【the end and continuance】4-38
扉の内側へと同時に足を踏み入れる二人。これまでの扉と同様に、今回の扉も自然とゆっくり自動で閉じていく。後ろから心配そうな顔で見つめていたメイたち三人に、コバヤシは「大丈夫」と一声だけかけておく。
マップと索敵のスキルから感じる手ごたえとしては、少なくとも“あの王様”よりは危険性でないだろうとコバヤシは考えていた。
中は大きな空間が広がっていた。先ほどまでの宮殿のような景色から一変、再び洞窟のような内装へと様変わりする。
なんでもありだな、この“ダンジョン迷宮”とやらは、、
「いし」
すると、急にドラコが目の前、部屋の奥を指さしてそう告げる。そこには巨大な岩(?)のようなものが佇んでいた。この場所にはその岩以外、特にめぼしいものはない。
それよりも、、
コバヤシの索敵とマップでは、その“岩”こそが、この迷宮の奥に存在している『敵性存在』だということを示していた。
・ロッカーマザー
・Lv 38
・脅威度 弱~中
『脅威度 弱~中』? 弱なのか中なのかそれともその間なのか、、
“それ”はおよそ4~5m近くはあるだろうか、赤黒くくすんだ色はまるで血の色のように見えなくもない。
「!?」
ドラコと二人、その岩石?のようなものを観察していると、突然それが“ぐにゃり”と、溶け出すようにして動き出し、コバヤシとドラコは瞬時に戦闘態勢を取る。
粘土のようだ、、
“それ”はぐねぐねと4つの塊へと分裂していく。今のうちに先制攻撃をかけてしまおうかと、ドラコの方をちらりと横目で見るが、やはり何が起きるかまだ分からなかったので手を出さないでおくことにする。
4つに分裂した“それら”は、それぞれが瞬く間に人間のような形へと変化していく。すべて同じ形という訳ではなく、どうやら四種類のようであった。
・ロックナイト ・Lv 38 ・脅威度 弱
・ロックモンク ・Lv 35 ・脅威度 弱
・ロックウィザード ・Lv 32 ・脅威度 弱
・ロックプリースト ・Lv 34 ・脅威度 弱
さながら4人組パーティという訳だろうか、、
岩石で出来た精巧なマネキン人形のようだと、コバヤシは表示されている敵の情報、そしてその姿かたちを見ながら思う。
しかしそう思うのもつかの間、敵はその姿に完成するとすぐさま戦闘へと突入してくる。
「 」
うめき声のように聞こえなくもなかったが、ロックウィザードなる魔物が何らかの“魔法詠唱”を始めたことに気が付く。御大層にもナイトがその前に立ちはだかり、さながら魔法使いを守る騎士といった具合である。
同じくロックプリーストも何らかの詠唱を始めていることに気が付く。そしてモンクだけがこちらへと走り向かってきた。
「ドラコはあっちの二体を相手してくれ」
コバヤシがモンクの相手をするために前へと立ちながらも告げる。やっぱり弓で最初に片づけてしまえばよかったと少し悔やまれる。
「うぃ」
ドラコは返事をするなりすぐに大きく息を吸い込む。前に見た時よりも大きく息を吸い込んでいるように、コバヤシに感じられた。ウィザードはまだ詠唱中のようだ。
向かってくるモンクに対して、コバヤシは自身のナイフを抜く。実はこちらもザッチョに改めて手入れをしてもらったものである。
脅威度弱だし、おそらくは問題ないだろう、、
そう考え、少し半身になって構える。
その瞬間、
隣から凄まじい熱を感じる。
ウィザードとナイトに向かって、ドラコがお得意の“ドラコファイア”を吐き出す。青白い超高熱の炎が、まるでレーザービームのように一直線に敵へとほとばしる。
…やっぱりパワーアップしているような気が、、
あっという間にウィザードとナイトを“消し炭”にしてしまうその炎を見て、コバヤシは思わずにいられない。
一瞬で消え去ったウィザードとナイトを見て、プリーストとモンクにわずかなためらいが生まれたように見える(少なくともコバヤシにはそう感じられた)
しかしすぐにモンクはこちらへの突撃を再開する。
俺も少しは働かないとな、、
コバヤシは思い切り地面を蹴り、モンクへと向かって一直線に飛ぶ。
人形みたいな身体ではどこが弱点なのかも分からなかったので、とりあえず首を切り飛ばしてしまおうと、手に持ったナイフを振る。
「!?」
ナイフが相手の体内へと侵入した瞬間、コバヤシはその手ごたえに違和感を覚える。
なんだ、、? 手ごたえがまるでない、、
てっきり岩石や鉄のような手ごたえを予想していたコバヤシはわずかに動揺する。
ナイフで切り裂いた部分が、にゅるにゅると、まるで泥で出来ているかのような触感だな、、
いや、実際にそうなのかもしれないと、コバヤシはその敵を見据えながら考察する。
見た感じだと硬質的なんだが、、
もしかしたら二つの性質を使い分けられるタイプなのかもしれない。
そうだとしたら意外と面倒な相手かもしれないな、、それだと弓や徒手空拳も効かなそうだし、、
「ドラコ!」
早期に決着をつけるにはやはり“これ”だろうと、コバヤシはドラコへと合図を送る。
こちらを見たドラコは再び大きく息を吸い込む。
首部分を切られたモンクはしかしすぐにその傷と体勢を持ち直しコバヤシの方へ容赦なく襲い掛かってくる。
コバヤシはそれをかわしながら再びドラコの方を確認する。
よし、、!
