第13話 勝ったはずなのに
◆美波side◆
職員室の外に、美波が立っていた。最初から、ずっと聞いていた。三浦の証言も、天音の資料も、あの元の写真のことも。全部。足の力が抜けて、壁に背中を預けた。
信じていたものが、音を立てて崩れていく。なのに、彼女は、玲司の名前を呼んだ。
「玲司……」
職員室から出てきた玲司が、顔を上げる。
「美波……」
美波は、涙を浮かべていた。
「私……信じてた」
それだけ言って、それから、震える声で続けた。
「今でも、全部嘘だったって、思いたくない」
玲司は、何も答えられなかった。利用するために選んだはずの、その一人が。最後まで、玲司の味方でいようとしていた。けれど、その信頼にも、もう以前のような、疑いのない色はなかった。
◆悠真side◆
翌日から、玲司は学校に来なくなった。学校から、自宅での謹慎を言い渡されたらしい。警察にも、話が行ったと聞いた。僕の周りには、少しずつ、人が戻り始めた。
けれど、失われた時間が、すぐに元へ戻るわけではない。美優も。大輝も。奈緒も。誰も、簡単には、僕の前に戻ってこなかった。僕自身も、それを急ぐつもりはなかった。
勝った、という実感は、驚くほどなかった。胸に残っていたのは、達成感よりも、深い疲れと、ぽっかり空いた穴のような感覚だった。
ただ一つ、ずっと願っていたことがあった。
――もう一度、誰かに、信じてもらいたい。
その願いは、ようやく現実になり始めていた。天音。蓮さん。由美子さん。穂乃香。そして、かつて僕を疑った人たち。
これから、その一人一人と向き合っていく。僕の本当の戦いは、きっと、ここから始まるのだ。
*
玲司が学校に来なくなって、一週間が過ぎた。
学校の空気は、少しずつ変わっていた。廊下を歩くだけで向けられていた視線は減り、気まずそうに目を逸らす生徒もいれば、小さく頭を下げてくる生徒もいた。
けれど、僕はそれを、素直に喜べなかった。
あれだけ長い間、僕を疑っていた人たちが、真実が分かった途端に態度を変える。それは、仕方のないことなのかもしれない。でも、あの冷たい視線を向けられた日々が、なかったことになるわけじゃない。
「今さら」という言葉が、喉の奥に引っかかっていた。
心の狭さを責める気持ちと、それでも許しきれない気持ちが、僕の中でせめぎ合っている。そして、失ったものは、まだ戻っていなかった。特に――美優、大輝、奈緒。この三人との関係は、あの日のままだった。
話しかけようと思えば、話しかけられる。けれど、誰も、最初の一歩を踏み出せない。僕も同じだった。怖かったのだ。もう一度手を伸ばして、その手を振り払われることが。
*
放課後。下駄箱で靴を履き替えていると、穂乃香が待っていた。
「悠真くん」
隣には、お母さんが立っている。
「今度、うちに来て。ちゃんと、お礼をしたいの」
「でも、僕は何も……」
「何も、じゃないわ」
朋子さんは、笑った。以前のような、張りつめた表情は、もうなかった。
「天音ちゃんも、一緒にね」
「私も?」
背後から声がした。振り返ると、天音が立っていた。
「いつからいたの?」
「今来たところ」
そう言いながら、天音は少しだけ顔を赤くした。
「じゃあ、一緒に行こうか」
僕が言うと、穂乃香が嬉しそうに頷いた。少し離れたところから、蓮さんが口を挟んだ。
「お前ら、飯でも食って帰るか? 俺、ラーメン食いてえ」
「お兄ちゃんは、いつも自分が食べたいだけじゃん」
「じゃあ今日は、俺が奢る」
「本当?」
「悠真がな」
「お兄ちゃん!」
穂乃香が、小さく吹き出した。
僕も、笑っていた。
久しぶりだった。何も考えずに笑ったのは。笑ってから、目の奥が、じんと熱くなった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次の第14話からは、再生のパートになります。
「ざまぁ!」だけでは終わらない物語なので、そういう流れが苦手な方は最終話まで飛ばしていただいても大丈夫です。
でも、ざまぁの先にある再生の物語も見届けていただけたら、とても嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いします。




