【勇者と魔女】4-20
大人になるまでここで捨て子たちの面倒を見る。そして大人になったらこの“タウン”の外で自分たちの人生を自由に生きさせる。
そのために、この場所で子供たちは生きていくための術を身につけさせるのだという。それらは勉強であったり、職業訓練のようなものだったり様々なんだとか。
彼女は、これまでずっとそんなことをここで一人やっているとのことであった。
…ん? ひとりで?
コバヤシは、自分たちをこの家まで案内してくれたあの老婆の事を思い出す。
あの老婆もここに居るのではないかと、コバヤシはブレンダにそれを尋ねてみると、
「あぁ、“あれ”のことか、、」
彼女はそう言ってから何やら静かに呟く。
《外装変在》
コバヤシの頭の中に再び不思議なイメージが直接流れ込んでくる。おそらくこれが彼女の言うところの古代魔法というものだろう、、流れてくる(いや入ってくるというべきか)そのイメージは毎度いくつかの“文字の組み合わせ”であった。
そんなことを考えていると、目の前のブレンダの顔がみるみるうちに溶けていきながら変わっていくことに気がつく。いや、顔だけではなく体型や服装も、まるで粘土をこねあわせていくかのように、瞬く間に変わっていってしまった。
・・・
「お待たせいたしました」
そしていつのまにか、ブレンダが先ほどまで座っていたその場所には、あの老婆が座っていたのである。
「っ!?」
隣でセイドウが目を大きく開き驚くのをコバヤシは気がづく。
なるほどなと一人この古代魔法とやらに感心していると、その老婆は続けてこんな事を言うのだった。
「ちなみにこんな事もできるんだ」
《複同写居》
再びコバヤシの脳内には不思議な文字列のイメージが流れ込む。
「…すごいな、、」
コバヤシは、自分の目の前で起きている事に素直に感心する。彼の目の前には今、全く同じ姿かたちをした先ほどの老婆が二人、同じようにくつろいでいる。最初は幻のような魔法なのだろうかと彼は考えたが、どうやらどちらも“実体”があるみたいだ。
「「こうやってここの仕事は分担してやってるんだよ」」
二人の老婆が、言葉遣いはそのままで同時に喋る。しかしこれは少し気味の悪いものがあるな、、
次にこの老婆のうちの片方が指をパチンと鳴らす。
するとたちまちに指を鳴らさなかったほうの老婆がぱっと一瞬で消えてしまうのだった。
「まぁもちろん他の魔法も使ってるけどね」
そして今度は、早戻しをしたかのように老婆の顔が元の女性エルフである方のブレンダへと戻っていく。
しかしこれであの老婆と、今ここに居るこの女性エルフのブレンダのそのどちらもが“マザー”と呼ばれているのかがコバヤシには理解できた。あの時の「“マザー”とは、私のことでありまたそうではありません」という不可解な言葉も、一応は理解できたといっていいだろう。
「“マザー”という記号を使ってる訳か、、」
コバヤシがぽつりとそう呟くと、ブレンダはこちらに向かって再びにっこりと微笑む。
「…ここで何をしているのかは、分かったよ、」
しかし、、とセイドウは少しためらいがちにブレンダのほうを見る。今では彼の“敵意”のようなものはもうほとんど無いようにコバヤシには感じられた。
だが、、
「なぜ、、そんなことをしているんだ、、」
ブレンダのことを見つめるセイドウの瞳には、いまだ困惑の色が浮かんでいる。
彼女は、セイドウのその言葉を聞くなり薄灰色をしたその瞳を伏せ見がちにする。その仕草からはやはり寂しさみたいなものが伝わってくるのだった。
「なぜ、、か、、」
彼女は言葉を選んでいるようだった。いやもしかしたら上手く言葉が出てこないのかもしれないとコバヤシは思う。
まぁ、、
「長生きしていると、それなりに色々あってねえ」
それはセイドウへの答えと言うにはいまいちはっきりとしないものであった。
ただ、、と彼女は再び話を続ける。
「これはボクの、単なるわがままなんじゃないかな」
ブレンダはそう言って、さびしげに微笑む。
・・・
“この場所”について、他の“転生者”と“召還勇者”について、そして“魔王”とやらのかかわりについて、その後セイドウとコバヤシが尋ねてみるも、ブレンダは「君たちに話せるようなことはもうあんまりないんだよね」と言うだけであった。
コバヤシには彼女がまだ何かを隠しているかのようにも思えたが、自身の目的はもう十分に果たしたのだからこれでよしとすることにする。
この転生者は何の問題も無いみたいだしな、と彼はどこか安心するのだった。
「…ではなぜ、王家はキミを探し続けていたんだ、、」
“魔王”とのつながりというのも、、
セイドウは、自身の目的を見失ったかのようにその場に打ちひしがれている。
「…キミは、いったいこの後どうする気だい?」
ボクを拷問にでもかけてみるかね
そんなセイドウの様子を見ながらブレンダはどこか他人事のようにそう言う(実際彼女にとってはそうなのかもしれなかったが)
コバヤシはすでに口を挟む事はしなかったが、それでも“拷問”とはまた冗談にしてもたちが悪いなと思う。いや、もしかしたらこの世界では普通のことなのかもしれないか、、
「…そんなことは、しない、、」
セイドウは彼女の目を見ながらそう告げる。
「ここの子供たちを見れば、あなたがどういった存在なのかは、もう十分に理解している」
しかしそれなら、、と彼は言葉を言いよどむ。
「それならなぜ、王家はボクを探しているのか、って?」
ブレンダは少し真剣な口調で言う。
セイドウ君、
「キミは、これまでにあの王家に対して何か不思議に思ったことはなかったかな」
何か、大切な事は隠されている、みたいな、、
そんな彼女の言葉を聞いて、コバヤシはセイドウと前に交わした会話を思い出す。
「…まぁ、、あることは、ある、」
セイドウは考えながらもそう呟く。
「王家がボクを探すのに、最もそれらしい理由は、」
魔王に関係している、とかなんじゃないかな、




