【タウン 2】4-16
コバヤシ達三人は一同顔を見合わせてためらうも、結局はこの老婆の後を付いていくことに決める。
「どう思う、」
セイドウが静かにコバヤシにそう尋ねてくる。
前を歩く老婆からは、やはり敵意のようなものは感じなかったものの、その正体や目的などは何一つとして不明、危険性が無いわけでは決してない。
この場所がどこかも分からないままだしな、、
「あの、」
コバヤシは前を歩く老婆に質問をしてみることにする。
「ここはいったい何処なのでしょうか」
何について聞こうか少し迷ったが、まずはこれを尋ねてみる。すると彼女は歩きながらも少しだけこちらを振り返り(その時コバヤシは彼女の瞳が真っ青な色をしている事に気づいた)ぽつりと一言だけ呟く。
「ここは“タウン”でございます」
それだけ言って再び前を向いてしまう。
たうん、、?
コバヤシはその返事に少し戸惑う。『タウン』という町の名前なのか、、?
「…アキラ、もしかしたら君は気がついてないのかもしれないが、、」
しかしそこで、セイドウが思わぬ事実をこちらに告げてくる。
「あの女性、さっきから日本語を話してるんだ」
彼の目は、前の老婆を鋭く捉えていた。
・・・
コバヤシは、セイドウのその発言にひどく驚き、それからすぐにリーシアの方を見る。
「リーシアさん、あの女性が使っている言葉は分かりますか?」
彼女の様子を確認しながらコバヤシは尋ねる。
「え、、? あ、いや、分からないです、、」
お二人には分かるのでしょうかと、少し混乱している面持ちでこちらに尋ねてくるのだった。
コバヤシはそんな彼女に対し、心配要らないですよとだけ言って安心させようと微笑む(少なくともコバヤシは自分が微笑んだつもりではある)
「あなたは、一体何者なんですか、、?」
私たちが来るのが分かっていたのか
すると今度はセイドウが、彼にしては珍しく少し強い口調で前を歩く老婆へ質問を浴びせる。
「…詳しくは、あなた方をお待ちしているかのお方よりお聞きください、、」
老婆は一瞬だけ立ち止まり、こちらを振り返らずにそう告げると、再び歩き出す。
その口ぶりからして、少なくともこの場所で自分たちのことを待っている(?)存在が居るという事が分かった。“かのお方”と呼ぶのだから、この老婆の主人か何かだろうかとコバヤシは考える。
セイドウは、老婆のその答えにいまいち納得していないようだったが、それ以上は特に何も言うことはなく、前を歩く彼女の後ろを黙ってついていくことにしたようであった。
コバヤシもその後ろに続き、リーシアにはこれまでの老婆との対話内容を伝える事にする。
・・・
前を歩くその老婆の姿からは、どことなく不思議な雰囲気が伝わってくる。
この世界で初めて見るような服装を着ているせいもあったが、それ以上に彼女のその立ち振る舞いや、“存在感”からくる“異様さ”のようなものが原因ではないだろうかとコバヤシは分析する。
老婆が着ている“着物もどき”とでも言うようなその服には、何故かフードが取り付けられており、所々が奇妙な(または奇抜な)デザインとなっていた。
一体いくつなのかは分からなかったが、その足取りは軽く、後ろからでは彼女の事を老齢な女性だと思うことは難しいかもしれない。
本当にこの女性はいったい“何者”なんだろうか、、
コバヤシは前を歩く老婆の、その後姿を眺めながら考える。
彼女もだが、“この場所”についても謎は深まるばかりであった。
まず、この『タウン』という村(もしくは集落?)には、建物と言えるようなものがほとんどと言っていいほどに無かった。
コバヤシ達が先ほど居た場所は、どうやらこの村の一番奥にある場所(行き止まり)だったようで、いま一行は引き返すような形で道を歩いている。その道は、明らかに人間たちの往来をうかがわせるような道であったが、今のところ前を歩くこの老婆以外に人間の姿は見えなかった。
いや、、
コバヤシが耳を澄ませると、子供の声と思われるようなものが周囲で、少し遠かったがいくつか確認する事ができた。
これでとりあえずはこの老婆が、人間をさらって食べるような物の怪の類いではない可能性が確認出来たかもしれないと、彼は少し冗談交じりに考える。
歩き進めるにつれ、次第に“建物”と呼べるものが二つ(ここで見る最初の“建物”であった)見えてくる。
横に平たく広がっているとても大きな建物が一つと、その近くに小さな一軒家のような建物が一つ。大きな建物の方は横幅が広く、おそらくは二階建ての造りだろう。どうも『病院』や『学校』といったもののような類いに見えなくもない。どちらも木造建築のようであった。
しかしこの世界に“そんなもの”などあっただろうかと、コバヤシが自身の記憶をたどっていると、
「マザー!」
遠くから何人かの、おそらくは子供の声が聞こえてくる。こちらに向かって呼びかけているようだった。
コバヤシがその声のした方へ目を凝らすと、どうもあの大きな建物近くにある広場(いや公園だろうか)に居る子供たちの声であるようだった。
それにしても、“マザー”…?
前を歩く老婆は、こちらへと声をかけてきた遠くのその子供たちへと向かって手を振り返している。
やはりこの老婆に対して呼びかけていたのかと、コバヤシは少し違和感を感じながらも納得する。
「あの、、あなたは“マザー”と呼ばれているのですか、、?」
それともそれは彼女の名前なのだろうかと思いながらもコバヤシは彼女にそう尋ねる。
すると彼女は少しだけ間を置くと、
「“マザー”とは、私のことでありまたそうではありません」
などとよく分からない答えを返してくるのだった。
コバヤシはセイドウの方を振り向くと、彼もよくわからないといった顔をしていた。
なぞかけみたいな答えだな、まるで、、
コバヤシはそんなことを思ったのだが、今度はもう少しこの村の様子、特に建物付近をよく観察してみる事にする。
どうも前を歩くこの老婆は、それが果たして彼女の名前なのかは分からなかったが、ここの子供たちからは『マザー』と呼ばれ、ずいぶんと慕われているようであった。
後ろからでは彼女の表情こそ分からなかったものの、こちらへ声を掛けてくる子供たちの全ては溢れんばかりの笑顔であった。
歩いている最中に多くの子供たちとすれ違ったが、その全員が、まるでコバヤシ達のことが見えていないかのように、そのまま通り過ぎていくのが彼は気になった。
いや、もちろん“よそ者”に興味が無いというだけなのかもしれないが、、
それにしても無関心すぎる気がしてならない。
そしてもう一つ、、
ここには、この『マザー』なる女性以外の大人の姿を一人も見ることが出来なかった。
ただの偶然にしてはその確率はあまりにもおかしいように感じられ、コバヤシは少しだけ不安を感じずにはいられない。
彼にはどこかこの場所が違和感で溢れている、そのように感じられるのだった。
「もうすぐで到着いたします」
老婆がこちらへと向かってそう告げる。どうもこの老婆の向かっている先は、さきほどから見えていたあの小さい方の建物(こちらは一軒家程度のサイズであった)のようだ。
一行は老婆の後ろに従い、得体の知れないその集落の中を歩き続ける。




