表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物王女~引きニー少女マルガリーテと悪魔の契約  作者: 二次元の救世主
第三章 マルガリーテ、王女と戦う!?
15/22

2

「よう、やっと気がついたみてーだな」

 アミーがそう言ってマルガリーテを出迎えた。


「何しに来たのよ。私にはアミーと話してる暇なんてないの。消えてちょうだい」

 あえて、アミーの言葉の意味は聞かなかった。なんとなく言いたいことはわかったし、今は自分のことを考えるので精一杯だったから。

 これ以上心をかき乱さないで欲しい。


「何しに? お前、まさか忘れちまったわけじゃねーよな?」

「忘れるって、何をよ」

「決まってるだろ。お前が明日死ぬってことをさ」

「――!――」

 マルガリーテは表情を凍りつかせた。これでは答えを言っているも同然だった。


「その様子だと、すっかり忘れていたみてーだな」

「……もう、明日だったのね……。ところでそれは、正確にいつどこでってこともわかってるの?」

「いや、そこまではわからねーって、前に言ったろ? ま、たとえ知っていても話すかどうか……。それ以前に、話したところでお前が信じるかどうか……」

 まだ今朝のことを根に持っているのか、皮肉を込めてそう言った。


「そう……、悪魔の力もたいしたことないわよね。人間一人の運命も変えられないんだから」

「変えようと思えば変えられるさ。ただ、変える必要がないだけで。まさか、お前死にたくないってのか?」

「まさか。私はあなたに魂を売ったのよ。すでに死ぬ覚悟をしているのに、今さらそんなこと思うわけないでしょ」

「どうだろうな。人間って生き物は心変わりをするから」


 反論はできなかった。

 余計なことを言えば、心が見透かされそうだった。

 この世界で、生き続けたいとは思っていない。それは嘘ではないけれど、このまま死にたくはないとも思っていた。


 ――まだ、幸せがなんなのかもわかっていないのに――。


「ねえ、話は変わるんだけど……アミーにとっての幸せって何?」

「は? お前……何言ってるんだ? そんなことを悪魔に聞いてどうするんだよ」

「自分でも、どうかしてるって思ってるわ。でも、どうしてもわからないの。アミーは私が王女になってもそれで幸せになれるとは限らない、みたいなことを言ってたから……」

「正確には『何でも手に入るわけじゃない』って言ったんだけどな。ま、確かにその中にはお前の言う幸せも含まれているんだけど」

「だったら!」

「お前の幸せはわからねーよ。ただ、あたしの幸せは教えてやるよ。それはな、お前のような人間のクズを観察することさ」


 それは、意外な答えだった。

 マルガリーテがクズ扱いされたことも気にならないほどに。


「私の魂を搾取することではないの?」

「それは、あたしの仕事だろ? でも、あたしは仕事なんか嫌いなんだよ。出世なんてものにも興味はねーし。まあ、そのせいであたしの能力は悪魔の中でも最強だけど、階級は低いままなのさ。だから、お前のように簡単に手に入る魂だけを搾取してるんだ。あたしにとって悪魔の仕事は片手間ってこと。わかるか? あたしにとってお前はすごく都合がいい。趣味と仕事の両方が満たせる獲物だからな。お陰で、あたしは幸せだよ」

