圧倒的な力 vs 目に止まらぬ速度
スタジアムでは、キングズ・トーナメント準決勝第二試合が始まろうとしていた。アナスタシアがいつものようにステージに上がる。
アナスタシア:「皆さん!これより キングズ・トーナメント準決勝第二試合が始まります! 覚悟を決めてください! 今回は『無敵』なアストン・ヘイルファイアが、『銀狼』ソフィア・ヴォルコヴァと対戦します!!」
彼女は地形シャッフルを開始した。観客全員の視線が巨大スクリーンに集中する。
アリーナ入口前で、僕とソフィアが待機していた。
アストン(心の中で):ソフィアの高速戦闘スタイルを考えれば、草原テーマ以外ならいいが……
ソフィア(願いながら):「草原テーマ! 草原テーマ! お願いだから草原テーマ!!」
十秒のシャッフル後……
アナスタシア:「準決勝第二試合の地形テーマは……草原テーマ!!」
ソフィア(喜んで):「やったー!! 草原テーマだ!!」
アストン(呆れて):「ですよね~」
レオンがスタジアム制御パネルを操作すると、アリーナは廃墟から広々とした草原テーマへと変化した。
二人の選手がアリーナに入場し始める。ソフィアが入場すると、観客席から大きな歓声が上がった。
観客男性1:「ソフィアちゃん!! うわぁぁ!かわいいいすぎる! 好きだ!!」
観客男性2:「あの無名野郎をぶっ飛ばせ! ソフィアちゃん!」
熱狂的な声援を受けても、ソフィアはむしろ怒りを露わにした。
ソフィア:「うるさいわね! 私のこと全然知らないくせに、勝手に惚れてんじゃないわよ!? どれだけ浅はかなのよ、おっさん!?」
観客男性1:「えっ!?」
ソフィアはもう一人の男を指差した。
ソフィア:「そこのあんたも! アストンはただの無名なんかじゃないわ!! 私が勝つのは決まってるけど、彼はすごい男よ!!」
観客男性2:「お、お……」
僕は彼女の行動に苦笑いした。ソフィアは応援に来ている陸上部員たちにも手を振った。そして漸く、僕の方を向く。
ソフィア:「アストン! 本当にアストン!本物だ!」
アストン(気まずく):「ああ……久しぶりだな、ソフィア」
ソフィア:「すごく話したいこと、懐かしいこと、いっぱいあるのに……」
アストン:「今はそういうタイミングじゃないよな」
観客の期待が高まっているのを感じ、ソフィアがにやりと笑った。
ソフィア:「ええ! 遠慮なく私を全力で来なさいよ、アストン!」
アストン:「ああ、君こそ……ソフィア!」
審判が二人の間に進み出た。
審判:「両者、準備はいいか?」
アストン&ソフィア:「はい……」
僕とソフィアはスタート位置に着いた。緑の草原アリーナが広く広がっている。
穏やかな風が二人の体を撫で、ソフィアの艶やかな銀髪を美しく揺らした。
アストン(見とれて):「ソフィア……」
僕の視線に気づいたソフィアが、懐かしさを感じて少し頰を赤らめた。
ソフィア(からかいながら):「えぇ~ 相変わらず変なやつね、アストン」
アストン(慌てて):「あっ! ごめん! つい見とれて……」
ソフィア(少し照れながら):「ふふっ、見つめられてもいいわよ。むしろ嬉しいくらい」
アストン:「そ、ソフィア……からかうのはやめてくれ……」
するとアナスタシアがマイクで咳払いをした。二人は彼女の方を向く。
アナスタシア(遊び心たっぷりに):「おっと?これは驚いた!まさか 試合前に二人して随分と親密ですね! 今はアリーナの真ん中だから、イチャイチャするのは後にしてくださいね!」
アストン:「えっ!? してないよ!?」
観客席から、エリスナが暗い笑顔でこちらを見ていることに気づき、背筋が凍った。
アストン(慌てて):「え、エリスナ!?」
