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Invisible to the Eye 〜目には見えない大切なもの〜  作者: ダークキング


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バレンタインデー〜義理チョコと告白〜

「俊くん、おはよう」

三学期が始まって約一ヶ月。珍しく葵が後ろから走ってくる。

「おはよう、今日朝練無かったのか?」

「うん、今日は朝練お休みしたの」

「怪我でもしたのか?」

「け、怪我はしてるけど、大したことないよ?」

葵の手には絆創膏《ばんそうこ》が複数貼ってあった。

「大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫」

「珍しく料理でも作ったのか?」

「め、珍しくて悪かったわね」

少し拗《す》ね気味に言う葵。

「……何作ったんだ?」

「……俊くん、今日なんの日か分からないの?」

なんの日?今日は二月十四日だから……。

「バレンタインデーか」

「そう、だからチョコいっぱい作ったんだ」

だから今日は紙袋持ってるのか。

最近は友チョコって名前で、女の子同士でチョコをあげあう文化があるみたいだけど――

「何人に配る気だそれ?」

「部活の友達や先輩にも配るからたくさんあるんだよ」

「ふーん、女の子は大変なんだな」

「そうだよ?俊くんの分もあるからね」

あ、俺の分もあるんだ。

「サンキュー」

「放課後、楽しみにしててね」

「え?今くれるんじゃないの?」

「……今じゃないの!」

なんで俺、怒られてるんだ?

