【home】4-26
その日の朝、紅色に光り輝く長い髪をしたこの少女、ドラコにしては珍しく早くに目を覚ました。
どこか懐かしい匂いがした気がして、少女は部屋の中、その意識を集中させる。彼女の隣にはルゥが、そしてその隣にはメイが横になって寝息をたてている。三人の中で一番早くに目を覚ますというのはドラコとしては初めてのことであった。
…やっぱり、この匂い、、
懐かしい匂いとして感じたそれは、すみれの花などではなく“彼”の匂いであった。
「メイ! ルゥ!」
ドラコは隣で未だお休みの二人をぽこぽこと叩いて起こし始める。
「コバヤシ、コバヤシ!」
自分の好きな匂いをした彼の名前を、ドラコは連呼する。
・・・
「リーシアさん、酔いの方は大丈夫ですか?」
メリエへと向かう馬車の中で、コバヤシは彼女にそう尋ねかける。
「もう、大丈夫です、、」
リーシアは照れくさそうに顔を少し赤らめながら応える。
というのも、コバヤジェットに初搭乗した彼女は、最初こそ嬉しそうにしていたもののすぐに限界が来たようで、途中からぐでんとなってしまったのである。
実際にはコバヤジェットによってあっという間に途中の町へと着いたのだったが、彼女にとってそれはえらく長い旅路に感じられたようであった。
…リーシアさんごめんなさいです、、
コバヤシは心の中でしっかりと彼女に再び謝りつつも馬車の外を見る。
途中の町で一泊してから(リーシアはその町へ着いた時すでにふらふらの状態であった)次の日の朝早くにメリエ行きの馬車を捕まえる事ができた二人であった。
行きに比べると帰りははるかに早く帰れそうだと彼は考える。リーシアはすでにコバヤジェットのトラウマを克服しつつあったようだったが、それでもコバヤシはどうにも彼女の事を心配してしまうのだった。
帰ったら必ず何か他の“移動手段”について模索しようと強く決意するコバヤシである。
やはり馬車とかだろうか、、
う~んと一人唸りながら考えていると、前から御者の声が飛んでくる。
「もうそろそろメリエが見えてくる頃ですよ」
その若い男性の御者は、前を見ながらもこちらに向かってそう教えてくれる。
コバヤシはそれまでの思考をいったん止め、マップを確認してみると確かにもう懐かしきあの街(と彼には感じられた)が表示されていた。目視では今のところまだ確認する事ができない。
「なんだかずいぶん懐かしいですねっ」
隣ではリーシアが、街の姿を見ようと馬車の外を見つめていた。どうやら自分と同じような気持ちだったようだと、コバヤシはふと笑みをこぼす。
“居残り組”は(色々と)大丈夫だっただろうか、、
ふとそんなことを考えたコバヤシは再びマップを確認し、彼女らの位置を確認してみるのだった。
・・・
「コバヤシー」
メリエの馬車停で馬車から降りるなり、赤髪の美少女がてとてととこちらに飛び込んでくる。いまいち何を考えているのか掴めないそのぼーっとした顔が、コバヤシには少しだけ懐かしく感じられ思わず頬が緩む。
「ただいま、ドラコ」
彼はそう言って少女の頭を撫でる。このやり取りもなんだか懐かしく感じてしまう。
「リーシアも~」
ドラコはそう言ってから今度は馬車から降りてきた彼女に飛びつく。
そんな少女の頭を、リーシアはこれまたコバヤシ同様に撫でながら笑いかける。
ずいぶんと絵になる二人を少しの間見つめていると、今度は少し離れた場所から更に二人の女性の声がこちらへ飛んでくる。
「アキラー!」
「ダーリーーン!」
片方の呼び方は相変わらず恥ずかしくてやめて欲しいなと思うコバヤシであったが、どうもこの世界ではこの“ダーリン”という意味が認知されていないようだったので、まだましかもしれないなと彼は思う。
そういえば、ブレンダやルゥに関してはもう一度サポセンに聞いてみてもいいかもしれないな、、
まぁそれが役に立つかどうかは別として、とコバヤシは考えながらも、迎えに来てくれた彼女達に手を上げて応える。
それにしてもどうやって自分たちが帰ってくるタイミングがわかったのだろうか、、
ドラコの方をちらりと見ると、彼女はリーシアと手を繋いでもう片方の手をこちらへと差し出していた。
コバヤシはいったん考えるのをやめてその手に応えることにする。
もしかしたらこのドラゴンガールが何らかの力でわかるのかもしれないなと冗談交じりに考えてみるが、どうも冗談ではないような気がするコバヤシなのであった。
「みんな、特に何も問題はなかったかい」
そう言ってから、メリエで留守番をしてくれていた三人の顔を交互に見る。
「こっちはー、、、、そうね、何も問題はなかったわね」
何故かメイが不思議な返答をする。何か問題でも起きていたのだろうかと、コバヤシは少し心配になる。
白金色に美しく輝く髪をショートボブにしている目の前のこの美エルフは、お酒に呑まれていない時以外は極めて信頼できる人間であり、その整った容姿には少し近寄りがたい雰囲気すらも感じさせる。ルゥとは違うタイプの美人だと言えるかもしれない。
「え~~? 何も無かったっけ~~?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、艶やかな黒のロングヘアをさらりとなびかせ、ルゥがそんなことを言う。動きやすい格好をしているメイと違って、彼女はなるべく肌を露出しないような服装をしている事が多い。もしかしたら“サキュバス”という彼女の習性を隠したいゆえなのかもしれなかったが、コバヤシにはいまいちよく分からなかった。
「ねぇ、ドラコ」
ルゥはその真っ黒なストレートヘアをかきあげながらドラコに話を振る。その仕草は確かに艶かしいものがあるのだが、彼女の中身を知るコバヤシとしてはどうにも言えない気持ちの方が強いのだった。
一言で言うと、そう、、“残念”なんだよな、、このサキュバスは、、
何も知らなければ彼女のことはただのグラマー美人に見えないこともない。今のコバヤシにはすでにそうは思えなかったが。
「メイの料理が、すごくすごかった」
…すごくすごい、とは一体、、
ドラコがそう言うと、メイは即座にその目を伏せる。それからぽつりと一言だけこう呟く。
「…食べれたんだから、良いじゃない、、」
ばつの悪そうな顔をしながらもそう呟く彼女の事を、なんだかいたたまれない気持ちになるコバヤシであった。
話を聞くに、どうも自分がメイに渡したあの“イボシシの肉”を彼女が調理してみたところ、盛大に失敗し、そしてレミ(コバヤシ達がメリエでお世話になっている宿屋の娘)の手助けによってなんとか大惨事は免れたとのこと。
相変わらず目を背けて恥ずかしそうにしている彼女を見て、コバヤシは少し意外に感じる。
メイは料理も得意だと勝手に思ってしまっていたな、、
「俺もその料理食べてみたかったな」
そんな冗談を彼女に向かって言うと、メイはこちらをぎろりと睨みつけてくる。
彼女の整った顔でこうも睨みつけられるとさすがにこれ以上の冗談はコバヤシの口から続く事などあるはずもなかった。
「でもおいしかった」
すると隣でドラコが無表情にそんなことを言い、そしてお腹を鳴らす。
「コバヤシー、ごはん」
彼女のその空気読まなさに一同はみな微笑み、ひとまずは“結果報告”もかねてどこかへと食べに行こうということになった。
もしかしたらこいつは、逆に空気を読んでくれたのかもしれないな、、
コバヤシはドラコの頭を撫でながらそうも思うのであった。




