【勇者と魔女と魔法使いと騎士】4-23
「しかし、それなら一つだけ条件がある」
セイドウの頼みを了承したブレンダであったが、そんなことを言ってから彼女は一同をとある場所へと連れて行く。
そこは、自分たちが“こちら側”に来た時に最初に居た(着いた?)場所であった。
少し開けた場所となっているそこには、あの“アーチ”がやはり閉じられた状態で今もたたずんでおり、コバヤシ達が最初に見たときと特に何の変化も無いように思える。
それにしても、と彼は考える。
ブレンダの家からここに来るまでの間、この“タウン”に居る子供たちはブレンダの外見に関係なく彼女の事を「マザー」として認識しているようであった。彼女にそのことを尋ねてみると、
「あぁ、ここの子たちは魔力で人を認識しているからね」
だから魔力のカタチを変えない限りは、私のことを変わらずに認識出来るんだよとだけこちらへ告げる。そして子供たちがコバヤシやセイドウ達を認識できないかのような素振りは、どうもここに原因があるようであった。
「キミたちの魔力は、ボクの魔力で一時的に阻害しているんだ」
ブレンダはそう言ってニヤリと微笑む。
「まあキミは阻害する必要も無いみたいだったけどね」
そして今度はコバヤシの方を見ながらそうも言うのだった。
良い事か悪い事か分からなかったが、そういえば自分には魔力が全く無かったのだったということを思い出すコバヤシである。
・・・
一行がその「広場」にたどり着くと、ブレンダはこちらにむかって説明を始める。
「…それじゃあ、これからセイドウ君。キミの連れ二人を“こちら”に招き入れる」
彼女はそう言ってからセイドウの方へと視線を向けると、彼はこくりと頷く。
ブレンダ曰く、付き人の二人は実際にはすぐ近くに居るものの、こちらとは別の“異層”に居るのだとか。つまり彼女の魔法によってこの“タウン”という場所はどうも隠されて(?)いるという事らしい。
「ボク達は、、まぁ、ここで大人しく成り行きでも見ていようか」
今度はこちらに視線を送りながら彼女は言う。彼女に言われるまま付いてきていたコバヤシとリーシアであったが、彼は若干の不安を抱かずにはいられなかった。
とりあえずは彼女の言うとおり成り行きを見守るしかない、か、、
「大丈夫なんでしょうか、、」
後ろで不安げにそう呟くリーシアに対しコバヤシは安心させるように話しかける。
「大丈夫、だと思いますよ」
向こうも話の通じない訳ではないでしょうし。
そんなことを話しながら、コバヤシもリーシア同様に不安を感じずにはいられないのだった。もちろんこの勇者がいったい何をしようとしているのかはまだはっきりとはしていなかったが。
いや、もしくは分かってはいたが分かりたくはなかったのかもしれなかった。
「さて、と、、《異層移送》」
ブレンダが魔法を唱えると、目の前の空間に不思議な“もや”がかかる。
あのアーチから出てくる訳ではないのかと、コバヤシは今も閉じられている石のアーチをちらりと見ながら考える。
目の前の“もや”が次第に大きくなっていくと、その中から二人の人影のようなものが見えてくる。コバヤシはその二つの影に見覚えがあった。
そして“もや”が消える。
・・・
“こちら”へと突然招待されたセイドウの付き人二人は、あたりを警戒しつつもこちらの様子をうかがう。しかしセイドウを見つけるとすぐに安心したようにほっとため息をつくのだった。
「心配かけてすまなかったね」
セイドウは自分の付き人二人に向かってそう言うなり微笑む。付き人の二人も安心したようにしているのを見ると、とてもじゃないがブレンダが言っていたことが事実だとは思えない。
「…して、その女性は、、」
再会を喜ぶのも束の間、ゼル爺はブレンダのほうを警戒するように睨む。
「あぁ、、彼女は、、」
セイドウが答えようとすると、シエナ嬢が自身の剣をすばやく引き抜く。
「“標的”確認」
彼女はぽつりと、おそらくはゼル爺に対してそう呟くのをコバヤシは確かに聞いた。
シエナ嬢の言葉を聞くやいなや、すぐさま彼はなにかしらの詠唱を始める。その動きには一切のためらいのようなものが見られなかった。
「お、おい二人とも!」
するとすぐにセイドウが間に割ってはいる。
臨戦態勢へと即座に移行した二人を前にしても、ブレンダは表情一つ変わらずにどこか落ち着いた様子でセイドウ達を見据えている。
コバヤシはリーシアを自分の後ろへと下がらせると、この二つの勢力のどちらからも距離を取る事にする。
「…タケル様、そこの女こそが我々の探していた“魔女”でございます」
シエナ嬢が、視線はブレンダへと向けたままに、間に入ったセイドウへそう告げる。ゼル爺は彼女の後ろで引き続き詠唱を続けている。
「二人とも少し待ってくれ!」
セイドウは今にもブレンダへと攻撃を始めそうな二人を前に、自身の両手を開き、まるで彼女を守るようにして立ちふさがっている。
「…タケル様、なんのおつもりでしょうか」
彼女は少しだけセイドウの方へと視線を移して尋ねる。彼女の剣はいまだブレンダに対して向けられたままだ。ブレンダはというと、そんな彼らの様子を目を細めながら観察しているようだった。
「…彼女からは、少しばかり話を聞かせてもらった、、」
俺には彼女が害をもたらすような存在だとは思えないと、セイドウは付き人二人に対して言う。
「……」
そんな彼の様子を、付き人の二人は静かに見つめる。ゼル爺は詠唱を中断しているようであったが、コバヤシにはこの二人から、これまでと違った様子なのが伝わってきていた。
ブレンダはブレンダでいまだ何一つ言葉を発していない。
「…仕方ありませんな」
ゼル爺がそう言うと、彼は一瞬だけその手をブレンダの方からセイドウに向けたのだった。
気づくと、シエナ嬢もセイドウへと向けて左手を向けていた。右手は剣をブレンダに向けたままである。
「「特異法術《躁》」」
二人が同時に何かを唱える。これはコバヤシにも聞き取る事ができた。
かくん、とセイドウの頭がうなだれる。ここからだと彼の表情を確認する事はできなかったが、突然彼の全身から力が抜けてしまったように前へとうなだれている。上から糸で吊らされている“人形”のようにも見えなくない。
コバヤシは目の前で起きたことに対してそこまで驚きはしなかった。もしかしたらこうなるかもしれないということは十分に予測の範疇であったからだ。
それにしても、、
人形のようになった勇者はそのままに、シエナ嬢とゼル爺の二人はもうすでにブレンダとの戦闘態勢に入っている。
「勇者は魔女の後だ」
前で剣を構える彼女にゼル爺がそう小さく告げるのをコバヤシは聞き逃さなかった。
彼はブレンダの方を見ると、彼女はいまだ臨戦態勢にすら入っていないように見えた。自分が狙われているのが分かってないのか、、?
コバヤシがそんなことを考えていると、シエナ嬢が真っ直ぐにブレンダへ向かって剣を振りかざしてくる。
しかしその刹那に、コバヤシは確かに聞いた。
ブレンダがこちらを向き、その灰色の瞳を静かに輝かせながら、こちらへと向かってこう言ったのを。
「大丈夫、ボクはこれでも結構強いんだ」