「……まぁ、いいや。放課後楽しみにしとくよ」

今チョコをもらえないことを不思議に思いながら、俺は葵と登校した。

⸻

「葵」

昼休み、東さんが隼人じゃなくて葵を呼ぶ。

「あ、李璃」

葵はおそらくチョコが入っているであろう袋を片手に東さんのところへ行く。

「はい、これ葵へのチョコレート」

「ありがとう。これは私から李璃へのチョコレート」

二人でチョコの交換をする。

「二人で一緒に作ったから中身知ってるって変な話だね」

「そうだね」

凄く楽しそうに笑っている二人。ほんと仲良いよなぁあの二人。

「藤岡くんには放課後渡すの?」

「うん。俊くんにも放課後に渡すって言ってある」

「そして、そこで告白だね」

「……うん。なんか緊張してきた」

「どこで告白するの?」

「どこがいいんだろ……」

「そこは考えてないんかい」

苦笑いを浮かべる東さん。

「どこがいいと思う?」

「それならいっそのこと、部活終わりに呼び出せば?」

「え?」

「先輩に呼ばれたとか適当に理由作って、放課後は部活に直行。終わったら連絡するからって言っておけば、来てくれんじゃない?」

「……俊くんなら来てくれると思うけど……」

「それなら場所に悩まなくて済むでしょ?」

「う、うん、そうだね。そうする」

「頑張れ葵」

「ありがとう」

「じゃあ、藤岡くん呼んできてくれない?」

「え?」

「隼人とのことでお世話になったから、義理《ぎり》チョコあげたいんだけど……ダメ?」

「ううん、そういうことならちょっと待ってて」

笑顔でこっちに戻ってくる葵。

「俊くん、李璃が呼んでるよ」

「へ?隼人じゃなくて俺を?」

「うん」

なんで俺?と思いながら、俺は東さんの元へ行く。

「呼んだ?」

なんで声をかければいいか分からず、変な声のかけ方をしてしまう。

「うん。これ、渡そうと思って」

東さんは紙袋を差し出す。

「これって……」

「義理チョコだよ。隼人と付き合えたのは、藤岡くんのおかげでもあるから、そのお礼も兼《か》ねて」

「別に俺は何もしてないよ……。でも、ありがとう」

「これからもよろしくね」

「……こちらこそ」

義理チョコって分かっててもなんか恥ずかしいなこれ。

「なに人の彼女からチョコ貰《もら》って照《て》れてんだよ」

いつの間にか背後に隼人が来ていた。

「な、別に照れてねーよ」

「嘘つけ」

「もう、隼人怒らないの。藤岡くんにあげたのは義理チョコなんだから」

「それは分かってるけど……」

「私たちが付き合えたのは、葵と藤岡くんのおかげなんだから、そのお礼を兼ねた義理チョコなの」

「……そういうことだったのか」

「はい、これは隼人へのチョコレート」

「ありがとう」

「私の手作りチョコだから、味の保証はできないけどね」

「手作りってだけで嬉しいよ。ありがとうな李璃」

嬉しそうにチョコを見つめる隼人。

付き合って二ヶ月ほど経つのに、まだまだ初《うい》々しい二人だ。

「学校であんまりイチャつくなよ」

「な、イチャついてねえーよ」

「そ、そうだよ」

二人して赤くなりながら否定してくる。

「はいはい、悪うございました」

そう言いながら俺は自分の席へ戻る。

彼女かぁ……一年前には俺も彼女いたんだよなぁ。

⸻

「葵」

放課後、チョコを貰うために葵に声をかけるが――

「ごめん俊くん。先輩に呼ばれてるから、チョコ渡すの部活終わってからでいい?」

「へ?」

「部活終わったら連絡するから」

申し訳なさそうにこっちを見る葵。

「……分かった。先輩待たせたらダメだから、早く行ってこいよ」

「うん、ありがとう」

そう言って葵は走って教室を出て行った。

忙《せわ》しないやつだなぁ。

「藤岡くん」

小野田さんが声をかけてきた。

「どうしたの、小野田さん」

失恋の傷は癒《い》えていると思うが、どうしても少し緊張してしまう。

「これ……よかったら貰ってくれる?」

そう言いながら小野田さんは俺にラッピングされた箱を差し出した。

「これって……」

「チョコレート。今日バレンタインデーだから……」

少し恥ずかしそうに視線を逸《そ》らす小野田さん。

「……貰《もら》っていいの?」

フラれた手前、なんか受け取りにくい。

「うん、余り物だから」

余り物なのか。

「……ありがとう」

「ホワイトデーのお返しはしなくていいから」

「そういうわけにはいかないでしょ」

「余ったチョコだから、ほんとそんな気にしなくていいから」

めっちゃ余ったを強調される……。まぁ義理チョコってことなのかな?

「……分かった」

「じゃあ、私部活あるから行くね」

「うん、また明日」

「バイバイ」

慌《あわ》ただしく教室を去る小野田さん。

フラれた相手にチョコ貰うってなんか複雑だなぁ。

(失恋を乗り越えるためにも、行動あるのみ。藤岡くんを見習って、私も傷を癒すために行動あるのみ)

そんなことを小野田さんが考えていることを、俺は全く知らなかった。

⸻

「俊太、今帰りか?」

下駄箱前で、聞き覚えのある声に足を止める。

「結衣先輩」

「……チョコ貰ったみたいだな」

俺の手にある紙袋を見ながら、結衣先輩が呟いた。

「あー、隼人の彼女の東さんと、小野田さんから義理チョコもらいました」

「葵のは無いのか?」

「なんか先輩に呼ばれて急いで部活行かないといけないみたいで、部活終わったら連絡するって言われました」

「……そうか」

(葵のやつ、ついに告白するつもりか?)

「結衣先輩はチョコ貰ったんですか?」

「ああ、私は後輩や友達からチョコ貰ったよ」

「結衣先輩もチョコ持ってきてたんですか?」

「ああ。この日だけはチョコを持ってくるのを、学校側も目を瞑《つぶ》ってくれるだろうからな」

まぁ年に一度の行事だもんな。

「……荷物になるかもしれないが、これ……」

結衣先輩が紙袋を差し出す。

「チョコレートですか?」

「ああ、私は手作りでは無いが……」

「ありがとうございます」

袋からチラッと見えたチョコレートは、有名なお店の名前が書いてあった。

「手作りじゃないのは全然構いませんが、このチョコ高くなかったですか?」

「年に一度の行事なんだから、そんなことを気にするな」

(俊太のために奮発《ふんぱつ》したなんて、口が裂《さ》けても言えない)

「俺なんかのために、ありがとうございます」

「俊太は自分のことを過小評価しすぎだ。もっと自分に自信を持て」

「え?」

なんか結衣先輩の変なスイッチ踏んじゃったか?

