『girl’s talk』
ある程度の話がまとまったものの、コバヤシだけはまだあのドワーフと話があるとのことで、女性陣一同はとりあえず一度先にギルドへと向かう事になった。今日依頼を受けるかどうかは別として、とりあえず掲示板を見に行く流れである。
リーシアは実家に取ってくるものがあるとのことで、こちらも後でギルドへ向かうとのこと。なぜかドラコも付いて行くみたいである。さてはパンが目当てなのだろうか、、
というわけで、ルゥはメイと一緒に一足早くギルドへと向かい、なにか良い依頼がないか確認しておくことにするのだった。
「それにしてもマイホームとは嬉しいなあ」
これまでの生活を考えると、ルゥにとって今回の出来事はまるで夢のようなものであった。思わず自分の頬が緩むのを感じる。
「まいほーむ?」
すると隣を歩くメイがその小首をかしげてこちらを見る。どうも自分が知るいくつかの“英語”はこの世界では通じないようなのだということを、ルゥは最近知った。
「自分の家ってことよ」
そんなことを考えながらも彼女は応える。正確には「私達の家」であったが。
それでもルゥにとっては十分、この“家族”で過ごす家があるというのはあまりにも幸せな事であった。
「私も、まさか持ち家を手に入れるなんて思わなかったなぁ」
するとメイも、どこか遠い目をしてその口元に笑みを浮かべる。そんな彼女を見てルゥは更に嬉しくなる。
前世の事は所々覚えているといった彼女だったが、少なくともこちらの世界ではこれまでずっと一人で生きてきており、まさかこのようにして仲間達が出来るなんて少し前までは思いもしなかったのだ。
これも、ダーリンと会えたおかげだわ、、
ルゥはいっそう自分の頬が緩むのを感じた。メイが少し不思議そうな顔をしてこちらをのぞきこんでいる。そのどこかきょとんとしても凛々しく整った顔は、自分よりも(おそらく)はるかに年上であろうということを一切感じさせない、幼さのある面立ちである。
「楽しみねっ」
メイの手をつなぎながら彼女は元気よくそう告げる。
それはマイホームの事でもあり、これからの冒険のことでもあり、そして彼女が考えるこの“家族”の幸せに対してのことでもあるのだった。
・・・
「まさか本当に家を建てられるだなんて思ってもいなかったわ、、」
リーシアが少し興奮したように、その頬を紅潮させながら隣で呟いている。どうもこちらに話しかけているというよりは自分に言い聞かせているかのようだとドラコには感じられた。
「リーシア、嬉しい?」
隣を歩く彼女に対して、ドラコは覗き込みながら尋ねる。すると彼女はこちらを向き、満面の笑みで「ええ、もちろんっ」と応えるのだった。その笑顔を見てこちらも嬉しくなる。
「ドラコもっ」
思わず自分の口からそんな言葉が出る。どうも自分で思っていたよりもはるかにこれが嬉しい事だったみたいだと、ドラコはぼんやりと考えながらリーシアの手を取る。
すると彼女はその手を優しく握り返してくる。ドラコはこれが好きだった。あとはコバヤシも逆側に居れば“最強”なのになと、少女は手をぶらぶらとさせる。
「あら、こんなとこに新しい店が出来てる」
リーシアの実家へと向かっている途中で、ドラコとリーシアの二人はそのお店を見つける。リーシアが気づく実はここにたどり着くずいぶん前から、そのお店のことに関してドラコは気がついていた。具体的にはドラコの鼻がそれを察知していたと言っていい。
そのお店から漂ってくる、実に凶悪な匂いによって、ドラコの口内は大変な事になっていたのだった。
「じゅるり」
少女は何度も自分の唾液を戻すのに必死である。
「良い匂いねー、ドラコ」
リーシアはそんなことに気がついていないようで、辺りの空気をゆっくりと吸いながら目を閉じる。お店を千切れんばかりに凝視しているドラコとは実に対照的であった。
「じゅるじゅるじゅるり」
それはなんとも甘い匂いであった。これほどまでに強烈で凶悪な甘味の香りはこれまで嗅いだことがない。リーシアの実家であるパン屋とはまた違う素晴らしさがあった。ドラコは自分がふらふらとそのお店へと入ろうとしてしまっている事に途中で気がつく。
「ドラコ、ここには後で寄りましょう」
するとリーシアがふふっと笑いながら自分を止める。
「じゅるん(うん)」
少女はすでに流れ落ちる唾液を止めることも忘れ、そう返事をする。
そんなドラコを見て、リーシアは再び微笑むのだった。




