近くなる距離〜揺れる想い〜
「隼人くん、ちょっといい?」
昼休み、東さんが隼人を呼ぶ。
葵と話したあの日以降、東さんが毎日来るようになったなぁ。
「今日はなんだ?」
「日曜日の練習試合、隼人くんスタメンで使うって監督が言ってたよ」
「マジか!」
嬉しそうに笑う隼人。
「うん。だから……試合頑張ってね」
「おう、わざわざありがとうな」
東さんと楽しそうに笑う隼人。すっかり立ち直ったみたいだな。
「佐々木くん、元気になったみたいでよかった」
隼人と東さんの姿を見ながら、小野田さんが呟く。
「私に振られてからずっと元気なさそうだったから、少し心配してたの。私のせいでって……」
「そんな、小野田さんが罪悪感持つことじゃないよ。隼人は喜怒哀楽がハッキリしてるやつだけど、小野田さんのせいでなんて微塵も思ってないと思うよ」
「そうなの?」
「男なんて単純だからさ。好きな子にはいつでも笑顔でいてもらいたいもんなんだよ」
「……そっか。藤岡くんもそうなの?」
「俺もそうだよ」
「なんかその言い方だと、藤岡くんが私のこと好きみたいに聞こえちゃうね」
悪戯っぽく笑う小野田さん。
「え……。い、いやそれは言葉の綾というか」
予想外の返しにテンパってしまう。
「ふふ、冗談だよ」
「人が悪いよ」
「ごめんごめん」
⸻
「俊くん、ちょっといい?」
放課後、葵に呼ばれる。
「どうした?」
「今日部活オフだから、一緒に帰らない?」
「ああ、いいぜ」
葵と一緒に帰るの、久しぶりな気がするなぁ。
そんなことを考えながら葵と一緒に帰ろうとしたとき――
「俊太、葵。ちょっといいか?」
結衣先輩に呼び止められる。
「結衣さん、どうしたの?」
「少し相談したいことがあるんだが……」
「私はいいけど……」
そう言いながら葵は俺の方を見る。
「俺も大丈夫ですよ」
「ありがとう、生徒会室に着いてきてくれ」
俺と葵は結衣先輩と生徒会室へ。
さっきの葵の表情が少し残念そうに見えたのは、俺の気のせいか?
⸻
「実は文化祭のことなんだが、クラス別の出し物をする際の間に行う幕間をやってくれる人を探してるんだ」
「幕間って、出し物の間に行うやつですか?」
「そうだ。ダンスやカラオケをするのが大半なんだが、まだ数人空きがあるんだが……誰かやってくれそうな人いないか?」
人前で歌ったり踊ったりはさすがにやりたくないしなぁ……。
そう思っていた時――
「クラスでカラオケ好きな子がいるから、聞いてみるね」
「頼む。一年生のことはあまり詳しくないから、こういうことは葵や俊太、隼人に頼もうと思ってたんだ」
少し申し訳なさそうな顔になる結衣先輩。
「葵、カラオケ好きな子って誰だよ」
「みいだよ」
「え?」
全く予想していなかった名前に俺は驚いた。
「みいとカラオケ行った子が言ってたんだ。みいは歌がめちゃくちゃ上手いって」
料理だけじゃなくて歌も上手いのかよ。
「じゃあ悪いが葵、よろしく頼む」
「うん、分かった」
「俊太も心当たりがあれば聞いといてくれ」
「分かりました」
「二人とも時間をとらせて悪かったな」
「全然大丈夫だよ。またね結衣さん」
「失礼します」
「ああ、気をつけて帰るんだぞ」
文化祭の出演者の手配もしないといけないなんて、生徒会長はやっぱり大変だなぁ。
「俊太も歌が上手いから、『出ます』って言ってくれないかと思ったんだが……そううまくはいかないか」
一人残った生徒会室で独り言のように呟く結衣先輩。
もちろん俺や葵は結衣先輩がそんなことを思っているとは思いもしなかった。
⸻
「俊くん……好きな人出来た?」
帰り道、葵がいきなり爆弾を投下してくる。
「好きな人?……なんだよ急に」
「なんか最近の俊くん、すごく楽しそうだから……」
確かに毎日楽しい学校生活を送れてはいるけど……。
「自分でもよく分からない……」
好きな人、そうなのだろうか?
「みいのこと、好きなんじゃないの?」
名前まで出してきた。今日の葵はえらく直球勝負だなぁ。
「自分でもまだよく分からない。芽依とのこともあって、そう簡単に割り切れなくなってるのかもなぁ」
人の本心は目では見えない。俺は前の恋でそれを思い知らされているだけに、慎重になっているのかもしれない。
「そっか……」
俯く葵。
「そういう葵は、好きな人出来たのか?」
「え?わ、私?」
明らかに動揺している。
「私は……いないよ?」
「ほんとか?」
「ほ、ほんとだよ」
なんかはぐらかされてる気がする。
「まぁ、いいや。じゃあまたな」
「う、うん。また月曜日」
葵に見送られながら家に入る。
「ビックリしたぁ。あの流れで私の好きな人は俊くんなんて言えるわけないじゃん……」
日が短くなった夕焼け空を見上げながら、葵が呟く。
「芽依の次はみいか……。ダメダメ、弱気になるな私。チャンスがある限り諦めない」
自分を鼓舞するように呟き、葵は家路へと向かった。




