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天命を巡る異術師の怪奇譚 〜威嶋香奈編〜  作者: 紅薔薇棘丸
序章「香奈の公安術師デビュー」
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0-9「凛音の試練」

 いつの間にか意識が奪われていた。それに気づいたのはついさっきである。自分が目覚めた場所は謎めいた個室のトイレだった。


「こ、ここは……?」


 床に飛び立った血痕。それが何らかの事件を物語っているような気がした。


 そのトイレは不気味な空気が漂っている。これ以上は長居したくないとトイレから出て行った。


 トイレを出た先は横に一直線上の廊下が伸びている。先ほどのトイレと同じく多少なりに血痕が飛び散っていた。


「ど、どこなの? こんな場所、知らないんだけど……」


 私は震えながら廊下を進んだ。薄暗い廊下には至る所に血痕が飛び散っている。凄い悪臭まで臭って来るから鼻息しないように意識していた。


 取り敢えず歩き回ってみたが何も見つからない。ただ、進んで来た廊下の途中で張り紙を見つけ、そこに【私立春泉大学院】と記してあった。


「確か春泉大学院って潰れたはずだよね? 何で私がそこにいるんだろう……。しかも、何も思い出せない」


 以前までの記憶が何かしらの妨害で思い出せなくなっている。実際に色んな特殊エネルギーが脳内に巡っているのは感じ取れていた。だから、術式が絡んで思い出せないのだと思う。


