二人きりの時間〜縮まる距離〜
「今日は文化祭でやることを決める」
文化祭まで残り二週間。高校生活初めての文化祭だけに、何をするか決まらない。
「ここまで出た意見はたこ焼き、焼きそば、フランクフルト、フライドポテトか。多数決で決める」
少しざわつく教室。
「小野田さんはどれがいいと思う?」
「私は、たこ焼きかな」
「焼くのも楽しそうだもんな」
「慣れるまでは少し大変だけど、アレンジしやすそうだから」
「アレンジ?」
「たこ焼きってタコだけ入れればいいってわけじゃないじゃない?だから、いろんな具材のバージョンを作るのもいいと思うの」
さすが料理部。たこ焼きですらアレンジすることを考えるんだ。
「では多数決する。たこ焼きがいい人」
小野田さんが挙手するのを見て、俺も手を挙げる。
こちらを見ていた葵や隼人も手を挙げる。
結果は――
「では、文化祭でやるのはたこ焼きに決定」
焼きそばも人数が多かったが、たこ焼きが二人差で勝利した。
⸻
「みい、ちょっといい?」
放課後、葵が小野田さんに声をかける。
「どうしたの?」
「ちょっとお願いがあるんだけど、幕間で歌わない?」
「え?」
少し驚く小野田さん。
「みい、歌上手いって聞いたから」
「えーっと……」
少し戸惑う小野田さん。まぁ、普通は急に言われたら戸惑うわな。
「人前で歌うのは嫌?」
「嫌ではないけど……、そんな歌が上手くないよ……」
周りからは上手いと言われても、無自覚のタイプか。
「じゃあさ……、俺とカラオケ行かない?」
「え?」
隣で話を聞いていた俺の提案に、小野田さんが驚く。
「俊くんも歌上手いから、俊くんが上手いって言えば上手いと思うよ」
俺って歌上手いんだ……。そういえば前に結衣先輩に言われたことあるけど、あの人は音痴だからなぁ……。
「じゃあ……一緒に行く?」
「あ、ああ。後は誰が行く?」
「私はこれから部活だし、隼人くんも部活だから二人になるんじゃない?」
自分で言い出したこととは言え、これ二人で行くことになるの?
「じゃあ、二人で行く?」
「あ、ああ。行こうか」
こうして、二人でカラオケに行くことになった。
俺と小野田さんを見送る葵。
「俊くん、やっぱりみいのこと好きなんだろうな……。弱気になるな私。今日も部活頑張るぞ」
葵は自分を鼓舞して、部活へ向かった。
「藤岡くん、めちゃくちゃ歌上手いんだね」
「そ、そんなことないよ。小野田さんもめちゃくちゃ上手かった」
学校帰りということもあり、二時間だけ行ったカラオケ。
小野田さんはどんな歌を歌うのかと思ったら、結構ロックな歌が多かった。
「藤岡くんのバラード聴いたら、惚れる子もいるかもね」
悪戯っぽく笑いながら言う小野田さん。
その言葉に少しドキッとしてしまい、思わず目を逸らしてしまった。
「そ、そんなことないと思うけど……」
芽依に褒められた覚えもないんだけど、俺ってそんなに歌上手いの?
「小野田さんは、ギャップが凄かった」
「あー、よく言われる。ロック歌うようには見えないって」
「文化祭での幕間なら、ロックは盛り上がると思うよ」
「確かにそうかも。じゃあ、幕間出てみようかな」
嬉しそうに笑う小野田さん。
やっぱり可愛いなぁ。
「俊太、こんな時間までお出かけか?」
後ろから聞き覚えのある声。
「結衣先輩、こんばんは。結衣先輩は今部活終わりですか?」
「今日は生徒会の方だがな。文化祭の準備が色々あるからな」
俺と結衣先輩の会話を不思議そうに見ている小野田さん。
「あ、この人はうちの学校の三年生の小木曽結衣先輩。幼馴染の先輩で、剣道部主将で生徒会長なんだ」
「剣道部は元主将だがな。私はもう引退した身だからな」
結衣先輩からしっかり訂正が入った。
「初めまして、小野田みいです」
「小木曽結衣です、よろしく」
そう言った後少し何か悩んだ表情になる結衣先輩。
「どうしました?」
「いや、聞き覚えのある名前だなぁと思ってな」
「あー、この前葵が言ってた歌上手い子がこの子です」
「そうなのか。なるほど、名前を聞いたことがあると思ったわけだ」
納得した表情になる結衣先輩。
「えーっと、小野田さん。葵から聞いてると思うんだが、文化祭で幕間やる気はないか?」
「いいですよ。ちょうどさっき出てみようかなって話をしていたところなので」
「そ、そうだったのか。ありがとう」
安堵した表情になる結衣先輩。
「これで幕間をやってくれる人が揃いそうだ」
「よかったですね結衣先輩」
「ああ。小野田さん幕間よろしく頼む」
「はい」
初めてこの組み合わせを見るからか、なんか不思議な感じだ。
「じゃあ私はこれで。遅くならないうちに帰るんだぞ」
「はい、失礼します」
「……失礼します」
二人でお辞儀して結衣先輩を見送る。
「ごめんね、ビックリさせて」
「ううん、大丈夫。小木曽さんって、規律厳しそうな先輩だね」
「あー、どうだろ?学校では生徒会長って立場もあるからしっかりしてるけど、結構喜怒哀楽分かりやすい人だよ」
「そうなんだ。でもこれで文化祭で歌うの確定しちゃったから、しっかり歌わないとなぁ」
暗くなった夜空を眺めながら言う小野田さん。
「小野田さんの歌なら、盛り上がること間違いなしだよ」
「だといいんだけど……。じゃあ私こっちだから」
いつの間にか別れ道まで来ていたようだ。
「ああ、また明日」
「うん、今日は付き合ってくれてありがとう」
笑顔で手を振りながら帰っていく小野田さん。
やっぱり可愛いなぁ。
文化祭でまた小野田さんの歌が聞ける。
文化祭の楽しみが一つ増えた気がした。
――一方その頃小野田さんは、
「男の人と二人きりでカラオケっていつぶりだろ?あいつと付き合ってた時以来かも……。藤岡くんは他の人より話しやすいのかもなぁ」
少し冷たい夜風を受けながら、呟く小野田さん。
もちろん俺はそんなことを思ってくれているなんて知る由もなかった。




