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偽物王女~引きニー少女マルガリーテと悪魔の契約  作者: 二次元の救世主
第三章 マルガリーテ、王女と戦う!?
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 ドサリ、という大きな音とお尻に走った痛みでマルガリーテは光を取り戻した。

 目を擦りながら辺りを見回す。

 そこはもう馬車の荷台ではなかったが、また同じような景色の中にいた。

 目の前には鉄格子、こちら側には先ほど馬車の荷台に捕らわれていた多数の女性。未だに彼女らは眠ったままだった。

 ただ、少しだけ違っていることがあった。手を縛っていた縄が解かれ、猿ぐつわも外されていたのだ。


 そして、外側には大男とやせた男が怒鳴りあっていた。

 おそらくここは誘拐犯たちのアジトで、その地下牢か何かだと思われる。

 地下だと思ったのは、この部屋のどこにも窓が見当たらなかったから。

 マルガリーテたちのいる牢屋の中も、誘拐犯たちのいる廊下にも窓はない。

 だから、今が朝なのかまだ夜なのかすらわからなかった。

 明かりといえるものは、小さな燭台が数えるほどあるだけ。

 これなら月明かりの方がまだ明るい。


「何でリストに上がってない者を誘拐してきたんだ!?」

 やせている男がヒステリックに叫んだ。

「見られちまったんだから、仕方ねえだろうが」

 大男の方が静かに、野太い声で言い返す。

 二人とも黒装束を身に纏っていたが、顔は隠していなかった。


「……だったら、その場で殺せばよかったんだ!」

「誘拐に手間取って、それどころじゃなかったんだよ。そんなにこの女が目障りなら、ここで殺しちまえばいいだろうが」

 大男は冷たく言い放って、腰から短刀を抜いた。

「ま、待て! ここで殺すのはまずい。もし万が一この女を殺したことが我々だと知られたら、国王を敵に回すことになる」

「どうしてだ?」

「お前、本当にものを知らんのだな。この女はマルガリーテ=ルウ=ローザ、セントロード王国の王女なんだよ。しかも、国王であるバルバロッサは一人娘である王女を溺愛しているんだ。今頃血眼になってこいつを捜しているはずだ」

「……だったら、やっぱり殺しちまうのがいいんじゃねえか? こいつがここにいる方が俺たちにとってまずいことだろ」

「馬鹿めが!! それでは他の商品たちも殺さなければならなくなるだろうが!! ここで王女を殺せば、間違いなくこいつらもそのことを知ることになるんだぞ?」

「……ふむ……。まあ、一理あるな」

「だから、その場で殺してしまうのが一番だったんだ」

「同じ話を蒸し返すのはやめろ。そんなことをしてもどうにもならん。お前、頭がいいんだったらもっとこう……上手くいくようなことを考えることに頭を使えよ」

「言われるまでもないわ!」

 話がまとまったのか、そこでようやく男たちはマルガリーテの方に向いた。


「……おや……? 王女様、お目覚めのようで」

 やせた男が下卑た笑顔を見せた。

「…………」

 不安で胸が押しつぶされそうになりながらも、マルガリーテは気丈に二人の男を見据えた。

 言葉は出せなかったのではない。まずは、相手の出方を窺うことにした。


「ククク……あまり反抗的な態度は取らない方がよろしいかと思いますよ。王女様の命は我々が握っているのだということを、お忘れなく」

 ……やはり、ここで殺されるのが運命なのだろうか。


 誘拐されたことより、目の前の男に脅されたことより、悪魔の告げた運命の方がよっぽどマルガリーテの心を憂鬱にさせた。

 悪魔が嘘をついていない限り、マルガリーテの死は避けられないものだとするなら、何をしても運命は変わらないのだろうか。

 アミーに言わせればきっとそう答えるだろう。

 でも、マルガリーテの答えは違った。

 なぜなら、悪魔に出会ったことこそが、すでにマルガリーテの運命を変えているはずだと信じていたから。


 ――アミーはあの日残り三日の命だと言ったけれど、マルガリーテの本当の寿命はあの日に尽きていたはずなのだ。

 アミーが現れなければ、何者でもないという自分を許せずに殺していた。

 何もしなければ、何も変わらない。

 でも、命を賭して戦えばきっと運命は変えられる。変えられない道理などない。すでに自分自身で証明しているのだ。

 意を決して、もう一度戦うことにした。

 誘拐犯とではなく、自分自身の運命と。

 幸せを摑めぬまま、まだ死ねない。


「……あなたたちの目的は何?」

「……そんなことを聞いてどうするというのです?」

「あなたは、私の周りにいる女性たちを『商品』と言ったわね。ということは、身代金目的の誘拐ではない」

「ほぅ……。王女というものは世間知らずの馬鹿ばかりだと思っていましたが、あなたは違うようですね」

 やせた男は目を細めた。


 話が通じたことに、少しだけホッとした。

 大男の方は有無を言わさず殺す、というような印象だったから、一人でも話のわかる奴がいて安心した。


「それに……予定外だった私を除けば、皆美しい年頃の女性ばかり……」

 ……母さんはちょっと熟れすぎてるし、カトリーヌは幼すぎる気もしないでもないが、美しいという基準では、十分といえる。

 今ある情報から導き出せる答えは、一つしかなかった。

 それは……。


「まさか、人身売買!?」

 思わず答えを口走ってしまった。

「ご名答。そこまで察しているなら、隠す必要もないでしょう。我々は独自のルートで誘拐した女性を性奴隷として売りさばいているのですよ」

 ……なんて奴らなの? 