エリスナ(暗い笑顔で):「アストン……手加減なんてしないでね?」
アストン(動揺):「!?」
ソフィアはストレッチをしながら体をほぐす。
ソフィア:「あのオレンジ髪の女の子はだれ? もしかして彼女?」
アストン(慌てて):「えっ!? 違うよ! ただの友達だ!そんな風に思ったことなんてない!」
ソフィア:「へえ……本当? なかなかかわいいいい子なのに?」
準備が整ったところで、アナスタシアが試合開始を宣言した。
アナスタシア(興奮して):「さあ! 皆さん! キングズ・トーナメント準決勝第二試合! 『無敵』アストン・ヘイルファイア vs 『銀狼』ソフィア・ヴォルコヴァ! スタート!!」
試合開始と同時に、ソフィアが猛然と突進してきた。
アストン(驚き):「速っ!?」
ソフィア(笑いながら):「ふふっ! 準備はいいかい? 来るわよ、アストン!」
間合いを詰め、右腕を振り上げる。
ソフィア:「ウルフ・クロー!!」
前回と同じく、ソフィアが素早い一撃で決着をつけようとする。
しかし前回の試合で彼女のストレートな戦い方を見ていた僕は、すでにその動きを読んでいた。
アストン:「甘い! 迅足!」
横に滑るようにステップし、ソフィアの攻撃をにかわしながら、彼女の攻撃パターンを観察し続ける。
ソフィア:「さすがアストン! でもまだまだよ! ワイルド・ラッシュ!!」
アストン:「何!?」
彼女はさらに加速し、獣のような鋭く正確な連撃を浴びせてくる。
アストン(目を見開いて):「速すぎる! 守護亀の盾!!」
僕は腕を交差させると、亀の甲羅の幻影が輝き、ソフィアの猛攻を防ぐ。
アナスタシア:「来ました! 無敵の秘技、守護亀の盾! 霊亀の甲羅が銀狼の攻撃を弾き返しています!!」
アストン(心の中で):「これは師匠モルアの、リー・シンの秘術だけどな……」
ソフィア(楽しげに):「わーい! 楽しい!!」
ソフィアは攻撃を止めず、僕を徐々に押し込んでいく。
僕は守護亀の盾で耐え続け、彼女がわずかに息を整える瞬間を見つけた。
アストン:「今だ! 吠える虎拳!!」
ソフィア(目を見開いて):「うわっ!?」
危険を感じたソフィアはバックフリップで距離を取り、拳をかわした。
アストン:「くっ……何と素早さ!」
アナスタシア:「これはどうしたことでしょう!? あの無敵が銀狼に攻撃を当てられない! どんなに強力な技でも、当たらなければ意味がないという完璧な証明です!! これで彼の無敗記録も終わりでしょうか!?」
ソフィア(笑いながら):「ふう……危なかったわね。その虎の拳、一発当たったら確実に沈むわ! 気をつけないと!」
アストン(微笑んで):「どうかな……次は当たるかもしれないよ?」
ソフィア:「当たるって空気を当たるってこと? ふふっ……私の速度を甘く見ないでよね!」
彼女は目にも止まらぬ速度で僕の周りを円を描くように走り始めた。
アストン(周りを見回して):「くっ! 見えない!彼女はどこから責めるか、全くわからない!」
ソフィア(にやりと):「ここよ、アストンちゃん!」
アストン:「なっ!?」
ソフィア:「ワイルダー・ラッシュ!」
反応しきれず、僕は彼女の高速コンボをまともに受けてしまった。速度重視のため威力は高くないが、急所に当たれば致命的だ。僕は耐えるしかなかった。
アナスタシア:「容赦ない連撃、ワイルダー・ラッシュが炸裂! 無敵さんは完全に封じられ、反撃すらできません!!」
ソフィア:「ははっ! どうしたアストン? 反撃してくれないの?」
アストン(耐えながら):「くっ……!」
約一分間、彼女の猛攻に耐え続けた後、ソフィアが息を整えるために一歩下がった。
ソフィア(息を切らして):「はあ……はあ……タフね! 少なくともそこは認めてあげるぜ、アストン!」
