文化祭〜動き出した想い〜
「いよいよ文化祭か」
「楽しみだね」
文化祭当日。文化祭の日は部活がないため、葵と一緒に登校する。
「たこ焼き、売れるといいな」
「大丈夫じゃない?みいの考えてくれたたこ焼き人気出そうだし」
「小野田さんって料理も上手くて歌も上手いって凄いよな」
「……そうだね」
少し不機嫌そうになる葵。そこへ――
「おはよう」
小野田さんがやってきた。
「おはよう、同じ時間になるの珍しいね」
「確かにそうだね。今日は文化祭が楽しみでいつもより早めに家出たからだと思う」
確かに、小野田さんっていつも登校時間ギリギリに教室に来るイメージだもんな。
「おはよう、みい。今日は幕間にたこ焼きとやること多いかもしれないけど、頑張ってね」
「ありがとう葵。たこ焼きは指示係になるかもだけど、テンパらないように頑張るね」
「私も頑張ってたこ焼き焼きまくるね」
焼きまくって売れまくればいいんだが……。
⸻
「小野田さん、頑張ってね」
文化祭が始まり、色々なクラスの出し物が行われる。
幕間で歌ってるのほとんど三年生だけど、これもしかしたら一年生で歌うの小野田さんだけってことない?
「ありがとう。緊張するけど、頑張って歌ってくる」
緊張した面持ちで移動する小野田さん。
確かに、あんなに緊張してる小野田さん見たことないかも。
「三年四組のみなさん、ありがとうございました。続いての幕間は唯一の一年生。一年一組、小野田みいさんです」
スポットライトに照らされる小野田さん。
見ているこっちも緊張してしまう。
「一年一組の小野田みいです。よろしくお願いします」
マイクを手に少し震えた声の小野田さん。
しかし、曲が始まると――
「え、マジでこの曲歌うの」
前奏ですでにざわめき始める。
ロックな曲が流れてくるなんて、そりゃ予想出来ないよな。
「めっちゃ上手いんだけど」
「小野田さんかっこよすぎ」
クラスメイトたちも驚きを隠せないようだ。
歌う前はあんなに緊張していたのに、歌い出したらカラオケの時と同じ歌声。
むしろカラオケの時より楽しそう。
あの可愛い見た目とのギャップが凄いんだよなぁ。
でも、それがまたいい。
「ありがとうございました」
歌い終わって挨拶する小野田さん。
拍手が体育館中に鳴り響く。
今日一番盛り上がったかもしれない。
⸻
「お疲れ様」
文化祭も前半戦が終わり、ここから模擬店タイム。
本当は幕間終わりに感想を伝えたかったが、小野田さんがクラスメイトたちに囲まれて、それどころではなかった。
「ありがとう。人前で歌うの初めてだったけど、凄く楽しかった」
満面の笑みを浮かべる小野田さん。
「カラオケの時より楽しそうに見えた」
「カラオケの時も楽しかったけど、いろんな人の反応が見れるのが嬉しかった」
嬉しそうに笑う小野田さん、ほんと可愛いなぁ。
「次はたこ焼き作りだね」
「そうだね、私の考えたメニュー売れるといいんだけど」
少し不安そうな顔になる小野田さん。
「きっと大丈夫だよ。さっきのカラオケ効果もあるだろうし」
「じゃあ目標は大きく、目指せ完売!頑張ろう」
いつもの笑顔に戻る小野田さん。
やっぱり小野田さんには笑顔が似合う。
⸻
「お疲れ様」
「ありがとう。思った以上だったね」
たこ焼きは予想を上回るスピードで売れまくった。
これはやっぱり小野田さんのカラオケ効果も大きかったんだろうな。
「小野田さんのカラオケ効果も大きかったと思うよ」
「そうかな?だとしたら嬉しいな」
満面の笑みを浮かべる小野田さん。
そこへ、
「俊、ちょっといいか?」
隼人がやってきた。
「おう、どうした?」
小野田さんから少し離れた場所に連れて行かれる。
「俊、小野田さんのこと好きなのか?」
「え……」
自分では深く考えないようにしていた感覚が、心の底から湧き上がってくる。
「この文化祭で小野田さんは一気に有名人になった。狙ってくるやつ増えると思うぜ」
確かに知名度は一気に上がった。一時的なものかもしれないとはいえ、小野田さんを知る人間が増えたことは確かだ。
