全国への挑戦〜胸に秘めた想い〜
「俊くん、急がないと結衣さんの試合始まるよ!」
「分かってる!」
夏の暑い中、俺と葵はダッシュでインターハイの会場に向かっていた。
結衣先輩にとって、最後の全国大会。
団体戦での出場は叶わなかったが、個人戦で全国大会出場を決めていた。
隼人は残念ながら部活の試合が重なったため、応援に来れなかった。
「結衣さん、どこまで勝ち上がるだろ?」
「勝ち上がるも何も、全国大会に出場しただけでも凄すぎるんだけどな」
「『高校最後に掴んだ全国への切符。必ず活躍してみせる』って凄い意気込んでたよ」
「生徒会長にして剣道部主将。さらに全国大会出場って、結衣先輩凄すぎだろ」
会場に入ると空気が張り詰めていて、まるで別世界のように感じた。
「結衣さんは……ちょうどこれから試合だ」
「……間に合ってよかった」
真剣な表情で面を付ける結衣先輩。その迫力だけで圧倒されそうになる。
「始め!」
竹刀がぶつかる音と選手の声が響く体育館。緊迫した空気に息が詰まりそうになる。
何度も竹刀がぶつかり合う。
一進一退の攻防が続く。
一瞬の隙を突かれ、
主審と副審の旗が上がる。
「やめ!」
激闘の末、結衣先輩は初戦敗退。剣道の試合ってこんなに凄いんだなぁ。
⸻
「結衣さん、お疲れ様」
試合後俺と葵は結衣先輩が出てきたところで声をかけた。
「二人とも、応援に来てくれてありがとうな」
いつもの笑顔だが、目元は少し潤んでいるように見える。
「剣道の試合、初めて生で見ましたが凄いですね」
「そうだろ?どんなスポーツにも言えることかもしれないが、奥が深いんだ」
「俊くん、中学では部活してたから、結衣さんの試合見たことなかったもんね」
中学では野球部に入部していた。
結衣先輩の中学最後の試合と野球部の試合が被って応援に行けなかった。
「ああ、あんなに息が詰まる試合を見るのは初めてだった」
「一勝ぐらいはしたかったんだが、全国の壁はやはり高かったよ……」
「全国大会に出場したってだけで、十分凄いことですよ」
「そうかもな。でも、これで私も引退だ」
「三年間お疲れ様」
「長いように思えて、あっという間に終わった気がするよ」
「それだけ充実していたんじゃないですかね」
「そうだな……。じゃあ私は帰り支度してくるよ」
「一緒に帰れそう?」
「どうだろうなぁ……。後で連絡するよ」
涙を隠すように背を向けながら話す結衣先輩。
「……分かった」
葵と二人で結衣先輩を見送る。
「やっぱり悔しかったんだね」
「そりゃ、負けたら悔しいもんだろ」
「私たちの前では泣かないようにしてたんだろうね」
「そういう人だよ、結衣先輩は」
「そうだね、人前で弱いところを見せない。だから完璧超人に見えるんだろうね」
「ああ。でもあの生き方めちゃくちゃ大変だろうな」
「私には絶対無理。悔しさを押し殺して普通に話すなんて出来ないもん」
「中学最後の大会の時、負けて号泣してたもんな」
「……忘れてって言ったじゃん」
「無理」
「もう!」
頬を膨らませながらも、赤くなっているのが分かる。
「あ、結衣さんからメッセージ来た。『悪いけど先に帰っててくれ』だってさ」
「今日が最後の大会だったんだから、一人になりたいんだろうな」
「そうだね……」
「じゃあ、帰るか」
「……うん」
その頃、結衣先輩は――
「俊太の前でカッコいいとこ見せたかったんだけどなぁ……。せめて……一勝したかった」
止まらない涙を流しながら呟く結衣先輩。もちろんそんなことを思っていたことを、俺は知る由もなかった。




