0-3「香奈の決意」
急に持ち出して来た用件を聞いてみる。内容は【公安術師協会】に申請して欲しいとの申し出だった。
「お前なら出来る。うちの連中も同じ境遇で入った奴ばかりだ。それなりに復讐心を持っている奴が多いよ。だから、君は俺と戦ってくれないか?」
彼は公安術師協会に加入することを勧めて来た。その説得には気持ちが篭っていたんだ。だから、私は受けても良いかも知れないと決意する。
「……分かりました。それじゃあ加入しようと思います。大事な人を殺した怪奇が憎いです。それを晴らすために私が祓い続けます!」
「それで良いんだよ。これからはよろしくな?」
いつの間にか決意が固まっていた。自然とやる気が湧いて来る感覚を覚える。
これは私を試す場なんだと思う。これを乗り越えていけば未来は切り開けるはずだ。
「今から公安術師本部に行けるか? 少しでも早い方が良いだろう。もし良ければ今日は少しだけ修行に参加してもらいたい。けど、そこは君が決めても良いよ」
「すぐお願いします。私は早く戦えるようになりたいです」
「分かった。外に車が停めてあるんだ。それで移動しようか?」
こうして新たな人生が幕を開けた。今後は違った生活を送ることになる。それは私を大きく変えてくれるだろう。
車に乗り込んで本部を目指した。これは私が授かった“天命”だと信じて突き進む。
本部に到着した頃。私はすっかり居眠りしてしまっていた。けど、それは指摘されることがなかったみたいだ。
これから誘ってくれた岩辺光茂さんが同行する。
しばらく進んで行った先で、とある一室にたどり着いた。そこは総監部が仕事する部屋のようだ。ネームプレートがぶら下がっているから一目で分かった。
「ノックして入るんだよ。緊張して硬くならないで良い。リラックスした状態で総監部と向き合えば問題ない」
「は、はい……。やってみます」
私は覚悟を決め、ドアをノックした。すると、中から女性の返事が来る。
「どうぞ、入って」
ドアノブに手を掛けると謎の緊張感が生じる。刺さるような視線を感じる中で入室した。
「失礼します」
「どうも初めまして。君が例の新人さんだよね? お会い出来て嬉しいよ」
「ありがとうございます」
目の前に座っていたのは若い女性だった。まだ二十代前半っぽい容姿が窺える。
白い美肌に微調整されたようなメイク。それと純真を催すポニーテールが印象深かった。
まるで道場で一緒に稽古していた二個年上の先輩と似た世代を連想させる。しかし、際ど過ぎないメイク具合が肌っぽさを和らげていた。
果たして彼女が総監部とは思えそうもない。不思議と異常な緊張感が内心に及んでいた。
「こちらは神間凛音総監部だよ。大体、君より六個差のお姉さんってところかな?」
「その言い方は止めて欲しい。総監部と言う立場なんだから印象で判断されたくないの。それより君はやる気があって来たんだよね?」
「は、はい……!」
私は大きく返事した。それはやる気を示している。
総監部は私を見ながら幾つか質問して来た。それらを素直に回答していく。
「幾つか質問するね? 術式は使えるかな?」
「は、はい! ただ、名前が分かりません……」
細かく術式の名称までは回答しようがなかった。その存在を知って間もない私が“術式”とか聞かされても訳が分からない。
それでも“踏み込んだ瞬間に速度調整が可能だと言う点だけ分かっていた。それ以上は判断が難しい。
それを聞いた総監部は即座に結果を発表してくれた。
本来、総監部なら情報が事前に入っていても可笑しくない。実際に調べ上げると一言はもらっていた。つまり、ずば抜けた運動神経はお見通しだろう。
「よし、決まりだ。今日から威嶋香奈を公安術師に認定する!」
「え⁉︎ ほ、本当ですか⁉︎」
「もちろん。後は出来る範囲で頑張れば良い。最初は慣れていくんだよ?」
「は、はい!」
こうして総監部から認定されてしまった。すでに公安術師として働ける人員に加わり、今度から修行が始まる。
現在地は公安部の所有訓練場。そこに連れて来られていた。
これから私も本格的に修行を開始するみたいだ。少し体を慣らすために運動してから術式チェックを行うと聞いている。
「今日から君を担当する黒鳥翔介と言う者だ。確か以前に事件現場で会ったと思う。これからよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げ、礼儀を示した。今度から私は翔介さんに修行を見てもらうみたいだ。
助けてもらった時を思い出すと凄い強いんじゃないかと思ってしまった。それを踏まえて信頼できる人だと心から安心している。
「取り敢えず準備運動は済んでいるだろう。だから、始めはランニングしようと思う。少し限界に近いペースを維持して走り切ってくれ」
「はい!」
いきなりランニングから始めていく。今後は私も任務に出るかも知れない前提だ。ここで鍛え抜かなきゃ即死してしまう。
最初は七割を維持して走った。
ちなみに私が扱う術式は【アクセルギア】と名付けられたんだ。これは速度をギアチェンジする術式として定義された。
速度調整を自由に変更して交戦が臨めてしまうのが特徴である。相手を速度で翻弄して攻撃に向かって行けるところが優れていた。
これは剣術と組み合わせようと考えている。ただ、最初は高速を発揮して剣を振るうのは難しかった。まずは先に速度調整と剣術併用を施しながら慣れるしかない。
「ランニング終了! お疲れ様ぁ〜!」
やっとランニングが終わる。一定のペースを保ち続けて走り抜いた。
少し体力を残した状態で走り切ったので、私は息が荒れてしまっている。
何度も呼吸することで息を整えた。次は本格的な筋トレメニューが入ると予測して備える。
「それじゃあ次行こう! 次は腕立て伏せとか行っちゃおう!」
「ちょっと待った。もんろん悪いとは思っているんだが、実は香奈の実力を見たい。だから、先に術式披露から始める!」
それは突然の提案だった。岩辺さんがみんなに提案を呼びかけ、術式から明かそうと行動する。
取り敢えず全員が賛成して術式披露は通った。
「先に提案した光茂から披露しろ。ここで恥掻くなよ?」
「了解! やりますよぉ!」
最初は提案者の光茂さんから披露してくれるみたいだ。
光茂さんはフィジカル系と言う印象が強い。筋肉が相当目立ち、外見だけで恐られそうだった。
「俺が扱う術式は【霊術】【天術】【妖術】の三種類。まずは霊術【ライトフォース】から披露してやろう!」
みんなは前に出た光茂さんを見守っている。私も彼が駆使する術式は気になっていた。それが今から窺えて嬉しい。
「基本は大気中から光エネルギーを吸収して操作する術式だ。光エネルギーが球体を成して撃ち出す技などで倒すのが得意かも知れない」
「こいつは全身を光エネルギーで覆って鎧みたいな効果が発揮できる。それが使われたら攻撃は効かないだろう」
一つ目の術式が開示され、何となくイメージを掴んだ。
そして次々と術式を見せてもらった。
後は天術【認識共有】や妖術【岩鎧竜】などを見せてもらったんだ。
特に妖術は“妖怪の力”を扱う術式で、かなり取得率は低い。それを取得している光茂さんは凄い人だった。
どんどん術式披露は始まっていく。




