【決意】4-22
「・・・・。」
セイドウは無言でブレンダの方をじっと見つめている。コバヤシの位置からだと、彼がどのような表情をしているかまではわからなかったが、少なくともこの状況を楽しんでなどはいないだろうということだけは分かる。
ブレンダはブレンダで特に顔色一つ変えておらず「そうだ、お茶菓子でも出そうか」などと呑気な事を言っており、その表情からは一体どこまでが本気なのかいまいち読み取れなかった。
するとしばらくしてセイドウが再び口を開く。
「その“勇者を縛り付ける魔法”とやらが発動すると、俺は一体どうなるんだ、」
彼の問いに対しブレンダは答える。
「見たところ、キミにかけられているそれは、かつて見た召還勇者にかけられていたものと全く同じでね、」
だからもしそれが発動したとなると、
「キミ自身の意識は一時的に消え、王国の完全な僕となる」
あくまで一時的なものではあるが、と彼女は続ける。
「しかしそれは勇者を“消す”には十分な時間だよ」
ブレンダはそう言って言葉を止める。その場から一切の音がなくなったかのように感じられた。もしかしたらそういった魔法を彼女がかけているのかもしれないとすらコバヤシには思われるほどだった。
「…まず、やはりそんな魔法の存在なんて信じられない、、」
そして、、
「もし仮に、あなたの言った事が本当だったとして、なんで王室はそんなことをする、、」
セイドウは、おそらく疑惑の目で彼女を睨みつけてもいるのだろう。
「…それに、彼らがそんなことをするようには、俺には思えない、、」
“彼ら”とはあの二人の事を言っているのだろうと、コバヤシはいま自分たちと一緒にこの場には居ないセイドウの付き人達を思い返しながら考える。
「キミがあの二人をどう思っているかに関してはボクの思うところではないが、なぜ王室がそんなことをするのかという理由は簡単だ」
そう言うと彼女は一瞬間を置く。
「キミという、つまり勇者という力の暴走を未然に防ぐため」
そしてもう一つ、
「勇者という“兵器”が他の者の手に渡る事を防ぐため」
おもにこの二つだろうねと彼女は言ってから、ふぅと少しのため息を漏らす。その場には再びの静寂が戻る。
彼女が告げたその理由とやらは、おおむねコバヤシが予想したものと大差の無いものであった。どんな世界であれ時代であれ、相変わらず人間が考える事なんてものは似たり寄ったりかと彼は考えながらも、セイドウの様子をうかがう。
「……」
しかし彼はショックでも受けているのか、それとも考えをまとめているのか(出来れば後者であって欲しいが、、)全く動き出しそうにはなかった。
しょうがないな、、
「どうしてあなたはセイドウを助けようと?しているんですか?」
コバヤシにはいまいち彼女のその目的がはっきりとは見えてこないのだった。彼がそう尋ねると、ブレンダはその灰色の瞳を今度はこちらへ向ける。
「…まぁ、イケメンが嫌いな女性なんて居ないんだよ」
それから悪戯っぽくニヤリと微笑む。どうも本気なのか冗談なのかがよくわからない。もしくは理由を教えたくないのかもしれない。
それならばいくら問い詰めても意味が無い事なのかもしれないとコバヤシは考え、今度はセイドウに向かって話しかける。
「セイドウ、どうするんだ」
そう彼に尋ねかけると、その言葉でふとわれに返ったかのようにこちらを振り向き「…少しだけ、考えさせてくれないか」と言う。
コバヤシはそれにうなずくと、部屋の外に居るリーシアの様子を再び見に行く事にする。
「あぁ、彼女にかけた魔法はもう解いておくよ」
ほとんど話も終わったしと、ブレンダはそう告げた後に再び呪文のようなものをさらっと唱える《解法解止》
するとリーシアの目にみるみる生気のようなものが戻っていくのがわかりコバヤシは少し安心する。
「…あれ、、私、、」
それからリーシアは意識を取り戻したので、それまでの流れを(転生云々は抜いて)ざっと話す事にする。ちなみにブレンダについては「とりあえず今のところは害意はなさそうだ」と伝える事にした。
まだ100パーセント信用したわけではなかったが、、
リーシアはコバヤシの話を聞くと、なぜかこちらに「ごめんなさい、、」と謝り、ブレンダへの警戒を非常に強くしたみたいであった。まぁ魔法をかけられた身としてはそうなるか?と彼は考える。
それにしても後ろからくっ付くように隠れるのは色々とくっつくからやめて欲しいところである。
・・・
「…よし、、」
しばらくしてセイドウがそう言うと、彼はイスから立ち上がりブレンダへと向き直る。コバヤシとリーシアの二人は特にすることもなくなっていたのでブレンダの出してきたお茶(紅茶のようだ)とお茶菓子を頂いていた。
「あの二人と、話がしたい」
セイドウはブレンダに向かってそれだけ告げる。
「…念のために聞くんだけど、」
彼女はそんな勇者を見据えて続ける。
「一体何を話すつもりなんだい」
するとセイドウは迷い無く彼女に向かって言う。
「もちろん、真相を聞きに」
コバヤシには彼のその“真っ直ぐさ”のようなものが愚かというよりむしろここまでくると逆に尊敬できてしまうのだった。
「セイドウ、、彼女の味方をするって訳じゃないんだが、」
もし彼女の言っている事が全て事実なのだったとしたら、、
危険すぎるのではないかと、コバヤシは思ったことを彼に伝えてみる。するとセイドウはこちらをちらりと見てから、「大丈夫」とだけ言って再びブレンダのほうを見るのだった。
…いったい何が“大丈夫”なのだろうか、、
ブレンダの話を聞く限り、勇者を縛り付ける魔法とやらを行使されたら、まず間違いなくどんな勇者でも手のうちようが無いのではないかとコバヤシには思えた。
…言ってもしょうがないのかもしれないけど、
「ボクがこれまで言ったことは本当の事なんだよ」
それでも行くのかい、と彼女は少しだけ心配そうな、または理解できないといった様子でセイドウの事を見つめていた。
「それは、自分で確かめたい」
あの二人の事も信じたい、と彼はそう続ける。その目には揺るぎようのない強い意思のようなものがある。
ブレンダはしばらくセイドウの事をその灰色の瞳で見つめていたが、やがて「はぁ、、」とため息を漏らすと、
「…分かったよ、」
彼女は彼の頼みをしぶしぶ了承するのだった。