 しばらく歩いた先に見つけた非常階段。そこから脱出できるかも知れないと希望が持てた。そこに向かって私は走り出す。


「やった! 出口があった!」


 必死に走って扉まで辿り着いた。それを開けようとした瞬間、バチっと弾かれる。今ので手が出血してしまった。さらに、扉には異様な力が及んでいることを知る。


「な、何この力……。凄い力が巡ってるせいで弾かれちゃうよ……」


 私は仕方なく別を探し始める。これではどこも変わらない気がして来た。それでも脱出しなければいずれ死んでしまう。少しずつ空腹も近づいていた。着実に限界は来る。


 違うルートを回ってみたら、凄く怪しい部屋が見つかった。そこは禍々しい気配と力の入り混じった部屋。絶対に何か聞かされているはずだ。


「もうここしかないよね? じゃあ、入って確かめないと先が見えなくなるな」


 恐る恐るドアノブに手を伸ばす。それを握った瞬間、体中に電気みたいな衝撃が走った。


「いてっ⁉︎」


 さっきと同じような痛み。けど、今度のは痛み具合が軽かった。もうこの部屋しか探すところがない。それなら我慢して開けてみようと再挑戦した。


「くっ……! いっけぇ!」


 思い切ってドアノブを握る。触れた瞬間から凄い痛みを味わった。しかし、握った手は離していない。すぐドアを開けて離した。


「ゔっ⁉︎ て、手がぁああああ⁉︎」


 手が焼け焦げたように黒くなる。ただ、激痛を伴ってしまったが、ドアはちゃんと開いた。後は奥に進んでみれば良い。私は中に進んでいった。


「まだ手が痛む。これだと次は無理かも知れないなぁ」


 そして三つのドアが並ぶ部屋に到着する。三つから一つ選んで入る必要があった。


「どれも同じように見える。これじゃあ選びようがないなぁ」


 今まで経験した事態は避けたかった。だから、より同じ痛みを伴わない部屋に入りたい。でも、三つから選ぶのは難しい。何かヒントがあれば別なんだろう。


「ここは真ん中にしよう。シンプルに真ん中は特別感があるんだよね」


 決心が出来た時点でドアノブを握ろうとした。


『––––待ちなさい!』

「……え? だ、誰?」


 謎の女性が私を呼び止めて驚いた。他にも閉じ込められている人がいるなんて思わなかったんだ。


 私が入って来たところから徐々に足音が向かって来る。


「って、あれ? さっきまでの道がなくなってる⁉︎ 確か見えるところにドアがあったはずじゃなかったっけ?」

『貴方は試されてるのです。ここに貴方が来たのは自身を磨き上がるためなんですよ』


 いつの間にか一直線に伸び変わっていた道。その奥から歩み寄る一人の女性が現れた。その女性は手に持った見覚えのある霊剣を手渡して来る。


『これを持って行きなさい。これがなければ勝てない。貴方はすぐ記憶を取り戻せるはず。だから、後は貴方自身で勝ち取ってください』

「あ、ありがとう!」

「では、失礼しました』


 ふと、気づいたら女性は消えていた。どこを見ても彼女の姿は見当たらない。可笑しいと思って探してみるが見当たらなかったんだ。


 だけど、手渡された霊感を見た瞬間、一気に記憶を取り戻した。


「お、思い出した! 私は総監部に報告した後で気絶しちゃって……はっ!」


 全部思い出した。部屋から出て角を曲がった先で鉢合わせた女性に睨まれて意識が朦朧とし始めたんだ。あれは間違いなく霊剣を手渡して来た女性だった。


「な、何で私に霊剣を届けてくれたのかな? まぁ、取り敢えず先に進んでみれば分かるはずだよね?」


 私は霊剣を持って奥に進み始めた。何か先で待ち受ける敵を討ち倒さないと出られない気がする。


 ようやくクライマックスに突入したような予感が脳裏を過ぎる。最後のドアを見つけ、奥から本格的な力を感じ取った。つまり、この奥は怪奇が待ち伏せしている。


「どうやら現状打破はドアの向こうに待ち伏せた怪奇かも知れない。ならば、即効で叩き潰してやる……!」


 私の瞳には狂気が宿っていた。それは絶対に討ち取る覚悟が出来上がっている。まずは奥の敵と対面する。


 再びドアノブが握られた。何事もなく流れてしまった上に平然とドアは開く。すると、奥で一匹の怨霊と鉢合わせた。


「あ––––」


 怨霊に気づいた瞬間、突如かまいたちが飛んで来た。咄嗟に横まで飛び込んで回避する。上手く受け身から立ち上がり、すぐさま霊剣を構えた。


「こいつがターゲットだよね! それじゃあ祓っちゃいますか!」

「イタイィィィイイ‼︎」


 素早く走り出した。踏み込んだ左足に術式を使ってスピード上昇。速度が上がって怨霊は追いつかなそうだった。一気に怨霊をぶった斬る。


「いっけぇぇぇええ!」


 隙だらけだった。やけにすんなり攻撃が決まってしまう。これほどに手応えがない相手は初めてだと思う。


「お、可笑しい。何か秘密があるはずだよ」


 すると、両断された怨霊が唸りながら光り出した。その発光で目を瞑ってしまう。しばらくして目を開けた瞬間、一本の禍々しい刀が落ちていた。


「こ、これは刀だよね? もしかして戦利品だったりするのかな?」


 そんな風に疑問を抱きながら落ちている刀を拾った。次の瞬間、背後に立った異様な気配を感じて緊急回避を試みる。


「だ、誰なの!」

「よく気づきましたね? どうやら無事に試練クリアです」

「は、はぁ⁉︎ し、試練ぅ⁉︎」

「はい。今から少しだけ説明します。よく聞いてください」


 確か記憶の中では彼女が私を襲った。それがきっかけだったはずだ。それが急に“試練クリア”と告げて来た。それには何かしらの意味があったのだろう。それを今から聞かせてもらった。


「私の名前は【ミュア】です。神間凛音様に式神として仕えています。実は貴方を襲ったのも試練に挑ませるためです。なので、急に襲ってしまったのは申し訳ありませんでした」

「え、総監部が仕掛けたの⁉︎ それなら早く言って欲しかったですよぉ……」

「そうもいきませんでした。この領域は凛音様が保存された異次元空間です。総監部就任前に担当した任務先で場所と共に封印されました」

「ふ、封印? それって何ですか……?」


 私は知らない用語と異次元空間の謎を説明してもらった。ミャアは一つ一つ丁寧に教えてくれる。そこで施してくれた説明で色んなことを知った。


 実際に私は手渡された書類が現場状況を記憶して怨霊を封印した器になっている。これを発動させた状態で渡されたから現地に意識だけ飛ばされたみたいだ。


「さっきの怨霊が【特殊武具】になる部類? それって“これ”だよね?」

「はい。そちらが【黒涙の凶刃】と呼ばれる呪具になります。それが自在に扱えればかなりパワーアップするでしょう。ただ、呪具故に不利益を背負うことになります」

「その不利益って何ですか?」


 大分話は進んで呪具の正体を知る。それを本領発揮した状態で駆使するには不利益となる効果を克服することが不可欠。これから入手した呪具の持ち主として不利益を克服していく日々が始まった。

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