【タウン 3】4-25
もう少しだけこの場所を見て行ってもいいだろうかというコバヤシの提案をブレンダは快く承諾する。
「なんなら今日はここに泊まっていくといいよ」
そんな彼女の好意にコバヤシは甘える事にする。リーシアに何の相談も無く決めてしまったことを彼は少しばかり申し訳なく思う。
「コバヤシさんがそうしたいのであれば、当然私も一緒に居ます!」
オーバーですけど、ありがとうございますリーシアさん、、
・・・
そして現在、コバヤシとリーシアの二人はブレンダの家(どうやら“ここ”は家という訳ではないらしかったが、)にて彼女の淹れてくれた紅茶(?)を頂いていた。
セイドウの元付き人二人組は、彼女によって《忘却改竄》されたあとに《遠飛人送》という二つの魔法をかけられ、アーチの向こう側へと放り出されたのだった。
ブレンダ曰く、あの二人には『勇者が突如反逆し、呪縛を使う間もなく逃走した』という記憶を植え付けた(改竄した)後で、どこか遠くへと飛ばしてしまったとのこと。
というかホントに、なんでもありだよなこの魔女は、とコバヤシは紅茶をすすりながら目の前に座っている彼女を見つめる。
ちなみに彼女が最初に“日本語”を話していたのは、本来の目的であったセイドウとの会話を念頭においていたからとのこと。現在ではリーシアも理解できる言語で話している。どうやら途中から切り替えていたらしい。
そういえば、、
「セイドウに渡していたあの指輪のようなものにはどんな効果?があるんだ?」
コバヤシは先ほどの光景を思い出しながらブレンダに尋ねる。彼女に対しての言葉遣いがこのわずかなあいだにずいぶんと変わった彼である。
「あぁ、あれか、、」
そう言って彼女はもう一つ同じような指輪をテーブルの上に出す。
「最近ようやく出来たものなんだけど、正直使い道が無かったからね」
そう言いながら彼女はその魔法道具についての説明をしてくれる。
なんとその道具に込められている魔法は、まるで携帯電話のように遠くの人間と“通話”ができるというものであった。
「…これはすごいな、、」
連絡が取れるのはあくまでブレンダが持つ指輪とのみで、その指輪もセイドウに渡したものも合わせれば二つしかないのだという。
「そうだ、もう一つはキミにあげるよ」
どうせ他に使い道もないしねと彼女は言って、こちらへとその指輪を渡す。それは全体が不思議な赤色をぼんやりと放つ石でできたようなものであった。
「少し魔力を流せばボクに繋がるからさ」
そんなことを言って彼女はこちらに微笑みかける。
いや、そもそもその魔力を流すっていうのが出来ないんだが、、
コバヤシはそう考えながらもその指輪を一応ありがたく頂戴する事にするのだった。
もし使うときがあれば誰かに魔力を流してもらうことにでもしよう。
・・・
彼女はこの建物を、基本的には『物置兼実験室兼休憩所兼(めったに来ないが)客間』として活用しているようである。つまり“家”としては利用していない。
この家の隣に立っている大きな建物にブレンダは普段居るとのことで、その建物はコバヤシが想像した考えの内の一つの通り、その大きな建物は“学校”として使用されているらしかった。
「キミたちも僕のことを“先生”と呼んでくれても良いんだぜ」
ブレンダはそんなことを言ってこちらに悪戯っぽく微笑みかける。
「…せ、、せんせ、、」
「リーシアさん、別に無理しなくていいですよ」
コバヤシは素直すぎる彼女にそう言ってから再びブレンダを見る。
「まぁ実際にはみんなボクの事を“マザー”としか呼ばないけどね」
からからと笑いながら“マザー”は言う。
彼女はその“学校”でみんな(子供たち)と寝泊りも共にしているとのことらしい。
「二人はこっちに泊まっていくといいよ」
使ってない部屋がいくつかあったと思うし、とブレンダはコバヤシ達に対して提案する。彼女は今日も学校の方に泊るとのこと。
そしてコバヤシがささやかながらも一番驚いたのは、なんとこの建物に自前の“浴室”が設置されていた事であった。それは“浴室”と呼ぶにはいささか広すぎる気もしたが、、