 人を人とも思わないその行為、悪魔にも劣る。


「おおっと、そんなに睨みつけないでください。これも我々が生きていくには必要なことなのですから」

「……お前たちに、生きる価値などないわ」

 マルガリーテでさえ世界には必要ないと思っていたのに、こいつらはさらに罪のない人たちに迷惑をかけている。存在していい理由など、ありはしない。

「ククク……これは手厳しい。お言葉ですが王女様、我々のような社会のはみ出しものを生んだのも、やはり人間の社会なのですからねえ。我々もこの世界には必要なのです。そうでなければ、この商売は成り立ちませんから……ヒハハハハハハハッ!」

 嫌らしい笑い声が、部屋中に響き渡った。

 たまらずマルガリーテは耳を塞いだ。


「おい、うるせーぞ」

 大男が非難すると、やせた男は一気に不快な顔をさせた。

「単細胞は黙ってろよ。私は今、王女と話をしているんだ」

「……話をしたところで、どうにもならんだろ?」

 ……この大男はやせた男よりも権力がないのか、それとも器が大きいのか、悪口を言われてもまったく動じていなかった。


「どうにもならないかどうかは、私が考えることだ。第一、お前は殺すことしか脳がないクセに、それすらも満足にできなかったのだからな。尻ぬぐいをさせられる私の身にもなれ」

「へー、へー。わかったよ、好きにしろ」

 うんざりといった顔で、大男は部屋の隅に置いてあった椅子に腰を降ろした。

 鋭い眼光だけは、決してマルガリーテから逸らさずに。


「さて、どこまで話しましたかな。……そうそう、我々の仕事について、でした。ここまで話せば頭のいい王女様のこと、王女様の置かれている立場がお互いにとって難しいものになっていることも、おわかりかな?」

「……私の容姿では、商品になりえない。かといって生かしておくこともできなければ、易々と殺すこともできない。というわけね」

「ええ、そうです。一言で表せば、邪魔なんですよね」


 段々と、やせた男の言わんとしていることが見えてきたような気がした。

 いざとなれば、こいつらはマルガリーテを殺すだろう。

 それをしないのは、まだ何かに使えると思っているのだ。


「……私と、取り引きするつもり?」

 偶然とはいえ、こうして王女を捕らえた者が要求することといったら、それは金か権力しかないだろう。

「さすが王女様、話が早い。双方が得をするには、もうそれしかないですものねぇ」

「私の命を、私自身に買えというのね? それは、おいくらで?」

「十億」

「――は?」

「聞こえなかったのか? 十億ギャラーだ」

 口調が急に変わった。それまでの小馬鹿にしたような空気は一変し、凍るような冷たい視線を向けてきた。


 ……はっきり言って、それがどれほどの額なのか、想像すらつかなかった。

 いや、たとえどれほどの額なのかわかっても、了承するしかないのだ。


「……わかったわ」

「クヒヒヒヒヒヒヒッ、ほ、本当にそれでいいんだな? 十億といったら国家予算の一割だぞ? フハハハハハハハッ!!」

「ちょっと待て、ヘンリー。この女を金で逃がすつもりか? そんな重要なことをお頭の判断なしに決めるつもりかよ」

「黙れと言ったろう、バストン。商品の選別とその取り扱いは、全て私に一任されているんだ。お前ごときが口を挟むなど許されんのだぞ」


 やっと二人の名前がわかった。

 誘拐の実行犯である大男がバストン。見た目からして強そうな男である。

 そして、やせた男がヘンリー。鼻が大きく醜悪な顔をし、それ以上に心がねじ曲がっていそうな男である。

 でも、ヘンリーという男は使えるかも知れない。この男は金で交渉できる。


「ねぇ、ヘンリーさん」

「ん? 何だ?」

「ここにいる人たちを、全て私が買いたいんだけど……」


 なぜ、そんな行動に出たのか、自分でもよくわからない。

 ここにいる人たちはマルガリーテに劣等感を抱かせる者ばかり。それは家族とて同じだった。

 王女になる前のマルガリーテが、憎み続けた者たち。

 あの時のマルガリーテなら、容姿がいいからこんな事件に巻き込まれたのだと、それこそ目の前の男たちのように嘲っていたことだろう。


「何……?」

「金額はあなたの言い値の、五倍で」

「――は?」

 今度はヘンリーがさっきのマルガリーテのように目を丸くした。

「ご、ごごごごごごごじゅうおくぅ!? フ……フヒヒ……ヒヒヒヒヒヒヒ。いいだろう、その話乗っ――」

「ダメだ。そんな勝手は許さん」

 ヘンリーの声を遮った声は、ヘンリーたちの後ろの方から聞こえてきた。


 暗くてよく見えないが、声の主は階段を降りているようで、コツコツという無機質な音だけが、この牢屋にも響いてきた。

「お頭……」

「サ、サミュエル様……」

 二人とも呼び方は違ったが、どちらもこの男のことを表しているのだろう。


 マルガリーテの前に姿を現した男は、夜の闇よりも深く暗い瞳を向けた。

 まるで吸い込まれるように、見る者を捉えて放さない。

 年齢は、二十代後半くらいだろうか。見た目からは、バストンのような力強さは感じられない。

 バストンたちと同じ黒装束を着ていたが、正装の方がよっぽど似合いそう。

 どちらかといえば格好いい男の方に分類されるのではないか、と思う。

 しかし、この男は間違いなくこの誘拐団のボスなのだ。

 雰囲気だけでそう感じさせられた。


「バルバロッサはすでに国を挙げてこの女を捜している。もはや、交渉の道具にもなりえん。夜を待ってこの女を殺し、この国を離れるぞ」

 表情一つ変えることなく、感情も込められていない声で、言った。

「はっ! かしこまりました」

 威勢よく答えたのは、ヘンリーだった。ちょっと前までマルガリーテの提案に乗るところだったのに……。


 ……やはり、運命は変えられない……?


 マルガリーテは、膝から崩れ落ちた。

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