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天命を巡る異術師の怪奇譚 〜威嶋香奈編〜  作者: 紅薔薇棘丸
序章「香奈の公安術師デビュー」
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0-6「本格試合」

 元々は剣術道場で一番強かった。師範ですら打ち負かした【剣術の天才】とか謳われているぐらいだ。


 それ故に木刀の素振りなど、容易く馴染み極めてしまった。


「はぁっ!」

「きゃっ⁉︎」


 すぱぁん、と面を打ち込んでいく。これで私が全勝中だった。


 近所に位置している高校剣道部は全国大会三位を誇る強豪校らしい。けれど、誰一人として一分も持たなかった。


「ありがとうございました!」


 一礼してから体育館を去ろうと出口に向かっていく。


 すると、周囲から小さい声で噂され始めた。


「あの中学生は強すぎる。マジで一分すら掛からなかったぞ」

「ヤバいよ。さすが公安術師だよな?」


 どうやら実力を認めてもらえたらしい。それと【公安術師協会】を知っている模様だ。


 以前、校内に出現した妖怪を公安術師が祓ってみせてから名は広がっていた。あの子たちも公安術師と言う存在を知ったのは【怪奇発生事件】が原因だろう。


「お疲れ様。素晴らしい動きだったよ」

「ちょっと手応えなかったです。あの程度だと相手になりません」

「そっか。じゃあ、うちで剣術を使う奴でも誘ってみるよ。そいつと手合わせするのはどうかな?」

「試してみたいです」


 即答で了承した。すぐ相手してくれる人を探すそうだ。それだけ私の実力を確かめたいのか疑問だった。


 しばらく素振りして待っていると翔介さんが誰かを連れて来る。その連れが竹刀をだらしなく持ち、まるで不良みたいな歩き方で近寄って挨拶した。


「よぉ? お前が新人なんだな? 私と剣術で勝負とは中々感情があるじゃん?」

「よろしくお願いします。どうかお手柔らかに」

「加減はいらねぇ。お前の剣術を見せろ」

「はい」


 気持ちは落ち着いている。彼女は荒々しい服装と振る舞いで挨拶する人だ。こう言うタイプは剣術に特化したイメージがある。


「先に一本を取れば勝利。互いを尊重しながら勝敗を競いなさい」

「あぁ? 尊重よりも実力だろうが! お前が強いなら打ち取ってみろよ!」

「出来れば一本は取っていきたいです。よろしくお願いします」


 そして正式に剣術勝負が始まる。相手は気荒い女性公安術師だ。


 ここで一本が取れたら凄いのかも知れない。


「私は柳野火華だ! 階級は『二級』で留まっているが剣術は自信あるぞ! 掛かって来い!」

「分かりました。本気で行きます!」


 互いに竹刀を構えた。構えだけは綺麗に整っている。そこからどんな動きで掛かって来るのか楽しみだった。


 合図が出される直前に深呼吸する。落ち着いて構えながら私は相手の一手を予測していた。


 そろそろ合図するだろう。相手が動き出す瞬間に合わせて自分も応じていく。


「今回は術式を使用しない剣術勝負だ。両者とも正々堂々と相手しなさい」

「準備は良いぞ。いつでも始めてくれ」

「私からもお願いします」


 互いが睨み合う。そんな緊張感を湧き立たせる空気の中で、私が火華さんと打ち合おうとしていた。


「それでは始め!」


 合図は出た。早めの小刻みで右回りに動く。


 相手は一旦動かず、ただ立ち尽くしていた。けど、一呼吸置いてから踏み込んで来る。


 素早く間合いを詰め、竹刀が届く範囲内に迫った。それを振り上げる瞬間まで逃さずに捉え続ける。


 すると、今まで経験したことのなかった速度で攻めて来た。


「おらっ!」

「はぁっ!」


 想像以上に振り翳すのが速い。咄嗟に防いでから即反撃を始めた。


 防ぐと同時に竹刀を弾き、素早く一撃に踏み込んでいく。


 だが、火華さんは攻撃に応じた。相応しい動きで反撃を回避する。続けて少しも譲らないような攻防が繰り広げられていった。


「はっ! たぁっ!」

「ふんっ! はぁっ!」


 こんな風に真面な打ち合いは初めてだ。火華さんは確かな実力を持っている。それが打ち合ってみて分かった。


「やるじゃんか! ここまで耐えなくとか期待以上だな!」

「互角なんて初めてかも……。これまで相手したことがない」

「そろそろ決着つけようぜ!」


 火華さんが決着を望んだ。私も同じように決着したいと思った。


 そこで精神を研ぎします。極限まで集中力を高め、しっかりと相手を見つめた。


 次で勝敗が決まる。


「はぁぁぁああ!」


 猛々しい声を上げ、先に動いたのは火華だった。


