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1/3時間  作者: 藤崎ユキオ
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ストームヘッジの遺産

別の保健室で、フリックはベッドに横たわったまま意識を失っていた。


夢の中、景色はストームヘッジ家の小さな伝統的な道場へと変わる。


十歳のフリックは、父親のベン・ストームヘッジと姉のマヤ・ストームヘッジが練習試合をするのを、目を輝かせて見つめていた。


フリック:「マヤ姉! 頑張って!」


マヤはフリックの方を向いて優しく微笑んだ。


マヤ:「うん……ありがとう、フリックちゃん」


ベン(笑いながら):「フリック! せっかくだから、お前が審判やってみろ!」


フリック:「ほんと!? わかった、父さん!」


フリックは少し得意げな顔で二人の間に立つ。


マヤ:「ちゃんとやってね……」


フリック:「任せて!」


彼は咳払いをして、真剣な顔で審判の言葉を述べる。


フリック:「これより、ストームヘッジ道場師範・ベン・ストームヘッジと、ストームヘッジ武術の優れた後継者・マヤ・ストームヘッジの試合を始めます!」


ベン:「ははっ! やるじゃないか、フリック!」


フリック:「えへへ、本当?!」


ベンとマヤは互いに礼をし、構えを取る。フリックは二人の集中した空気に飲み込まれながら、後ろに下がって腕を上げた。


フリック:「試合……始め!」


試合が始まると、空気が一気に重くなった。父と姉は互いの動きをじっと見つめ、微動だにしない。


ベン:「さすがは私の娘だ。隙がないな!」


マヤ:「父さんこそ……」


フリックは目を離せなかった。まだ子供ながら、一瞬の油断が勝敗を分けることを本能的に理解していた。


ベンがわずかにガードを下げた瞬間、マヤが動いた。


マヤ:「隙あり! 攻撃拳:炎!!」


拳に炎を纏い、素早く突きを放つ。


しかしベンは優しい掌底でその拳を軽く逸らした。


ベン:「流れる拳:水!」


マヤ:「あっ……!」


背中に大きな隙ができたのを見て、ベンは決着をつけようとした。


ベン:「まだまだ勉強不足だな、お嬢ちゃん!」


しかしマヤは小さく微笑んだ。


マヤ:「飛び足:風!」


彼女は跳び上がり、体を回転させてベンの攻撃をかわし、背後に回り込む。


ベン(驚き):「なっ!?」


姉の鮮やかな動きを見て、フリックの目が輝く。


フリック(心の中で):マヤ姉、すごい……!


マヤ:「父さん、今度は私の勝ちよ! 流れる拳:水!!」


優しい掌底の連打を背中に浴びせる。


だが驚いたことに、ベンの背中は鋼のように硬く、マヤの攻撃は全く効かない。


マヤ:「これは……まさか!」


ベン:「それだよ、マヤ!」


フリックがまだ状況を理解できないでいる中、マヤが距離を取ろうとした瞬間、ベンが振り向き反撃した。


ベン:「これで終わり!攻撃拳:炎!」


マヤ:「避けられない! 固い防行:土!!」


腕を交差させて防御するが、炎の拳の衝撃でマヤは後ろに吹き飛ばされる。


マヤ:「ぎゃあっ!!」


床に膝をつくマヤを見て、ベンはフリックに目配せした。フリックは慌てて立ち上がる。


フリック:「勝者、ベン・ストームヘッジ!」


マヤ:「うううっ! また負けた! 父さんズルい!」


ベン:「何を言ってるんだ。正々堂々と勝ったぞ」


マヤ:「でもガードもせずに固い防行:土を使うなんて! そんなのあり!?」


ベン:「はははっ! それが本当のストームヘッジ流を極めた姿だ! 体が技を覚え、自然と対応するようになる!」


マヤ(頰を膨らませて):「それってただの言い訳じゃない!」


二人のやり取りを黙って聞いていたフリックは、それをストームヘッジ流を学ぶための大切な情報として胸に刻んだ。


ベン:「フリックも、よくやったぞ!」


父親の褒め言葉を聞いて、フリックは満面の笑みを浮かべ、喜びで胸がいっぱいになった。


やがて景色が薄れ、現実に戻る。


フリックはゆっくりと目を開けた。


マヤがベッドの横に座り、リンゴを可愛いウサギの形に切って彼のために用意していた。


フリック:「姉貴……?」


マヤ:「あら、ようやく起きたのね。これ、ウサギリンゴに切ってあげたから。ちゃんと食べてね?」


フリック(弱々しく頷き):「……うん」


腕を上げようとするが、体中が痛む。


フリック:「痛っ……」


マヤ:「こら、無理しちゃダメ! 動かないで! お姉ちゃんがウサギリンゴをあーんしてあげるから。はい、あーん!」


フリック(慌てて):「や、やめろよ姉貴! 恥ずかしいだろ!」


マヤ:「お姉ちゃんに口答えしちゃダメ!」


彼女は容赦なくリンゴを食べさせ始める。


マヤ(くすくす笑いながら):「ふふっ……リスみたいな顔してるわよ!」


フリック(口いっぱいに):「うるせ!」


マヤ:「どう?美味しい?」


フリックはリンゴのスライスを噛んで飲み込んだ。


フリック(低い声で):「美味しい…」


全てのリンゴを食べ終えた後、マヤが立ち上がって部屋を出ようとする。


マヤ:「よし!生徒会の仕事がまだ残っているから、今はこれで。フリック、早く良くなってね!」


しかしフリックが突然彼女の腕を掴んだ。


フリック:「待ってよ! マヤ姉!」


マヤは驚いた。もう何年も「マヤ姉」と呼ばれたことがなかったからだ。


マヤ(からかいながら):「どうしたの? お姉ちゃんにもっと甘えたいの? 可愛いじゃない、フリック」


フリック(顔を赤らめて):「ちげよ! そういうんじゃね!!」


深く息を吐いてから、彼は続けた。


フリック:「マヤ姉! 答えてくれ! どうして!? どうして道場を離れたんだ!? どうして父さんの遺産を継ぐのを拒否した!? お姉ちゃんなら、きっとストームヘッジ道場を——」


