0-8「初任務の決着」
術式が発動する。踏み込んで一気に速度が上がった。敵は速度を上昇させた私が捉えられていない。故に攻撃は回避不能だった。
「てぁっ!」
霊剣が薙ぎ払われた。今度は横に張り切って胴体を切断しようと試みる。
霊剣は怨霊をぶった斬ろうとした。けど、怨霊はギリギリで結界を張ってみせる。結界は霊剣を弾き、敵から攻撃する隙を与えてしまった。
「ギョェェェエエ‼︎」
「くそっ⁉︎ ぐっわぁぁぁああ⁉︎」
再び敵が私を殴り飛ばした。軽く吹っ飛んでしまうが、転がりながら立ち上がる。以前から得意としていた動作が役立って良かった。
取り敢えず敵は結界が張れる。それだけは把握した手段だった。その対処法を詮索する方に意識が向く。
「敵の片腕は再生してない。つまり、一度斬ってしまえば攻撃不可能なんだろう。だったら、残った方の腕を斬り落とせば良い!」
私は敵を注意して見た。隙が窺える箇所を探りながら走り出す準備を整える。
敵は片腕を失っている状態だ。バランス的に片側は隙だらけのはずだと考えられる。そっちに回り込んで攻撃する方が斬れる可能性は高い。
一か八か賭けてみた。私は術式で速度を上げ、損失した片腕の方に回り込んだ。
「そこだぁ!」
今度こそ怨霊を斬り捨てようと試みる。しかし、見立ては甘かった。
「ギョェェェエエエ‼︎」
素早く回転してから私と正面で向き合った。同時に黒い光を解き放つ。咄嗟に私が回避しようと反射神経を活かして体勢を切り替えた。
「危なっ⁉︎」
黒い光がギリギリで片足を踏み込んだところから違う方角に移った。踏み込む瞬間に多少の速度上昇を施して避け切る。
「あ、危なかったぁ!」
ただ、今回の敵は強かった。私だから思ってしまう事実かも知れない。訓練が足りなかったんだと後悔していた。
術式が使えたとしても敵わない。そんな現実と直面している。
「うん。次で決める……!」
私は集中力を研ぎ澄ました。目を瞑った暗闇で答えが見つかる。それは扱っていた霊剣が備えた力を解放することだ。
確か私が扱う霊剣は“認識した時に突風を起こす”ことが可能だった。これを引き出すには実践を交えないと発揮させるのは困難らしい。それは全て事前から翔介さんが教えてくれた話であった。
「そろそろ充分に馴染んで来たはず。なら、扱えるようになったかも知れない……!」
霊剣を構える。意識することで霊力が吸い取られていく。これは効果を発動させる前兆だった。
霊剣は準備できている。後は自身が行動に失敗しないことを意識していった。
「これでも食らえっ‼︎」
霊剣を横に振った。すると、軽い突風が吹き荒れる。突風は怨霊に向かって衝突した。けれど、結界で掻き消されてしまう。
問題なのは結界が破れなければ突破不可能だと言うことだ。そこを攻略しない限りは勝利できない。
相手を警戒しながら考えてみた。それはより相手に隙を見せぬ戦い方となる。
「じゃあ、これならどうかな!」
私は霊剣を横に振るう。当然ながらびゅぅんと風が吹き、怨霊にぶつかっていった。けれど、相変わらず結界が怨霊を守っている。その瞬間をしっかりと瞳に映しておいた。
「分かった気がする。弱点が見つかったかも……!」
よく思考を凝らした結果、結界に対する攻略方法が分かってしまった。こんな簡単に攻略できてしまうなど、思ってもみないような奇跡である。
早速、結界崩しを決行しようと行動した。まずは最初の一手から決めておく。
「ふぅ……てあああああっ!」
「ギィィィイイイ‼︎」
怨霊が攻撃体勢に入った。きっとこちらの変化に気づいたんだろう。だが、見つけた結界攻略方法には支障なかった。どんなに行動パターンが変わろうと揺らがない弱点を知ってしまったんだ。
先に通常スピードで駆け出す。出来るだけ術式なしで素早く怨霊周辺を走り回った。ただ、攻撃はまだ仕掛けない。
タイミングを窺いながら走り続けた。もう足にも疲れが溜まって来た頃だ。そろそろ決着をつけようと決心する。
大きな変化を悟った怨霊は過敏に反応していた。もはや、怨霊から攻撃を仕掛けて来る。
左腕を肥大化させた怨霊が私に向けてぶん回して攻撃した。
「よっ……と!」
面積が大きくなった左腕は軽く飛び上がって回避。即座に着地して術式を発動させた。
右足で着地、踏み出した左足から術式が作用して速度上昇を発揮する。通常よりも速度を底上げして駆け抜けた。ただ一直線に怨霊を狙って切りつける。
「たぁあああっ!」
「ギョイイイイイ‼︎」
バキンッ
「ぐぅっ! 弾かれたっ! でもぉ……!」
霊剣が弾かれるのは想定内。だからこそ、本気で振るわずに加減していた。次に切り替えやすい体勢を整えておいたのだ。
