた。


ヘリオは気づいた。『くそ——空気のトンネルは、電気を止めない!』新しい式が要る。今すぐ。


バリバリ!


青い雷。だが——マグナスの手は、あまりに震えていた。雷は逸れ、ヘリオの左二メートルの地面を抉る。ヘリオは横へ跳んだ。近い。


新しい式を。今。素早く唱え始める。


「優先的に偏向させた経路での地面伝導による、電荷散逸を伴う——」


「天の雷!」


バリバリ!


中断。横へ飛ぶ。雷が右一メートルに着弾した。


ドオオオオン!


『くそ——唱え終わらない!』


もう一度。「優先的に偏向させた——」


「天の雷!」


バリバリ!


また、中断。式が、長すぎる。攻撃が止まないかぎり、唱え終えられない——。


そのとき、ソーン教授の言葉が甦った。


「だが、戦術的な問題がある。君の式は——長すぎる。実戦では——魔法使いが三つの呪文を唱えるあいだに、君は一つも終えられん」


ヘリオは、苦く笑った。教授の言う通りだった。完全に、正しかった。マグナスは、まさにそれをやっている。僕が一つ唱え終えるあいだに、三つの雷を投げてくる。


どうする? 速度では勝てない——式が複雑すぎる。ならば——別の、何かだ。


そして、悟った。


『——重ねればいい』


短い障壁を、まず。その守りのなかで——複雑な式を。


「全方向反発場!」


短く。十秒。唱え終える。マナが弾け、障壁が彼を包んだ。


マグナスが撃つ。「天の雷!」


バリバリ!


雷が当たる——障壁に。弾かれ、地面へ逸れた。


マグナスが目を剥いた。「何——」


ヘリオは障壁のなかにいた。守られている。今だ。時間がある。素早く、長い式を唱えきる。


「優先的に偏向させた経路での地面伝導による電荷散逸を伴う、制御された大気イオン化!」


マナが流れる。ヘリオとマグナスのあいだに、見えない領域——電気の代替経路。すべてを地面へ逃がす、安全な回路。障壁が消える。だが、偏向の場は、もう働いていた。


マグナスは、立ち直りつつあった。深く息を吸い、手を鎮める。「雷……天の……」より制御された声。杖を掲げ、狙いを定める。今度こそ、正確に。


バリバリ!


青い雷が、ヘリオめがけてまっすぐに——完璧な精度で。


だが——ヘリオの偏向領域に触れ、逸れた。地面へ。


ドオオオオン!


ヘリオから三メートルの地が、爆ぜた。彼は、無傷。


マグナスは、見つめた。「貴様は——何だ!?」叫び。必死。掠れた声。


これは……これは、ありえない。すべての魔法が……無効にされるか、逸らされるか、あるいは——何か。ヌルには、できない。ランクSですら、手こずる。これは——何か、別のものだ。


組み合わせる。必死の一手。「アイスランス! ファイアボール! ウィンドブレード!」


氷、火、風——同時に。


ヘリオは式を始めた。長く、複雑な式。三十秒。だが、唱え終えたとき——三つの攻撃は、すべて無効化されていた。氷は融け、火は消え、風は散った。


マグナスは、自分の手を見た。震えていた。


「仕掛け、では……」かすれた声でつぶやく。「本物だ……」


ヘリオがマグナスを見た。その目のなかで、何かが変わっていた。冷たく。決然と。危険な、光。


「実演がご所望でしたね」静かな声。だがその底に——脅しがあった。


式を、始める。


「酸化圧勾配による方向性エネルギー伝播を伴う、局所的熱分子加速——」


マナが収束する。ヘリオの周りの空気が、揺らいだ。陽炎のように。水を透かして見るように、景色が歪む。


エリーゼが——まだ斬り結びながら——それを感じた。一瞬、目をやる。ヘリオを見た。渦巻くマナ。凝縮された力。


なんて、こと——。


ファイアボール。巨大ではない。制御された。だが、速い。そして、その熱は——。


マグナスが叫んだ。「やめ——!」横へ跳ぶ。球体が、彼のすぐ脇を抜け、背後の地面を打った。


ドオオオオン!


