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偽物王女~引きニー少女マルガリーテと悪魔の契約  作者: 二次元の救世主
第三章 マルガリーテ、王女と戦う!?
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7

 マルガリーテの前には誰もいないはずだった。

 みんなを振り切って前に進み出たのに、なぜかその前に立ち塞がる者たちがいた。


「……お前ら、何のつもりだ?」

 バストンが、マルガリーテを庇う二人の美女と一人の美少女に言い放った。

 その声は牢屋の時のように大きくはなかったが、明らかに今の声の方が怒気を含んでいる。


「王女様を殺すと言われて、素直に差し出せるわけありません。この方はまだ私の娘と変わらないではありませんか。こんな若い人を殺すくらいなら、私を先に殺しなさい」

 震える声で、でも、決して臆することなく母さんは言い返した。


「そうです。なぜ、王女様だけが殺されなければならないのですか。あなたも人間なら、人の命の尊さというものを知りなさい」

 透き通るような声で、でも、とても厳しく姉さんは言い返した。


「そうだよ。お姉……じゃなかった、王女様を殺すなんて、絶対に許さないんだから!!」

 小鳥のような可愛らしい声で、でも、誰よりも大きくカトリーヌは言い返した。


 ……何を考えているんだ。

 せっかく、アミーの魔法で牢屋から出ることができたのに。

 上手くすれば、ここから逃げられたかも知れないのに。

 どうして、もう家族でも何でもないマルガリーテのために立ち向かうんだ。

 そんなことに、いったい何の意味があるというの?


「そんなにお前たちも殺されたいのか?」

「ま、待ちなさいバストン。こ、この人たちはあなたたちの大事な商品なんでしょう? 殺しても何の得にはならないわよ。それに、あなたが殺したいのは私だけのはずでしょ。この人たちは関係ないわ」

 見る見るうちに怒りの形相へ変わっていくバストンに見かねて、マルガリーテは家族を押し退けて、前に進み出た。

「うるさい! 黙れ! 俺に逆らう奴は、皆殺しだっ!!」



 ――ドサッ!



 その時、睨み合うブリード家のみんなとバストンの間に、空から何かが降ってきた。


「……え?」


 誰もが同じ声を上げる。

 これはいったい、何なのか、と。

 いや、それがなんなのかは知っているのだ。

 だからこそ、わからない。

 なぜここに黒装束が降ってきたのか。

 彼はついさっきまで、マルガリーテたちを取り囲んでいたはずではなかったのか。


「ぐわっ」


「おぶっ」


 考えている間にも、次々と降ってくる。


 ――まさか、アミーが魔法で助けてくれたのだろうか?


 振り返ると、そこにはマルガリーテとすっかり同じ顔をしたアミーの姿があった。

 それが意味するところは、驚きである。

 アミーではない。だとしたら、いったい誰が何を?

 ここにいるものは、敵も味方も関係なく皆そう思ったことだろう。

 ただ一人を除いては――。


 さらに二人黒装束が降ってきて折り重なったところで、闇の中を駆ける一筋の光がその姿を現した。

「――この時を待っていたのよ――」

 その言葉を残して、また彼女は光となって闇の中を駆け巡った。


 実際には、彼女はただ走り回っただけ。だけど、その速さがマルガリーテの目で追えるものではなかったから、そう錯覚させられたのだ。


 彼女が次に目指す先は、わかっている。

 だから目を凝らして光の行く先を予測した。

 果たして、彼女は一瞬だけ現れた。黒装束の目の前に――。


 瞬時に現れた彼女に驚く黒装束。

 その一瞬の間が黒装束にとって、命取りだった。

 彼女の繰り出した拳が、黒装束を突き上げて空へ放り投げる。

 もちろん、その落ちる先には黒装束の山。

 ものの数秒で、黒装束は目の前に積み上げられた。

 もうここには、バストン以外敵は存在しなかった。


「お、お前……何者だ!?」

 黒装束の山をたった一人で作ってしまった彼女は、その山を横目にバストンの前に仁王立ちする。


「私? 私は、ブリード食堂のウェイトレスよ!」

「ウ……ウェイトレスだと……。馬鹿な!? ただのウェイトレスに、こんなマネができるはずはない!」

 バストンの言っていることは、あながち間違ってはいない。


 確かに彼女は、ただのウェイトレスではない。

 彼女は――真の王女なのだ。

 それを知っているのはこの世で、ここにいる二人。マルガリーテとアミーだけだった。


「王女様だけが外に出されるって聞いた時はダメかと思ったけど、あなたが急に心変わりしてくれて助かったわ。誘拐された時のように人質がいなければ、私はあなたたちごときに屈したりはしないわ!」