 以前よりも素早い駆け足。すぐ間合いは詰められ、攻撃が及ぶ範囲内に侵入して来た。


 すかさず私も動き出す。小さく後退しながら相手の攻撃先を見極める。


 その刹那、火華さんから打ち込んで来た。しっかりと竹刀に反応し、相手からの攻撃を防いでみせる。


 その後、ついに勝敗が分かれた。長い激闘の末に勝ち取ったのは火華さんだ。


 途中まではお互いに攻防続きだったが、最終的には一瞬だけ隙が生じたらしい。そこを正確に捉え、火華は打ち込んでいった。


「参りました。今回は凄く楽しかったです」

「いや、実は悪かった。中学二年生の割に巧みな動きだったと思う。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました。本日は打ち合いに付き合って下さったお陰でも言える」


 私たちは握手を交わした。実際に両者は剣を交えて認め合えたはずだ。だから、内心では満足していた。


 いつか訪れるとは思っていたライバルみたいな存在。それが火華さんだと信じているのが本音だった。


 試合後は私たちで食事していく。激しく動いたせいかすっかり空腹だった。


「やっぱ来ると思ったわ……」

「え? ダメだったか?」


 いきなり入った店は高級焼き肉店だ。お支払いは全部翔介さんに任せると火華さんは押し付けていた。


「本当に良いんですか? ここの肉って高そうですよ?」

「気にしなくて良い。翔介は金持ちだからな」

「そう言う問題ですかね……」


 何だか一戦を交えた時の尊敬が失せた。全く呆れて言葉が返せない。


 それより翔介さんが黙り込んでいた。食事メニューは一人で火華さんが見ている。本当なら翔介さんを優先するべきだと思った。


「よし! 取り敢えず牛タンとカルビとか食べないか? 香奈も食べたいだろ?」

「わ、私はお腹減ってないです」


 ぐぅ〜


 そう遠慮しようと思ったら、タイミング悪く腹が鳴ってしまった。


「ん? おいおい、遠慮すんなよ。今のは空腹じゃないか?」

「で、でもぉ……」

「気にするなよ。金は持って来た。その代わり香奈と定期対戦を頼む。俺が頼れる奴はお前ぐらいなんだ」

「了解。じゃあ、遠慮しないぞ?」


 そんな感じで火華さんと定期対戦する日々が始まった。剣を交える度に相手を知っていく。火華さんの動きを理解し、徐々に順応していった。


「相当強くなってやがる……」

「うん。あの火華と対等に渡り合えて来たよ」


 周りの目から見ても大きく成長したと言われている。自分でも実感は湧いていた。


 何度も対戦して学んだ。相手から欠点を修正する術を盗み取った。それが出来たからこそ、実力で火華さんに近づいて来る。


「はっ!」

「なっ⁉︎」


 何百戦と交えて来た。それは私を大きな成長に繋げてくれる。


 ある日、私は火華さんを打ち破った。相手の竹刀を弾き飛ばして制する。


「や、やりやがった……」

「か、勝っちゃった……! やったぁ!」


 遠くから見守っていた千穂ちゃんが歓声を上げた。この時、思わず胸を撫で下ろしてしまう。


「対戦ありがとうございました」

「くっ。さすがに参ったよ。私よりセンスあるあんじゃん!」

「そ、そんなことないですよ……」


 火華さんは立ち上がると、黙って私を抱き締めて来た。火華さんが震えた声で告げる。


「お前は立派だ。期待してるぞ」


 泣き出しそうな儚さを感じる。きった負けて悔しかったんだろう。ただ、火華さんから褒めてもらえたのは嬉しかった。


「火華さんが相手してくれたお陰です。火華さんと戦って来れて私は幸せ者ですよ」

「グズン。バカ言うなよ。お前って奴は素直なんだから……!」


 今日は初勝利記念として盛大な祝福を上げてもらった。それに加えて火華さんからプレゼントまで受け取ってしまう。


 本格的に公安術師として活動するために修行を積み上げた。


 およそ修行に励んだ期間は五ヶ月ほど。以前と比べて成長は大きかった。


「吹っ飛べぇ!」


 ビュウン、と大きな風が吹き荒れた。それは千穂ちゃんが起こした旋風だ。


 もちろん風圧に逆らえるはずがない。けど、吹き飛ばされた矢先、上手く着地して間合いを詰めて行った。


「げっ! これで十回目なんだけど⁉︎」

「まだ終わってないよ!」

「本当にもう!」


 旋風に繰り返し吹っ飛ばされる。それを何度も受け、着地する術が身についた。


 すでに空中で体勢を整えることが出来る。それは各場面で適した活用法があるはずだ。


 もうすぐ私も任務が検討されていた。

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