爆発。二メートルのクレーター。蒸発した、土。


マグナスは倒れ、転がり、よろめきながら立ち上がった。クレーターを見る。それから、ヘリオを。


恐怖。


「止まれ! 止まれ!」両手を上げる。「降参する!」


戦士が見た。「大魔法使い!」エリーゼを突き飛ばす。強く。彼女が硬い地に倒れ、衝撃に呻く。戦士はマグナスへと走った。「離脱を——」


ヘリオは、見ていた。倒れたエリーゼ。駆ける戦士。恐慌するマグナス。


『——もう十分だ』


冷たい声。平坦な。


「全方向放射状の力勾配を伴う、反発場の体積膨張」


マナが弾けた。ヘリオを包む障壁が——半径三メートルの球が——膨張する。十メートルへ。完全な領域。マグナスも、戦士も、そのなかに。


衝撃。


ヒュオオオオ!


見えない場が、二人を同時に打った。硬い壁のように。マグナスが後方へ五メートル飛び、重く落ちる。戦士は宙に投げ出され——


ガシャン!


鎧を鳴らして、地に叩きつけられた。そのまま、横たわる。呆然と、息を切らして。「何が……何だったんだ……」立ち上がれない。衝撃が、大きすぎた。あまりに——ありえなかった。


エリーゼは——地に伏したまま——見ていた。口が、開いている。たった一撃。二人の敵を。同時に。どうやって——。


マグナスが呻いた。立ち上がろうとする。だが、脚が、言うことをきかない。


ヘリオは、二人を見下ろしていた。その表情は——空白だった。冷たく。まるで、虫けらを見るように。


別の式を、始める。


「漸進的な大気圧縮を伴う——」


マナが、再び収束する。だが、今度は——もっと。はるかに。周囲の空気が、激しく震えた。ヘリオの足元の地が、振動を始める。小石が浮き上がり、宙に留まった。力が、増していく。さらに。さらに。さらに——。


マグナスは——地に伏したまま——見ていた。そして、理解した。


この攻撃は……私を、殺す。


「いや……」かすれた声。「いや、いや、よせ——」


エリーゼが叫んだ。


「ヘリオ! やめて!」


声が、空気を裂いた。必死の叫び。


ヘリオが、止まった。最後の、一瞬で。収束し、凝縮し、放たれる寸前だった——破壊の——マナが、散った。


ヒュオオオオ!


突風が抜けるように。そして、何もなくなった。


沈黙。


ヘリオは激しく息をしていた。手が、震えている。ひどく。彼は自分の手を見つめた。まるで、それが自分のものだと認識できないかのように。やろうとしていた。あと少しで。蒸発させようとしていた。


——ああ……当然だ——


タクヤ・リキ博士が、冷ややかに言った。


ヘリオは、目を閉じた。


『やめろ、タクヤ』


沈黙。


それから、マグナスを見た。まだ地に伏し、震え、怯えている。ヘリオは、ゆっくりと歩み寄った。落ち着いた、意図的な足取り。


マグナスが後ずさる。「いや……いや、頼む——」


ヘリオがかがんだ。杖を、掴む。


マグナスが金切り声を上げた。「やめろ! それは——」


だが、ヘリオはすでに手にしていた。持ち上げる。古い木。刻まれたルーン。頂には、赤い水晶。じっと、見つめる。


マグナスは、見ていた。大きく見開いた目。純粋な、絶望。


その心のなかを、狂おしい想いが駆け巡る。


アイアンソウルの杖。九百年。祖父から受け継いだ。そのまた祖父から。五代にわたる、大魔法使いの杖。永遠の樫。大魔法使いアルデロンの祝福を受け、破壊から守られ、幾多の戦に、ドラゴンに、攻囲に耐えてきた。不壊。不壊のはずだ——。


