届かない想い〜すれ違う恋心〜
「佐々木くん、ちょっといい?」
二学期が始まって二週間ほど経った昼休み。東さんが教室の外から隼人を呼ぶ。
「どうした?」
「監督が急遽明日練習試合が行われるって」
「練習試合!急だな」
「それで、佐々木くんにも出番あると思うから心の準備をしといてくれって」
「マジか!ついに高校サッカーデビューか」
少年のように目を輝かせる隼人。
「が、頑張ってね」
「おう、わざわざ教えてくれてありがとな」
「うん」
側から見てても分かる。確実に東さんは隼人のことが好きだ。でも当の隼人は……。
「佐々木君、嬉しそうね」
席に戻ってきた隼人に声をかける小野田さん。
「明日練習試合があるみたいなんだけど、試合に出れそうなんだ」
嬉しそうに話す隼人。
小野田さんが転校してきたあの日から、すっかり小野田さんにメロメロだ。
教室の外にはまだ東さんがこっちを見ているが、隼人は全く気にしていない。
「凄いじゃん。頑張ってね」
「ああ、ありがとう」
「そういえば、藤岡君は部活してないの?」
「え?ああ、俺は部活してないよ」
「俊は入学当初は彼女がいたから、彼女との時間を大切にするために部活しなかったんだ」
人の話をペラペラ喋るな……。
「いたからってことは……今はいないの?」
「ああ……3ヶ月ぐらい前に別れた」
「そうなんだ。どれぐらい付き合ってたの?」
「……9ヶ月ぐらいかな?」
「まあまあ長いね。なんで別れたの?」
「まぁ……色々あったんだ」
あまり人に話す内容じゃないからなぁ……。
「色々ね……でも付き合ってると色々あるよね」
「小野田さんって彼氏いるの?」
隼人のやつ、ほんとグイグイ行くなぁ。
「今はいないよ。転校する前はいたことあるけど……」
少し俯きながら話す小野田さん。
「そうなんだ。小野田さん可愛いからモテそうだもんね」
「そんなことないよ……」
「可愛いし、モテそうだとは俺も思う」
「ほんと、そんなことないよ……」
さっきとは違い、少し照れているように見える。
「あ、東さん」
俺たちが教室で楽しく話している頃、教室の外で東さんに話しかける葵。
「長谷川さんって、佐々木くんと仲良いよね」
「うん、幼馴染だから」
「長谷川さんは……佐々木くんのこと好きなの?」
「え?私は隼人くんのことは幼馴染としか見てないよ」
「佐々木くんのことはってことは……」
「あ……。うん、私が好きなのは俊くん」
「そうなんだ、よかった」
安堵した表情になる東さん。
「でも、強力なライバルが出現したね」
「長谷川さんから見てもそう見える?」
「うん……。あ、私のことは葵って呼んでくれていいよ」
「分かった、じゃあ私のことも李璃って呼んで」
「うん」
あまり接点のなかった二人が一気に距離を詰めて仲良くなったようだ。
もちろん俺や隼人はこんな会話が行われていることは全く知らない。
⸻
「葵!」
放課後の部活終わり、葵に声をかける東さん。
「あ、李璃。今部活終わったの?」
「うん」
「お疲れ」
「葵もお疲れ」
「あ、葵じゃん。お疲れ」
「あ、隼人くん。お疲れ」
「李璃と葵って仲良かったっけ?」
「今日の昼休みに仲良くなったの」
「ねー」
笑顔の二人。
「そうなんだ。なんか共通の話題でもあったの?」
「内緒」
「なんだよそれ……気になるじゃん」
「隼人くんには教えてあげない」
からかうように笑う葵。
「まぁいいか。俺用事あるから先帰るな」
「うん、またね」
二人で隼人を見送る。
「用事ってなんだろ……」
「隼人くんの用事ってだいたい本屋での立ち読みだよ」
「さすが幼馴染。よく知ってるね」
「隼人くんは漫画やアニメ大好きだから」
「そうなんだ……私も勉強しないと」
「共通の話題が増えるだけで、話しやすくなるもんね」
