崩れた日常〜後悔しても戻らない〜
「もう期末テストか……」
芽依と別れてから約一ヶ月。蒸し暑い日が続く梅雨の時期。
明日から期末テストだというのに、俺は全く勉強をする気になれなかった。
「俊くん、ちゃんと勉強してる?」
テスト前は部活がないため、葵と一緒に学校に向かっていた。
「教科書開いても、全然頭に入らないんだ」
感情的になっていたとはいえ、別れる必要は無かったんじゃないのか。でも付き合ってるままだったら、また葵に迷惑をかけていたんじゃないか。そんなことばかり考えてしまう。
「失恋したショックは大きいと思うけど、ちゃんと勉強しないと夏休み無くなっちゃうよ?」
赤点で補習となれば、夏休みも学校に行くことになる。それだけはなんとか阻止したい。
「一夜漬けでもなんでもやって、赤点阻止できるように頑張るよ」
暑さもあってかあまりなにも考えたくなかった。
⸻
「一緒に勉強しなくて大丈夫?」
学校終わり、葵が心配して聞いてくる。
「ああ、今は一人の時間が必要な気がするから」
「そっか……じゃあまた明日ね」
「ああ」
家に入る俺を見送る葵。
「俊くん大丈夫かなぁ……。私がデートの時に会わなかったら、今でも芽依と上手くいってたかもしれないのに……」
葵の心配通り、俺は家に帰ってから何も手につかない状態だった。
無意識に開いてしまう芽依へのメッセージ画面。
もう連絡することもないのに、この習慣はなかなか抜けてくれない。
部屋のカレンダーは余白しかない。
何も予定のなくなった週末。
毎週埋まっていた芽依とのデートも無くなった。
携帯の待ち受けに映る可愛い芽依と会うこともない。
「はぁ……」
口を開けばため息しか出ない。
待ち受けは新しくしようと思っても、なかなか変えられない。
変えてしまうともう二度と芽依に会えない気がする。そう考えると、待ち受けを変えられなかった。
翌日からの期末テストは、全く手応えのないまま終わった。
「俊、テストどうだった?」
「……全然ダメ」
結局俺は勉強する気になれず、ぶっつけ本番でテストを受けることになった。
手応えなんてあるわけもなく、赤点があっても何も不思議ではない。
「まぁ……生きてれば色々あるさ」
「どこの仙人だよお前は」
隼人の言葉に思わず笑ってしまった。
「そう簡単に切り替えられるもんじゃないと思うけど、元気出せよ」
「あ、ああ」
「テスト終わったしどっか行くか?」
「いや……」
「気晴らしにカラオケでも……」
「隼人くん!」
「え?」
隼人との会話に葵が加わる。
「俊くんの最後のデート先がカラオケなんだから、カラオケに行きたいと思えるわけないでしょ」
「そ、そうだったのか。悪い」
「いや、隼人は知らなかったんだし気にするな」
「俊、大丈夫かお前」
「大丈夫じゃないから、俺今日はこのまま帰るわ」
「ああ……なんかあればいつでも話聞くからな」
「サンキュー」
俺はトボトボと一人で教室を後にした。
校門へ向かう途中――
「俊太、大丈夫か?」
「へ?」
結衣先輩が心配そうにこちらを見ていた。
「あ、結衣先輩……お疲れ様です」
「テスト終わりだっていうのに、一人で帰るのか?」
「はい……今は一人の時間が必要な気がするので」
「一人の時間がって……彼女と喧嘩でもしたのか?」
「別れました」
「なっ……」
驚きつつも言葉に詰まる結衣先輩。
「仕方なかったんです……」
「仕方なかったってお前」
「色々あったんですが、今は話せそうにないです」
「そうか……辛かったな」
「葵が事情を知っているので、もし気になる場合は葵に聞いてみてください」
「……分かった。気をつけて帰れよ」
「はい……失礼します」
結衣さんに見送られながら、俺は一人で家に帰った。
「明日から夏休みが始まるが、赤点があった人はちゃんと補習を受けるように」
終業式。明日から長い夏休みに入るはずだった……。
しかし期末テストの結果が散々だったこともあり、俺は補習を受けることが確定してしまった。
「俊、通知表どうだった」
「……ダメだったわ」
「マジか……ご愁傷様」
「仕方ないさ……期末テストの結果ボロボロだったし……」
「補習ちゃんと出ろよ」
「分かってる……」
「俊くん……」
「葵と隼人は部活頑張れよ。俺は勉強頑張るわ」
「俊くん、何か手伝えることがあれば、いつでも言ってね」
「サンキュー」
一年の夏から補習か……。本当なら芽依と色々な場所に出かける予定だった夏休み。
その未来は、音を立てて崩れてしまった。