ヘリオは、杖を握りしめた。


「やめろ——」マグナスがささやく。「そんなこと、できるわけが——」


ヘリオが、口を開いた。平坦な、空虚な声。


「臨界構造破壊点に集中させた、ねじり応力を伴う一方向分子圧縮。百メガパスカル」


マナが流れる。杖のなかへ。木が、うめいた。かすかに。だが——耐えた。


マグナスが息を呑む。耐えている。神々に感謝を、耐えている——。


ヘリオが、首を傾けた。


「五百メガパスカル」


マナが増す。木が、軋んだ。さらに大きく。ルーンが光る。弱々しく。防ごうとして。だが——まだ、耐えていた。


九百年。祝福された。不壊。耐えろ——。


ヘリオが杖を見つめる。空白の表情。


「千メガパスカル」


バキッ。


小さな、ひび。細い。木に、走った。


マグナスが、それを見た。「いや……」


ルーンが、明滅した。必死に。修復しようと。だが、ひびは広がった。一ミリ。そして、もう一ミリ。


ヘリオは、止めなかった。


「千五百メガパスカル」


木が、叫んだ。高く、不自然な音。苦しむ生き物のような。ひびが杖を駆け上がる。半ばまで。ルーンが、一つずつ、消えていく。


ポッ。ポッ。ポッ。


死んでいく、祝福。散っていく、魔法。


マグナスが震えた。「頼む……」


ヘリオはマグナスを見た。その目を、まっすぐに。


「二千メガパスカル」


パキン!


杖が、折れた。半ばから。鮮やかに。清潔に。ありえないほど、あっけなく。


ヘリオは破片を落とした。乾いた音が響く。まるで、折れた骨のように。


九百年。五代。祝福された。不壊の——杖が。折れた。水晶は、光を失い、ルーンは、途切れていた。伝説の魔法の杖が、ただの薪へと、成り果てた。


マグナスは、見つめていた。杖を、ではない。破片を、でもない。ヘリオを。


そしてその目に——理解が、宿った。恐ろしく。決定的に。


より強い魔法使いではない。より高い位の者でもない。……人間ですら、ない。何か別のもの。別の——存在。別のカテゴリー。あってはならない、何か。


怪物。


戦士がよろめきながら立ち上がった。一部始終を、見ていた。折れた杖。凍りついたマグナス。彼もまた、杖のように、砕けていた。


「大魔法使い!」走り寄る。「離脱を!」


マグナスは、反応しなかった。ヘリオに、目が釘付けになっていた。戦士が、その腕を掴む。「今すぐ!」戦場で傷ついた新兵を運ぶように、引きずり始めた。


マグナスは、まだ破片を見ていた。彼の杖。彼の遺産。折れた。何でもないもののように。枯れ枝のように。


そして、悟った——あれは、杖だけのことではなかった。あれは、メッセージだった。


——お前であった可能性もある。何にでもなり得た。そして、誰にも止められない。


戦士がマグナスを引き起こした。「大魔法使い! 馬です!」


マグナスは、引きずられていく。脚は、機械のように動いた。だが、心は、まだそこにあった。破片に。杖に。九百年に——折れた。


馬に乗る前に、彼は振り返った。最後に、ヘリオを見る。そして、ささやいた。聞こえるほどの、声で。


「お前は……詐欺師ではない……」間。砕けた声で。「怪物だ」


馬に乗り、駆け去った。速く。必死に。マグナスは、振り返らなかった。


だが、心のなかで——彼は、知っていた。王に報告するとき、自分は仕掛けの話などしない。幻影の話も。自分が報告するのは——実存的な、脅威だ。


沈黙。風だけが、吹いていた。


野原は、傷ついていた。クレーター。焼け焦げた地。たなびく煙。そして——ヘリオの足元に、二つの、用なしの木片。折れた杖。砕けた、遺産。


エリーゼが、ゆっくりと立ち上がった。破片を見る。それから、ヘリオを。


「ヘリオ……」砕けた声だった。


彼は、彼女を見なかった。自分の手を、見ていた。まだ、震えている手を。


「ヘリオ……」間。「……あなた、何なの?」


ヘリオは、彼らが去るのを見ていた。点になるまで。それから、何もなくなるまで。


立っていた。動かずに。


そして、脚が、崩れた。


膝が地を打つ。重く。両手を地につき、かろうじて体を支える。激しく、息をした。長距離を走った後のように。消耗しきっていた。マナが……ほとんど、空だ。多すぎた。短い時間に、あまりに多くを。


