初詣〜新しい一年、新しい想い〜
ピーンポーン
新年を迎えたお正月の朝、インターホンの音が鳴り響く。
両親は親戚のおじさんを駅に迎えに行っているため、家には俺しかいない。
「誰が来たんだ?」
独り言のように呟き、モニターを確認する。
「誰だ?」
モニターに映る着物姿の女性。
誰か分からないが、とりあえず返事をする。
「はい」
「あ、長谷川です」
長谷川……へ?
「あ、葵?」
「俊くん?」
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ」
俺は急いで玄関に行く。
ガチャ
「葵?」
「俊くん、あけましておめでとう。初詣一緒に行かない?」
「あ、ああ。別にいいけど、準備するからちょっと待っててくれ」
女の子は髪型や服装で雰囲気が変わるとは言うけど、まさかここまでとは……。
「お待たせ」
俺は大急ぎで出かける準備をし、葵と二人で神社に向かう。
「ごめんね急に。この着物お母さんに貰ったから着てみたんだけど……どうかな?」
「に、似合ってると思うぞ。馬子にも衣装ってやつだな」
葵かどうかすら分からないぐらい綺麗になっていたので、俺は変に緊張してしまった。
「褒めてるのか褒めてないのかどっちよ」
少し不満そうな顔になる葵。
「……褒めてんだよ」
「ありがとう。俊くんが諺なんか知らないのは仕方ないもんね」
悪戯っぽく笑う葵。
「な、失礼な」
「じゃあ、馬子にも衣装の意味は?」
「着物着たら可愛くなるって意味だろ?」
「全然違うよ」
失笑するように笑う葵。
「違うのか?」
「馬子にも衣装っていうのは、どんな人でも身なりを整えれば立派に見えるって意味だから、人には使わない方がいいよ」
「そ、そうなのか……気をつける」
だから褒めてるのか褒めてないのかって聞いてきたのか。
「葵〜」
神社の近くで聞き覚えのある声が聞こえる。
「李璃、あけましておめでとう」
隼人と東さんが二人で手を繋いでいた。
「俊、あけおめ」
「あけおめ。まさかこんなとこでも会うとはな……初詣デートか?」
「ま、まぁそんなとこだ。それより、葵って着物持ってたんだな」
「お母さんに貰ったんだ。せっかくだから着てきたの」
「似合ってるじゃん」
「ありがとう」
「私も着物あればなぁ……」
残念そうに俯く東さん。
「李璃は何着ても可愛いんだから、着物じゃなくてもいいんだよ」
照れながら言う隼人。
「も、もう何言ってんのよ」
照れて赤くなる東さん。
「じ、事実だし」
隼人も赤くなる。なんか赤くなってる隼人見ることなかったから新鮮だなぁ。
「……ありがとう」
付き合い始めたばっかりだし、これ以上俺らが邪魔しない方がいいかもな。
「葵、邪魔しちゃ悪いから行こうぜ」
「そ、そうだね」
「え、四人で行こうよ」
「そ、そうそう。別にお前らなら一緒でも全然問題ないし」
東さんは四人でもって感じだけど、多分隼人は二人でいたいだろうな。
「クリスマスイブに付き合ったばっかりだから、これ初デートだろ?初デートぐらい二人でゆっくり楽しめよ」
「そうそう。私たちは邪魔になるだけだから先に行くね」
「あ、ありがとう」
「悪いな二人とも。気を遣わせちゃって……」
照れながらもしっかり手は繋いでいる二人。見ているこっちが恥ずかしくなるぐらい初々しい。
「らしくねえこと言うなよ。しっかり東さんをエスコートしろよ隼人」
「お、おう。頑張るよ」
「じゃあまたね李璃」
「う、うん。二人ともありがとう」
二人に見送られながら神社へ入る。
初詣のために境内へ並ぶ人と屋台に並ぶ人。人の多さに少し驚いてしまう。
「逸れないように気をつけないとな」
「そうだね」
人混みをかき分けながら進んでいく。
「お参り終わったら、なんか食べるか?」
「そうだね、軽く食べようかな」
「でも気をつけないとな……着物汚したらまずいだろうし」
「それは……そうだね」
「ソース系はやめといた方がいいだろうから、食べられるの限られるな」
「じゃあ、りんご飴にしようかな」
「そういや、葵ってりんご飴好きだったな」
「……うん。りんご好きだから」
(この前の夏祭りでは食べなかったのに、覚えててくれたんだ)
葵の心の声はもちろん俺には聞こえないので、嬉しそうに下を向く葵を見ても俺は、(よっぽど、りんご好きなんだなぁ)としか思わなかった。
⸻
「俊くん、なにお願いしたの?」
初詣の帰り道、りんご飴を片手に持つ葵に聞かれる。
「いい一年になりますようにってぐらい。そういう葵は?」
「わ、私も似たようなものだよ。陸上で結果を出せますようにとかだし」
(本当は俊くんと付き合えますようにだけど)
そんな会話をしていると――
「俊太、葵」
聞き覚えのある声に振り返る。
「……結衣先輩?」
「そうだが……やはり似合っていないか?」
袴姿の結衣先輩。この人はこういうの似合うよなぁ。
「結衣さん、めっちゃ似合ってるよ」
「……ええ、とても似合ってますよ」
「そ、そうか。ありがとう」
少し照れ気味の結衣先輩。
「結衣さんは一人で初詣行くの?」
「ああ、一人の方がお参りした後帰りやすいからな」
「元旦から勉強ですか?」
「ああ。志望校の桜の門大学に入るためにも、やれる時に勉強しておかないとな」
桜の門大学って、県内屈指の進学校じゃん。結衣先輩頭良すぎだろ。
「そんな進学校が志望校なんて、さすが結衣さん」
「葵、褒めてもなにも出ないぞ」
この二人の会話は、いつ見てもまるで姉妹のようだ。
「俊太、そんなにじっと見るな」
「え?あ、すみません」
「俊くん、結衣さんに見惚れちゃった?」
茶化すように笑う葵。
「……袴姿結衣先輩が、綺麗だからついな」
今日は葵といい結衣先輩といい二人ともいつもと違う服装だからか、なんか変に意識してしまう。
「な、なにを言ってるんだ俊太。先輩をからかうんじゃない」
照れて赤くなる結衣先輩。
「でもほんと似合ってるよ、結衣さん」
「葵も着物似合ってるぞ」
「ありがとう」
「そうやって二人で歩いてると、まるでカップルみたいだな」
「や、やめてよ結衣さん、恥ずかしい」
「そ、そうですよ結衣先輩。俺と葵はそんな関係じゃないんですから」
普通の人は茶化すように言うけど、結衣先輩は冷静な感じで言ってきた。
まぁ、この人は茶化したりってタイプじゃないもんな。
「ふふ、悪い悪い。じゃあ私はそろそろ行くよ」
「またね結衣さん」
「失礼します」
二人で結衣先輩を見送る。
(葵には悪いが、私にもまだチャンスはあるのかもしれないな。それにしても俊太にあんなこと言われるとはなぁ……。着てきてよかった)
まさかそんなことを結衣先輩が思っていたとは、俺は夢にも思わなかった。




