0-4「異術師の要」
次々と明かされていく術式。特に翔介さんが凄かった。
彼が使う妖術は【黒死鳥】と呼ばれている。発動時に黒い翼が生え、黒いエネルギーを操れる術式だった。
黒いエネルギーは身体強化、波動攻撃、武器生成を施せてしまう。自身を大幅強化する効力が盛り沢山だ。
翔介さんは他にも術式を持っており、それらと組み合わせると無敵かも知れなかった。
「最後は香奈だね? 君が扱う術式を教えてくれないか?」
「は、はい!」
私は一歩前に出る。意外と人に教える瞬間は緊張した。みんなが見ている前で術式の発表を始める。
そして術式が知ってもらえた。私の説明で理解してくれたか心配である。ただ、ちゃんと言い切れたことが何より達成感を覚えられた。
「へぇ? 速度調整か。それはスピードで相手を圧倒すれば良いかも知れない」
中には感心していた方がいた。けど、逆に欠点を突き詰めて来る方も存在してしまう。
「けど、スピード上昇だけでは勝利できない。やたらと硬い奴が相手だったら敵わないだろ」
「一利あり。スピード重視と圧倒的破壊力、または術式を無効化が揃っていれば強かったな」
意外に強い術式だと思っていた。けど、現実は程遠く突き放して来る。
結局は欠点だらけ。その結果、私は周囲より劣っていることが分かった。これは幾ら修行しても埋まらないと思ってしまう。
しかし、翔介さんが欠点を覆してくれた。まだ希望は残されていると示す。
「武具を持てば良い。何か相性が良い武具があれば穴埋め出来る。それと今は霊術しか発現していないんだ。他が開花すれば覆るはずだよ」
周りは頷いた。全員が翔介さんに納得してしまう。
まだ希望が残されているなら、それに賭けたてみようと思った。私だって公安術師になった時から強くなりたい気持ちが芽生えていたんだ。
ここで引き下がれるはずがない。一度決めたことは絶対に貫きたかった。
「翔介の言う通りだな。きっと他を覚醒させれば俺たちは負ける可能性がある」
「にひひっ。それならお互いに頑張ろうね!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
やる気が溢れて来た。これは宿命が導いた試練なんだと思いながら歩み進めたい。
そして修行が再開した。今から腕立て伏せなどをこなしていく。
一時間後。ひたすら私は与えられたトレーニングメニューをこなした。ここまでは順調に進んでいる。
大量の汗を掻いた。手を抜かずに修行を進め、時刻は昼食時間に至る。
「全員終わったか? もう昼食を取る時間帯に差し掛かる頃だ。一旦切り上げて各自で食事して戻って来い」
「取り敢えず一時四十五分まで休憩しよう。五分前には全員が集合して欲しい。それだけ気をつけて食事開始だ」
一緒に修行していた者は厳重注意を呼び掛けられる。
解散する合図が出たると、集まっていた人たちは散らばった。
私も食事した方が良いだろう。けど、食事する金銭は持っていなかった。
修行が開始する前から金銭には困っている。これを解消するため、私は翔介さんに声掛けた。
「す、すいません! ちょっとだけ聞いてくれませんか?」
「どうしたんだ? 好きなところで食事を取って良いんだぞ。さっさと食べないと時間なくなる」
翔介さんは金銭問題に気づいていなかった。
本来、私は養子として育てられている。まだ、中学生と言う年頃で、金銭は親同然だった師範が出してくれていた。
言いづらかったけど、ちゃんと翔介さんに話してみる。翔介さんなら取り合ってくれるはずだと信じて打ち明けた。
「お、お金持ってないんです。実は親がいなくて……」
「あ、すっかり忘れていたな。一旦俺が出すから一緒に来てくれ。何でも奢るよ」
「ありがとうございます!」
そうやって私は翔介さんと行動する。
食事を済ました後、私は公安術師協会から“公安術師生活支援対象者”となった。
基本、公安術師だけが対象者として挙がる支援制度である。これらは公安術師の中で特殊な事情で金銭が持たない者に当てられた制度だった。
それに入れば生活自体は問題ない。ただ、今後は一人で生活していく術を身につけることが必要だった。
残り三十分で約束時間を迎える頃。色んな話を翔介さんから聞いた。
中でも以前に巻き込まれた事件で起こった現象の正体を知る。
あれは通称【怪奇領域】と呼ばれる怨霊や妖怪などが扱う結界術らしい。
普通は異術師が駆使するはずの結界術だが、同じように怨霊や妖怪も扱えてしまう。領域内は展開した怨霊・妖怪が有利状態に持ち込んでいた。
それを破る方法は怨霊・妖怪を倒すか構成された結界を解けば良い。ただ、一般的に結界の解除は難しかった。何故なら間を遮断する壁が頑丈だからだ。
「以前は無理やり突破したんだ。指定区域を囲っていた壁を物理攻撃で破壊して入った。俺なら破壊することは容易い。だから、術式は異術師にとって生存率を左右する要なんだよ」
「な、なるほど……」
それを聞いて不安になって来た。私の術式は速度調整しか出来ない。相手を倒す決定打には及ばない術式だ。
そうなると先が心配だった。私はなんかに務まるのか分からなくなってしまう。
「取り敢えず香奈は実践経験を積んでみよう。術式が要だと言ったが、そこまで心配する必要はない。今後どこかで違う術式を開花させる可能性は高い。ただ、現状に備えた体作りは必須事項だよ。今は修行して補うしかない」
その一言に温かみを感じた。これから私はひらすら頑張らないといけない。
そう思った瞬間に遠くから声が掛かった。
「香奈ちゃ〜ん! こんなところにいた! 探しちゃったよぉ〜!」
「え? えーと、名前ぇ……」
「あ、ごめん! まだ自己紹介してなかったね。私は風雲千穂って言うの。よろしく!」
見た目は活発な少女で、私より年上だと思う。
本来なら彼女ぐらいの子に公安術師が務まるとは思えなかった。けど、同じ境遇に立たされている自分が一番共感してしまう。
「今度は一緒に食事しない? 香奈ちゃんの好物って気になるんだよね!」
「う、うん……。分かった」
「約束だよ!」
いきなりハイテンションで約束を持ち掛けて来る。こんな瞬間が訪れるなど、予期していなかった。公安術師になって良かったかも知れない。
そして午後の修行開始。午後からは戦闘実践訓練が中心だった。
「まずは実力差の小さい相手と組もう。ここは互いに話し合って決めたい」
翔介さんから提示された修行内容は本格的だった。
いきなり実践するのはすこしだけ期待していた内容だ。
「じゃあ、私は香奈ちゃんと組みます! 女の子同士が一番実力差が小さいと思うんですよ!」
「それには賛成だ。まだ香奈の実力が分かっていない以上は他にいないだろ」
他からも千穂ちゃんに賛同する声が上がる。それを聞いて翔介さんは了承した。
「分かった。良いだろう。他は多少なりの実力差は仕方ない。早く組んで始めるぞ」
速やかにペアを組み、取り掛かれる状況が出来た。取り敢えず組んだペア同士が実践訓練の相手になる。
私と組んでくれた相手は千穂ちゃんだ。彼女なら実力差があっても加減してくはそうと言う安心感を持てる。今後は仲良くして行きたかった。
「この内容は九割近く取り入れているんだよ。だから、私は経験豊富だし、進め方は熟知してるんだ。何か分からないことは聞いてね?」
「よろしくお願いします」
千穂ちゃんは希望かも知れない。今度から千穂ちゃんを頼るのも悪くないはずだ。きっと力になってくれると思った。




