第57話
第57話
鈴音 「・・さてと、そろそろ始めましょうか」(鈴音は御影の顔を見る)
御影 「はい」
妹 「えっ?」
………空室へ移動(70平米)部屋の中央に8人………
朱雪 「これはSSクラスの試験ですぅ」
「鈴音様と御影様の試合、見事止めてみて下さいですぅ」
妹 「うん、分かったよ」
(四隅へ3人ずつ分かれる:姉・妹・安茂里:神楽・都筑・朱雪)
………鈴音 VS 御影………
鈴音 「面倒な事は嫌いだけど、仕方ないわね」
御影 「私は、そうでもありません」
鈴音は涼しい顔をしながら右手を軽く握り、胸の高さの所で輪を描くような仕草をする。
すると、鈴音の前方にドーナツ状の光の輪(直径50センチ)が次々と出現。
一方 御影は試合開始直後から構える事も無く、鈴音の一連の行動をじっと見ている。
やがて光の輪が10個になったところで、鈴音は腕を振り、一斉に御影へ向かわせた。
しかし、光の輪が中間地点を過ぎた時、
御影の前方に巨大な光の壁が現れ、光の輪が次々と『風』に変わる。
鈴音 「あら、もう大技を使うのね」
〈御影は両手の掌を上に向け、左右に大きな光玉を出現させる:直径30センチ〉
御影 「いけませんか?」
〈2つの光玉は互いに引き合い、光玉を中心として巨大な風が起こり始めた〉
妹 「これって・・」
女の人「私達が『降雪』を使った時の手順を簡略化したものだよ」
巨大な『風』は渦を巻き、二人を囲むように循環し始める。
2秒後、風は鈴音の周囲に集約し、鈴音の左斜め前と右斜め前に『人の影』が形成された。
妹 「あっ、この技・・」
〈次の瞬間、鈴音と御影を取り囲む光のカーテンが出現し、中の様子が遮られる〉
朱雪 「はい。お見事です」
〈妹は光のカーテンの中へ入り、二人の間に立つ〉
(鈴音の前には、御影の姿をした分身と、鈴音の姿をした分身)
鈴音 「あら、よく分かったわね」
〈5秒後、分身とカーテンが消え、全員が中央へ集まってくる〉
神楽 「はい。SSクラスに合格です」
安茂里「姉様、感激しました」
………応接室の8人:全員にお茶と茶菓子………
神楽 「他に質問はありますか?」
女の人「・・えーと、『我思う、故に我在り』って、実際どうなんですか?」
神楽 「それは逆です」
「自分で自分だと認識する瞬間、自分は居ません」
「これは、『平均』の概念で説明できます」
「この世界に同じ数が存在しないという条件の下、」
「存在する全ての数が、何かと何かの『平均』であるのは不可能です」
「しかし、『三元神』は『偽りの力』を用いる事でこの状態を可能にしました」
「『1』と『3』という特定出来ない概念を使って、」
「我々という『偽りの2』を存在させるのです」
鈴音 「例えば『人』が皮膚という『外との境界』を持つ事、」
「そして、臓器という『内との境界』を持つ事」
「『人』の上に『社会』があるように、『人』の下にも『社会』があるのよ」
「勿論、それは『人』であるとは限らないし、」
「単なる『概念』としての存在かも知れない」
朱雪 「自分が自分だと思う瞬間、自分が存在してしまうと自分は消えてしまいます」
「だから、自分を守る為に『上の単位』と『下の単位』が必要なんです」
妹 「うーん、良く分からないけど、」
「みんな自分が特定されないようにする事で、自分の居場所を確保してるって事?」
安茂里「それは、姉様らしい答えだと思います」
女の人「私は違う意見なんですけど、ここでは言わないほうが良いですよね」
鈴音 「ふふふ。貴女もやっと、神楽としての自覚が出てきたみたいね」
………次の質問………
妹 「『必然』の反対って『偶然』じゃないんですか?」
鈴音 「ええ。同じく『三元論』では『男』の反対は『女』には ならないわね」
「だから、『必然』や『偶然』だけ取り出す事は出来ないのよ」
「例えば、安定する形に『素数』を用いて、」
「そうでない物には別の数を割り当てる場合もあれば、」
「意図的に違う形にする場合もあるって事よっ」
妹 「それからもう1つ、『記憶』で『嬉しい記憶』と『嫌な記憶』ってありますよね」
「これは・・」
鈴音 「永久機関を続けさせたい管理者が『嫌な記憶』を持たせる事で、」
「『忘れる』という機能を付けさせたのよ」
「だから『嬉しい記憶』よりも『嫌な記憶』の方が勝ると言われているわね」
妹 「そんなあ・・」
鈴音 「『忘却』は身を守る為にも、身を滅ぼす為にも使われるのよ」
「よく覚えておいて」
………次の質問………
女の人「『光』って何ですか?」
鈴音 「『光』は『繋ぐ力』、『重力』は『無の力』だと呼ばれているわね」
「これがヒントよ」
女の人「えっ、じゃあ『光』は存在しないんですか?」
鈴音 「そうよ。光には『波の性質』と『粒子の性質』があるでしょう?」
女の人「つまり人は観測によって、」
「自分の『2』の位置から『1』と『3』を繋げてしまったんですね」
鈴音 「ええ」
女の人「すると、『エネルギー』って概念にも矛盾が出ますよね」
神楽 「我々は『1と2』を『β属』、」
「『2と3』を『α属』として区分しています」
「特に『α属』を『2と3の関係』と呼び、『失われる物』と定義されます」
女の人「その部分を『エントロピーの増大』って言うんですね」
朱雪 「はい。だから『ブラックホール』は重力無限大ではないんですぅ」
妹 「・・・」
神楽 「今日は、この位にしましょうか」
………赤いスポーツカー(帰り道)………
鈴音 「ところで、今日の技、貴女なら分かったわよね?」
女の人「はい」
「相手の風を取り込んで、相手が『怖い』と感じている物を具現化するんですよね」
鈴音 「ええ。そろそろ新たな『三者の関係』が築けそうね」
安茂里「姉様、これで私は安心して『錯交』を使えます」
妹 「・・・」(妹は少し嬉しそうな顔をする)
「あっ、そうだ」
「永久機関から抜け出す方法」
「管理者が勘違いして自分から『永久機関』に入ってしまうって聞いたけど、」
「どうしてなんですか?」
鈴音 「それは、貴女自身が知っている筈よ」
「今までに起こった事、今までに知った事、ちゃんと答えは顔を出しているわよ?」
妹 「・・・」
女の人「そうだね。まだ、時間はあるよ」
………5分後………
妹 「ねえねえ、お姉ちゃん」
女の人「なあに?」
妹 「どうして、人には寿命があるの?」
女の人「それは、神様が次の体を用意する為の準備期間で、」
「本当はもっと寿命を延ばせるんだよ?」
妹 「えっ、そうなの?」
女の人「でも、間隔が短かすぎると、自分が本当の自分なのか不安になるから、」
「自分を関連付けさせる為の『成長』システムなんだって」
妹 「へえ、そうだったんだぁ」
<4章完>