 アミーは羨ましくなるほどの笑顔を向けた。


 その時、マルガリーテの中で何かが閃いたような気がした。

 もしかしたら、自分の幸せだけでなく、幸せの意味自体間違っているのではないかと思った。

 マルガリーテの思う幸せは、望んだ人生を手に入れたら幸せだろう、という一般論的なものでしかなかった。

 でも本当はそうではなくて、一人一人の心が求めることこそが幸せなのではないか。

 マルガリーテの心が求めているものは、何だったのか。

 それは王女になることだったのか。

 それとも――。


 答えは、すぐには見つからない。

 不意に、家族の顔が思い浮かんだ。

 最期の日を明日に控えて、感傷的になっているのかも知れない。


「ねえ、アミー。私を城下町に連れ出してくれない?」

 王女という立場では、この時間から外に出ることはできないだろう。ここはアミーの力を借りるしかない。

「は? ……別に構わねーけど」

「それじゃあ、ちょっと待ってて。着替えるから」


 マルガリーテは言いながらドレスを脱ぎ捨てた。そして、椅子にかけられていたドレスに着替える。

 それは、今朝寝室で着た黒いシンプルなドレスだった。

 メイドには寝間着と言われてしまったが、マルガリーテにはそれでも十分だった。


「準備できたわ」

「……で、あたしはお前をどこに連れて行けばいいんだ?」

「城から出してくれれば、後は町の中のどこでもいいわ」

「はいはい」


 アミーはマルガリーテの手を取り、ガラスの扉の方へ歩き出した。

 そっちは確かに外に出られる。見えている通り、バルコニーがあるのだから。ここのバルコニーは大広間ほど広くはないけど。


「どうするつもり?」

「こうするのさ」

 アミーの言葉を聞く前に、マルガリーテの体が宙に浮いた。

「う、うわっ」

「あまり大きな声を出すなよ。城の人間に聞こえちまうだろ?」

「だ、だって……」

「そら、行くぞ!」


 かけ声と共にマルガリーテたちは城下町の上空を翔る。

 まるで、自分自身が風になったかのよう。

 一瞬の内に、城下町の中心部へ着いてしまった。


「はぁ……はぁ……。じ、事前にどうやって連れて行くのか、教えてよね」

「何で何もしてねーお前の方がそんなに疲れてんだ?」

 文句を言ってやりたい気持ちはあったが、そんなことに時間を使いたくはなかった。


 幸いにも、アミーが連れてきた場所はよく知っている場所だった。

 ここからなら歩いてそんなに時間はかからない。

 一度大通りの方へ出て、再び裏道の方へ入る。

 住宅兼食堂であるマルガリーテの家は、表通りのちょうど裏側に存在するのだ。

 すでに夕食の時間を過ぎているからか、表通りにも人っ子一人いなかった。

 商店街は全て閉まっている。

 しかし家からもれる光は、どの家もとても温かそうなものだった。それが、マルガリーテの歩く道を優しく照らす。

 まるで光に導かれるように、マルガリーテは自分の家に辿り着いた。


「お、おい、お前まさか……」

「静かにして、気づかれるでしょ」


 食堂の入り口は閉ざされ、『準備中』の札がかけられていた。

 もちろん、営業していたとしても客として中に入るつもりはない。

 ただ、みんなの様子をちょっと覗きに来ただけだ。

 裏口に回ろうとしたら、その途中で窓が開いていたのでそこからチラッと見ることにした。


「いただきます」

 聞き慣れた声が聞こえる。

 そうか、ちょうど店を閉めてこれから夕食を食べるところだったんだ。

 食堂を営業しているせいか、マルガリーテの家の夕食は世間より少し遅かった。

「ねぇ、お姉ちゃん。これは?」

「……うん、美味しいわ」

「本当!? やったぁ!」

「カトリーヌ、食べてる時に立ち上がらないで。行儀が悪いわよ」

「はーい」

「姉さん、大目に見てあげて。この唐揚げ、カトリーヌが初めて一人で作ったのよ。だから、嬉しくて仕方ないのよ。ね」

「えへへへ……、お姉ちゃんの料理にはまだまだ全然勝てないけど」

「そりゃそうよ。エリーゼの腕前はお父様と比べても遜色ないほどだもの」

「そうねぇ。私もエリーゼの料理の腕には驚かされたわ。あなた、いつの間にこんなに上手になっていたのよ」

「日ごろの努力のたまものよ。毎日お母さんの手料理を食べていれば自然と覚えるものだわ」

「あら? お世辞を言っても何もできないわよ」

「アハハハハハッ!」


 見飽きていたはずの家族の風景。

 そこにはまるで最初からそうだったかのように、ブリード家の一員としてエリーゼが収まっていた。

 少しも違和感がない。

 むしろマルガリーテがいた時の方がみんなどこかぎこちなかった。


 ――ここに、居場所はない。


「私は、きっと生まれるところを間違えたのね」

 本当は、ここにマルガリーテの幸せがあったんじゃないかって思ったけど、それは思い違いだった。


 ここにあったのは、一つの真実。

 捨てたとばかり思っていたものが、実は最初からマルガリーテのものではなかったのだということ。

 思い返せば、確かにマルガリーテはこの家族には相応しくなかった。

 エリーゼはマルガリーテなんかよりもよっぽど美しいから、ブリード家の一員としては申し分ない。

 何より、母さんも姉さんもカトリーヌも、そしてエリーゼも皆幸せそうだった。

 マルガリーテはそっと窓から離れた。

 気づかれてはならない。

 なぜだか、瞳がぼやける。ほほを伝う冷たい光を抑えることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