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偽物王女~引きニー少女マルガリーテと悪魔の契約  作者: 二次元の救世主
第三章 マルガリーテ、王女と戦う!?
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8

「……仕方ない、全員殺すか……」


 ――ああ、もうダメだ――。


 なんて、もう思わない。

 決めたから、最期まで王女として生きるのだと。

 マルガリーテ王女は最期の最期まで、幸せを求めて運命と闘うのだ。

 そうするのが、マルガリーテの、王女としてのあり方だった。


『もうたくさんよ! これ以上、あなたには誰も殺させない!!』

 声は、二つぴったり重なった。


 絶望にくれる美女たちの中から立ち上がったのは、二人の王女。


 一人は、真の王女、エリーゼ。


 もう一人は、ずるをして王女になった、マルガリーテ。


「王女様、お気持ちは嬉しいですけど、下がってください。あなたがいたのでは、私は満足に戦えません」

「……あなたは、本来ならここにいないはずの人間なのよ。私が時間を稼ぐから、みんなを逃がしてあげて」

「それはできません。私は、全員助けるつもりですから」

「あの男に、勝つつもりなの? やめた方がいいわ。いくらあなたが強いといっても、あの男はそういう次元にはいない。勝てるはずがないわ」


 エリーゼはマルガリーテの制止も聞かず、余裕のあるほほえみだけを返した。

 サミュエルも、エリーゼの動きからその力を悟ったのか、近衛隊を全滅させた時ですら構えなかったのに、剣を持って構えた。


「そうか……バストンを倒したのは、お前だったのか……」

「ええ」

 珍しく感情を見せたサミュエルに対して、エリーゼは感情が込められていない言葉を返した。


 そして、再び構えを見せるエリーゼ。

 それは、つい先ほどバストンを倒した時とは違う構えだった。

 どこが、と聞かれても詳しいことはわからない。

 でも、素人であるマルガリーテにも、違っていることだけは見て取れた。


 武器を構えるサミュエル。

 素手で構えるエリーゼ。

 素人目にもどちらが有利なのかわかる。

 それにしても、なぜエリーゼは剣を取らなかったのだろう。

 そこいら中に近衛隊の剣が転がっているというのに。

 ――いや、剣がすでに使い物にならないことを知っていたのだ。

 近衛隊の剣は先ほどのサミュエルとの戦いで、ことごとく折られていた。

 素手で戦うしかなかったのだ。


「はっ!」

 サミュエルが、斬りかかる。

 その刃に月明かりが反射して、切っ先が煌めく。

 エリーゼは、サミュエルと息の合ったダンスを披露するかのように避ける。

 十人もの近衛隊を一瞬の内に殺した剣は、空を斬るばかりでエリーゼに触れることすら叶わなかった。


「――チッ」

 サミュエルが、舌打ちをして間合いを離した。

 その一瞬の隙を、エリーゼは見逃さなかった。

 それまで防戦一方で引き気味だったエリーゼが、反転した。

 足下を爆発させる勢いで地面を蹴り、離されたはずのサミュエルとの間合いを一気に詰める。


 ――しかし、マルガリーテは確かにその時見た。

 遠目だったのにはっきりと。表情一つ変えなかったサミュエルが、薄ら笑いを浮かべたのを。

「ダメ! エリーゼ! 離れて!」

 戦っているエリーゼの気を散らせてはいけないと思っていたのに、勝手に言葉が出てしまった。

 サミュエルは剣の握りを変えて、エリーゼを突き刺した――。

 かに見えたが、エリーゼはすんでのところで体を捻って躱していたようだった。

 上手く着地できず、地面を転がったエリーゼは立ち上がると同時に再び構える。


 その姿に、妙な違和感を感じた。

 何かが、ついさっきと違う。

 本当はわかっているクセに、認めたくなかった。


 ――エリーゼは、サミュエルの攻撃を完全には躱せていなかったのだ。


 左肩の辺りが鮮血で赤く染まっていた。

「く……」

「……お前の力、殺すには惜しいな。俺の手下になるのなら、命だけは助けてやろう」

「冗談にしては笑えないわね。この私が、貴様のような者につくわけないでしょう?」

「そうか……交渉決裂だな。じゃあ、死ね」

「それもお断りしたはずよ」


 サミュエルが、地を駆ける。

 エリーゼは、その場に留まる。


 ――それは、ほんの一瞬の出来事だったと思う。


 人間の目には映らないはずの一瞬。まるで世界の全てがスローになってしまったかのよう。

 サミュエルの剣が空気を切り裂きエリーゼに襲いかかる。

 それを、エリーゼの繰り出した蹴りが捉える。

 剣は真ん中から真っ二つにへし折られ、

「何!?」

「私の目が黒いうちは、貴様のような悪をのさばらせたりはしない。一生かけてその罪、償いなさい!」

 エリーゼはさらに体を半回転させ、剣を折ったその足でサミュエルをも薙ぎ払った。


 ――ドオン、と目の覚めるような大きな音で、マルガリーテは我に返った。

 音のした方を見ると、サミュエルが倒れていた。

 どうやら、エリーゼに蹴り飛ばされて木に叩きつけられたようだ。

 辺りは、歓喜の渦に包み込まれた。


 今度こそ、終わった。


 まだ洞窟の中に残っている誘拐団の者もいるだろうが、それはエリーゼの敵ではないだろう。

 運命は、変わったのだ――。

 エリーゼはマルガリーテの家族や、捕らわれていた美女たちに囲まれて喜びを分かち合っていた。


「……なんなんだこりゃ……? これじゃ、あたしは無意味にお前と契約しちまったってことかよ!?」

 ……一人だけ、嘆き叫ぶ者がいたが、誰もその気持ちを理解できる者はいなかった。


「……アミー、城に帰してちょうだい。あなたならできるんでしょう?」

「……それは構わないが、いいのか? あいつらに何も言わなくて」

「私は王女を選んだ。今さら、あの家族に何を言うのよ。それに、いいのよ。ブリード家は今の姿の方が幸せそうだから。私には、あの家に幸せがなかった。ただ、それだけよ」

 無言のまま背を向けたマルガリーテを、引き留める者がいた。


「待って、王女様」

 そう言ったのは、真の王女エリーゼ。

 家族を伴って、マルガリーテの元へとやってきた。


「何?」

「あの時は、ありがとうございました。王女様に声をかけていただいたお陰で、助かりました」

「私は、ただ見ていただけよ」

 気怠そうに、振り返る。


 エリーゼや家族と視線を合わせたくなかったので、マルガリーテの瞳は森の方を映していた。



 ――――?



 ……今、何かが目の端に映ったような気がした。

 森の方に焦点を合わせる。

 木の陰から、何かが煌めいた。


 ――あれは……矢……?

 そうだ! ボウガンを構えたヘンリーがこちらを狙っている!


「王女様、すごいね。よくお姉ちゃんとあいつの動きが見えたね――」

「死ねえ!」

「危ない!!」

 カトリーヌの話し声を遮り、ヘンリーはボウガンの引き金を引いた。

 誰もがその出来事に戸惑う中、マルガリーテはエリーゼと家族を押し倒した。

 放たれた矢は、確実にマルガリーテを捉えている。


 ――ああ、何でこんな馬鹿なことをしてしまったのだ。

 エリーゼや家族を助けようとしなければ、死なずにすんだのに。

 もう、ここから運命を変えることはできないだろうな……。

 頭に激痛が走る。

 目の前が光に包まれ――。

 マルガリーテの意識はそこで途切れた。

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