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天命を巡る異術師の怪奇譚 〜威嶋香奈編〜  作者: 紅薔薇棘丸
序章「香奈の公安術師デビュー」
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0-5「同じ境遇」

 早速、私も実践訓練を経験する段階に入る。


 まずは千穂ちゃんから説明されたことを理解した。大体の手順はバッチリ理解している状態が整う。


 そして千穂ちゃんと実践訓練を開始した。


 先に千穂ちゃんから術式を発動してみせてくれる。


「行くよ!」


 千穂ちゃんが背中に炎から成る翼を広げる。炎が激しく燃え盛り、左右の翼として形作った。


 しかも、炎は【青色】である。本来と異なった色で発揮した炎は凄まじい火力を誇っていた。


「これは霊術だよ。炎から翼を作り出してしまう術式なんだ。その翼から炎を操作できる」


 千穂ちゃんの霊術が明かされる。


 他にも天術【旋風眼】と高度結界術【センスインプルーブエリア】などが扱えるみたいだ。


 取り敢えず互いに交戦してみようと言う意見が出る。お互いを知ることで改善点を探す方針だった。


「まずは“指定区域から出ないこと”と“攻撃は加減する”を守って行こうね! 最初はそんなに硬くならなくて良いよ!」


 いざ交戦する段階に踏み込んでしまうと緊張して来る。やけに心臓が高鳴り、手に汗握った。


 スピードで上手く上回り、背後から回って攻撃すれば倒せるかも知れない。ただ、スピード強化状態で上手く回り込めるか不安だった。


 互いを見合って構える。スタートの合図と共に術式を発動させて攻撃しに行く。まだ、使いこなせるかは分からないけれど。


「それじゃか行くよ! 始め!」


 最初に一歩を踏み出す。次のステップで速度上昇を発動した。


「はっ!」


 駆け出した途端、普段より速度が出ていた。けど、慣れない速度調整は難しくて思ったように動けない。


 スタートダッシュを失敗してよろめいた。それを千穂ちゃんは見逃さない。


「ごめんね! ちょっと痛いかも!」

「えっ⁉︎」


 いきなり風が巻き起こる。凄まじい風で体が浮いて吹き飛ばされていった。


「きゃっ⁉︎」


 ビュゥン、と勢い良く飛んだ。これが【旋風眼】の力なんだと思わされた。


 そして宙に舞い上がった後、風は収まって放り出される。自分を支えるものが消え、そのまま重力に従って落下していく。


「きゃぁぁぁああ⁉︎」


 落下速度は凄かった。思いがけない事態に反応しようとする者はいない。––––と、思っていたはずだった。


 急に体が何かに受け止められる感覚を得る。何気に温かいもので包まれたような気がした。


 ふと、気づけば翔介さんがお姫様抱っこで受け止めていたんだ。


 ––––これって、もしかして……?


 私は生まれて初経験を得た。その瞬間、何より翔介さんの顔が窺えてしまい、つい真剣な表情に惹かれる。


「大丈夫か? 普通は落下を踏まえておくものだろう。まぁ、想定済みだったんだけどね?」

「は、はわぁ〜⁉︎」


 何だか恥ずかしくなって来た。こんな状況は初めてだから慣れていない展開である。


 すぐ翔介さんは私を下ろした。地面に足を着けて一人で立つ。


 そもそも一時的なお姫様抱っこは私に刺激が強くて頭を混乱させた。


「ごめんなさい! やり過ぎました!」

「お前は加減できないみたいだな? ペアを交代した方が良いんじゃないか?」

「え〜! それは無理ぃ〜!」


 千穂ちゃんは私とペア解消を拒否した。相当他とペアが組みたくなかったらしい。


 不満げに膨れっ面を見せた。けど、周囲の反応が低い。それに千穂ちゃんがいじけたような態度を取った。


 すると、翔介さんから提案が出る。


「最初は術式を慣らして行こう。術式使用中に基本動作を加える。これが出来れば【五級】から仕事に入れるだろう。やってみるか?」

「はい! 是非、お願いします!」


 翔介さんが提案した方法で基礎訓練を開始することになった。


 私は張り切って臨ませてもらう。今後に期待しながら頑張ろうと意気込んだ。


「まずは一直線上を走ろう。もちろん速度調整を加えた状態で走っていくんだ。少し速度を上げながら三十本は繰り返してみよう」

「はい!」


 とにかく私は速度を上昇させながら走り込んでいく。


 何度も繰り返す度に反省した。それを克服しようと工夫することで速度上昇に慣れ始めて来る。


「三十本が終わりました!」

「よし。中々ハードみたいだな? 少し休憩を入れようか?」


 しばらく速度調整を繰り返した。反復練習を施して大分馴染んで来たことを見込んでもらう。


 そして今度は速度調整と基礎動作を組み合わせるのかと思いきや違った。


「俺からプレゼントだよ。これは訓練用の木刀と本番用の霊具になる。香奈は武器に頼らないと術式が活かせない。だから、公安術師協会の武器倉庫内から探し出したんだ。使用許可は降りている」