「隼人くんの今好きな作品分かる?」
「この前言ってたのは――」
二人が隼人の話で盛り上がっているころ隼人は――
「あ、小野田さん」
「あ、佐々木くん。今部活終わり?」
「そうだよ、小野田さんは?」
「私もそうだよ」
「料理部だっけ?」
「うん」
「今日は何作ったの?」
「今日は……クッキー」
「へー、上手く出来た?」
「うん、よかったら食べてみる?」
鞄からクッキーの入った袋を取り出す小野田さん。
「え、いいの!ありがとう」
嬉しそうに受け取る隼人。
「見た目も綺麗だね」
「ありがとう」
「味は……うん、美味しい」
「そう?よかった」
「部活終わりだから、甘いの食べたかったんだよ。ありがとう小野田さん」
「どういたしまして」
「小野田さんって可愛くて料理も上手いし完璧人間じゃん」
「そ、そんなことないよ……。勉強は苦手だし」
「勉強は俺も苦手だわ」
「そうなんだ」
「テスト前は部活もないけど勉強もしたくないから、漫画読んでばっかりになる」
「漫画かぁ……。私あんまり漫画読まないの」
「あ……そうなんだ」
「ねえ、あれって」
小野田さんの指差した先には――
「あ、俊!」
「え?隼人か。小野田さんと一緒なんだ」
「俊はこんな時間になにしてるんだ?」
「俺は親に買い物頼まれたんだよ」
スーパーの袋を隼人に見せる。
「そうなのか」
「小野田さんも部活終わり?」
「そうだよ」
「料理部って結構遅くまでやってるんだね」
「後片付けもするから、結構時間かかるんだよ」
「そりゃそうか」
「そうだ、藤岡くんクッキー食べる?」
「え?いいの?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
チョコの味がしっかり付いてる甘めのクッキー。そういえば芽依もたまにクッキー作ってくれてたなぁ……。
「どう?」
「え?あ、美味しいよ。ありがとう」
「俊、お前まだ引きずってるのか?」
「……うるせえ」
吹っ切れるように心がけてはいるが、ふと瞬間に思い出してしまう。
「そんなに好きだったのに……やり直そうとは思わないの?」
「……無理かな。人として言っちゃいけないこと言う子だったから」
「本性を隠してたタイプか……」
「小野田さんも経験あるの?」
「ちょっとね……」
「恋愛の話をされても、未経験の俺は話に入れねぇな……」
「それは恋愛しなかったお前が悪い」
「仕方ないじゃん、最初の彼女を最後の彼女にしたいんだから」
あ……だからこいつなかなか彼女出来ないのか。
「理想も大事だけど、経験も大事だと思うぞ」
「いいことも悪いこともあるのが恋愛だもんね」
「なんか分かり合えてるみたいで羨ましい……」
「隼人、お前の家はこっちじゃないだろ」
話に夢中だったのか、自分の家の方角じゃないところまで着いてきている。
「あ、ほんとだ。じゃあまたな俊」
「ああ」
「小野田さんもまたね」
「うん、バイバイ」
二人で隼人を見送る。
「小野田さんはこっちなの?」
「うん、私の家は桜公園の近く」
「そうなんだ。家、結構近いかも」
「そうなの?」
「桜公園なら家からすぐだし」
「そうなんだ、じゃあ結構近所に住んでるんだね」
「そうだね。そういえば小野田さんはなんで前の彼氏と別れたの?」
「あー……」
少し悲しそうに俯く小野田さん。
「あ、言いたくなかったら全然いいんだ」
「ごめんね」
「気にしなくていいよ。じゃあ俺はこっちだから」
「ありがとう、じゃあね」
「うん、また月曜日」
手を振りながら各々家路へ向かう。
「二股かけられてて、私とはお遊びだったなんて言えるわけないよ……」
夜空を眺めながら呟く小野田さん。
そんな過去があったことを、俺や隼人は知る由もなかった。




