『ドバの食堂』
次の日の昼、コバヤシ達一行はとある店を訪れていた。どうも最近、少し変わったお店が出来たという噂をリーシアが耳にし、コバヤシとしてはその噂をぜひとも確認してみたかったのである。
「ここ、でしょうか、、」
リーシアが先導してたどり着いたその場所は、“お化け屋敷”からそんなに離れていない場所であった。入り口には『ドバの(研修)食堂』という看板がぶら下げられている。「研修」という文字だけ赤色で書かれている。どうやら後から付け加えられたもののようだ。
「良い匂い~」
ドラコが上機嫌そうな顔で言う。確かにその建物の周りには食欲をそそる香りに満ちていた。
“研修食堂”か、、
コバヤシはその看板を見て、どうやら“噂”は本当なのかもしれないと考え始める。
からんからんからん、、
入り口のドアを開けると、ベルの音が店内に広がる。耳障りにはならない優しい音だ。
入ってみると、どうやら客は自分たち一行しか居ないんじゃないかと思われるほどの空き具合であった。
「閑古鳥ねぇ、、」
ルゥがそんなことを呟く。
「とりあえずどこかのテーブルにつきましょうよ」
今度はメイがそう言うと、手ごろな大きさのテーブル席へと向かって先に歩いていく。店内にはいくつもの大きさのテーブルとイスが置かれているが、やはり見渡す限り自分たちしかお客は見えない。
…確かに閑古鳥が鳴いているな、、
コバヤシは席へと着席しながら、ルゥに同意せずにはいられない。
こんなランチタイムのピークにこれとは、、
そんなことを考えながら、今度はテーブルへと置かれたメニューにその目を通す。するとそこに書かれている内容はコバヤシにとって多少予想外のものであった。
メニューは全部で三品のみ。どうもその全てが“セットメニュー”のようなものであるようだった。
これで全部なのだろうか、、
これではさすがに種類が少ないのではないかとコバヤシが不思議に思っていると、
「あ、あの、、」
どこから現れたのか、ずいぶんと遠慮がちな少女の声がこちらへと聞こえてきたので、コバヤシはそちらに視線をやる。
「ご注文がおきまりになりましたら、その、おしえてください、です、、」
こちらのテーブル席からは少し離れた場所に、少女、、明らかに大人の年齢ではない女性が一人、こちらを向いて立っていた。おそらくは従業員なのであろう。
それにしても、、
コバヤシはその少女の“頭部”がいたく気になった。
「珍しいわね、、」
するとメイも同じことを考えていたようで、コバヤシ同様その少女を観察しながらそう呟く。
どうもリーシアさんが聞いたあの噂はやはり本当なのかもしれないと、コバヤシは再び少女の頭部を見ながら考える。
「あ、、あの、、な、なにか、、?」
するとその少女がこちらの視線に気づいてか、少しあわてた様子で尋ねてくる。どう見ても接客が不慣れな様子だ。
「あなた、この街ではずいぶんと珍しいわね」
メイが少女にそう問いかける。
「ここで働いているのかな?」
今度はコバヤシがそう続ける。視線をもう一度この少女の頭部へと向ける。
少女の頭部には、どう見ても猫の耳のようにしか見えないものが付いていた。
おそらくだがこの少女も“獣人”という存在なのだろう。コバヤシは王都で見かけた何人かを思い出す・
確かにこの街ではあまり獣人を見かけないなと、メイの方を見る。
「あ、あの、あの、、」
すると猫耳の少女は二人からの同時質問にあたふたとしてしまったようで、コバヤシとメイを交互に困惑した表情で見つめていた。
少し悪い事をした気になってしまうな、、
コバヤシがそんなことを考えていると、奥からもう一人の姿が現れる。
「…お客から注文は聞けたか、、」
ぬぅっと現れたその大男は、おそらく料理人だろうか、猫耳少女が付けているエプロンとは明らかに違う調理用のものを身に付けている。
もしかして彼が、、
「あの、すみません」
猫耳少女は、現れたその大男の後ろにさっと隠れてしまう。そうすると本当に猫みたいだなと思いながらコバヤシは彼に話しかける。
「あなたが、ここの、、この店の主人でしょうか」
「……そうだが、、」
男は怪訝そうな顔でこちらの問いかけに応える。猫耳少女はまるで何かにおびえるかのごとく彼の後ろからこちらの様子をうかがっている。特になにかしたわけではないと思うんだが、、
少女の方をコバヤシがちらりと見ると、小さい声で「ひっ」と叫び、この店のマスターだという男の後ろへと完全に隠れてしまうのだった。
「…俺になにか用でしたかい、お客さん」
そんな少女の対応に、ふぅとため息をはきながら彼はこちらへそう尋ねる。
「なんでも、ここでは奴隷達の“職業訓練”を行っていると聞いたのですが」
「職業訓練?」
店主は一瞬なんのことかわからないといた様子で聞き返してきたが、すぐに「あぁ、そういうことか」と一人納得してコバヤシの問いに答える。
「お客さんがどう考えているのかはわからねえが、確かに俺はいまこいつらに仕事を教えてやってるよ」
彼はそう言いながら後ろの猫耳少女に目を向ける。
なるほど、彼女も奴隷だったのかとどこか納得しながらコバヤシは更に問いかける。
「なぜ、そのようなことをしようと?」
職業訓練といえど、奴隷達に対して“教育”を施すというような人間がこの時代(中世程度だとして)に居ることがどうも不思議に思えていたのである。
すると店主はこちらの顔をじろりと見つめ、少しの間黙る。
「…あんたも、こんなことに意味があるわけないとでも言いたいのか、」
コバヤシはそこで自分の意図が誤解されてしまっている事に気が付く。
「あぁ、いえ、そういうわけではありません」
ただ純粋に気になっただけでして、
「…そうか、、」
その言葉はどうやら彼にとっては予想外のものであったようで、店主はきょとんとしたような表情になる。
おそらくはこれまでに否定しかされてこなかったのだろう。コバヤシはなぜこの店がここまでがらがらなのかが分かってしまったような気がした。
そして店主は、なぜこの店を始めたのかをぽつぽつと教えてくれるのだった。
彼は元々この街の貴族達相手専門に料理の腕を振るっていたらしかったが、あの“悲劇”によってその仕えていた貴族が亡くなったのと、それから他にもいくつか思うところがあったらしく(あまり詳しくは話してくれなかった)この店を始めるまでに至ったとのこと。
「…そうだったんですか、、」
コバヤシは彼の話を聞いた後で、今度は自分の“とある考え”を彼に話してみる事にするのだった。




