【理由】4-18
セイドウが即座に自分の刀に手をかけ、目の前の彼女を睨みつける。今にも斬りかかりそうな雰囲気であった。
「おいおいおい、物騒じゃないか。やめておくれよ」
しかしブレンダは、そんなセイドウの態度などまるで意にも介さずといった様子でそう告げる。
彼女の言葉を聞いてもセイドウはいまだ警戒を解くことはなく、いつでもその太刀を抜けるような構えを維持している。
リーシアさんはというとぽかんとした様子で、いまいちその展開についていけてない事がよく分かる。コバヤシはそんな周囲の様子を静かに観察していた。
彼はあまり自分の“直感”だとか“勘”だとかを信じている方ではなかったのだが、それでもコバヤシにはどうしても目の前のこの、まるで少年のような言葉遣いで話す彼女が、こちらに害のある存在だとは思えなかった。
「お願いだから、落ち着いて話を聞いてくれないかな」
ブレンダが、少しだけ悲しそうな表情を(のようにコバヤシには思えた)してセイドウの方へ話しかける。
しかし彼は厳しい表情で彼女の事を睨みつけるのをやめない。いきなり斬りかからなかっただけでも良いと思えるほどの殺気を放っていた。
…しょううがない、、
「セイドウ」
コバヤシが静かに話しかけると、彼の視線が少しだけこちらを意識するのが分かった。
「俺には彼女がこちらと敵対したいようにはどうも思えない」
少し話を聞いてみないかと、彼はブレンダへ助け舟を出す事にする。コバヤシとしては“古の魔女”だとかというものよりも、彼女が本当に“始まりの転生者”などと呼ばれているのか、そしてもしそうであるならばそれは何故なのかについてを聞き出したかったのだった。
セイドウは、そんなコバヤシの方へ少し視線を移し、そしてしばらくすると太刀にかけていた手をようやく元に戻す。だが警戒の姿勢は全く解いていないように見える。
「ありがとう」
ブレンダはそう言うとこちらにウインクを投げかけてくる。どこぞの“サキュバスまがい”よりもはるかに洗練された仕草であるとコバヤシには思えた。
「そうだな、、」
ここから先の話は、三人の方が都合が良いかな
彼女はそう言うと、リーシアの方へ向かって何かを呟く。
「《誘導不聴》」
コバヤシの脳に直接、不思議な言葉のイメージが流れてくる。なんだこれは、、
すると隣に座っていたリーシアがゆっくりと立ち上がり、何も言わずに部屋の外へと向かって歩き出した。
「…何をした、」
ここへ来て初めて、コバヤシは少しばかりの敵意を彼女に示す。
「大丈夫。彼女にはボクたちの話が終わるまで、部屋の外で少しの間待っていてもらうだけだよ」
ブレンダはそう言ってからコバヤシに向けてにっこりと笑いかける。
「…害は無いんだな、、」
コバヤシのそんな問いかけに対し、彼女は「もちろん」と軽く返事をする。
確かにリーシアは部屋を出て行くと今度は扉のすぐ外で待機をしているようであった。とろんとした顔つきである。
「…わかった」
そんなリーシアの姿を確認すると、コバヤシは再びこの“古の魔女”とやらが話を始めるのを待つ事にする。
・・・
もう気づいているかもしれないが、君たちをここへ連れてきたのはボクなんだ。あぁ、でも心配しないでくれよ。キミたちが元々居た“あの場所”からここは、ホントはまったく離れていないんだ。周りの景色や広さが全然違うじゃないかって? それはあくまでそういう風に見せているだけなんだ。え? あぁ、キミたちのお仲間さんたちの残りは今も“向こう”に居るよ。あの二人にもこっちに来られると、たぶんこうやって落ち着いて話すら出来ないと思ったからね。それにそもそもある程度の実力がなければどうあってもこちら側には来れないよ
それにしても、
「本当はこの勇者、セイドウ・タケルとだけ話そうと思ってたんだけどねえ」
彼女はそう言ってからこちらをにやついた顔で見つめてくる。
このマザー・ブレンダなるもの曰く、この場所『タウン』へは、彼女が許可した人間、または彼女と同等以上の“強さ”が無ければ入る事はおろか見つけることすら出来ないのだという。
「キミはまだしも、外に居るあの娘もとはね、」
少し驚いてしまったよと、ブレンダはおどけた様子で言う。
「…ということは、、」
するとセイドウが口を挟む。
「本来は俺だけが目的だったというわけか」
再び彼の方から殺気がもれ出るのをコバヤシは感じる。
「何が目的だ、、」
その殺気はどんどんと鋭くなっていく。
「目的、か、、」
しかしブレンダは、やはり彼のそんな態度など意にも介さずといった様子で、一人考え込むように唸っている。コバヤシも、この女性エルフの目的については当然気になっていた。
「目的は、、」
そうだな、
「いくつか、あるんだよ」
彼女はこれまでの様子と少しだけ雰囲気が変わり、その口調にはわずかだが“真剣さ”のようなものが混ざっているように思える。
「キミたち、いわゆる“召還勇者”というやつは、どうも代々ボクを見つけようとしてきたみたいでね」
もちろん魔王を探すのもそうなんだけど、、
「でもまあ、これまでの子達はそもそもここまでやってこれるほどの力なんて無かったんだ」
だから、キミが初めてなんだよと、目の前の彼女はまるで子供に微笑みかけるようにセイドウへと語りかける。
彼女の話を一つ一つ分析しながらも、この女性はいったいいくつぐらいなのだろうという疑問がコバヤシの中で沸くのだった。
「だから、少しだけ直接話してみたかったんだ」
その“召還勇者”っていう存在と
「それが一つ」
彼女はそう言うと人差し指をぴしと立てる。なぜかその姿を見てコバヤシはドラコを思い出す。
そしてもう一つ、と彼女は次に親指を立てる。
「キミたちは、ボクが王都の一部でなんて呼ばれているのかもう知っているのかな」
ブレンダはセイドウとコバヤシの顔を交互に見ながら尋ねてくる。
「…いにしえの魔女だろう」
セイドウがぼそりと告げる。すると彼女はそれに対してこくりとうなずき、
「あともう一つあるんだけど、それも聞いたことがあるのかな」
再び尋ねる。
「始まりの、転生者、、」
今度はコバヤシが応える。これが、これこそが彼がこの旅に同行した理由でもあった。
彼女はコバヤシの方を向き、再びこくりと頷くのだった。




