壊れた日常〜届かぬ想い〜
「そろそろ行くか」
芽依と喧嘩したあの日以降は、芽依と喧嘩することも無くなった。
芽依も反省してくれたようで、昔のように楽しいデートを続けられている。
いつも通り俺が待ち合わせ場所に先に着く。
「俊太〜」
「おはよう、芽依」
「おはよう俊太。いつも待たせちゃってごめんね」
「全然待ってないから大丈夫だよ。いつも俺が待ち合わせ時間より早く来てるだけだし」
「ありがとう」
芽依も約束の時間よりは早く来ているので、芽依が遅刻していることは一度もない。
「俊太っていつも何分前に来てるの?」
「だいたい十五分前ぐらいだよ」
ほんとは三十分前だけど。
「もう少しギリギリに来ればいいのに」
「芽依に会えるのが楽しみで、家出るのが早くなるだけだよ」
「もう……俊太ってそういうことストレートに言ってくれるの好き」
照れてる芽依はいつ見ても可愛い。
「今日はどこ行く?」
「今日は久しぶりにカラオケ行かない?」
「カラオケ……久しぶりだしいいぜ」
「ありがとう。俊太はこの前行ってるから乗り気になってくれないかと思った」
そういや前に葵たちとカラオケ行った帰りに芽依と会ってたんだっけ。
「行くメンバーが変われば、盛り上がりが変わるのがカラオケだし、久しぶりに芽依の歌声聴きたいし」
芽依は歌も上手い。
「もう……そんな褒めてもなにも出ないわよ?」
「一緒にいてくれたらそれでいいよ」
「もう……」
顔を赤くしながら照れる芽依。ほんと可愛いなぁ。
⸻
「久しぶりにこんなに歌ったわ」
二人のカラオケで五時間。
芽依は相変わらずの美声で、部屋の前で足を止める人が複数いるぐらいだった。
「結構時間経ってるけど、あっという間だったな」
「俊太の歌声も久しぶりに聞けて楽しかったわ」
「芽依に比べたら、俺の歌声なんて全然だけどな」
「そんなことないわよ。私は俊太の歌声好きだもん」
「そ、そうなのか。ありがとう」
なんか照れるなぁ。
「ふふ。たまには俊太が照れる番があってもいいでしょ?」
茶化すように笑う芽依。たまにこういうこと言ってくれるの嬉しいんだよなぁ。
「たまにはいいかも。……そろそろ帰ろうか」
「そうね……もっと一緒にいたいけど、遅くなると親が心配しちゃうから……」
門限があるわけではないらしいが、暗くなる頃には帰らないといけない。まぁ、十五歳の女の子が遅くまでウロウロしてると危ないもんな。
「もう六時過ぎだし、送って行こうか?」
「途中まででいいわよ。俊太も遅くなったらダメだし」
俺は全然大丈夫なんだけど、こういう気遣いが出来るのも芽依のいいところなんだよなぁ。
その時――
「あ……」
ジャージで歩く葵とバッタリ会う。
「お、葵。部活帰りか?」
「うん。二人はデートの帰り?」
「ああ」
二人が顔を合わせるのは、多分あの日以来だろう。
少しだけ険悪な空気になる。
「葵、陸上頑張ってるんだね」
「え……う、うん」
意外と普通に話しているように思える。しっかり反省してくれたみたいでよかった。
「芽依、ちょっと喉乾いたから、そこのコンビニで飲み物買ってきていいか?」
「ええ、私の分も買ってきてくれる?」
「ああ、ミルクティーでいいか?」
「うん」
「了解、ちょっと待ってて」
俺はコンビニに飲み物を買いに行く。もう二人きりでも大丈夫だろ……多分。
「最近会わずに済んでると思ってたのに……いつもデートの邪魔しないでくれる?」
「たまたまなんだから、仕方ないじゃん」
「こんな遅くまで練習って、俊太を奪われたから陸上に精を出して、失恋を乗り越えようってやつ?」
ニヤッと笑いながら芽依が言う。
「そ、そんなんじゃないわよ。私は昔から走るのが好きなだけ」
「中学でも陸上部だったものね。運動は積極的なのに恋には消極的ね」
「消極的なつもりは……」
「積極的なら、とっくに俊太に告白してたでしょ?ずっと側にいたんだから。それとも、振られるのが怖かったわけ?」
「それは……」
「スタートラインにすら立とうとしないで、俊太を手に入れられるわけないじゃない。葵がグズグスしてくれてたおかげで、私は俊太を手に入れることが出来た」
「俊くんはモノじゃない!」
「うるさいわねぇ。スタートラインに立つこともしなかった臆病者が、偉そうに意見しないでくれる?」
「この前のこと……全然反省していないみたいだな」
「っ!」
驚きながら振り返る芽依。
「俊太!ち、違うの」
「なにも違わないだろ……葵が臆病者?葵は中学の時、陸上で県代表になった凄いやつだ」
「俊くん……」
「葵は臆病者なんかじゃない。俺は葵がいつも遅くまで頑張っている姿を何回も見てきた。そんな葵を侮辱するなんて……」
「俊太、お願い。私の話を聞いて!」
「前にも言ったけど、葵は俺の大事な幼馴染。葵を侮辱するのは俺が許さない」
「俊くん……」
心なしか葵が泣いているように見えた。
「俊太は私と葵どっちが大事なわけ?」
「どっちも大事だった」
「だったって……」
「芽依、もう無理だわ。芽依を信じられなくなった」
「そんな……まさか」
「芽依、俺たち別れよう」
「嫌……お願い!待って……俊太!」
「前にも言ったけど、葵は俺にとって大切な幼馴染だ。この前ので反省していると思ったけど、全く反省していない。もう芽依のことを信じられない」
「私はただ……俊太を葵に取られたくなくて」
「取られるもなにも、俺は芽依の彼氏だったんだから、芽依が普通にしていれば取られる心配なんてする必要が無かったんだ」
「そんな……」
「じゃあな芽依、今までありがとう。もう連絡してこないでくれ」
「っ!」
ショックのあまり、言葉が出てこないのだろう。
俺は芽依に背を向けて歩き出す。大好きだった彼女とまさかこんな別れ方になるなんて……。
振り返るときっと芽依は泣いている。その泣き顔を見たらまた芽依を許してしまいそうなので、俺は振り返らずに歩いた。
タッタッタッ
まさか――芽依が走って追いかけてきたのか?
「俊くん、ほんとにいいの?」
そんなわけないか。
「なにが?」
「芽依のことよ。このまま別れていいの?」
「いいんだ。それより今まで迷惑かけてごめんな」
「え……」
「四月の服屋でのことや、この前のカラオケ帰り、映画でのこと、そして今日と、葵には何度も迷惑をかけてしまったからさ」
「そんなこと……だいたい俊くんはなにも悪くないじゃない」
「そんなことないさ。気づいてあげられなかったって点では、俺も同罪だ」
「そんなことない!」
声を荒げる葵。
「葵?」
「俊くんはなんでもかんでも背負いすぎだよ!芽依が悪いだけで俊くんはなにも悪くないよ!」
「……ありがとう」
葵、いつのまにかこんなにしっかりしてたんだな。昔はすぐ泣く泣き虫だったのに。
「俊くん、芽依との会話、何処から聞いてたの?」
「スタートラインに立つどうこうってとこから」
「そ、そう」
少し恥ずかしそうに俯く葵。
前は隼人が茶化してるだけかと思ってたけど、もしかしたらほんとに俺のこと好きだったのか?
――さすがに俺の考えすぎか。




