スパルタ勉強会〜気づかない恋心〜
「よし、今日も勉強始めるぞ」
夏休みの補習終わり、俺は毎回生徒会室に連行される。
「……結衣先輩、受験生なのに俺の勉強なんか見てていいんですか?」
「受験生だからこそ、一年の時にやった内容を振り返ることも大切なんだよ」
正論な気はするけど……。
「忙しい中、いつもありがとうございます」
「気にするな。私が好きでやってるだけなんだから」
そう言ってもらえると、少しは気が楽になる。
とはいえ――
「違う、そこは前に教えた数式を使ってだな――」
熱血指導のため、怒られることも多い。
わざわざ時間を作って教えてくれている以上、文句なんて言えないけど……。
⸻
「今日はこれくらいにしておくか」
「……はい」
約三時間みっちりしごかれた。
「疲れただろ。飲み物買ってくるからちょっと待っててくれ」
そう言うと結衣先輩は購買へ向かった。
「そりゃ三時間もぶっ続けで勉強したら疲れるって……」
誰もいない部屋で、独り言のように呟く。
「あれ?こんな時間まで勉強してたの?」
俺しかいない生徒会室に葵がやってきた。
「ああ、三時間みっちり扱かれた」
「お疲れ様、結衣さんは?」
「飲み物買いに行ってる」
「そうなんだ。結衣さんの教え方分かりやすいでしょ」
「スパルタな気はする……」
「スパルタって……。そんなつもりはなかったんだが……」
いつのまにか結衣先輩が戻ってきていた。
「あ、いや……その……」
聞かれていると思っていなかったので、言い訳すら思いつかない。
「俊太の成績アップに少しでも貢献しようと思ったんだが、少しやりすぎていたようだな。すまない」
「い、いえ、そんな。むしろいつも教えていただきありがとうございます」
「二人の時ぐらい、昔みたいに話せばいいのに……」
「規律を乱さないためにも、この方がいいのかなぁって思ったんだけど」
「外ではその方が有難いが、二人の時や葵たちがいるだけなら、そこまで畏まらなくていいぞ」
「結衣先輩がそれでいいなら……」
昔みたいにと言われても、久しく普通に話した覚えがないんだが……。
「俊太はちゃんと使い分けられるタイプなんだから、二人の時は肩の力を抜いてくれ」
「結衣さん、ひどーい」
小さな笑いが起きる。この感じ懐かしいな。
「あ、私お母さんに買い物頼まれてるからそろそろ帰るね」
「おう、またな」
「気をつけて帰るんだぞ」
「はーい」
葵が手を振りながら帰っていく。
「そうだ、はいこれ」
「ありがとうございます」
結衣先輩から飲み物を受け取る。
「俊太は昔からレモンティー好きだったからレモンティーにしたんだが、他のやつの方がよかったか?」
「いえ、覚えてくれていたことが嬉しいです」
「いつも飲んでたイメージがあるからな」
確かにいつも飲んでたけど、結衣先輩の前でそんなに飲んでたっけなぁ……。
「そういえば、彼女のことは葵から聞いた……大変だったな」
「……」
「私じゃ大して役立てないと思うが、次の恋愛をする時には相談しに来い」
「ありがとうございます……。まだ引きずってるところがあるんで、新しい恋はもう少し先の話になると思いますけどね」
「そう簡単に割り切れるもんでもないだろうからな」
「結衣先輩は……失恋経験あるんですか?」
俺は恐る恐る踏み込んだ話を聞いてみた。
「あ、あるのはあるが、俊太とは違って付き合うとこまでいってない」
「振られたってことですか?」
「いや、告白すら出来なかったよ……。片想いしているうちに相手に彼女が出来てしまってな」
「そういうパターンですか……」
「好きな相手には悟られないようにキツく当たってしまうから、相手に気づいてもらえにくいのだろうな」
「……」
「遅くなる前に、そろそろ帰るか?」
「そうですね」
時刻は午後5時前。まだ明るいので時間の感覚がおかしくなりそうだ。
「私は少しやることがあるから、先に帰っていいぞ」
「分かりました。失礼します」
「気をつけて帰れよ」
これからまだやることがあるなんて、結衣先輩はやっぱり忙しいんだなぁ。
「ふー、キツくしているつもりは無かったが、俊太にはスパルタに感じてしまっていたとはな……。意識しないでおこうと思うとキツく当たってしまうのは私の悪い癖だな」
まさかそんな風に思われているなんて、俺は知る由もなかった。