「気も効くし、優しい。人もいいしみんなから頼られる存在。勉強や運動もやればできるんだから、俊太は自分で思っているよりも尊敬できる人なんだぞ」

「……そんなこと思ってもらえてると思ってなかったので嬉しいです」

なんだこの感情は?結衣先輩に褒《ほ》められるのってこんなに嬉しかったっけ?

「あ、すまない。急にこんなこと言われても困るよな。でも俊太は本当にカッコいいから、もっと自分に自信を持て」

「……ありがとうございます」

まっすぐこっちを見る結衣先輩の目。いつも通り綺麗に束《たば》ねられた黒髪。いつもの厳しくも優しい口調。

全ていつも通りのはずなのに……この感覚は一体なんなんだろう?

やけに心臓の音が大きく聞こえる。

「じゃあ、私はやることがあるからこれで。気をつけて帰るんだぞ」

「……」

「俊太?」

「え?あ、はい」

「……大丈夫か?」

心配そうにこっちを見てくる結衣先輩。なんでか気恥《きは》ずかしくて目を合わせられない。

「だ、大丈夫です。失礼します」

俺は逃げるように帰っていった。

俺今顔赤くなってる?

まさか結衣先輩のことを?そんなはずは……。

「……悪いな葵。私も最後のチャンスを使わせてもらったぞ」

独り言のように呟きながら、結衣先輩は生徒会室に向かった。


「今日は色々ありすぎた一日だったなぁ」

帰宅後部屋で独り言を呟く。

外はいつの間にか暗くなっていた。

俺は帰り道もずっと結衣先輩のことを考えていた。

俺にとって結衣先輩は幼馴染の先輩であり、尊敬できる女性のはずなのに……。

あれ?俺にとって結衣先輩はずっと尊敬できる先輩だったはず……。

いつの間にか俺は結衣先輩を一人の女性として見るようになってるのか?

ダメだ……自分の感情に自分の頭が追いついていない気がする。

そんなことを考えていると――

ヴーヴー

携帯が震える。

「葵か……」

葵からの電話がかかってきた。そういえばまだチョコ貰ってなかったな。

「もしもし」

「俊くん……今大丈夫?」

「ああ」

「今部活終わって学校出たところなんだけど、桜公園まできてくれない?」

「別にいいけど……」

「じゃあ、急いで行くね」

そう言って電話は切られた。

チョコ渡すだけなら、家の前でもいいだろうに……。

誰かに見られるのが嫌なのかもなぁ。

そんなことを考えながら、俺は桜公園に向かった。

⸻

「あ、俊くん」

桜公園にはすでに葵が来ていた。

あいつ走ってきたのか?

「早いな。待たせてごめん」

「……ううん、そんなことないよ」

「葵、走ってきたのか?」

「……うん。早く渡したかったから」

チョコが溶ける心配もないぐらいの寒空なのに、なんでそんなに急《いそ》いでるんだ?

「チョコ渡す前に、少しだけ時間いい?」

「……いいぞ?」

なんかあるのか?

「俊くん……私、俊くんのことが好きなの」

「え?」

まさか本当に俺のこと好きだったのか。隼人の言ってたことほんとだったのかよ。

「ずっと一緒にいたから……。俊くんからしたらただの幼馴染かもしれないけど、私はずっと前から俊くんのことが好き。芽依に先を越されたりしたけど、私はこれからもずっと俊くんの隣にいたい。もう誰にも俊くんを取られたくない。だから……私と付き合ってください」

静かな公園に響く葵の声。俺が今本当に好きなのは誰なんだ……。

「……少し、時間をくれるか?」

俺はこう言うのが精一杯だった。自分の気持ちが自分でも分からない以上、生半可《なまはんか》な返事をするわけにもいかない。

「うん……ゆっくり考えて答えを出して」

そう言いながら葵はチョコを差し出した。

「ありがとう……」

「じゃあ、私先に帰るね」

そう言って葵は走って帰っていった。

「まさか葵に告白されるとはなぁ……。今日は一日で色々ありすぎだろ……」

独り言のように呟きながら、俺は家路に着いた。

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