咄嗟に反射運動を活かして弾かれた反動作用から上手く切り返す。事前に想定していた崩れ方を成し、段取り通りの足で着地した。
着地から三歩目に術式発動。術式を施した三歩目は想定に従い、踏ん張った二歩目から踏み込んで速度上昇を利用して走った。
速度変化を成した走り込みはあっという間に至近距離まで詰め寄らせてくれる。だが、怨霊の反射能力まで想定して霊剣を振るった。そこには風を伴わせておく。
「そこだぁぁぁああ!」
「ギョワァァァアアアア‼︎」
風が伴った霊剣で斬りつける。霊剣はあと一歩早ければ怨霊を斬れたはすだった。ギリギリで張られた結界が霊剣を弾いてしまう。しかし、風を伴った斬撃は相当する影響力が孕んでいた。
弾き飛ばした結界は破れる。同時に以前と同じ行動で再び切り返した。それも速度だけが以前よりも高めておいたのである。
さっき以上の速度で距離を詰め、素早い斬撃が下された。さすがに反射能力が追いつかなかった怨霊は見事に胴体を両断されてしまう。
「ギョェェェエエ⁉︎」
胴体が横に真っ二つになる。怨霊が悲鳴を上げながら崩れ去って消滅していった。これで怨霊を祓い終える。
「よっし! 決まったよ!」
思わずガッポーズを決めていた。私には似合わない仕草で気づけば恥ずかしくなってしまう。それを拍手と共に楽典さんが称賛してくれた。
「お見事。よく攻略してみせたよ。凄い動きでどんな反応して良いか分からなくなるね」
「み、見ていたんですか? 何だか恥ずかしいです……」
「いや、殺されかけたら助ける約束したからね。いつでも救出するつもりで構えていたんだよ」
「ありがとうございます。でも、無事に祓えました」
私は感謝の一言を述べながら一礼する。今後は楽典さんも修行とか一緒に付き合ってくれるらしい。それと本部まで送り届けてもらった。
「今回はありがとうございました。お陰で初任務遂行です。これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。ただ、こっからは一人で行ってもらうけど大丈夫? 総監部に任務遂行を報告すれば良いだけなんだけど?」
「大丈夫です。何とかやって見せます!」
「分かった。じゃあ、気をつけて」
「さようなら!」
私は楽典さんに別れを告げた。次は総監部を訪ね、初任務の結果を報告する。これは人生で初じめての経験だった。今度から任務に出かける回数が増えれば報告も増えるだろう。
総監部が仕事する部屋の前に立った。何だか不思議な緊張感に追い込まれてしまう。それを必死に堪えながら奥に進んだ。
「失礼します」
思い切って入室した。扉の奥で待っていたのは髪を結ばずに垂れ流す凛音総監部だ。相変わらず白い美肌が若々しさを強調していた。私が入った瞬間に凛音総監部と即座に視線が合う。
「いらっしゃい。どうやら初任務は遂行したみたいだね? とても嬉しい結果だよ」
「え? まだ何も言ってません……」
「いや、もう確信していたんだ。君が遂行する未来は見えていたさ」
凛音総監部は席から立ち上がり、静かに私の元まで歩み寄って来た。隣に凛音総監部が立つと自分の方に抱き寄せる。
「ご苦労様。苦しい人生を送り、行き着いた場所は香奈に試練を与えた。それを全うしようと努力する香奈が気に入ってるんだよ。これからも活躍を期待しているからね」
「り、凛音総監部……?」
胸に抱き寄せられながら息を吸うと良い匂いが香る。どっから見ても清潔感を印象づけていた。
「いつでも相談に乗るよ。もし、何かあったら来なさい。私が解決してあげるからさ」
「ふぇ……?」
しばらく凛音総監部が抱き寄せた状態で過ごした。凛音総監部は十分だと判断して私から離れる。凛音総監部が席に戻り、書類を書き始めた。
「取り敢えず任務終了。こっから香奈に当てられる任務は成長するために戦ってもらう。苦戦を強いた者だけが強くなれるよ」
彼女が記し終わった書類には印鑑を押されていた。その瞬間だけは遠くから眺めていたので、自分が目を疑うことはない。
ただ、何となく遠めから警戒メッセージが読めた気がした。その時には意識が霞始め、立っているのが辛くなって来る。
用事がなくなって私は部屋から出ていった。凛音総監部から見送られながら速やかに立ち去る。
謎の緊張感を抱いた。自分はどうなってしまうんだろうと未来に不安が生じる。
––––帰って来たんだなぁ……。
取り敢えず生還したことに安堵する。けれど、身に起こる危険と不安な未来に対する震え。その両方を抱えながら廊下を歩いていた。
いつの間にか私の視界は閉ざされる。視界が何も映さなくなった瞬間から気持ちは軽くなった。
––––もう、終わったのかも……。
スッと消える小さな灯り。ただ、いつしか再び点灯して場を照らす希望になった。




