クリスマスイブ〜イルミネーションの前で〜
「隼人、ちょっといいか?」
無事に期末テストは赤点なしで終えた一二月二二日。
後は二十五日の終業式を残すのみとなっていた。
「どうした?俊」
「二十四日なんだけど、暇か?」
「クリスマスイブに男二人で出かけるのか?」
「たまには男同士で遊ぶのもありだろ?」
「よりによってクリスマスイブってのはどうかと思うけどな」
それはもっともな意見だ。
本当は葵と東さんも来るんだけど。
「冬休み前、最後の日曜日がクリスマスイブなんだから仕方ないだろ」
「まぁ、カレンダーに文句言っても仕方ないもんな。仕方ない付き合うぜ」
「サンキュー。十三時にサカキで待ち合わせな」
「了解」
少し疑われてはいるかもしれないが、これで無事に隼人を誘い出すことには成功した。
近くで話を聞いていた葵の方を見ると、小さくガッツポーズしていた。
クリスマスイブ当日、俺はサカキの前で隼人を待つ。
葵と東さんはサカキの中で俺たちが来るのを待っていた。
偶然を装うつもりみたいだが、それは流石に無理がある気はする。
「俊」
「おう、隼人。今日はありがとうな」
「気にするな。しかし男二人がクリスマスイブにデパートで待ち合わせってなんか寂しいもんだな」
「そう言うなよ。とりあえず寒いし入ろうぜ」
「ああ」
俺たちがサカキに入ると、わざとらしく買い物をしている二人を見つける。
「あれ、葵と東さんじゃね?」
「……ほんとだ」
「おーい、葵」
「あ、俊くん。隼人くんと二人で何してるの?」
めちゃくちゃわざとらしく葵が聞いてくる。打ち合わせ通りなんだけどさ。
「買い物しようと思ってきたんだけど、二人は?」
「私たちもそうだよ」
「クリスマスイブに男二人って寂しいから、四人で買い物しないか?」
「そうしよう。李璃、いいよね?」
「うん、もちろん」
東さんの笑顔は少しぎこちない。まぁ今日告白するみたいだから、緊張してるんだろうなぁ。
それに比べて嬉しそうに笑う葵の笑顔は、打ち合わせ通りの会話なのに少しこちらがドキッとする。
葵は演技上手いなぁ。
「俊、こんな偶然ってあるのか?」
「まあ、たまたまだろ」
本当は打ち合わせしてるんだけど。
「ま、男二人で買い物するよりはいいか」
隼人も納得してくれたようでよかった。
後の段取りは俺も詳しく聞いてないから、流れに身を任せるか。
⸻
合流してから約四時間。
買い物をした後フードコートでデザートタイムなどを楽しみ、気がつけば時刻は午後五時を回っていた。
隼人と東さんはいつも通り話しているようだったが、俺と葵はどのタイミングで離脱すればいいんだ?
そう思っていたときに、葵から連絡がくる
《トイレに行くフリして離脱するよ》
いよいよか。
「俺ちょっとトイレ行ってくるよ」
「あ、私も行く」
俺と葵が席を立つ。
「おう」
「行ってらっしゃい」
いつも通りの隼人と、少しぎこちない笑顔の東さんに見送られる。
「で、俺はここからどうすればいいんだ?」
「これから李璃は隼人くんとイルミネーション見に行くから、私たちは離れた場所から応援」
「合流しない理由は?」
「用事出来たとかでいいんじゃない?」
「二人同時にか?」
「流石に出来すぎかな?」
「隼人が疑うかもな……」
「じゃあ俊くんだけ戻って、その後用事出来たことにする?」
「俺はどんな用事を用意すればいいんだ?」
「うーん……あ、結衣さん!」
「へ?」
葵の視線の先にいた結衣先輩は、葵の声でこちらに気付く。
「やあ、二人でお出かけか?」
「ううん、隼人くんと李璃もいるから四人だよ」
「そうか」
「そうだ、結衣さん少し頼まれてくれない?」
「なんだ?」
「これから李璃が隼人くんに告白するから、私と俊くんは用事が出来たことにしないといけないんだけど、二人同時にいなくなるのは隼人くんに怪しまれるから、俊くんに何か用事頼んでくれない?」
「唐突だなぁ……。なら一階の入り口付近にいるから、俊太、隼人たちをそっちに誘導してきてくれ」
「了解です。じゃあ、俺は一旦戻りますね」
「うん、私は李璃に連絡しておくから」
こうして俺は一人隼人たちの元に戻った。
「お待たせ」
「おう、なんか李璃のとこに葵から連絡あったみたいで、なんか用事出来てそのまま帰ったらしい」
「え?そうなんだ……。じゃあ俺たちも帰るか?」
「ああ、そうだな」
席を立つ隼人。
「う、うん」
東さんは席を立ちながら、俺に携帯の画面を見せる。
《葵と打ち合わせしてくれた?》
書かれている文字を読み、俺は無言で頷く。
それを見て少し緊張気味になる東さん。
告白タイムまで残りわずか。頑張れ東さん。
⸻
「あ、俊太に隼人じゃないか」
打ち合わせ通り、入り口付近でスタンバっていた結衣先輩が話しかけてくる。
「あ、結衣さんこんばんは。こんな時間から買い物ですか?」