「……そうだろうな」
「振られた俺が言うことじゃないかもしれないけど、告るなら早めの方がいいと思うぜ。他の人に取られる可能性あるし」
確かにそれは一理ある。
「そうだな。隼人の言う通りだ」
「頑張れよ俊」
「ああ、サンキュー」
隼人に言われるまで気づかなかった。
芽依のことがあったから考えないようにしていたのかもしれない。
動かないで後悔するぐらいなら、玉砕覚悟で動く方がいい。
「小野田さん、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「文化祭終わった後、時間ある?」
「……あるけど?」
「体育館裏に来てくれないか?」
「……分かった」
俺はすぐに行動に移した。やらない後悔よりやる後悔の方がいい。
⸻
放課後、体育館裏で小野田さんを待つ。
文化祭終わりということもあってか、部活が休みのとこが多いようだ。
校舎の方から聞こえる賑やかな声を掻き消すかのように聞こえる心臓の鼓動。
この緊張感、懐かしいけど、何度経験しても慣れることはないだろう。
「お待たせ」
小野田さんがやってきた。
「突然呼び出してごめん」
「ううん、大丈夫」
「今日の文化祭、小野田さん、凄くカッコよかった」
「……ありがとう」
いつも通り話そうと思えば思うほど、言葉が出てこない。
「……俺、自分で気づかないふりをしていたんだと思うけど、前から小野田さんのことが好きなんだ。多分……隼人が告白したあの時には」
「……」
黙って話を聞いてくれる小野田さん。
震えそうになる足。いつもなら目を見て話せるのに……。
「隼人みたいに運動が出来るわけじゃないし、勉強も苦手で取り柄なんてない俺だけど……小野田さんが好きって気持ちでは誰にも負けない自信がある。俺と付き合ってください」
ちゃんと話せてるかすら分からない。お辞儀することで顔を見ないようにするのが精一杯だった。
「ありがとう。その気持ちは凄く嬉しいんだけど……」
顔を上げると、困った表情の小野田さん。
「少し……私の話を聞いてくれる?」
「……もちろん」
少し緊張気味に小野田さんが話し始める。
「転校する前の学校で、中学から付き合ってた彼氏がいたの……。でもその彼は私の知らないうちに違う子とも付き合っていた」
次第に涙目になる小野田さん。
「最悪だったのが、浮気相手は私の親友だったこと。私の恋愛相談を聞いてくれていたのに、裏では彼と付き合っていた……。誰も信じられなくなって、私逃げるように転校してきたの」
必死に涙を堪えながら話す小野田さん。そんな辛い過去があったなんて……。
「私がギャルみたいな見た目をしてるのは、恋愛に億劫になっていることを隠すためなの。じゃないと恋話とか出来ないじゃない?」
俺は小野田さんにかける言葉が見つからなかった。
「藤岡くんと話してるのは楽しいし、この前のカラオケもすごく楽しかった。でも……ごめんなさい」
俯いた小野田さんの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「話してくれてありがとう……。そんな過去があったら人間不信にもなるよ」
振られたっていうショックよりも、小野田さんの過去が壮絶すぎたことの驚きの方が強かった。
「ごめんなさい……。我が儘かもしれないけど、これからも友達として仲良くしてほしい」
そりゃそんな過去があれば、俺でも誰かと付き合うって気持ちになれないと思う。
「うん……少し時間はかかるかもしれないけど、頑張ってみるよ」
とはいえ、振られた手前いつも通り接する自信はなかった。
「……ありがとう。じゃあ私行くね」
涙を拭いながら、小野田さんは去って行った。
同い年なのに、俺なんかよりずっと壮絶な人生歩んでるんだなぁ。
あの感じだと誰が告白しても振られると思うけど、また失恋か……。
遠くで聞こえる喧騒。俺はいろんな感情が混ざり合って、しばらくその場から動けなかった。