マヤ:「……私には無理だったから」


フリックは彼女の突然の答えに沈黙した。そしてもう一度聞いた。


フリック:「そんなはずね! マヤ姉はストームヘッジ流の優れた後継者だろ! 父さんがマヤ姉のことをすごく褒めてた! 遺言にも、マヤ姉が後を継げって書いてあったのに! マヤ姉じゃなきゃ、誰も道場を率いられねよ!」


マヤは優しく微笑み、フリックの頭を撫でた。


フリック(困惑して):「な、何だよ……」


マヤ:「聞いて、 フリック……私が継ぐのを断った理由は……私の可愛い弟で、ストームヘッジ流を一生懸命学びたがってるあなたが、そばにいるからよ」


フリック:「え? 俺? でも俺は——」


マヤ:「ええ……見たわよ。あなたとセトレ・グレッグソンの試合」


フリック(顔を伏せて):「俺……負けたけど……あいつの魔力は……すごかった」


マヤ:「そうね。彼の魔力は確かにすごかった。そしてあなたは負けた。でも、あなたは誇り高くストームヘッジ流で戦い続けた。それだけで十分よ。あなた、フリック・ストームヘッジが、ストームヘッジ道場の最高の後継者だって証拠だわ。お父さんが生きていたら、きっと私と同じことを言うはずよ!」


フリック:「でも俺……父さんの教えを裏切って、支配と力欲に目がくらんで……俺なんかじゃ——」


マヤは突然彼の唇をつねった。


マヤ:「お姉ちゃんに口答えしちゃダメ!」


フリックは驚いて目を丸くし、素直に頷いた。


マヤ:「さてと! 話は決まったわ。これからは道場をちゃんと守りなさい。街で喧嘩してる場合じゃないんだから! じゃあね、フリックちゃん!」


フリック:「その呼び方やめてくれ!」


マヤは微笑みながらドアに向かってスキップし、振り返って手を振ってからドアを閉めた。


フリック:「ったく……」


保健室の外では、サマンサとその一味が中に入るタイミングを待っていた。


マヤは微笑みながら彼女たちに声をかけた。


マヤ:「あなたたち、フリックの友達よね? もう入っていいわよ!」


サマンサ(緊張して):「は、はい!」


マヤが去った後、ヤンキーたちはひそひそと話す。


ヤンキー1:「うわっ! あの人、生徒会のマヤ・ママじゃねえか!?」


ヤンキー2:「すげえ……めっちゃ美人だぜ!」


サマンサは二人の頭を叩いた。


サマンサ:「こら!言葉に気をつけろ! あの方はボスのお姉さんよ!」


ヤンキー1&2:「痛っ、ごめん姉御!」


それから彼らはゆっくりとドアを開けてフリックを見舞う。


サマンサ(小声で):「ボス……見舞いに来たんだけど、いい?」


ベッドの上でフリックはドアの方を向いた。


ヤンキー1:「おやつを持ってきましたぜ、ボス!」


ヤンキー2:「バナナもな!」


フリック(微笑む、頭の中):「ったく、バカどもが…」


そしてフリックは彼らを歓迎した。


フリック(優しく微笑んで):「おお、入ってこいよ」


ヤンキー1:「ありがとうボス!」


ヤンキー2:「入るぞ!」


しかしサマンサはドアの前で立ち尽くし、呆然としていた。


サマンサ(心の中で、頰を赤らめて):うわ……ボス……あの優しい笑顔……どうして心臓がこんなに鳴ってるの!?


ヤンキー1:「あの……姉御?」


ヤンキー2:「入らないの?」


するとフリックの優しい声が彼女に届いた。


フリック:「おい、サム……大丈夫か?」


サマンサ(慌てて):「えっ!? だ、大丈夫だよ、ボス!」


サマンサが近づくと、ボスの雰囲気がすっかり変わっていることに気づいた。


もっと穏やかで、優しい。


フリック:「どうしたんだ、サム? ずっと俺の顔を見て……何か付いてるか?」


彼の意外に魅力的な優しい顔に耐えきれなくなり、サマンサは真っ赤になってトイレに逃げてしまった。


フリック:「サムのやつ……本当に大丈夫か?」


ヤンキー1:「たぶん生理だろ」


ヤンキー2:「そうだな……姉御は生理の時、変になることあるもんな」


女子トイレの中で、サマンサは鏡の前に立っていた。自分の顔が真っ赤になっていることに今さら気づく。


サマンサ(完全に動揺して):「きゃあああ!! 何この顔!? 完全に恋してる女の子の顔じゃんかい!! ど、ど、ど、どうしよう!?」


--


第73章 ストームヘッジの遺産 終

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