アストン(苦笑い):「……それはどうも……」
エリスナはアストンが一方的に攻撃され続ける姿に耐えきれず、拳を握りしめた。
エリスナ:「頑張って……アストン!」
全身の痛みに耐えながら、僕は再び立ち上がった。
アストン:「ソフィア……今度こそ……絶対に……」
ソフィア:「自信たっぷりね? 何が根拠だ?」
アストン:「根拠がない……ただの勘だ」
ソフィア:「勘!? ははっ! 面白いわね! でも当てさせないわよ!」
彼女はさらに速度を上げ、僕の周りを回り始めた。今度は前よりも遥かに速い。
ソフィア:「これが私の最高速度! 目で追えるかしら!? ワイルデスト・ラッシュ!!」
残像がいくつも現れ、動きがさらに加速する。
アナスタシア:「これは……信じられない! アリーナの中に複数のソフィアが見えます!! 彼女の凄まじい速度だけで生み出された残像です!!」
ソフィアが僕の反応を待っている間、僕は体を動かさず、目を閉じて聴覚を研ぎ澄ませた。
ソフィア(心の中で):目を閉じるだと!? マジで!? どれだけ油断してるのアストンよ!? それじゃ、そろそろ終わりにしてあげるわ!
彼女は最高速度で僕に突進した。足音が近づくのが聞こえる。
ソフィア:「くらえ! ムーンブレード・キック!!」
垂直の斧蹴りが肩を狙う。しかし蹴りが届く直前——
アストン:「吠える虎拳!!」
ドオオオオン!!!
アリーナの地面が揺れるほどの全力の一撃。バランスを崩したソフィアの斧蹴りは紙一重で外れ、彼女は膝をついた。
ソフィア(驚愕):「なに!?」
好機を逃さず、僕は即座に追撃した。
アストン:「そこだ! 飛龍拳!!」
僕は腰をひねり、彼女に強烈なアッパーカットを放った。
飛龍拳が彼女の顎に当たりそうになったが、彼女は素早く後ろに身をかわした。
アストン:「まだだ! 斬鳳蹴!!」
鳳の幻影が舞い上がり、ソフィアの胴体にジェットのような蹴りを叩き込んだ。彼女は吹き飛ばされる。
ソフィア(苦痛に):「ぎゃああっ!!!」
柔軟性を活かしてダメージを最小限に抑え、なんとか着地したソフィアだったが、バランスを完全に崩していた。
ソフィア(歯を食いしばって):「まずい……!」
僕はソフィアに向かって最終の一撃を放とうと疾走した。
アストン:「これで決める! 吠える虎——」
しかしその瞬間、僕の視界全体が真っ赤に染まった。
アストン(呆然):「なっ……!?」
動きを止め、目を見開き、口を開けたまま周りを見回す。
ようやく理解した。この視界を覆う血のような色、スタジアム全体を飲み込む深紅の海は——
『死の時計』だった。
観客、スタッフ、生徒会メンバー、そして僕の知り合いであるエリスナ、アナスタシア、ソフィアの頭上にも、同時に死の時計が浮かび上がっていた。
アナスタシア(混乱して):「おっと、どうしたんですか!? アストン・ヘイルファイア選手が突然最後の一撃を止めた——」
激しい頭痛が爆発するように襲ってきた。僕は膝をつき、頭を抱えて叫んだ。
アストン:「うああああああああっ!!!!」
頭が痛すぎて、意識を失いそうになる。
エリスナ(驚愕):「アストン!? その症状……まさか!?」
僕の突然の叫びに驚き、混乱したソフィアが慌てて肩を揺さぶる。
ソフィア(叫びながら):「アストン! どうしたの!? ねえ、しっかりして! アストン!!」
スタジアムにいた全員が混乱に陥った。彼らは、自分たちの死が近づいていることに気づいていなかった。
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第74章 圧倒的な力 vs 目に止まらぬ速度 終




