【転生順】4-19
転生、転移、召還、、
「ボクは、正直言うと“これら”に関しては全くと言っていいほどに詳しくないし、そもそもそんなに興味も無い」
だけど、、
「もうずいぶん昔の話になるけど、ボクには覚えている事が一つだけあるんだ」
そこで彼女は一息つき、少し深呼吸をする。
「まず、ボクは君たちが言うところの“始まりの転生者”ではないんだ」
ブレンダはそう言うと、再び言葉を区切る。
今はとにかくこの女性が言うことの全てを忘れないようにと、コバヤシは一言一句聞き逃さぬようにするのだった。
「もう、本当にずいぶんと昔のこと、、」
数百年以上も昔のことなんだけどね、と彼女は続ける。
「ボクはこの世界に、そう、、確かに“転生”したらしい」
そう言ってから彼女は、何かを小ばかにでもするように「ふっ」と笑う。視線はどこか遠くを見つめているかのようであった。
コバヤシとセイドウは彼女の話に、マザー・ブレンダの話に耳を澄ませる。
「といっても、転生前についてのことなんてほとんど覚えていないんだ」
いくつか覚えている事もそりゃあわずかだがあるけどね、
「例えばこの名前とかさ」
彼女はそう言うと再びニヤッとこちらへ笑いかける。そうか、、これは彼女の“前世”での名でもあったのかと、コバヤシは一人納得をする。
かつては他の名前で呼ばれていたときもあったらしいが、その名前を思い出した時からは彼女はそれからずっと“ブレンダ”で通しているのだとか。
そしてもう一つ、と彼女は続ける。
「この世界に転生したときに、確かに聞いたその言葉を、ボクは今でもはっきりと思い出すことが出来る」
あなたは、この世界に“転生”した二番目の存在です、ってね、、
コバヤシはブレンダの顔を静かに見つめる。
セイドウもコバヤシも、二人とも言葉を発さなかった。どちらもそれぞれに先ほど得た情報をまとめて整理しながら解析をするのに頭をフル回転させている。
「だからボクは“始まりの転生者”じゃ無いって訳」
なんでボクがそう呼ばれるようになったのかは逆にこっちが知りたいぐらいなんだよと、彼女はその頬を少しぷくりとさせて冗談っぽく言う。
彼女の言葉はどの程度信用できるのだろうかと、コバヤシは目の前に座っている女性のことをじっと見つめる。
いや、、自分にとって彼女が“一番目”だろうが“二番目”だろうがたいして関係は無いかとあらためて思い返す。
彼にとって大事な事は、この女性転生者が“あの王様”みたいなことをしでかさないかというだけであった。しかし、その点に関してはもうすでに彼の中で結論に近いようなものが出ている事に気づく。
コバヤシには、彼女がイチノセと同じような存在だとはどうしても思えなかったのである。
…まぁ、これはやっぱり“セーフ”だろうな、、
彼はそんなことを考えてから、ふぅと少しのため息をつく。どうやら意外と緊張していたようであった。
「転生する前のことはほとんど覚えていないんですね?」
コバヤシは彼女に尋ねる。
ブレンダはこくりとうなずき、それから「そもそもずいぶんと昔の話だからねえ」とおどけたように話すのだった。
「…何か、この世界に転生した際に“聞いた言葉”とやらは、今でも聞くことがあるんですか」
彼は、自分がこの世界に転生してから備わった“いくつかの機能”を思い返しながら尋ねる。
「…いや、あの時の一度っきりだよ、、」
彼女がこちらを真剣な表情で見つめる。
「あぁ、そうか、、」
キミも“転生者”なんだもんね
ブレンダはそう言ってから再びあの悪戯っぽい笑顔をこちらに向ける。
「実は、ボクには生まれつきから持っている力が一応二つあってね」
ブレンダの言葉に驚いているコバヤシに対して彼女はそのまま続ける。
「一つはまぁ、なんというかこの“寿命”についてなんだけど、、」
なんでも、ただでさえ長寿のエルフよりも、それを超えはるかに長くかついつまでも若く生きられる“不老超長寿”という力らしい。
「そしてもう一つが、、」
ブレンダはコバヤシの顔を見つめる。