とにかく、この世界に来てから共同浴場以外でこういったものを見るのは初めてである。
これはいったいどういう仕組みになっているのかと彼はブレンダに尋ねてみると、どうやらこれも彼女の魔法によるものらしい。
是が非でも自分の住まい(造ったとしたら)にも取り入れてみたいと考えたコバヤシは、とりあえず理解できるかどうかは別として彼女からその仕組みについて詳しく聞いておくことにする。
「はぁ、、すごい、、」
リーシアもその浴室を見てひとり感嘆の声をあげるのだった。
・・・
次の日の朝、コバヤシとリーシアの二人はこの“タウン”を後にすることとする。
結局ここに居る子供たちとは関わる事がなかったなと思いながら、コバヤシはブレンダに別れの挨拶の言葉を告げる。
「何かあったらいつでも“あれ”で連絡してくれ」
彼女はそう言ってこちらにウインクを飛ばしてくる。
そんな彼女を見ながらも、コバヤシは少しばかりこの目の前の“転生者”について思い返す。といっても、彼女から転生云々に関することについてはほとんどと言っていいほどに手に入りはしなかったけれど、、
おそらくだが、当時とは“サポセン”のシステムがだいぶ違うのではないかと彼は考える。
セイドウはともかくとして、ブレンダも“サポセン”なんて知らないと昨日の夜言っていたしな、、
彼女が今確認できるのは自分の“スキル”のみで、レベルを最後に確認したのなんてもうはるか昔の事とのことであった。
「それじゃ、二人とも元気で」
ブレンダはそう言うとあのアーチを開ける。
コバヤシとリーシアの二人はそこを抜けて前に居た場所へと帰っていく。アーチをくぐった瞬間、再び耳元で小さく「パチッ」という音がしたのをコバヤシは聞いた。
・・・
アーチを無事に抜け、後ろにリーシアがちゃんと居る事を確認した後でコバヤシはあたりをぐるりと見渡す。
ずいぶんと久しぶりに元の場所へ帰ってきたような気がするなと彼には感じられた。
あのアーチは再び“蓋”がされており、どうにもこれまでのことが全て夢だったのではないかというような不思議な感覚に包まれる。
「なんか久しぶりな感じがしますね」
隣でそう言う彼女も、コバヤシと同じような気持ちであったらしく、口元をほころばせながら周囲をぐるり見渡していた。
確かに、あの“タウン”という場所はなんと言ったらいいのかは分からなかったがなんとも不思議な空気の流れているような所だったようにコバヤシには思えた。もしかしたらブレンダの存在が影響しているのかもしれないなと彼は冗談交じりに考える。
しかしそこで、ブレンダが使ったあの《遠飛人送》とかいう魔法を思い出しコバヤシは少しばかり後悔する。
あの魔法でメリエまで送ってもらえば良かったのではという思いと、いやしかしあんな得体の知れないものに身を任すのはという二つの思いの板ばさみに、、
「…しょうがない」
コバヤシがぽつりそう呟くと、隣でリーシアがきょとんとした顔で彼の顔を見つめる。
「リーシアさん、メリエからここに来るまでの途中に寄ったあの町まで、ぱぱっと行ってしまおうかと」
野宿には若干うんざりしていたコバヤシは彼女にそう提案する。
「え、あ、、は、はい、、あ、アキラさん、、」
リーシアは顔を赤らめながら、そしてコバヤシから目を背けるように下を向きながらそう返事する。
よし、彼女の承諾も得たとして、コバヤシはリーシアの後ろにそのまま回りこむ。
「っ!?」
そのまま彼女を掬い上げる。久々の“コバヤジェット”であった。やはりメリエに帰ったら馬車を作るか買うかしようと真剣に検討を始めるコバヤシである。
「それでは少しだけとばしますので、一応ちゃんと掴まってて下さい」
「え? あ、あの? え!?」
自分の腕の中で困惑と羞恥の複雑な表情で戸惑っているリーシアをよそ目に、コバヤシはさっそく駆け始める。
「え、ちょ、ちょっと、きゃ、きゃぁあああああああぁっ・・・・・」
彼女の叫びは山の中へと吸い込まれていくのだった。




