【Mother in the Town】4-21
ブレンダの話を横で注意深く聞きながら、コバヤシは彼女の話を頭の中でまとめていた。
「ちなみにボクが知っている限りで、」
自分の世界へと帰れた“召還勇者”は居ない
「ベレッセンの地下にはね、大きな大きな墓地があるんだよ」
そしてそこは、こうして呼ばれているんだ
「勇者達の墓」
ブレンダは、セイドウから視線をはずしてそう告げる。
コバヤシの位置からだと彼の表情まではわからなかったが、セイドウは前を見つめたまま、一つも言葉を発さずにただ静止している。
それにしても“勇者の墓”か、、
どうもこの世界での勇者という存在は、コバヤシが知っている、または考えているようなものとはずいぶんと違っているのだろう。いや、そもそもコバヤシが勇者などという存在について知っていることなんてたかが知れていたが。
もう少しそういったゲームや物語にでも嗜んでおけば良かったか、
しかし、、
「なんであなたはそんなことも知っているんだ」
今度は黙っているセイドウに代わってコバヤシが彼女に尋ねる。
「…まぁ、ボクは本当に長い間生きてきたからね、」
だから、知っていることもそれなりに多いんだよと、ブレンダは本気なのかどうかわからないような口調で答える。
やはり何かを隠しているようにコバヤシには感じられるのだった。
いや、隠し事をしているのはお互い様かもしれないが、、
こっちだって、自分の転生云々については何一つとして話していないのだから。まぁ向こうから何か聞かれたわけではないので、隠しているというのとはすこし違うかもしれない。おそらくこの女性は、彼女が最初に自分でも述べたように、他人が転生者だとか勇者だとかはどうでもいいのかもしれない。
「…それなら、、魔王を倒せば勇者は元の世界に帰れるというのは、、」
それは彼にしてはずいぶんと小さな声であったが、セイドウが再びブレンダに尋ねる。
わからない、と彼女は言う。
「ボクが知っている限り、“召還勇者”が魔王という存在を倒した事なんて一度も無いんだ」
だから、わからない
「そもそも、魔王なんて居ない時代に呼び出された“召還勇者”だって何人も居てね」
彼女が話すその内容は、コバヤシにとっても興味深いものであった。話から推測すると、この世界では勇者と魔王というものは一定の周期で出現するとのことらしい。そして“召還勇者”ではなく、この世界の人間がそのまま“勇者”としてあがめられるパターンもあるとのこと。過去に魔王を倒した事のある勇者というのは全てこちら側だったとのことだが、その事実は何故か一般には広く伝わっていないのだとか。
勇者や魔王なんてものには興味がないと言っているにも関わらず、このブレンダという女性エルフはずいぶんとそういった事情に詳しいように思えた。もちろん彼女の言う事が全て真実だったとしたらの話ではあるが。
「…そう、か、、」
セイドウは消え入りそうな声でそう呟く。少しだけ、コバヤシは彼に対して同情を禁じえない。しかし彼が本当に魔王とやらを倒す事ができたのであればまだ可能性は0という訳でもないだろう。
しかしセイドウ達一行がここまで来たのは彼女、古の魔女とされているブレンダが魔王と何らかの繋がりのある存在だから、としていた訳であったので、ここでその手がかりは全く無くなってしまったのは確かだと言っていいだろう。
これから彼らはどうするのだろうかとコバヤシが考えていると、ここでブレンダが更なる新事実を告げてくるのだった。
「おそらくだけど、“召還勇者”が魔王を倒せない、または倒させないのには、理由があるんだと思う」
彼女はセイドウのそばへと近づいていく。
セイドウはすでに疲弊しきっているのか、それともすでに頭がいっぱいいっぱいなのか、彼女が近づいてくる事に対して特に何の警戒もしないように見えた。
「ちょっと失礼」
彼女はそう言うとセイドウへ右手をかざす。その手はぼんやりと白い光を灯していた。
《現隠魔象》
不思議な事に、彼女の使うこの古代魔法とやらは、その詠唱らしき言葉は何一つとしてコバヤシには聞き取れないのだが、しかし彼女が魔法を使うたびにその“イメージ”だけは彼にもなんとなく理解できるというものだった。
「…やっぱりか、」
ブレンダはそう言ってから自身の手を下げる。すると手に灯っていた不思議な光も消える。
セイドウくん、
「キミの体の中にも、これまでの“召還勇者”同様の、勇者を縛り付ける魔法がかかっている」
彼女はそう言ってから、ふぅと少しため息をつく。
「あの王家で召還された勇者には、基本的にこの魔法がかけられているんだ」
勇者達の行動を縛るためにね、
それを聞いてからしばらくのあいだ、セイドウはぽかんとするもすぐに、
「…そんなのを、信じろっていうのか」
睨みつけるように彼がそう告げる。無理もないことだとコバヤシには思えた。しかし、、
「ボクがその魔法、解いておいてあげようか」
彼女が続けてそう言ったことは意外であった。
「実は、キミをここに呼んだ目的のもう一つがこれなのさ」
まぁイケメン勇者と“おしゃべり”したかったってのも、もちろんホントだよ
彼女は舌をぺろっと出して微笑む。本当に、ちょいちょいこの人は子供っぽいなとそれを見てコバヤシは思う。
「もちろんキミがそれを望むのであれば、だけどね」
最後にブレンダはそう言ってセイドウの反応を待つ事にする。
今日初めて知ったいくつかの新事実を、後でもう一度自分用にまとめておこうとコバヤシは考えつつも、同じくセイドウの反応を待つ。
彼は少しぼぅっとしていたようだったが、やがてゆっくりと口を開く。
「…勇者をしばりつける魔法があるだなんて、、これまで聞いたことも無い、」
彼はブレンダの方をあらためて向きながら続ける。
「…そもそも、、もしそんなものがあったとして、、」
それが一体どんなものなのか分からない事には、、
セイドウはそう言いながらもやはり少し混乱しているようで、その口調はいつものように自信に満ちたあの声色からは程遠かった。しかしコバヤシにもセイドウの言い分は十分に理解できる。
「魔法を解除する」だなんて言って逆に“呪い”のようなものでもかけられた日にはたまったものではない(そんなものがあるかは別として)
「確かにね」
ブレンダは彼の言う事に簡単に同意する。むしろ反対される事が分かっていたかのようであった。
「ボクもその魔法の存在について確信したのはほんの100年ほど前のことだから」
さらっとすごいことを彼女は言う。ほんとにこの女性の歳はいったいいくつぐらいなのだろうかとコバヤシが考えていると、ブレンダは更に続ける。
「でも少なくとも、キミの付き人たちは当然これを知っているよ」
なんせ、、
彼女はそこで一息つく。
「彼らこそが、キミにその魔法を行使する役割なんだからね」




