表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピンポン【全10話】【ホラー】  作者: 黒倉ばくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

三日目、一 ホワイトマスカット

目を覚ますと、背中に冷たい嫌な感覚がある。手を回して確かめると、びっしょりと寝汗をかいていた。シャツを脱ぎ捨て、新しいものに着替える。

俺は立ち上がると、真っ先に玄関の扉を開けようとした。しかし、それは昨日の朝と同じように、ピクリとも動かない。

「夜しか開かねえってことかよ.....?クソが......」

悪態をついて戻り、照明の紐を引く。が、反応はない。

「あ......?...............。おい、嘘だろ……!?」

照明、冷蔵庫、スマホの充電ケーブル。全ての電気が止まっている。

『黒川さん、起きましたか......?あの、こちらは電気と水道が止まってしまったみたいで、困っているんですけど......そちらは大丈夫ですか?』

「す、水道も......!?」

慌てて蛇口をひねる。昨日は確かに出た水が一滴も出てこない。

「マジかよ............」

力が抜け、思わずへたり込む。老婆の言っていた期限まで、まだ丸二日ある。その間飲まず食わずで過ごせというのか。

『やっぱり......そちらもなんですね。......黒川さん、水の備蓄はあったりしませんか?』

「んなもんあるわけ......」

と、老婆に押し付けられたもう一つの品......瓢箪のことを思い出す。確かあれは、昔は水筒に使われていたものではなかっただろうか。

「......ない。いや、ないぞ」

『そう、ですか......。はぁ......一体、どうすれば......』

「まあ大丈夫だって茜、そのうち助けが来るさ、なっ?」

『......はい。弱気になっていても、仕方ありませんよね』

ベッドに座り、ゴミ箱から瓢箪を取り出す。ずっしりと重く、振ってみると液体の入っている音がした。コルクの栓を抜き、においをかいでみる。特に異臭はしない。

......また毒見をさせたいが、水はないって言っちまったからな。

思い切って一口飲んでみる。

「うめえ......」

その水はほのかに甘く、飲むと腹の底から力が湧いてきた。まるで、聖なる力が込められているかのようだ。

と、向こうで茜の動き回る音がした。思わず瓢箪に栓を入れ、布団の中に隠す。

「ど、どうした?」

『ハエが......』

「ハエ?」『はい。何匹も......どこから入ったんでしょうか......』

しばらくハエと戦う茜の音がする。......と、穴の中から、一匹の黒い虫が飛んできた。

「おい......こっちに来たぞ」

『あ......ごめんなさい』

俺は仕方なく立ち上がり、虫けらを叩き潰してやるためにバッグを手に取った。

・・・・・・

「はあっ、はあっ......二度と逆らうなよ、カスが......!」

長い戦いのあと、ハエを壁の染みにしてやった俺は、肩で息をしながらベッドに腰かけて休む。

『ご、ご迷惑をおかけしました......』

「いや、これくらい、楽勝だって」

『お詫びに......これをどうぞ』

穴から、ラップに包まれた白い球体が出てくる。拾い上げて開けてみると、それはぶよぶよと柔らかい。

「うぇ......。お、おい、これホントに食べられんのかよ......?俺に毒見させてんじゃねえだろうな......?」

『毒見だなんて、そんな......。それは、ホワイトマスカットっていうブドウなんです。皮が白いだけで、中身は普通のマスカットですよ』

半信半疑で皮をむくと、中には透き通った透明な果肉と、赤い筋が詰まっていた。少しだけかじってみると、爽やかな香りと、さっぱりとした甘さの果汁が溢れ出してくる。おいしさに驚いた俺は、夢中でそれにむしゃぶりついた。

「……一粒だけ?もっとねえの?」

『す、すいません。少し前に食べた後、冷蔵庫に入れたまま忘れていて......食べられそうなのは、二粒しかなかったんです』

嘘だ。絶対に隠し持ってやがるな。この強欲女め......。

「あー......じゃあ仕方ねえな。半分こだもんな、うん」

『はい。半分こ、です。ふふふっ......』

茜は上機嫌で、ぺらぺらと彼氏とののろけ話を始めた。

『私......彼氏に、一度くらい主役を演じてみたい、って愚痴をこぼしてしまったことがあって』

『そうしたら、あの人は約束してくれたんです。それじゃあ俺が、お前の声のキャラがヒロインのゲームを作ってやるよ、って』

『ゲームなんて作ったことないはずなのに、私のために色々やってくれていて......』

「あーはいごちそうさま.....」

瓢箪の水を飲みながら聞き流す。さんざん喋り終えると小さく息をついて、彼女は言う。

『喉が......渇きました。黒川さんは大丈夫ですか』

「俺?全然平気」

薄笑いを浮かべながら瓢箪に手を伸ばした俺は、間違ってそれを床に落としてしまう。

バシャリ、と中の水が跳ねる大きな音がして、飲み口から少し水がこぼれた。

「やばっ......」

『......なんですか、今の音......』

「へえっ!?や、なんでもねえ、なんでもねえから!」

瓢箪はころころと転がり、壁に当たって止まった。向こうの部屋で重たいものを動かす、ギイギイという音がする。気にする余裕もなく、慌てて追いかけて拾い上げ、栓をした。

「ふうっ、あぶねえあぶねえ......」

中身が流れでるようなことにならずにすんでよかったと、俺は安堵の息をついた。

「うそつき......」

足元から、低く、地を這うような声がした。

「……っ!?」

見ると、そこにはあの、こぶし大の穴が開いている。

「......…………」

よせばいいのに、俺はなぜか引き寄せられるように穴を覗いてしまった。

薄暗い闇の向こうに……穴にぴったりと顔をくっつけた茜の、見開かれた生気のない目があった。

それは、真っすぐに俺を見つめていた。

「う、うわああっ!!」

床を後ずさり、ベッドに背中がぶつかる。

「ち、違うんだ!これは水じゃなくて酒!飲むと余計に喉乾く!実は俺水飲まないと死ぬ病気!これは取っておいてあとで渡すつもりだった!」

俺の弁解に返事をせず、茜はギイギイとベッドをきしませ、どさり、と身を投げ出すと、そのまま静かになってしまった。

流石にまずいと思った俺は、最後に瓢箪の水をごくごく飲むと、まだ、2,3口分の水が残っている瓢箪を、穴の中に差し込んだ。

「水、穴に入れといたから!半分こだから!許してくれよ、なっ?」

「......…......…返事しないってことは、受け入れてくれたってことだよな」

「あーよかった、茜に嫌われたらどうしようかと思っちまったぜ......…」

俺は安心してベッドにもぐりこんだ。

・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