「ほ、本当に使って良いですか? ありがとうございます!」


 手渡された霊具とか言う剣を持ってみるとかなり重かった。これを振り回しながら術式を行使するのは難しそうだ。


 けど、修行して鍛え上げれば可能になる。きっとそんな認識で良いんだと思った。


「取り敢えず最初は木刀から素振りしよう。それを軽々と振れるようになれば霊具を扱う段階に入れるはずだ」

「どれだけの期間が掛かるでしょうか……?」

「香奈は中学二年生だから十数年も磨き上げれば【二級】にはなっているかもな?」

「に、二級ですか? が、頑張ります!」


 今後は術式のコントロールと木刀の素振りを取り入れるプランを立てた。


 後は筋トレをこなしていけば、自然と筋肉がつくらしい。


 ちなみに女性は筋肉をつけても、あまり目立たない体質があると聞いた。修行が終わってから調べてみると見事に筋肉増量時でも自然体でいられると結果が出る。


 ある日、夜空を見上げていた。本当なら私は今でも綺麗な星空を斑斗と見ていられたんだ。それが叶わなくなってから悲しみが絶えず胸を締めつける。


「うっ……うぅ……。斑斗ぉ。寂しいよぉ……」


 一人で泣きじゃくった。みんなには知られたくない一面である。


 正直、心配して欲しくなかった。心配した時の表情はみんな同じ申し訳なさを感じさせる。だから、人前で泣くのは控えていた。


 仲間がいるはずなのに孤立してしまった状況下は苦しくて辛い。悲しみを共有できる相手を作れないから仕方ない話だった。


「うわぁぁぁん! もう、嫌だよぉぉぉ!」


 すると、梯子を上る音が聞こえて来る。誰かが屋根まで上がって来ようとしているんだ。


 急いで隠れようと思ったが、屋根の上だと隠れようがない。


 ––––こ、来ないでよっ……!


 だが、最終的に誰かは上がり切った。上がって来た人物は何と千穂ちゃんだ。


「どうして一人で泣いてるの? 相談してくれても良いのにさ?」

「ち、千穂ちゃん……?」

「にひっ。アイス持って来たよ? 丁度、公安部役員さんから頂いた奴。香奈ちゃんだけいなかったから探したんだよ?」

「ご、ごめんなさい……」


 千穂ちゃんが傍に寄って来る。両肩に手を置き、慰めるような一言を告げた。


「私がいるから安心して? きっと香奈ちゃんが思っている以上に辛い道のりなら、私だって歩んで来たんだよ」

「え……?」


 急に千穂ちゃんは悲しげな声で過去を語り出す。それは両親と妹の話だった。


 昔から不思議な力に悩まされていた千穂ちゃんを虐める奴から守ろうと必死に両親が駆け回ってくれたらしい。ただ、最後に頼った先で両親とも殺されてしまった。同時に妹まで殺されているのが見つかる。


 そして背後から殺害した犯人だと思しき人影が迫る。一緒について来れば殺さないと言い寄った女性らしき人物が手を伸ばした瞬間だった。


 駆けつけた公安術師たちが女を捕らえようと向かう。女は抵抗して最初に駆けつけた公安術師を殺した。けど、さらに仲間が来てしまう前に退散してくれる。


 あの一件から立ち直らなかったが、翔介さんから勧誘された。自分が持つ力を最大限に活用して大事な人たちを殺した犯人は始末しようと告げて来たらしい。


 それが千穂ちゃんのきっかけだった。


「そ、そうなんだ……? 辛かったね?」

「うん。私たちは似た境遇で集まった人たちが多いんだよ。だから、みんなで居場所を守ろうね!」

「うん!」


 こうして二人でアイスを食べる。少しだけ斑斗の話を聞いてもらった。千穂ちゃんは片想いしたことがないみたいだから初恋を見つけたいと語っていたのである。

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