手が震える。今は、激しく。感情からではない。肉体と精神の、消耗から。


本物の障壁。真空のトンネル。雷の偏向。拡張する場。あの、ほとんど致命的な一撃。そして、杖——。


そのすべてで、十分だった。いや、それ以下で。


体が、抗議していた。痛む筋肉。脈打つ頭。視界の縁が、ぼやけていく。使いすぎた。


立ち上がろうとした。脚が、応えない。再び倒れる。今度は、横ざまに。頬に、冷たい地面。


「ヘリオ!」


遠い声。エリーゼ。彼に駆け寄り、膝をつく。「ヘリオ! どうし——」彼の体を、仰向けに返す。青白い顔。額に汗。まだ、激しく息をしている。


「僕は……大丈夫……」


「大丈夫じゃない!」


彼女は周囲を見渡した。荒れ果てた野原。クレーター。焼けた地。数メートル先の、折れた杖。それから、彼を。地に伏し、震え、消耗しきった彼を。


「マナを……使いすぎたの?」


ヘリオは、弱々しくうなずいた。「ああ……」間。「速すぎた……速すぎたんだ……」


エリーゼは、敵が逃げ去った方を見た。それから、ヘリオを。


強い。だが——無限ではない。限界がある。誰もと、同じように。


それでも、恐ろしかった。


「立てる?」


「……一分で……いや、二分くらい……」


まだ、息は荒い。だが、少しずつ、ゆっくりと、制御されていく。マナが、再生していた。緩やかに。酷使した筋肉のように。時間が要る。休息が。


「両親には……言わないで」


「え?」


「このことを。……戦いのことを」彼はエリーゼを見た。「頼む」


彼女は、ためらった。「ヘリオ——」


「エリーゼ。お願いだ」


彼女は、彼を見た。消耗しきって、脆く、地に伏した彼を。二人の敵を打ち砕き、九百年の魔法の杖を折り、恐るべき力を証明した、その後で——今は、こんなにも、人間らしく。こんなにも、壊れやすい。


「……わかった」静かに言った。「何も言わない」


「ありがとう」


そうして、二人は黙っていた。五分ほど。


それから、ヘリオはもう一度、試した。脚が震える。だが、応えた。立ち上がる。よろめきながら。エリーゼが、支えた。


「ゆっくり」


「……さっきよりは、ましだ」


「嘘つき」


それでも、彼女は、彼に試させた。二歩、歩く。倒れかける。彼女が、掴んだ。


「馬鹿。寄りかかりなさい」


彼は、ためらった。それから、そうした。エリーゼの肩に腕を回す。彼女が、支えた。強く。安定して。


「行きましょう。誰かに見られる前に」


ゆっくりと、町へ向かって歩き出した。


ヘリオは、一度だけ振り返った。荒れ果てた野原。戦いの痕跡。彼が、何かである証。何ができるかの——そして、その代償が何かの。


視線を逸らす。アッシュフォードへ。家へ。日常へ。


だが、知っていた——日常は、終わったのだと。


彼は、彼女を見た。口を開きかけ、また閉じる。何と言えばいいのか、わからなかった。答えが、わからなかったから。


再び、手を見た。まだ震えている。殺そうとしていた。殺したいと、思っていた。そして……たやすかっただろう。


エリーゼを見た。その目に、恐怖を見た。彼への恐怖ではない。彼を案じる、恐怖を。


「僕は……」言いかけた。だが、どう続ければいいのか、わからなかった。


エリーゼが、足を止めた。「ヘリオ」


彼は振り向いた。「うん?」


「あの男。宮廷魔法使い。王に報告するわ」間。「わかってるでしょう?」


ヘリオは、ゆっくりとうなずいた。「ああ」


「それで、どうなるの?」


「わからない」間。「でも……何かが。何かが、起こる」


エリーゼは、剣の柄を握りしめた。「何が起ころうと——」彼の目を、まっすぐに見た。「あなたは、一人じゃない」


ヘリオは、彼女を見つめた。驚いて。「……あれを見た後でも……まだ——」


「あなたは、まだヘリオよ」きっぱりと言った。「他に何なのかは、わからない。でも、まだ、あなた」間。「そして、あなたは、私の友達。ずっと」


ヘリオは、胸の奥で、何かがほどけるのを感じた。


「ありがとう」ささやいた。


エリーゼは、うなずいた。「行きましょう。ご両親が、心配する」


二人は、織工通りへと歩いていった。陽が、沈みはじめていた。通りに、長い影が伸びる。


その背後に——傷ついた野原。力の、証。あってはならない何かの、証。


だが、それは、存在した。


そして、世界は——世界は、変わろうとしていた。


望もうと、望むまいと。

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