バレンタイン大作戦〜揺れる恋心〜
「李璃、ちょっといい?」
一月も終わろうとしているある週末。
葵が部活終わりの東さんに声をかける。
「どうしたの?」
「ちょっと相談があるんだけど……」
「うん、いいよ。ちょっと待っててね」
そういうと、東さんは隼人の元へ。
「隼人、今日ちょっと用事できちゃったから、一緒に帰れない」
「用事って……ああ、葵か。分かった」
「ごめんね」
「大丈夫だよ。また明日な」
「ありがとう。また明日ね」
手を振る隼人に見送られながら、葵の元へ戻ってくる東さん。
(……多分、俊のことでの相談だろうな。頑張れよ葵)
隼人は東さんを見送りながら、そんなことを考えていた。
「お待たせ」
「ごめんね、隼人くんとの時間邪魔しちゃって……」
申し訳なさそうに俯く葵。
「大丈夫だよ。それより、どこで話する?」
「うーん……カラオケでいい?」
「いいよ。誰にも聞かれたくない秘密の話だね」
「う、うん」
二人はこういう秘密の話をするとき、いつもカラオケを選ぶ。周りを気にせず話せる、二人だけの秘密基地のような場所。
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「で、相談って?」
「う、うん。俊くんのことなんだけど……」
カラオケに着くなり本題に入る。
「そうだと思った……。ようやく告白する覚悟ができた?」
「李璃はなんでもお見通しか。……バレンタインデーの日に告白する」
まっすぐ東さんの目を見る葵。
「葵、いい顔してる。大丈夫だよ、葵なら上手くやれる」
「ただ……私チョコ作ったことないから……」
「手作りチョコか。私も作る予定だから、一緒に作ろう」
「いいの?」
「もちろんだよ。葵がずっと応援してくれたから、私は隼人と付き合えたんだし。恩返しさせてよ」
「恩返しなんてそんな……。ありがとう」
照れながら嬉しそうに笑う葵。
その目には光るものがあった。
「葵って結構泣き虫だよね。そのギャップ、藤岡くんにも見せた方がいいよ」
「や、やだよ恥ずかしいじゃん」
「ギャップ萌えってやつで、案外好きになってもらえるかもよ?」
「……そんなものなのかなぁ」
「そんなものだよ。後は、美味しいチョコ作ろう」
「うん、私頑張る」
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「うん。李璃、付き合ってくれてありがとう」
「全然大丈夫だよ」
カラオケ屋から出てくる葵と東さん。
そこに――
「あ……俊くん」
本屋に立ち読みに行っていた俺がバッタリ出会う。
「東さんに葵……」
まさかこんなところで会うと思っていなかったので、変な緊張感を持ってしまう。
「藤岡くん、こんな時間までなにしてたの?」
「ちょっと本屋に立ち読みに……」
「そうなんだ……。邪魔しちゃ悪いから、私は帰るね」
「え?」
葵と俺の声がシンクロしてしまう。
「二人してそんなに驚かなくても……。そもそも私帰り道二人と違うんだから」
「それは……そうだけど」
「頑張れ葵。じゃあね」
手を振りながら走って帰っていく東さん。
じゃあねの前に葵に何か言っていたようだけど、なんだったんだろう?
「……帰るか」
「……うん」
二人きりになってぎこちなくなってしまう。
一緒に帰ることなんて、これまで何度もあったはずなのに……。
「俊くん……もう傷は癒えた?」
恐る恐る聞いてくる葵。
「……どうだろう。でも、失恋当初に比べるとだいぶ癒えてると思う」
「新しい恋は……さすがにまだだよね?」
「……自分でもよく分からない」
葵へのこの感情が恋なのか、自分でも分からない。
「そっか……」
いつも通り話そうとすればするほど、ぎこちなくなる。
葵も変に意識してしまってるのか、なんかぎこちなくなってる気がする。
お互い何を話せば分からなくなり、無言の時間が続く。気がつけば家に着いていた。
「じゃあ、また月曜日」
「う、うん。またね」
俺は逃げるように家に入った。
俺は葵のことが好きなのか。いや、そんなはずは……。
葵は幼馴染でずっとそばにいた。ただそれだけのはずなのに……。
そう自分に言い聞かせても、頭に浮かんでくるのは葵のことばかり。
嬉しそうに笑う葵、照れて下を向く葵。
初詣の日以来、葵のことばっか考えてる気がする。
俺が家でそんなことを考えている頃――
「なんか俊くん、いつもと違う感じだったから緊張しちゃったなぁ。私のこと意識してくれてるのかなぁ……なんて、私の都合のいいように解釈しすぎか」
葵は独り言のように呟きながら、家路へ向かった。