「自分と同じような存在を、こうして自然と認識する事ができるというものなんだ」
・・・
「この“へんてこな能力”のおかげで、私は前に、おそらくあれが本当の“一番目”に転生したと思う存在にも会ったことがあるんだ」
彼女の灰色の瞳が、再びどこか遠くを見つめるような眼差しになる。
「まぁ、、本当に一瞬の出会いだったんだけどさ、、」
この不思議な力に関して、彼女はそれを《転召認識》と呼んでいるとのことだった。「転生や転移、または召還された存在かどうかを認識できる能力」という意味で《転召認識》とのこと。
彼女は、自分の魔法をそういった言語にし、イメージをより明確にする事によって利用しているのだという。リーシアにかけた魔法もその類いのもので、今ではこのように魔法を使うものは少なく、場所によっては魔法だと認識すらされない、もしくは《古代魔法》と言われていることもあるのだとか。ちなみにセイドウはこのような魔法など聞いたことも着たこともないとのことだった。
「たぶんボクが“古の魔女”だなんて仰々しい呼ばれるのも、そこらへんが原因なのもあるんじゃないかな」
そう言う彼女はどこか楽しげである。こっちの“二つ名”は気に入っているのだろうか、、
いくつもの新しい情報について整理しつつも、コバヤシは隣でさっきからセイドウがずっと沈黙していることが少し気になり、そちらをちらりと除き見る。彼はもう太刀にその手をかけてはいなかった。
セイドウはブレンダの方を向いて彼女の話を静かに聴いており、その両腕は胸の前で組まれていた。彼の目は真剣そのものであったが、今では先ほどまでの“殺気”のようなものは感じない。
すると今度はセイドウがブレンダに対して質問を投げかける。
「ここに居る子供たちは、一体何なんだ」
キミはここで、何をしている
彼の、ブレンダに対する敵意のようなものはだいぶ薄くなってきているようであったが、それでもまだ彼女の事を信じているわけではない事がはっきりと伝わってくる。むろんそれはコバヤシも同様であったし、そしてセイドウのこの質問はコバヤシも気になっていたことであった。彼女に尋ねたい事は他にもいくつかある、、
「う~ん、、」
するとブレンダは目を閉じて、少しだけ考え込むようなポーズを取る。単に応えたくないのかそれとも答えににくい質問なのか、、
「今日までわりと色々あったんだけど、、まぁ、ここの子達は、元はみんな捨て子でね、」
捨てられていた赤子達を、ボクが拾ってきてここで育てているって訳
「“マザー”なんて呼ばれてるのはたぶんそのせい」
いつから呼ばれてるのかは分からないんだけどね
彼女はそう言うとふふっと笑う。それにしても、彼女のそのスキル《不老超長寿》のせいか、おそらくはとてつもなく長生きしているだろうにも関わらずこのブレンダというエルフは時々まるで子供のような笑みを浮かべるなとコバヤシは思う。
普段から子供とずっと接しているからだろうか。
まぁでも、、
「大人になったら、みんなにはここを忘れて出て行ってもらってるんだ、」
彼女の声が、急に悲しみを帯びる。
…忘れて、、?
コバヤシが彼女のそんな言葉に反応すると、彼女はそれを察してか次のように続ける。
「レベルや能力の低い知的生命体なら、ボクの古代魔法である程度の記憶を操作できるんだ」
彼女はなぜか自嘲気味に笑いながらそう告げる。
それにしても彼女の使う古代魔法とやらはかなりの汎用性があるらしく、言葉とイメージを組み合わせる事によって様々な効果を発揮できるとのことらしい。
記憶の操作とは、さすがに恐ろしいが、、
コバヤシは彼女に対してわずかに警戒心を高める。
「なぜ、そんなことをしているんだ」
ここでみんなと住めば良いじゃないか、とセイドウは告げる。
しかし彼女はその瞳に悲しさ、いやさびしさだろうか、をたたえながら彼の問いに応える。
「最初はそうしてたんだけどね、、」
でもほら、、
「みーんなボクを置いていっちゃうのが辛くてね」
だからやっぱり、一人の方が良いんだ
彼女はそう言って、やはりどこかさびしげに笑う。