「ああ。生徒会で使うものを買いに来たんだが、色々買うものがあるから人手が欲しいと思っていたところだったんだ」
よくもまぁ、そんな嘘が思いつくもんだ。
「じゃあ、俺付き合いますよ」
「そうか、悪いな俊太」
「いえ、じゃあ隼人、東さんまたね」
「お、おう」
「バイバイ」
二人に見送られながら、結衣先輩と買い物行くフリをする。
「これでいいのか?」
「多分大丈夫だと思います。ありがとうございます」
「あ、結衣さんありがとう」
俺と結衣先輩が来るのを待っていたかのように葵がいた。
「二人はこれからどうするんだ?」
「李璃の告白の結果を見に行く」
「もちろん気づかれないように離れた場所から見ますけどね」
「そうか。じゃあ私は買い物があるからこれで」
買い物は本当にあったんだ。
「うん、またね」
「失礼します」
葵と一緒に結衣先輩を見送る。
その頃隼人と東さんは――
「じゃあ、帰るか」
「あ、待って隼人くん。もうすぐ駅前のイルミネーション点灯時間だから見に行かない?」
「あ、ああ。別にいいぞ」
「ありがとう」
二人で並んで駅前に移動する。
「今日の李璃、いつもより静かな気がするけど、何かあったのか?」
「え?そ、そんなことないと思うけど……」
「そうか。俺の考えすぎか?」
「心配してくれてありがとう」
「おう。イルミネーションの点灯って何時なんだ?」
「五時半だからもうすぐだね」
「じゃあ、せっかくだし動画でも撮ろうかな」
携帯で動画撮影のスタンバイをする隼人。
「私も撮ろっかな」
東さんも携帯をスタンバイ。そして――
「おおー」
イルミネーション点灯と共に湧き上がる歓声。
「綺麗」
「そうだな」
「隼人くん、今日はバッタリ会っただけだけど、買い物とか付き合ってくれてありがとう」
「ん?別に買い物ぐらい、いつでも付き合うぞ」
「ありがとう……」
周りのカップルたちがイルミネーションを見て歓声を上げる中、無言になる二人。
少しの沈黙の後、
「隼人くん」
「……なんだ?」
「私、隼人くんのことが好き」
「え……」
「入学してすぐ、同じ部活で出会った時にカッコいいなぁって一目惚れしたの」
「……」
無言で東さんの話を聞く隼人。
「最初は見た目がカッコいいって思ったけど、誰にでも意見が言える堂々とした隼人くんの姿を見て、どんどん隼人くんのことが好きになった。初めて李璃って呼んでもらえた時、嬉しくて泣きそうになった。隼人くんにとって、私はただの同じ部活の同級生なのかもしれないけど、私にとって隼人くんはかけがえのない人なの……」
少しの沈黙。
「私と、付き合ってください」
まっすぐ隼人の目を見て言う東さん。
「……なんとなくそんな気はしてたけど、俺の勘違いじゃなかったんだな」
イルミネーションに目を向けながら呟く隼人。
「勘違い?」
「前に俺がフラれた時、好きって言われた気はしてたけど、あの時はフラれたショックでよく話した内容を覚えてなかった。だから俺の聞き間違いかもと思ってたけど、そうじゃなかったんだな」
少しの沈黙。
「俺でよければ、よろしくお願いします」
「……嘘」
さっきまでの真剣な表情から一変し、涙目になる東さん。
「……泣くなよ」
照れるように呟く隼人。
「だ、だって、OKしてもらえると思ってなかったから」
目元を拭いながら呟く東さん。
「李璃がいてくれたから俺はあの失恋から立ち直れたし、サッカーも頑張れたと思う。いつもありがとうな」
「そんな優しくされたら泣き止めないよ」
「李璃は笑ってる方が可愛いから、泣き止んでくれよ」
そう言いながら隼人は東さんの肩を抱き寄せた。
その頃、俺と葵はイルミネーションから少し離れた場所から二人の様子を見守っていた。
「よかったね」
「ああ。東さんはずっと隼人のこと好きだったから、結ばれてよかったよ」
「そうだね……次は私の番か」
「ん?なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ」
動揺しまくっている葵。そこに――
「隼人はうまくいったか?」
結衣先輩がやってきた。
「うん、無事に付き合うことが出来たみたいだよ」
「そうか、それならよかった。あまり遅くならないうちに帰るんだぞ」
そう言い残して結衣先輩は帰って行った。
「イルミネーションを見ながら告白か……。私の柄じゃないな」
買い物袋を片手に呟く結衣先輩。もちろん俺や葵に、その言葉は聞こえなかった。
その頃、買い物帰りで駅前にいた小野田さん――
「クリスマスイブにイルミネーションを一人で見ても、虚しいだけだね……。佐々木くんはもう大丈夫だろうし、藤岡くんも元気そうだなぁ。私はいつ大丈夫になれるかなぁ……」
そう呟きながらその場を去る小野田さん。
俺たちは小野田さんがいたことに気がつくことはなかった。