ドラコの口からわずかに炎が見えるのを確認すると、地面を大きく蹴り高く宙へと跳び上がる。
「今だっ!!」
“龍炎Ⅱ(ドラコ・ファイア改)”
先ほどよりもさらに激しい炎が辺り一面を覆いつくす。
洞窟の天井付近までジャンプしたコバヤシは、地表を一瞬で覆いつくしたその青い炎を見る。それは一瞬にしてモンクとプリーストを包み込み、瞬く間にその二体を溶かす。
えげつない、、
だがやはり正解だったようだと、コバヤシは自身の判断に納得する。
念のためにドラコの方へと落ちるように大きくジャンプしたが、これなら問題もなさそうだ、、
溶けて落ちた合計四体の魔物を下に眺めながら彼は着地の体勢を取る。
・・・
「助かったよ、ドラコ。ありがとうな」
着地した後でコバヤシは、今日のMVPの頭を撫でながらそう告げる。炎はすでに鎮火しており、焼き溶け落ちたあの魔物たち4体が、消し炭となりながらもわずかにその姿を残していた。
・・・。
「? ドラコ?」
何の反応もないことを少し不思議に思い、コバヤシはドラコの顔を覗き込む。
「!? ドラコ!!」
コバヤシは少女の顔色を見てすぐにその“異変”に気が付く。
…顔色がおかしい、、
ドラコの顔は、まるで生気が抜かれているかのように思われるほどに青白くなっており、ずいぶんと呼吸も苦しそうにしている。
…これは、いったい、、!
試しにドラコの額へと手を当ててみると、そこからは信じられないほどの熱を感じることができた。
突然の高熱なんて考えられるだろうか、、いや、もしかしたらさっきの敵から何らかの攻撃を受けていたのか、、?
思いもよらない出来事にコバヤシの頭はフリーズしかける。
いや、、こんなときこそ落ち着いて考えるんだ、、
「ドラコ、聞こえるか」
コバヤシはその小さな手を強く握りしめながら尋ねる。
苦しそうな表情を浮かべながらも、少女はこくりとその首を縦に振る。
「…すぐになんとかしてやる、、大丈夫、、」
自分が出来ること、そして何をすべきかを頭の中でいくつものシミュレーションが走る。
医者? 回復魔法? ドラコは人間という訳ではないのだからこのまま普通の人間に見せてもいいものなのか、、誰か、こんなことも知ってそうな人間、、
「…よし、、」
すぐに自身がすべきことを決め、それからぐったりとしているドラコを背負う。
少しだけ、我慢してくれ、、
ドラコの頭をぽんと撫で、それから仲間のいる場所へ戻らんと、扉に手をかける。
・・・
コバヤシ達が扉の中に入ってしばらくした後に、再び目の前の扉が開く。
そこから現れたのはドラコを背負ったコバヤシだった。
「アキラ! それ、、ドラコは大丈夫なの!?」
背から降ろされた少女の顔色からは、いつものようにほとばしるような生気が感じられず、呼吸も苦しそうに見える。
メイはすぐにドラコの様子を確認する。
・・・目立った外傷や魔法の痕跡は見られない、、
「アキラ、何があったの?」
ルゥとリーシアも心配そうにドラコの様子を見ている。
「…リーシアさん、」
するとコバヤシは何やら手のひらサイズの石みたいなものを取り出して彼女に声をかける。
「これを使ってみてもらえますか、、」
「え、、これって、、」
コバヤシがリーシアに渡したその石のようなものからはわずかに魔力が感じられたが、メイにはそれが何なのかはわからない。どうやらルゥも知らないようだ。
「何なの? それ」
今度はルゥがコバヤシに尋ねる。ドラコのことを心配してか、少しだけいつもよりも声に緊張が見られる。
「ドラコのこの状態について、一番詳しそうな人に、これから連絡してみるんだ」
その“石のようなもの”をリーシアに渡すと、コバヤシはドラコの手をぎゅっと握る。
いつもの彼からは想像できないような険しい表情だなと、メイには感じられた。
「リーシア?」
彼女が、コバヤシから受け取ったその石に、魔力を通していることに気が付く。
一番詳しそうな人に連絡する、って、、
一体どういうことなのだろうかとメイが考えていると、突然リーシアが持つその石から、人間の声、女性の声のようなものが聞こえてきたのだった。
『やぁ、連絡うれしいよ、アキラ』
それで、僕に何か用なのかな?
まるで男のように話すのだなと、というかそもそもこれは誰だ、どこから聞こえている?
メイの頭の中を、いくつもの疑問がよぎる。
「あぁ、、」
コバヤシがその声に対して返事をする。
「至急、君に聞きたいことがあるんだ」
“ブレンダ”
彼はドラコの頭を心配そうに撫でながら、そう続けるのだった。




