交差する想い〜それぞれの恋心〜
「今日から三学期か」
始業式の朝。凍てつく寒さの中一人で学校に向かう。
休み明けで眠たかったこともあり、いつもよりギリギリの時間になった。
「あ、おはよう」
後ろから聞き覚えのある声。
「え?あ、おはよう」
そういや小野田さんっていつもギリギリだったな。
「珍しいね、こんなギリギリの時間に藤岡くんがいるの」
「ま、まぁそうだね。今日は休み明けだったからギリギリまで寝てたんだ」
久しぶりに話すけど、どうしてもぎこちない話し方になってしまう。
「休みの間に生活リズム崩れると、朝起きるの辛いよね……」
「小野田さんっていつもこれぐらいの時間なの?」
「うん、いつもこれぐらい。私低血圧だから、朝が苦手なの」
血圧で朝が苦手とかもあるんだ。人間の体って不思議だなぁ。
「そうなんだ、大変だね……」
これ以外の言葉が思いつかなかった。
「寒いのも苦手だからダブルで大変なの……。今日は始業式だけだからなんとかなりそうだけど」
眠そうに話す小野田さんと二人で校門をくぐる。
始業時間ギリギリのため、ほとんど他に人はいなかった。
(思わず声かけちゃったけど、思ったより普通に話してくれてよかった)
小野田さんがそんなことを思ってるなど知る由もなく、俺は小野田さんと教室に向かった。
⸻
「今日はこれで終わりだ。明日から通常授業になるので、しっかりと体調を整えるように」
担任の乾先生から見ても、眠そうな生徒が多いように感じたんだろうな。
休み明けはだいたいみんな眠そうだもんな。
「俊くん、ずっと眠そうだったけど大丈夫?」
いつも通り元気そうな葵が声をかけてくる。
「あ、ああ。冬休みで生活リズム乱れてたから」
見慣れた制服姿のはずなのに、何故か少し緊張してしまう。
「今日は早めに寝て、ちゃんと生活リズム戻さないとダメだよ」
「分かってる」
「寝不足とかだと体調も崩しやすいだろうから、風邪ひかないようにね」
「……葵、母さんと同じようなこと言うな」
「な、私はただ俊くんの体調が心配なの」
「葵こそ、こんな寒い中で走ってるんだから風邪ひくなよ」
「私は大丈夫。しっかり体調管理してるもん」
「言われてみれば、葵って全然風邪ひかないもんな」
「元気が取り柄だからね」
「……元気だけじゃないだろ」
心の声が思わず声に出てしまう。
「え?」
「な、なんでもねえよ」
葵には聞こえなかったようだ。
「私の取り柄、元気以外に何があるの?」
訂正、しっかり聞こえていたようだ。
「優し……いや、運動神経いいところ?」
「なんで言い直してる上に疑問形なのよ」
「だって葵、球技は苦手だろ?」
「……それは否定しない」
「だから疑問形なんだよ」
「優しまで言ったなら、優しいでもよかったじゃん」
「まぁそうなんだけど、葵といえばやっぱ運動神経かなぁって思って」
「もう……それより俊くん、なんで今日はあんまりこっち向いてくれないの?」
「別に、たまにはそういうこともあるだろ」
「たまにはね……。まぁいいや、私部活行ってくるね」
「おう、また明日」
(変に意識してしまって、恥ずかしいからに決まってんだろ)という心の声は無事に声に出さずに済んだ。
初詣のあの日以来、変に葵を意識してしまうようになっている。
あの日が特別な服装だったってだけで、葵は葵なのに……。
なんで意識してしまってんだ?
そんなことを考えながら下駄箱に向かうと――。
「俊太」
この声は……。
「結衣先輩、今から部活ですか?」
「……私はもう引退している身だから、部活にはあまり顔を出さないようにしている。今日は生徒会でもやることはないので、今から帰るところだ」
「こんなに早く帰れることもあるんですね」
「たまにはいいだろ?それに私は受験生なんだから、帰って勉強しないといけないしな」
試験まで一ヶ月ほどだから、最後の追い込みの期間なんだろうな。
「……勉強に生徒会に部活って大変ですね」
「確かに忙しいが、充実してるよ。部活も生徒会も自分が好きでやってることだからな」
そう話す結衣先輩の顔は、とても充実しているように見えた。
「……結衣先輩カッコいいですね」
思わず心の声が出てしまう。
「……どうした急に」
「いや……凄く充実した顔をされてたので」
「……そうか。俊太今から帰るなら、たまには一緒に帰るか?」
「は、はい」
思わぬお誘い。結衣先輩と帰るなんていつぶりなんだろ?
「俊太はなにかないのか?没頭できるものとか」
「そうですね……今はパッと思いつかないです」
「そうか」
「彼女と別れてからは、なんとなく日々を過ごしてる気がします」
「失恋した後、新しい恋ややりたいことを見つけるのも簡単ではないだろうからな。ゆっくり探せばいいさ」
「……はい」
「高校生活もまだあと二年あるんだし、焦ることはない。俊太ならいい人を見つけることもできるだろう」
いい人かぁ。俺が今好きなのは一体誰なんだろう?
「部活をしていないから、なかなかクラスメイト以外知り合うこともないだろうが、同級生だけが恋愛対象だと思わない方がいいぞ」
「え?」
「いろんな人を見ることによって、視野も広がるだろうからな」
「……そういうもんですかね?」
「そういうものだ。寒いからといって教室に籠るんじゃなくて、購買に行って他の人との出会いを求めるのも一つの手だぞ」
「……結衣先輩って昔彼氏いました?」
「そ、そんなわけないだろ。私はアドバイスだけで、彼氏がいたことはない」
「説得力がありすぎるので、てっきり……」
「まったく……。恋愛もいいが、高校を卒業するときに充実した三年間だったと思えるように、今を大切にするんだぞ」
「結衣先輩が言うと、説得力ありますね」
「どういう意味だ?」
「毎日充実されてる気がするので」
「まぁ、充実はしているな」
「結衣先輩みたいな生き方、俺は好きですよ」
「な、何を言い出すんだ急に。先輩をからかうんじゃない」
赤くなる結衣先輩。
「……じゃあ、私はこっちだから。気をつけて帰るんだぞ」
「は、はい。失礼します」
手を振って去っていく結衣先輩を見送る。
悔いのない高校生活は、俺にはまだ難しいかもしれない。
ただ、新しい恋はすでに始まっている気はしているが……。
振られたはずなのに、今日は普通に話せた優しくて可愛い小野田さん。
いつも隣にいて不思議と安心感のある葵。
憧れすらあるけど、頼りがいがあって優しい結衣先輩。
俺が今好きなのは誰なのか。それは自分でも分からなかった。




