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Invisible to the Eye 〜目には見えない大切なもの〜  作者: ダークキング


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自覚した恋心〜覚悟を決めた日〜

「おはよう、俊くん」

「……おはよう」

葵に返事をした次の日。

葵はいつも通り俺の隣の席に座る。

小野田さんの時といい、なんで俺って隣の席の時にこうなるんだ……。

「……今日、結衣さん学校来てるよ」

三年生は卒業式前日まで登校日がほとんどないが、結衣先輩は卒業式に向けた準備もあり、学校に来る日と来ない日があった。

「そうなんだ……サンキュー」

俺は葵の顔をまともに見ることが出来ない。

「俊くん、私は大丈夫だから。あの後、李璃がずっと話聞いてくれたし」

隼人が根回ししてくれたんだろうな。

「朝まで李璃が付き合ってくれたし、たくさん泣いたから」

チラッと葵の顔を見ると、心なしか目が腫《は》れていた。

「わがままかもしれないけど、これまでと同じように幼馴染として接してくれたら嬉しいな」

一日でここまで立ち直れるものなのか……。葵ってこんなに強い子だったのかよ。

「すぐには無理かもしれないけど、努力するよ」

俺はこう言うのが精一杯だった。

「……なんかこれじゃ、私が俊くんを振ったみたいじゃん」

少し怒り気味に言う葵。

「いや、罪悪感ありすぎて、普通に接するのが難しいというか……」

「俊くんはほんと優しいね……。でもしっかりしないと、結衣先輩への告白が上手くいかないぞ」

本当なら失敗しろって思ってもおかしくないはずなのに、葵は結衣先輩との恋も応援してくれる。

俺はこんないい子が側にいたことに、なんでもっと早く気づけなかったんだろう……。

もっと早く気づいていれば、葵と付き合う未来もあったかもしれない。

「……葵ってめちゃくちゃ強いな」

「え?」

思わず心の声が漏《も》れてしまった。

「普通は結衣先輩への告白を失敗して、自分にまだチャンスがある状態を望むもんだろ?」

「……だって二人とも私の大切な人なんだから、幸せになってほしいじゃん」

「なんかその言い方だと、俺の告白成功前提に聞こえるんだが……」

「きっと成功すると思うよ。結衣さん、俊君のこと好きだと思うし」

「へ?」

完全に予想外のことを言われて、間抜けな言葉が口から出る。

「前に聞いたときは違うって言ってたけど、あれ多分嘘だと思う。私が俊くんを好きだって知ってるから、私に気を遣《つか》っただけだと思う」

「なんでそんなこと分かるんだ?」

「結衣さんとの付き合いも長いんだから、それぐらい分かるよ」

「……女の勘ってやつか?」

「……そういうことでいいよ」

少し呆《あき》れ気味に葵が言う。

でも本当に、結衣先輩が俺のこと好きなのか?

「結衣さんには今日告白するの?」

「……そうだな。せっかく学校に来てるなら、今日の放課後にでも行ってくるよ」

「……頑張ってね」

「サンキュー」

少し涙目になっている葵。

その反応が普通だ。

一日でここまで俺と普通に話せるぐらい立ち直れていることがすごい。

⸻

「俊くん」

放課後、葵に呼び止められる。

「……なんだ?」

「結衣さんには、生徒会室で待ってくれるように頼んである」

根回しまでしてくれたのか。

「……分かった。ありがとうな」

「お礼なんていいから、早く行ってきなよ」

「……ああ」

思い立ったらすぐ行動。俺のこの性格は多分死ぬまで治らないだろうな。

「葵……」

俺が教室を出てすぐ、葵のところに東さんが来る。

「李璃、昨日はありがとう」

「……葵はこれからどうするの?」

「とりあえず二人の結果待ちかな……。成功する未来しか見えないんだけどね」

「藤岡くんも罪な男だね。こんなに優しくて可愛い葵を振るなんて」

「……仕方ないよ。私よりもずっとずっと凄い人が結衣さんなんだから」

「非の打ち所がない完璧人間だもんね。そんな人相手に告白して成功できるんだね」

「俊くんは自己評価は低いけど、結衣さんとの共通点多いからね」

「例えば?」

「困ってる人を放っておけない、お節介、運動神経がいい。俊くんは真面目に勉強すれば結衣さんみたいな完璧人間を目指せると思うし」

「幼馴染だけあって、二人のことよく知ってるね」

「……ずっと見てきたからね」

寂しそうに俯《うつむ》く葵。

「葵……」

「さあ、部活行こ李璃」

いつもの明るい表情になる葵。

「う、うん」

(結衣さん、俊くんのこと頼んだよ)

一方その頃俺は――

「ふぅー」

生徒会室の前にたどり着き、深呼吸する。

コンコン

生徒会室の扉をノックする。

「どうぞ」

結衣さんの声が聞こえる。

「失礼します」

中にはいつも通り凛《りん》とした佇《ただず》まいの結衣先輩がいた。

「俊太、一人か?」

「え、ええ」

「葵から連絡が来ていたから、てっきり葵と二人で来るのかと思ってたんだが……」

「葵は俺に気を遣ってくれただけです」

「……どういうことだ?」

状況が飲み込めず、少し困惑した顔になる結衣先輩。

「前に悩み事があるって話、結衣先輩にしましたよね」

「ああ……言いづらい悩みと言っていたやつか」

「あれ、実は恋愛話だったんです」

「……」

無言だが真剣な表情になる結衣先輩。

「……バレンタインデーの日に、葵に告白されました」

「っ!」

声にならない声が結衣先輩から漏《も》れ出る。

「それから一週間ほど、悩みに悩みました。俺は一体誰のことが好きなんだろうって」

いつの間にか結衣先輩は真剣な表情に戻っていた。

「……その答えが昨日ようやく出ました。俺、結衣先輩のことが好きです」

「な!」

結衣先輩からしたら予想外だわなそりゃ。

「ずっと憧れの先輩と思っていたつもりでしたが、いつの間にか俺にとって結衣先輩はかけがえのない人に変わっていました。俺なんかじゃ結衣先輩につり合うはずがないってことは分かっていますが、自分の気持ちに嘘をつきたくないんです……。俺と付き合ってください」

「……その返事をする前に、一つだけ聞かせてくれ」

「……なんですか?」

「葵の告白には返事をしたのか?」

「……はい、昨日葵を振りました」

「……バカなやつだ」

「え……」

想定外な言葉に、言葉が上手く出なかった。

「葵を振ってまで、私を選んだのか……」

「……」

困惑した表情の結衣先輩。俺は黙って結衣先輩からの返事を待つ。

「俊太、悪いが少し考える時間をくれるか?」

「……はい、もちろんです」

「悪いな」

「いえ……じゃあ俺はこれで」

「ああ……。気をつけて帰るんだぞ」

「はい、失礼します」

俺は結衣先輩に一礼して部屋を出た。

返事待ちか……。次いつ会えるか分からないだけに、返事もいつになるか分からなさそうだなぁ……。

俺がそんなことを考えながら帰っている頃――

「まさか俊太が私を選ぶとはなぁ……。すぐに返事をするのは簡単だが、私の理想は低くない。私の我儘《わがまま》に付き合ってもらうぞ俊太」

生徒会室で独り言のように呟く結衣先輩。

結衣先輩の我儘《わがまま》の内容を、俺は知る由もなかった。

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