補習の夏〜新たな支え〜
「今日も補習か……」
暑い日が続く夏休み。何もなければのんびり家で過ごすところだが、補習となった俺は重い足取りで学校へ向かう。
うるさい蝉の鳴き声も、エールのように聞こえてくる。
「俊くん」
振り返るとジャージ姿の葵がいた。
「おう、これから部活か?」
「うん、そうだよ」
「暑いから熱中症に気をつけてな」
「ありがとう……俊くんも無理しないようにね」
「サンキュー」
校門をくぐったところで葵と別れる。やる気は起きないけどやるしかない補習へ俺は向かった。
「葵、ちょっといいか?」
お昼過ぎ、部活終わりの結衣先輩が葵に声をかける。
「結衣さん、どうしたの?」
「俊太のことなんだが……なにがあったんだ?」
「あ……ここじゃあれだから、場所変えていい?」
(周りに人がいる状態では話せないような内容ってことか)
「それならいい場所がある。着いてきてくれ」
結衣先輩は葵を生徒会室に連れて行った。
「ここなら鍵もかけられるし、人に聞かれる心配もないだろう」
「ありがとう結衣さん」
「で、何があったんだ?」
「実は……」
葵はことの顛末を結衣先輩に話した。
「俊太のやつ、人はいいけど見る目は無かったってことか」
「芽依も昔はあんな子じゃなかったんだけどね……」
「恋が人を変えたんだろうな。俊太は昔から引きずりやすいやつだから、心配だなぁ」
「俊くんなら補習で学校に来てるよ」
「補習!?俊太のやつ、勉強も手につかなくなっていたのか」
「そうみたい」
「なら私が一肌脱ぐとしよう」
「え?」
「俊太の勉強は、私がみる」
「結衣さんってほんと面倒見いいよね」
悪戯っぽく笑う葵。
「……困っている幼馴染を放っておけないだけだ」
「結衣さんって、俊くんのこと好きなの?」
「な、なにを言ってるんだ!俊太は真面目だし人もいいが……恋愛対象で見た覚えはないぞ」
「ほんとに?」
「ほ、ほんとうだ。だいたい葵こそ俊太のことが好きなんだろう?」
「なっ……」
「見てれば分かる」
「結衣さんに隠しことは出来ないか」
「お似合いだと思うぞ」
「俊くんには今のところ、その気がないんだけどね」
「今はまだ無理だろうが、傷が癒えたら可能性は十分あるさ」
「……だといいんだけど」
「それじゃ私は俊太を捕まえて勉強を教えるとするか」
「私も一緒に行っていい?」
「もちろんだ、ついでに葵の宿題も見てやろう?」
「有り難い提案だけど、宿題は家に置いてあるから今すぐは出来ないよ」
「それはそうか……。なら次に俊太が補習で学校来る日は持ってくるといい」
「ありがとう」
こうして俺の知らぬところで色々と話が進んでいた。
⸻
「さて、補習も終わったし帰るか」
補習を終えて独り言のように呟いたその時――
「俊くん」
葵が教室に顔を出す。
「どうしたんだ?」
「ちょっと時間ある?」
「まぁ……補習終わったし大丈夫だけど?」
教室の外に行くと、そこには結衣先輩がいた。
「俊太、葵から話は聞いた。俊太の勉強は私が見てやる」
「え……」
「俊太はやれば出来るやつなんだから、私がみっちりしごいてやる」
え?なんかの罰ゲームなのこれ?
「いや、でも結衣先輩忙しいでしょ?」
「そんなことはない。生徒会室でしっかり勉強を見てやるから着いてこい」
「えーっと、これ拒否権は……」
「そんなものがあると思うなよ?」
笑顔の結衣先輩。
(やっぱ無かったか……)
この人勉強のこととなると人が変わるんだよなぁ……。
⸻
「よし、今日はこれぐらいにしておこうか」
お昼ご飯を食べて、そこからみっちり三時間。結衣先輩に勉強を見てもらった。
そのおかげで課題は終わったけど、めちゃくちゃ疲れた。
ちなみに葵は宿題をやるために、先に家に帰った。
「なんか久しぶりにこんなに勉強した気がします」
「努力した分だけ結果はついてくる。俊太はやれば出来るんだから、しっかり勉強して冬休みは補習にならないようにな」
「はい、ありがとうございます」
「次回からは葵も加わってやる予定だから、俊太も宿題持ってきておいてくれ」
「……分かりました」
今回だけじゃなくて、次の時もやるの?
「結衣先輩、なんでここまでしてくれるんですか?」
「幼馴染が補習なんて放っておけるわけないだろ。それに私は生徒会長なんだから、困っている生徒を助けるのも仕事だ」
そういえば、昔からこういう人だったな。
困っている人がいたら見過ごせない。
正義感の強いお節介な人だけど、それが結衣先輩の魅力なんだろうな。
補習という嫌なイベントも、結衣先輩のおかげで乗り越えられそうだ。




