五週間目
五週間目
一度ドッヂの誘いを受けてから、僕は休み時間に毎回お呼ばれするようになった。と言ってもコートには入らない。僕がやるのは審判だ。僕の審判は概ね好評で、僕も皆の騒ぐ姿を第三者として見られるので結構気に入ってる。直哉には『裕人の趣味ってなんでそんなに変わってるの?』って微妙な顔されたけどね。良いじゃないか、別に誰にも迷惑なんてかけてないんだから。
「長尾君ってババ抜き強いんだね~」
五人輪になってやってるババ抜きを傍らで見ていた瀬名さんが感心したように呟く。彼女は今ゲームに興じている柳原さんと仲が良い。一緒に帰る為に、ゲームが終わるのを待っているのだ。しかし負けず嫌いな柳原さんは中々終わろうとしないので、このままだと下校時間になるまで全員帰れない気がする。瀬名さんはそんな柳原さんに慣れているのかして、図書室の本で時間を潰していた。ちなみに彼女がババ抜きに参加しないのはすぐ顔に出てしまうからだそうで、他意はない。
「別に、たまたまだと思うよ」
「でもさっきからずっと長尾君が勝ってるもん。やっぱ顔に出ない人は強いのかなぁ。どんなカードが来ても笑ってるもんね」
羨ましいと言う瀬名さんには悪いけど、僕が笑ってるのは大げさに騒いでる直哉が隣にいるから。引くカードを選んでるのも直哉で、僕はただの代理人。だから気楽に直哉のリアクションを笑えているだけだし、こういう直感ものに直哉は強いってだけで、僕の実力じゃないんだよね。僕自身は特別弱くもないけど、強くもない。至って普通だ。でもまぁジョーカー来ても解り易く顔に出す訳じゃないから、相手によっては強いって事になるのかな。
「うぅぅ、絶対長尾君負かす。そんでギャフンって言わせてやる」
「ギャフン」
「ちょっ裕人、それ棒読み過ぎだからっ」
柳原さんのベタな台詞に思わず素で返してしまった。なんかノリが直哉に似てるから思わず乗っちゃったって感じだ。僕の返答に周りで聞いてた男三人組は噴き出し、柳原さんは『打倒長尾熱』を更に燃え上がらせたらしい。瀬名さんは「あ~ぁやっちゃった」って顔をしてる。これはどうやら本格的に下校時間まで帰れなくなったみたいだ。正直この系統の勝負で直哉が負けるとは思えないし、何より柳原さん結構顔に出ちゃうタイプだから。実はさっきから連続最下位記録更新中。
「サクさん心配してないといいけど」
誰にも聞こえないようぼそっと呟いた言葉だったけれど、直哉にはしっかり聞こえていたみたいだ。
『たまには良いじゃん、そんだけ裕人が皆と仲良くなったってことだろ』
にっかりと、本当に嬉しそうに直哉が笑うから、僕の顔も自然と弛む。切っ掛けをくれたのは直哉だ。学校にトランプ持って行きたいなんて言うから何事かと思ったけれど、偶にはこういうのも悪くない。でも――。
「ところで、そろそろ別のゲームでも……」
「ダメ! 長尾君に勝つまでは絶対ダメ!」
「……そう」
流石にいくら代理でも、15回連続ババ抜きは飽きたんだけど。