「ぐ……」


 ……アミーはこのことも計算して、全員を牢屋から出すように言ったのだろうか。

 再度アミーに振り返ると、目が合っただけでアミーは首を思いっきり振った。

 言葉を交わさなくても、それだけでお互いの言いたいことは伝わった。

 アミーにとっても、エリーゼの能力は想像の範囲外だったのだ。


「……さあ、次はあなたの番ね。覚悟をしなさい」

 エリーゼはそれまでとは違いとてもゆっくりと、とてもゆったりと構えた。

「……フ……おもしろい。お前のような化け物に出会ったのは、これで二度目だ。今度こそ、俺が勝つ!」

 バストンはかけ声と共に拳を握り込んだ。


 そのまま、二人はすぐには動かなかった。

 マルガリーテにはわかり得ないが、きっと戦う者同士の駆け引きがあるのだろう。


 ――静かだった。


 まるで、この森すらもがマルガリーテたちのように息を潜めているかのごとく。

 葉っぱ一枚、音を立てない。

 バストンはまだ一歩も動いていないのに、汗をびっしょりかいていた。

 マルガリーテも見ているだけなのに、一粒だけ冷や汗がたれる。


 その一粒の汗が風に流された刹那、バストンが右の拳を突き出した。

 空気を切り裂く音が唸りを上げる。

 それを喰らったら、普通の人はまず永眠させられるだろう。何が起こったのかすらもわからぬままに。

 しかし、信じられぬことにエリーゼはその高速の拳を、まるで柳に吹く風のように優雅に受け流す。

 その流れる動作は、バストンに次の行動を許さなかった。

 懐に入ったエリーゼは、そこで一度ドスンという音を立てた。

 すると、エリーゼはそのままバストンに覆い被される……かと思ったら、それは単にエリーゼが気を失ったバストンを抱えていただけだった。

 片手で持ち上げられたバストンは、エリーゼに放り投げられて、黒装束でできた山の頂上になった。


「エ……エリーゼ!」

「エリーゼ……」

「お姉ちゃん!!」

 家族が、エリーゼのことを温かく迎え入れた。

 そこでやっと、捕らわれていた者たちは気づく。


 ――助かった、と。


 喜ぶ美女たち。

 マルガリーテは、まだ自分の目の前で起こったことが信じられなかった。

「これ……夢じゃないのよね……?」

「さあな。あたしはそうであって欲しいと思ってるよ。せっかく人間なんかと契約したのに、これじゃお前の魂がいただけねーもん」

「あはは、そうね」

「待って、誰か来るわ」


 エリーゼが歓喜の輪の中から抜け出して、マルガリーテの傍までやってきた。

 その瞳は、森の中を映している。


「王女殿!」

 一瞬、誰もが身構えたが、そう言って飛び出したのは、王国騎士団の鎧に身を包んだ近衛隊の者たちだった。


「な、何だ……。あなたたちだったのね……驚かせないでよ」

「何をおっしゃるのですか、王女殿。我々城の者は皆心配して、夜も寝ずにこうして捜しておったんですぞ」

「そうね、感謝してるわ」


 ぞろぞろと森の中から現れた近衛隊は全部で十人。

 まだ誘拐団の者は生きているから油断はできないけど、これで一件落着だと思った。


「……私の運命は、変わったのね……」

「……何だ、この有り様は……?」

 そう思ったのも束の間、洞窟から誘拐団のボス――サミュエルが出てきた。


「サ、サミュエル様。バストンが……。それにこいつらは、国王の近衛隊のはず。いったい何がどうなっているのか……」

 コバンザメのようにサミュエルにくっついていたヘンリーが、声を上げた。


「……貴様らが、やったというのか……?」

「そんなことに答える義理はない。だが、もしお前たちが王女殿やこの女子たちに危害を加えるつもりなら。この男のようにしてやるぞ」

 近衛隊の隊長は凄んで見せたが、サミュエルはまったく気にする様子も見せなかった。

 表情を変えずに、ただマルガリーテたちを守るように陣形を取った近衛隊の前に進み出る。

 ……この男に感情なんてものがあるのだろうか。

 そう感じさせるほど、無表情だった。


「下がれ! それ以上近づくと、本当に斬るぞ――」

 警告をした近衛隊の者は、それが最期の言葉になった。

 撥ねられた首が、マルガリーテたちの足下に転がる。


「――――」


 声にならない声が、みんなの安心を根こそぎ吹き飛ばした。


「貴様――!」


 襲いかかる近衛隊の者を、サミュエルは瞬く間に斬り捨てた。

 それはまるで血飛沫の舞。

 月明かりに煌めく一刃の光が、辺りを血で染めた。

 その凄まじさに、もはや誰も悲鳴すら上げることはできなかった。

 サミュエルは不快なそぶりも見せず、淡々と返り血を手で拭い、マルガリーテたちを見据えた。

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